宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第三十一話
昼休み、冷えたお弁当を教室で一人で食べた。殆ど味が分からない。頭の中では、今朝の祥子さんとの会話がグルグルと回っていた。
「心、蔵?」
私は乾いた喉から、やっと声を出した。
「虚弱児って、知ってる? 生まれた時の体重が、二千グラムしか無かったの。それと共に心臓に病気を抱えてて……」
その後の言葉はよく覚えていない。ただ、今こうやって凛が生きていることが、奇跡に近いという事。大阪に来てから三回も入院しているという事だけが、私の頭の中にしっかりと刻み込まれた。
爪楊枝でウィンナーを突き刺し、口に運ぶ。それはもう機械的な動作で、意識してやっている事ではなかった。気が付くと、ウィンナーを入れていた銀紙の中が空っぽになっていた。
さっきから、後ろからの視線を感じている。誰かは、振り返らなくても分かる。陽子だ。
「もう最悪ー。陽子も思うでしょ。……陽子? 聞いてんの?」
「あぁ、ゴメン」
優子やミヤちゃんが話しかけても、ボーッとしている。いつもお喋りの中心にいた以前の陽子では、考えられない事だった。
陽子は、いつも私を見ている。授業中にも視線を感じるし、凛と一緒にいる時は尚更だ。一体どうして私なんかを気にするのだろう。
「陽子、この頃おかしいよ。何かあった?」
後ろから、ミヤちゃんの心配そうな声が聞こえる。それに対して、陽子は口の中で小さく、大丈夫、とつぶやいていた。
私は少しだけ後ろを振り向いた。陽子は慌てて目をそらして、優子とミヤちゃんに笑いかけた。以前の私にそっくりだった。
私は醤油にほぼ浸かっているほうれん草を箸で摘んだ。少しさのままでいて、醤油を落とす。
また、視線が私に戻る。正直、少しうっとおしい。それを告げれば、陽子はどんな顔をするだろうか。
ほうれん草を口の中に突っ込んだ。あまりのしょっぱさに、思わず顔をゆがめる。
私は箸を置き、空いている凛の席を見つめた。私達はいつもここで、二言三言ぐらいの会話を交わしながら昼食を終える。
私はお弁当の蓋を閉じた。食欲がなかった。私はお弁当の包みを必要以上に固く結び、自分の席に戻った。包みを硬く結ぶのは、私のクセだ。これを難なく解いてしまう母はスゴイと思う。
私はため息をついた。騒がしい教室と自分を遮断するように、私はフードを被って机に突っ伏した。
凛の事を考えた。凛の事が好きかって聞かれたら困る。好き嫌いの問題以前に、私は凛がたまらなく愛しいのだ。
(2009年12月31日現在連載中)

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