宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第二十二話



絢香が飛んだ日、昼休みに放送が流れていた。

――全校の皆さん、私は今から屋上の空に花火を打ち上げます。必ず来てください。繰り返します――

それし紛れもなく絢香の声だった。全校生が一斉に屋上へと駆け上がった。もちろん教師も。
その中に、凛もいた。凛は、いいようのない不安に胸が押しつぶされそうだった。
絢香は、凛に時々愚痴をこぼしていたのだ。その度に、凛は顔をしかめながら絢香に同意していた。
でも、一度でも真剣に考えた事があっただろうか。いつも上辺だけの同情の言葉をかけていたのではないのか。
ドアを開けると、聞き覚えのある音楽が耳に流れ込んだ。
Mr.childrenの、―HANABI―。
絢香が大好きな曲だ。いつも歌っていて、凛はそれを時々顔をしかめて聞き飽きたと言った。
その曲が、澄んだ青い空に響き渡っていた。うるさくはなかった。見ると、そばにCDプレーヤーが置いてあった。

でも、皆の関心はMr.childrenの力強い歌声にはなく、フェンスの向こう側だった。そこには――絢香の後ろ姿があった。
教師は一斉に走り出すが、間に合わなかった。絢香は飛んだ。落ちたのではない、飛び上がったのだ。
絢香は花火になった。真っ青な空に、大輪の花を咲かせた。

――タスケテクダサイ――

一度も振り返らなかった絢香の背中から、切なく悲痛な叫びが聞こえた。

――ダレカ、タスケテクダサイ。スクッテクダサイ。ツライデス。シニタクナイデス――

哀しい叫び。心臓を突き破るような、儚い叫びが、凛の耳にしっかりと聞こえた。

花びらは一瞬に散り、地に横たわった。目を見張るような美しい真紅が、花びらを染め上げた。
絢香の姿は、怖くもおぞましくも無かった。ただ――美しかった。哀しく、儚く、美しかった。


「……」
私は声が出なかった。
「どう、絢香は弱いか? 間違ってるか?」
間違ってる、弱い。そう反論したいのに、喉の奥に舌が張り付いたように、動かなかった。
「うちはそうは思わん。確かにな、他のやり方もあったんやと思う。でも、絢香は間違ったんか? そんな事言う資格、誰にあんねん」
三好さんは静かに、静かに言った。
「他にどうしたら良かったんや。絢香は訴えた。何度もな。口で言うてもアカンかったら、行動を起こすしかないやん」
私は下を向いた。私には、絢香さんの気持ちが分からなかった。分かったふりをする資格は、私にはない。
「絢香は死にたかったんちゃうねん。皆に、自分を犠牲にしてでも抗議したんや。死にたくなかったんやで。でも、このまま騙され続けるなんか、我慢できひんかったんや。それって、めっちゃ強いんちがう?」
死にたくなかった絢香さん。自分を死ぬまで追い詰めた私。死ぬのが怖くて、それでも皆に訴えた絢香さん。嫌われるのが怖くて、自分を沢山傷つけた私。
それは、漠然とした差だった。