宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第八話



「友里っ、大丈夫?」
私が教室に戻ると、陽子たちが駆け寄ってきた。
「うん、もうバッチリ」
私は指でOKサインを作って、笑った。
「そっか。でも、さっきの友里凄かったよね。ぶっちゃけビョーキ系」
優子が笑い出した。さっきの私の様子を、思いだしたのだろう。
「マジ? どんなの?」
陽子とミヤちゃんが身を乗り出した。瞳はらんらんと輝いている。私と喋っているときより、楽しそうだった。
「助けてっ、悪魔がぁ!」
優子が私の声色を真似て、手を空中で躍らせた。陽子とミヤちゃんは爆笑していた。
「そんなんじゃなかったって」
私も笑った。ただ、今度の笑顔は頬が引きつり、強張った。


家に帰り予習をしていると、不意に三好さんの言葉が頭に浮かんだ。

――卑怯や――

私の手は止まった。どういう意味なのか、分からない。さっぱりだ。
私はシャーペンを放り投げた。頭が痛くなった。私は気晴らしに、街へ出る事にした。

私はウィンドウショッピングが好きだ。陽子たちは見ているだけでは意味がないと言うが、私は窓の飾りを見ているだけで心が浮き立ってくる。
もう11月半ばなので、ウィンドウはクリスマス一色だった。商店街に響くジングルベルを聞きながら、サンタやクリスマスツリーの飾りを一つ一つ眺めていくと、この前陽子達とビーズのキーホルダーを買ったファンシーショップの前に来ていた。
ウィンドウを覗き込むと、見覚えのある背中が視界に入った。それは、紛れもなく陽子だった。
私が窓から合図を送ろうとしたとき、陽子の様子がおかしくなった。
やたらと周りを見回し、明らかに挙動不審だ。そして、並んでいるリップクリームを一つ手に取り、そのままバッグに滑り込ませた。

陽子が店から出てきた。動作がぎこちない。
「陽子……」
私はつぶやいた。
「あれ、どうしたの?」
そう言って笑う顔も、強張っていた。
「私、見てたん……」
「言わないで!」
私が言い終わる前に、陽子は短く叫んだ。
「言わないで……」
陽子は、そのまま肩を震わせて泣いた。私の肩に抱き付き、小さな嗚咽を漏らした。
「出来心だったんだよ……これが初めてなの。信じて」
陽子は、ますます私にしがみついた。私は小さく、信じるから、と言った。
「何か、結構皆やってるみたい……すごくおもしろそうでさ。一回……一回だけで良かったの。お願いだから、言わないで!」
「言わないよ、言うわけないじゃん」
私は陽子の肩を優しくなでた。胸の中では、様々な思いが渦巻いていた。
「ありがと……もうやらないから」
陽子はその場にへたりこんだ。

そんな私達の様子を、冷たい目で見ている車イスにのった女子高生を、私は見た。うちの学校の制服だった。

――三好凛――