宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第十六話
「え……?」
私は思わず聞き返した。
「三好のお見舞いだよ。萩元たちが佐々木を推薦しただろ、仲良いからって」
先生は笑顔で言った。私は目で陽子達を探した。肩が震えている。笑いを押し殺しているようにも見えた。
断れないフインキが作りあがっていて、嫌だとはいえなかった。
「陽子っ!」
私が陽子を呼び止めると、陽子は振り向きざまに爆笑した。こらえきれなくなったらしい。
「何で私なんだよー」
私は陽子の肩を小突いた。もちろん冗談だ。
「……っ、だって、あのフインキ……メンドイしっ、さぁ!」
笑いすぎて、声が途切れて聞こえにくい。優子とミヤちゃんも、お腹を抱えて笑っていた。
「ま、そういう事だから、よろしくー」
陽子が私の肩に手を置いた。
その途端、私の脳が何かに支配されたように止まった。
私の手は、陽子の手を振り払っていた。顔も歪んでいる。
「ちょっと、友里! 何すんのよ」
陽子が信じられないという顔をした。私にだって、私が信じられなかった。気まずい空気が流れる。
「……なんちゃってー」
私は無理におどけた顔を作った。ちゃんと笑えているか心配だ。
「もーっ、びっくりさせないでよ」
陽子たちも笑いながら、私の頭をバンバン叩いた。
昼休み、私は女子トイレの個室で、和式の便器の中に吐いていた。できるだけ音はさせないように配慮した。
「おえっ……」
白い便器に、薄橙の嘔吐がぶちまけられる。もう、何度も流していた。
今は、胃液が殆どだ。頭がクラクラしている。
原因は――分からない。ただただ、吐き気だけが私を支配した。
「はあ……はあ……」
私はまた吐いた。見るのも嫌ですぐに流した。
吐き気が少しマシになったので、鍵を開け出た。幸い、だれもトイレには来ていなかったようだ。
私は頭痛のする頭を押さえ、トイレを出た。保健室に行こう。
私があと一段というところで、後ろから呼びとめられた。
「あれ、友里じゃん。どこ行くの?」
振り返ると、陽子たちがいた。私はかすかに微笑んだ。
「保健室……。ちょっと熱っぽいし、頭も痛いの」
そう答えた瞬間、グラッと視界がゆれ、慌てて手すりを掴んだ。
「へぇ、じゃあ、英語の授業さぼるんだぁ。今日小テストなのに、何かずるい」
ミヤちゃんの声は、ねちっこかった。
「いいねぇ、病弱な人は」
陽子は、昔から私と一緒にいたから、私がよく体調を崩していた事を知っていた。昔は事あるたびに心配してくれていた。
次の瞬間、私は3人に向かって嘔吐をぶちまけていた。

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