宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第二十四話
「うちの幼馴染にも、佐々木さんと同じようないじめを受けとった子がおんねん。絢香っていうねんけど」
三好さんはいじめという言葉を、躊躇なく使った。私は黙って聞いている。
「辛くて、何回もやめてって言うた。でも、そいつらは冗談や言うて、やめへんかった。絢香、どうした思う?」
「……どうしたの」
予想はついていた。でも、自分の口から言うのが怖い。
「自殺したんや」
三好さんは、明日の天気の話でもしているかのように、さらりと言った。
「絢香は弱いと思う?」
「……悪いけど、弱いと思うよ。だって、そんなのシャレだし、本気にする方がおかしい」
私は相当の勇気を振り絞って言った。怒鳴られると思って、身を縮こませた。でも三好さんは、「そうか」と言ったきりだった。意外にもその顔は微笑んでいた。
「絢香の話、聞いてくれる」
私は自分の意志とは関係なく、ゆっくりと頷いた。
宮本絢香は小学6年生だった。
幼馴染の凛とはクラスが離れてしまったが、新しい友達を作ろうと努めて明るく考えた。
時が経つにつれて、絢香には沢山の"友達"が出来た。でも、絢香の心は空気の抜けた風船のようにしぼんでいった。
最初はやたらと背中をくすぐったり、頭を小突いたりする程度だった。それが、少しずつエスカレートしていった。
「あれ? ない」
休み時間、絢香は机の中を引っ掻き回して筆箱を探していた。休み時間の前までは確かにあったのだ。クラスに聞いて回ったが誰も知らないという。
休み時間が終わる頃、いつも仲良くしている子が4人、筆箱を差し出して笑った。
「どれ位で見つかるか実験しててん」
絢香は無言だった。
「なんやの、怒ってんの? 冗談やんか。うちら、友達やろ」
その子は絢香が懸命にセットしてきた髪を、クシャクシャッと乱暴になでた。
その後、そのような事が何度かあった。トイレ掃除のとき、わざと水を絢香の方にやった。宿題のプリントを、出してきてやると言って名前を消して提出した。お茶を勝手に飲んだ。
絢香は何度も抗議した。その子達は、いつも冗談、と言って誤魔化した。
「絢香のこと、好きやねんもん。構いたいんやんか、なぁ」
そう言われると、絢香はくすぐったくなり、何も言えなかった。
担任にも訴えたが、返って来る返事はいつも、「度の過ぎた悪ふざけ。無視をしろ」だった。
そうやって、絢香の心は徐々に潰れていった。
何の前触れもなかった。
よく晴れ太陽がさんさんと輝いている午後、絢香は全校生徒の視線の中、屋上から飛んだ。

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