宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第十七話
「あーあ・・・・・・」
私は、わざと声を出してため息をついた。
ガランとした保健室には、人の気配はなかった。
でも、私の体は確実にベッドの方へ向かっている。私は本能のままにさせた。
「ちょっとだけなら、いいよね」
私はベッドに倒れこんだ。
私が陽子たちに嘔吐をぶちまけると、3人の顔がグニャリと歪んだ。
「最悪!」
陽子が私の肩を押し、私はよろめいて慌てて手すりを掴んだ。
「ひど・・・・・・」
ミヤちゃんは半泣きだ。
「クリーニング代、今持ってる額全部出して。」
優子は感情のこもらない声でそう言った。抑揚が無い声なのに、相当の怒りが感じられた。
私は震える手つきで優子に財布を差し出した。優子は全て抜き取った。その中には、私の昼ご飯代も入っていた。
「明日、残り全部持ってこないと許さないから!」
陽子は私を鋭い眼光で睨みつけ、3人は足早に去っていった。
心配は――してくれなかった。
思いだすと、意味もなく笑えてきた。頬の筋肉がだらしなく緩む。
涙腺も緩んだ。頬に、熱い涙が伝う。
「しかたないよ、私が悪いんだからさ・・・・・・」
私はつぶやいた。まぶたがゆっくりと降りた。
夢を見ているのは分かっている。
木枯らしのふきつける校庭の隅で、5人の子供達が「かごめかごめ」をしていた。その中に、私もいた。
「かーごめかごめ、かーごのなぁかのとーりぃはぁ、いーつぅいーつぅ、でーあぁう・・・・・・」
中の子の周りをぐるぐると回る。寒さで、頬は真っ赤だ。
「・・・・・・後ろの正面だあれ」
「・・・・・・陽子ちゃん?」
「当たりー。」
小学生の陽子は、嬉しそうに飛び跳ねた。
入れ替わる時、私以外の皆はニヤリとした。
「・・・・・・後ろの正面だあれ」
「友里ちゃんっ。」
陽子は自信満々に言った。後ろは最初から決まっていた。
この頃、「かごめかごめ」の5回目に後ろになると、呪われるという噂があった。そのため、私はいつも強引に後ろへ回されていた。
「・・・・・・後ろの正面だあれ」
皆、そう言ってすぐに、私から離れていく。声に出さずに笑っていた。
私は全員の名前を言っても当たらないので、立ち上がった。
周りを見回し、寂しそうにうつむいた。
場面が変わる。
桜の咲き乱れる校庭で、鬼ごっこをしていた。
でも、皆走らない。私が鬼の子に追いかけられている様子を見て笑っていた。その中に、陽子もいた。
鈍足の私はすぐに捕まった。
皆、私が足の遅い事を知っていて、わざと私に近づく。
必死に追いかけ、私はこけた。それを見て、皆はまた笑った。

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