宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第十一話
「……マジかよ」
陽子はいつの間にか三好さんの前に立ち、上から睨み付けていた。
「何が?」
三好さんがまたページをめくった。分厚い本だな、とボンヤリ思った。
「マジであんたが先公にチクッたのかってことだよ!」
「そうや」
三好さんは本から顔を上げなかった。
「っざけんじゃねぇよ! 何様のつもりだよ」
陽子は三好さんの本を奪い取り、床に叩きつけた。
三好さんは初めて顔を上げた。その上目遣いの大きな瞳が、一層陽子を苛立たせた。
「三好さん、酷いよ」
「そうだよ! 何で言うわけ? 三好さんのせいで陽子の人生メチャクチャじゃん!」
優子とミヤちゃんが陽子を庇った。三好さんは口の端を吊り上げて笑った。狐のようだった。
「悪いのはうちかいな。あんたが万引きなんかせえへんかったら、こんな事にならんかったんちゃうん」
三好さんは冷たく言い放ち、あほらしい、と鼻で笑った。
陽子はその場に泣き崩れた。口の中で、呪詛の言葉をぶやいていた。
「むかつく……」
帰り道、陽子は何度もそれを繰り返した。頬にまだ涙の跡がついていた。
「三好なんて気にする事ないって」
「そうだよ! あんなヤツ、ほっとけばいいんだよ」
優子とミヤちゃんが交互に陽子を慰めていた。私は、ただ時々相槌を打って、後は上の空だった。
――いい気味――
「……」
私は黙って下を向いた。
あの、嘲るような黒い声が、頭に大きく響いた。頭蓋骨にまで響くようだった。
もう、止めてくれ。頼むから。聞きたくないんだ。そんな思いとは関係なく、何度も繰り返された。沢山汚い言葉を吐いていた。
「ちょっと、友里も手伝ってよ」
優子が小声で言い、少し睨む。陽子がまだ不機嫌のようだ。
「……ゴメン、今日先帰るね!」
私はそう言って、自転車に飛び乗り走った。
「ちょっと、友里!?」
ミヤちゃんの叫ぶ声が聞こえるが、無視した。頭がどうにかなってしまいそうだった。
「はぁ……」
私は自転車を降り、家の門柱に手をついた。息が上がった。
深呼吸をして、もう声が聞こえないことを確認すると、自転車を片付けに行った。
――陽子たち、怒ってるかな――
気になっていないわけではなかった。でも、3人の前で取り乱してしまうよりは、ずっと良かった。

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