宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第二十六話



信じられない。何故自分にあんな事ができたのか。でも、後悔はしていない。
「ふふっ」
何故か笑いが漏れた。ひとしきり笑った後、私は教室へと足を進めた。
2つ目の花火を上げに行くのだ。上げなくてはいけない。私はカバンから茶封筒を取り出した。
中に、2000円ほど入っている。陽子達のクリーニング代だ。

怖い。本当に怖い。今までの友情を壊すのが。陽子達を傷つけるのが。
いいや、正直に言おう。――三好さんのようにいじめられるのが。
弱いのだ。卑怯なのだ。分かっている、そんな事。
でも、こんな自分を乗り越えるためにも、やらなくてはいけないのだ。行動を起こさないと、何も変らない。
茶封筒は私の手のひらの中で、湿っていた。

「……は? 何て?」
陽子は、私が茶封筒を差し出し頭を下げている様子を、唖然と眺めていた。
「……だから、グループから……」
「もう、冗談やめなよ」
私が言い終わらないうちに、ミヤちゃんが言った。笑っていた。
「だよねっ、もう、何言ってんの」
陽子はすがるように笑う。私の顔が、徐々に緩む。
また、笑って誤魔化すのか。笑って、自分の心を閉じ込めるのか。
悔しい。悔しい。
こんなにも弱い自分が。行動を起こさず、ただ曖昧に笑うだけの自分が。
私は下を向き、唇をかみ締めた。その時、右腕にしているリストバンドが目に入った。そして、あの声が聞こえた。

――あんたがいるから、私は抜け出せない――

馬鹿。あんたが変らなきゃ、何も始まらないし終わりもしないんだ。
「……冗談なんかじゃない」
私は顔を上げ、はっきりと言った。
「え……」
「冗談なんかじゃっ、ないよ!」
私は茶封筒を床に叩きつけた。お札がこぼれ出る。
「ずっと、ずっと言いたかった。グループから抜ける」
「ちょっ、友里? どう言うことか分かってるわけ」
陽子は私を睨んだ。私はもう、ひるまない。
「分かってるよ。もう嫌なの。これ以上ウソつくのは」
「意味わかんない」
優子がぼやいた。その言葉が引き金となった。
「これ見てもわかんない?」
私はリストバンドを剥ぎ取って、前に突き出した。2つ目の花火。
周りの野次馬が、息を飲んだ。
「これ、陽子たちにつけられた傷。……つけたのは、私。でも、つけさせたのは陽子たちだよ。これでもわかんないのかって聞いてんのよっ!」
陽子たちは、何も言わなかった。言えなかったのかもしれない。
私は身を翻し、教室から出ていった。
「今まで、ごめん」
私は振り返らずに言った。

冷える廊下を少し歩くと、そこに三好さんがいた。まるで、何があったかを知っているようだった。
「待ってて、くれたの?」
「別に」
相変わらず、素っ気無い。その素っ気無さが、たまらなく愛おしかった。
「一緒にいてもいい?」
三好さんは何も言わなかった。私は構わずに、三好さんの車イスをそっと握った。
冷たい。でも、気持ちいい。私は三好さんと一緒に、歩きだした。