宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第二十五話
私は、あの後3日間学校を休んだ。風邪を引いてしまったのだ。マスクもせずに、病院に長時間いたのが悪かったのかもしれない。その間に、三好さんは退院したらしい。
心配だった担任からの連絡もなかった。自殺未遂のことを、家族には知られたくなかった。
「げほっ……」
大分マシになったが、まだ咳がでた。
部屋のドアが開き、母が入ってきた。お盆におかゆが乗っていた。
「友里、大丈夫? 咳が聞こえたけど……」
「大丈夫だよ。明日から学校行く」
母が湯気の立つおかゆを傍に置き、私のおでこを触った。
「無理しなくていいのよ。おかゆ食べる?」
「平気だってば。おかゆ、後で食べるよ」
私は笑った。母はまだ心配そうな顔をしていた。
「食べさせてあげようか」
「いいよ、子供じゃないし」
母はやっと笑った。私のおでこをちょんとつつく。
「まだまだ子供ですよ。じゃあ、おかゆ食べたらおいといてね」
母は出ていった。私はため息をつく。
こんな家族の暖かさや優しさが、私の決心を鈍らせる。私は、もう決めたのだ。あのグループから抜ける。
私はおかゆを取り、口に運んだ。ちょっと塩の効いた、懐かしい味。
私は全部平らげて、眠りについた。
風に当たる風が冷たい。マフラーを顔まで上げた。
正面玄関に入り、真っ直ぐ職員室に向かった。携帯に先生からメールが来ていた。
「失礼します」
職員室の重苦しいフインキに、足がすくんだ。自分を叱る。私は、もう逃げないと誓ったんだ。
「佐々木。こっちへ来なさい」
担任の先生が手招きをしていた。
「お前、手首をきったそうだな」
先生は低い声で聞いた。その瞳には、どこか哀れみに染まっていた。
「はい……」
「何でそんな事したんだ。言ってくれないか」
私は全てを打ち明けた。いつもからかわれていること、平気で酷い事を言ったり、してきたりする事。途中、涙が出て来そうになった。
「そう、か……」
先生はため息をつく。
「佐々木、お前の気持ちも分かる。でもな、手首を切るほどの事なのかな」
「……どういう、事ですか?」
「だから、萩元たちのやった事は、そんなに酷い事なのか? 佐々木が言うには、まるでいじめのようだが……」
私は悔しさで体が震えた。先生を睨み付ける。自分でも、こんなに強かったっけ、と思った。
――無理だよ。先生に向かって――
だめだ。こんな事じゃ。花火上げなきゃ。
「私が弱いって言いたいんですか」
「いや、だからな……」
私は最後まで言わせなかった。そんな理不尽な理屈、聞きたくない。
「先生、私の気持ち分かるって言いましたよね。何が分かってるんですか。理解したふりなんかしないで下さい。何でこれがイジメじゃないって言えるんですか。受けている側がそう取れば、それはいじめなんじゃないんですか。いじめの境界線なんか、あるんですか。私の苦しみの、10分の1も理解できてないです。私のっ、私の……自殺を、否定しないで下さい!」
気が付けば、私は先生の机を叩いていた。我を忘れていた。今まで封印していた、この怒り。三好さんが解放してくれた。
私は職員室を飛び出した。
私の、1つ目の花火。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク