宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第二十一話
三好さんは、深く美しい瞳で私を見据えた後、ゆっくりと語りだした。
「うちの幼馴染に、佐々木さんと同じようないじめを受けた子がおんねん。絢香っていうねんけど」
三好さんは、"いじめ"という言葉を、躊躇なく使った。
「いちいち失敗をあげつらったりとか、その程度。絢香が何度反抗しても、冗談って言うて、聞こうとせえへんかった。絢香、どうした思う?」
「……どうしたの?」
大体予想はついていた。でも、自分の口からいうのが怖かった。
「自殺したんや」
三好さんは、何のためらいもなく言った。
「弱いと思う?」
意外にも、そう聞いた顔は微笑んでいた。
「……悪いけど、私は弱いと思うよ。そんなの、シャレだし、本気にする方がおかしい、と思う」
私は、相当の勇気を振り絞った。怒鳴られるだろうと思って、身をすくめた。
でも三好さんは、「そうか」と頬杖をついて頷いた。「絢香の話、聞いてくれる?」
私は、自分の意志とは関係なしに、ゆっくりと頷いていた。
宮本絢香は、小学6年生だった。
親友で幼馴染の凛とはクラスが分かれてしまったが、新しい友達を作ろうと、努めて明るく考えた。
時が経つに連れて、絢香には「友達」が沢山できた。でも、絢香の心は空気が抜けた風船のようにしぼんでいった。
初めは、頭まを小突いたり、やたらと背中をこそばせたりする程度だったのが、それが少しづつエスカレートしていった。
「あれ? ない」
絢香は机の中を引っ掻き回して筆箱を探していた。休み時間の前までは確かにあったのだ。
クラスに聞いて回ったが、皆知らないと言う。
休み時間の終わり、いつも仲良くしている子が4人、笑いながら筆箱を差し出した。
「どれ位で見つけるかと思ってたけど、見つからんかったなぁ」
絢香は無言だった。すると、
「なんやの、怒ってんの? 冗談やんか。絢香の事好きやから、構うんやで」
と、絢香の頭を乱暴に撫でた。
そのような事が何度もあった。トイレ掃除のとき、わざと絢香の方に水をまいた。お茶を勝手に飲んだ。
絢香は何度も抗議したが、「絢香の事好きやねんもん。うちら親友やろ」と誤魔化された。
そう言われると絢香はくすぐったくなり、何も言えなくなった。
教師にも何度か訴えたが、返って来る答えはいつも「ちょっとした悪ふざけ。無視をしろ」だった。
――何の前触れもなかった。
よく晴れ、太陽がさんさんと光り輝いている午後、絢香は全校生徒の視線の仲、屋上から飛んだ。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク