宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第十九話
「・・・・・・はい、これでいいわよ」
保健の先生の白く綺麗な手が、私の手のひらを包み込む。
「何があったのかは聞かないけど、この事は担任の先生に報告しないといけないわ。分かってくれるわよね」
私はうなだれた。でも、そうしないといけない事は、私も分かっていた。
先生がガーゼの上から、私の手首にリストバンドをはめた。
「それ、あげるわ。見られたくないでしょ?」
先生の声は、優しかった。優しすぎる声だった。
私は、先生の顔をまともに見ることはできなかった。
「失礼しました・・・・・・」
私は保健室を出た。
恐らく、もう授業は終わっているだろう。私は、そのまま回れ右をして、校門を出た。
今は、誰の顔も見たくなかった。
傷が、疼くように痛んだ。
まるで、誰かがそこで叫んでいるようだ。
家にも帰りたくなかった。
頭に、何故か三好さんの顔が浮かぶ。頭の中でも、三好さんは不機嫌な顔をしていた。
私は、総合病院の前に立っていた。
三好さんが入院している病院だ。
何もする事がなかったし、さっさとお見舞いを終わらせたかった。それに、会いたかった。
私は自動ドアを通り、受付の女性に三好さんの病室を尋ねた。
「4階の、突き当りの部屋です」
私は礼を言い、エレベーターに乗り込む。
4階の広場では、2,3人の老人がテレビを眺めていた。
「三好凛様」
そう書かれた名札の前で、深呼吸をした。極力喋らないようにしたい。
大部屋だが、入っているのは三好さんだけだった。
私は扉を開けた。
三好さんは、またイヤホンをしていた。
「あの・・・・・・三好さん」
私は小さな声で言った。でも、三好さんは気づいてくれて、耳からイヤホンを外した。
「佐々木さん? どないしたん」
三好さんは首をかしげた。長い黒髪が、流れるように揺れた。
「お見舞い・・・・・・クラスの代表で」
「ふぅん」
三好さんは椅子を出し、私にここに座るように勧めた。
私は椅子に腰掛ける。太ももがひんやりとした。
長い沈黙が続いた。

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