宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第二話



私は教室のドアを開け、自分の席に座った。
一番前の席に座っていた岸田優子が私に気づき、こっちに歩いてきた。
「おはよう。筆箱出して!」
優子は右手を差し出した。
「今日は勘弁してくれない?」
私は拝むポーズでおどけた。でも、無理だろうな、と思う。
「ダメー。友里のためなんだから」
優子はそう言うと、筆箱を出してチャックを開け、探り出した。
「失格」
優子はしばらく探り、言った。
「何で?」
「キャラペンが入ってない。ボールペンも質素すぎー」

筆箱チェックの始まりは、廊下で筆箱を落としてしまい、優子が拾うのを手伝ってくれたときだった。
「もーっ、遅れちゃうよ。」
優子は頬を膨らませた。
「うわ、何この中身! オバサンくさー」
「オバサンって何だよー」
こんな事で怒るのも馬鹿らしいので、笑って流した。
「そうだ、毎朝私がチェックしてあげるよ」
そう言って、優子は私の返事を待たずに決めた。

「もっとしっかりしなよー?」
優子はケラケラと笑った。その拍子に、筆箱が落ち、中身がぶちまけられた。
「ああ、ごめんごめん」
まだ笑っている。優子が拾おうと身をかがめた時、優子の足の下でバキッと嫌な音がした。
鉛筆が真っ二つになっていた。
「あっ・・・・・・」
優子はさすがに笑わなかったが、
「ごめーん! 怒ってないよね」
と、また笑った。
誕生日にもらったお気に入りの鉛筆。大事だったのに。すごく悲しい。
でも、優子の事を悪く思ってるんじゃない。多分。
「怒ってるわけないじゃん」
私も笑う。
「だよねー。この柄ダサイから、なくなって良かったんじゃないの」
他の中身を拾うことは最早頭にないようで、優子は自分の席に帰っていった。

その時、日焼けをした大きめの手が、他の中身を拾い、筆箱に入れ、手渡してくれた。
「あ・・・・・・ありがとう」
私は顔を上げた。
「あの女も相当なアホやけど、あんたもアホやね」
三好さんは、馬鹿にしたように「ふふん」と鼻で笑うと、私を一瞥して去っていった。

それが――私と三好凛の初めての会話だった。