宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第三十話



寒い朝だ。息が真っ白で、雑草に霜が降りている。
「あれ……」
私は辺りを見回した。橋の向こうに、凛がいない。登校するときは、ここで凛と落ちあうのだ。
少し遅れてしまったから、待たせていると思っていたが、まだ来ていないらしい。私はカバンを下に置き、橋の欄干に腰をかけた。v 川のせせらぎが耳に心地いい。結構寒くて、座っている欄干もひんやりとしていた。遅れたと言っても、通常よりは大分早いので、通る人もいなかった。

待つこと約十五分。さすがに遅い。
私は欄干から降り、カバンを拾った。凛を迎えに行くのだ。こんな事は初めてで、かすかな不安が胸をよぎった。

――事故にあった、とか

凛は車イスに乗っていても、注意力は人一倍優れている。かすかな木の葉の擦れ合う音にも、車イスを止めて耳を傾けた。だから、車イスは大したハンディではないと思っていた。
でも、やはりどんな人間でも完璧ではないのだ。事故にあう可能性も、ゼロではない。
考えているうちに、どんどんと不安が膨らんできた。私はカバンを胸に抱きかかえ、急ぎ足になった。

黄色い建物の前についた。昨日お邪魔した、凛の施設だ。
私は、かじかんだ指でインターホンを押した。
「……はい」
少し遅れて、インターホンから祥子さんの声が聞こえた。何だか焦っているみたいだ。
「あの、佐々木です。凛さんを迎えに来たんですけど」
凛さんなんて初めて口に出したから、口が渇いた。
「ああ、ちょっと入ってくれる?」
「え……」
聞き返す前に、インターホンは音を立てて切れた。私は玄関のノブに手をかけ、ドアを開けた。ノブも冷えていて、手のひらの温度が急速に奪われていくのが分かる。
「お邪魔します」
祥子さんは奥の部屋で忙しそうに、服やタオルを大きなバッグに詰め込んでいた。
「友里ちゃん、靴脱いで、上がってきて」
私は靴を綺麗に並べて、廊下を歩いた。今日はハナはいなかった。散歩にでも行っているのだろうか。
「祥子さん……?」
祥子さんは詰め込む手を止めない。顔は無表情だ。大きなバスタオルを詰め込んだ後、祥子さんは私に向き直った。
「友里ちゃん、これは私達は何度も経験してるから大丈夫だけど、友里ちゃんは少しショックを受けるかもしれないわ」
私は唐突に言われ、面食らった。何が起こったのか、さっぱりわからない。
「落ち付いて聞いてね。凛ちゃんは、今病院にいるの」
「……え? どうしてですか?」
「凛ちゃんは、昨日の夜、入院したの」
私は驚いて、声が出なかった。金魚のように口をパクパクと動かす。
「凛ちゃんは、凛ちゃんはね。生まれた時から、心臓の病気なの」
私は頭が真っ白になった。