宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第二十七話



私と凛は、何となくいつも一緒にいた。休み時間はいつも凛の横にいる。別に話をするわけでもなく、ぼぅっとしているだけ。
陽子たちは、あれから私に話かけてこない。こっちをチラリと見て、内緒話をするだけだ。

私は自転車通学をやめた。凛の車イスを押しながら登下校するからだ。これも別にどちらが言い出したのでもなく、何となくそうなった。
いつもより早起きをしなければいけないけど、その分気持ちよかった。

凛の入っている施設は、まだ言った事がなかった。どんな所か尋ねて見ても、「別に」と愛想がない答えが返って来るだけだ。
「ねぇ」
私は凛の車イスを押しながら声をかけた。吐く息が白い。
「何?」
「凛の施設、行ってもいい?」
しばらく沈黙があった。横を、新聞配達の自転車が通りぬける。
「何で」
「何でって、行って見たいから。どんな所かも教えてくれないじゃん」
凛はしばらくの間、空を見ていた。今日は快晴だ。私は雲がない事が、少し寂しかった。
「今日の放課後、あいとるん」
「……いいの?」
「見るのは自己責任やで。どんな感想を持とうが、うちは知らん」
凛は、素っ気無く言った。

「ここ」
前に見た事のある。小さな黄色の建物の前で止まった。
凛は自分で車イスを動かし、ドアを開けた。
「ただいま」
開いたドアから、騒がしい声がした。走り回っている音もする。
「あら、お帰り。早かったのね」
中から赤いエプロンをした、ショートカットの女性が出てきた。
「祥子さん、今日知り合い連れてきたんやけど」
ここで友達と言わない所が、寂しくもあり、凛らしくもあった。
「あらぁ、初めまして! 寒いでしょう、早く上がって」
祥子さんと呼ばれた女性は、人の良さそうなえくぼのある顔で笑った。
「初めまして」
私は小さく会釈をした。私は会った瞬間から、祥子さんが好きになった。
「さ、靴を脱いで。ちょっとびっくりするかもしれないけど」
私は靴を揃えて床に足をついた。びっくりするとは、どういう事だろう。

リビングらしき所に足を踏み入れたときのその光景は、私の想像を絶するものだった。