宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第二十九話
「え……?」
私は凛を見つめた。凛は相変わらずミルクティーの泡を目で追っていた。
「こうへんかったら、良かったかもな」
凛は顔を上げなかった。その無表情な顔からは、何の感情も読み取れない。
「……」
私は何も言えなくなった。違うと言えば、ウソになる。認めたくない。でも私は、この子達を怖がったのだ。
「さ……おかわりはいる?」
祥子さんが気まずい顔で、笑いを作った。
「いえ……」
私はいたたまれなくなって、席を立った。
「そろそろ帰らないと。ご馳走様でした」
私は祥子さんに玄関まで見送ってもらった。
外は、さすがに冷えた。吹き付ける風で頬が乾燥する。こんな時、自転車通学が恋しい。
――こうへんかったらよかった――
否定できない。あの子達は、怖かった。私達とはまるで違うような、自分だけの世界を作り上げている。
どれだけ表で綺麗ごとを言っていても、実際はこんなもんだ。そんな自分がとてつもなく嫌になった。
「友里ー!」
大声で呼ばれ、振り返ると、そこには陽子たちがいた。自転車から片手を離して、私に大きく手を振っている。
学校ではあんなによそよそしかったのに、どういう事なんだろう。私は小さく会釈をして、前を向いた。
「ちょっとー、何か言いなよ」
優子が自転車を降りて、私の肩を掴んだ。
「学校では三好がいたから、何も言えなかったんでしょ?」
陽子が顔をしかめた。
「……は?」
私は怪訝な顔をした。何を言っているのか分からない。
「前は、あれでしょ。お金の事でちょい言い過ぎたよねー、ゴメン。んで、うちらに気ぃ使って、あれから話かけなくなったんでしょ?」
何となく事情が飲み込めた。陽子たちは、私がキレたのが衝動的なもので、後から居心地が悪くなってグループからはなれたと思っているらしい。
「ほら、うちらの仲じゃん。三好に義理なんてないでしょ。戻っておいでよ」
ミヤちゃんは私の頬を両手で挟んだ。冷たかった。
「ゴメン。本気、なの」
私はそれだけ言って、歩き出した。勘違いも甚だしかった。
「またまたぁ」
陽子が私を引き止めるように、肩をまた掴んだ。顔が何だか焦っていた。
「お願い……私を自由にして」
私は陽子にだけ聞こえるように言った。優子とミヤちゃんは、陽子の後ろにいた。もう、私の事なんて放っておこうという顔だ。何故か陽子だけは、どうしても私を戻したいらしかった。
私の言葉を聞いた陽子は、顔が凍りついていた。その後何度か私を引き止めるようなことを言ったけど、私は立ち止まらずに、振り返りもしなかった。

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