宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第二十三話
「私は……おかしくないの?」
私の口から迸り出たものは、私の心とはかけ離れた物だった。
「何が?」
「だって、自殺未遂までしたの!」
私は三好さんの前に、リストバンドをした腕を突き出した。目の前がぼやけた。
「私は、自殺までしたの……絢香さんとは違う。私は……自分を自分で追い詰めて、それでやったの! 絢香さんみたいに強くないの!」
私の肩が震えた。膝の上で、拳を硬くする。骨の浮き出た手の甲に、熱い涙が落ちた。
「頭おかしいよね。おかしい、おかしいの! 私は、狂ってるの……」
しゃっくりが出る。嗚咽が止まらなかった。
三好さんの華奢な体が、私を包み込んだ。
「おかしくない」
三好さんは、語尾を強くした。手に、一層力が入る。
「全然おかしくない。普通」
「おかしいの。狂ってるの」
私は声を上げて泣く。頬を伝った涙が、三好さんの病院服に染みを作った。
「普通や。全く普通や」
三好さんの柔らかな手の平が、私のゴワゴワした髪を優しくなでた。
「……っふ、ああああああ、ヒッ……」
静かな空間に、私の泣き声が響いた。その泣き声がより一層私を惨めにさせ、嗚咽が大きくなった。
――なんだって、私はこんなに弱いんだ。ああ。なんだって、そんなに泣くんだ――
「あんたは正常や」
三好さんが静かにつぶやいた。
「人はな、口で言うても伝わらへんかったらな。ホンマに抜け出したかったり、本気になりたい時は、花火を上げなあかん。綾香は、自ら花火になったんや」
三好さんの声に、怒りが帯びていた。絢香さんを追い詰めた卑怯なやつらへの、静かな怒り。
――陽子たちが嫌いだ――
今、やっと分かった。今度は、自分の言葉だ。ずっと閉じ込めて、自分を傷つけ続けたこの思い。
三好さんは私から離れ、いつも付けていたイヤホンを私に差し出した。
「聞いてみぃ」
私は子供みたいに手の甲で目をこすり、イヤホンを受け取った。そっと耳にはめる。
耳に心地よく流れ込んできたのは、Mr.ChildrenのHANABIだ。でも、歌っていたのはMr.Childrenではなかった。お世辞にも、上手いとは言えない。私は思わず笑った。
「へったくそやろ」
三好さんも笑っていた。笑った方が、すごく美人だ。
「こんな歌声を、一週間に三回は聞かされるわけや」
歌っている人を、聞かなくても分かった。恥ずかしそうに、でもはっきりとした歌声。
「同じ歌ばっかりやし。録音しろしろうるさいからなぁ」
三好さんの目は、どこか遠くを見ているようだった。最後の叫ぶような声が途切れ、終わった。私は三好さんにイヤホンを返した。
「抜けださな、あかん」
三好さんは私を真っ直ぐに見る。大きくて、美しい瞳。今度は、私は目をそらさなかった。分かった、と大きく頷いた。

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