宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第十二話
私は重い手つきで教室の扉を開けた。
陽子達の視線が、痛いほど突き刺さる。私は顔を恐る恐る上げた。
「あの……」
私が言う前に、陽子が担架を切った。
「昨日の態度さ、何?」
私はまたうつむいた。
「昨日私、泣いてたんだよ? 泣いてる親友ほっといて帰るって、どういう事」
表情は分からないが、その声はドライアイスのように冷たく、痛かった。優子とミヤちゃんの視線も同様だ。
「ゴ、ゴメン……」
私の声は、震えていた。口の筋肉が上手く動かない。
「そりゃさー、許してあげたいけどさぁ。タダってわけには行かないっしょ」
「お金……」
私がつぶやくと、陽子が笑った。
「親友がそんな事すると思う? 三好凝らしめんの協力してほしいだけ。あいつありえねぇ、マジ殺してぇ」
陽子は吐き捨てた。
「いじめ、るの?」
私は搾り出すように言った。膝が笑っている。
「まさかぁ。懲らしめだってば」
陽子たちはけたたましく笑った。私は笑えなかった。
陽子達の言った「懲らしめ」は、マンガなどで見られる過激な物ではなかった。机の中に、悪口を書いた紙をつっこんでおいたのだ。
中を書いたのは私だ。罪悪感がないと言ったらウソになる。でも、三好さんは自業自得なのだと思う。思おうとした。
「どうかな?」
「まだ来ないのかよ……」
陽子たちは三好さんの机をちらちらと見て、落ち着きが無かった。
「来たっ!」
三好さんが車イスを器用に操りながら、教室に入ってきた。そして、机の中を覗きこみ、紙を開いた。
三好さんは特に表情を変えず、紙を持ち真っ直ぐに先生の元へ行った。
「ウソ……」
ミヤちゃんは呆然としていた。
「またチクるのかよっ!?」
「神経おかしいよ」
陽子たちはひそひそと会話をしていた。先生は頷き、紙を預かった。
一時間目、先生が教団に立ち、全員を見回す。
「三好の机の中に、中傷文が書かれた紙が入っていたらしい。心当たりはないか」
私は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。陽子達をチラリと見る。
――自白したら許さない――
3人の目は、そう告げていた。その途端、心の中で小さな爆発があった。
――どんな言い訳をしてもいじめはいじめ。そんな腐ったやつはさっさと死ね。いっそ自白してやろうか。そうして、地獄に落ちろ――
私は下を向き、頭をかかえた。陽子たちはそれを見て、満足したのか悠々と前を向いた。
その後、何度も同じ事が繰り返された。私達は何度も紙を入れたが、三好さんは何度も先生に言った。
陽子達の怒りは、ピークに達しているようだ。三好さんへの憎悪の言葉が、口から溢れるように出ていた。
「あのさぁ、悪いけど今日一人で帰ってくんない?」
下校時、陽子たちが妙な絵美を浮かべて言った。
「え、何で?」
「いいからさ。話し合うことがあんの」
陽子の瞳は、怪しげに揺らいでいた。

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