宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第十話



自習の時間、クラスは静かではなかった。皆、ただならぬフインキを感じ取ったようだ。
私は、全身に汗をかいていた。膝に乗せた両拳を、一層強く握り締める。
クラスの男子が、冗談半分のように大声で言った。

「万引きでもしたんじゃねーの?」

時が止まった。でもすぐに、クラスの騒がしさが耳に飛び込んできた。
私の脇の下は、尋常ではない位濡れていた。歯がカチカチと鳴る。
「友里……?」
ミヤちゃんが怪訝な顔で私を見る。でも、私は答えられなかった。

中休み、やっと陽子は戻ってきた。心配そうなクラスメイトをよそに、陽子は真っ直ぐにこっちへ向かってきた。その瞳は、怒りと憎悪で焦点が定まっていなかった。
「何でチクッたんだよ!」
陽子は叫んだ。唾が私の顔に飛ぶ。
「……え?」
「とぼけんじゃねぇよ!」
陽子が私の頬を張った。鋭い痛みが頬を駆け抜けた。
皆、何が何だか分からないという顔だ。でも、一番分からないのは私だ。
「テメーしかいねぇじゃんよ、うちが万引きしたの知ってるやつは!」
陽子が私の胸倉を掴んだ。
「わ、私じゃ、な……い!」
陽子に揺さぶられていながら、私は息も絶え絶えに言った。
「ウソつくんじゃねぇ」
陽子は低い声で言い、私を突き飛ばした。
皆がざわつく。
「万引き……?」
「スゲェ事やるなぁ」
陽子はさすがに罰が悪そうな顔をしたが、後には引けないと思ったのか、その場に崩れ落ちた。
「出来心だったのに……そう言ったのに! 親友、だったのに……!」
陽子は肩を震わせて泣き出した。どこか、芝居がかかっていた。
「ひど……」
「普通チクる?」
「見損なった」
突き飛ばされた時に腰を打ち、その場で動けないでいる私を、皆は口々に非難した。

――何で、私なの? 違うのに――

「あ……あ……」
反論したいのに、声が出なかった。皆の冷たい視線に射すくめられ、体中に震えが走った。

「うちや」
険悪なムードの中、唐突にはっきりとした声が聞こえた。皆が辺りを見回す。
皆が騒いでいても気にせずに、何も言わずに一人本を読んでいた人物――。
「うちが、先生に萩元さんの事言うたんや」
三好さんは、ゆっくりとページをめくった。