二次創作小説(紙ほか)
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- 遊戯王 七つの輝きと光の守り手
- 日時: 2015/03/20 00:00
- 名前: 緋兎雫 ◆cW98CwF.kQ (ID: 0ZLVN9hQ)
!
リアルの事情でロックします。
追記
いきなりロックしてすみません。オリキャラも募集していたのに、このような形になって頭を下げるしかありません。
リアルで色々あり、現在名前を変えています。
調子がよすぎるとは思いますが、お知らせを。
何やかんや言って、遊戯王からは離れられず、カキコで新しい遊戯王作品を書いています。諸事情でタイトルは書けませんが御興味のある方は、お探し下さい。版は映像版の方です。
最後に小説をご愛読頂いていた皆様、本当にありがとうございました。
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.222 )
- 日時: 2014/12/09 14:03
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
「俺のターン! 俺は、モンスターをセット。さらにカードを三枚伏せてターンエンド」
連弾の魔術師が手札に来なかったのか、控えめにモンスター、カードをセットしただけでアフロはターンエンドを宣言する。
「あら、ずいぶん控えめなターンね。手札事故でも起こった?」
「へ。簡単に倒しちゃつまらないからな」
少女の煽りに、アフロは強気に応える。が、目付きは宙をさ迷っており、実際は手札がよくないだろうことはバレバレだった。
「それじゃあ、私のターンね」
と思いきや、アフロの瞳に獰猛な光が宿った。どうやら演技だったらしい。
「罠発動、おジャマトリオ! お前のフィールドにおジャマたちを出現させるぜ!」
おジャマトリオ
通常罠
相手フィールド上に「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)を
3体守備表示で特殊召喚する(生け贄召喚のための生け贄にはできない)。
「おジャマトークン」が破壊された時、
このトークンのコントローラーは1体につき300ポイントダメージを受ける。
少女がカードを手札に加えた瞬間、少女のフィールドに三体の気味が悪い生物が現れる。ギョロりとした瞳に、爬虫類のような顔を持つ黄、緑、黒のモンスターが少女のモンスターゾーンを占領する。きょとんとする少女を馬鹿にするように、三体とも腰を振っている。
「どうも〜!」
(おじゃまってだけあって、うざったいなぁ)
笑顔でおじゃまたちは挨拶するが、その顔はどうみても小馬鹿にしる嫌な笑みが張り付いていた。殴りたい、この笑顔。
「おじゃまトリオは——」
「私の場に三体のおじゃまトークンを出現させる、罠カードね。出現したおじゃまトークンは、破壊された時、一体につきコントローラーに300のダメージを与える」
アフロの言葉を遮るように少女が解説をして、アフロは解説を邪魔されたのが腹立たしいのか、鋭い目つきで少女を睨んだ。
「だが、いつまで余裕いられるかな? さらに、自業自得を発動。お前のフィールド上にいるモンスター、一体につき500のダメージ。三体分のダメージだ!」
カードの発動と同時に、少女の全身が赤く輝きLPが減った。
自業自得
通常罠
相手フィールド上に存在するモンスター1体につき、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。
少女
LP4000→2500
「そして、仕込みマシンガンを発動だぜ! 相手フィールドと手札のカードの枚数を合計した数に、200をかけた数値をダメージとして与える」
「私の手札とフィールドを足せば、九枚ね。くらうダメージは1800」
仕込みマシンガン
通常罠
(1):相手の手札・フィールドのカードの数×200ダメージを相手に与える。
突如現れたマシンガンが少女を襲った。銃弾が立て続けに放たれ、空の薬莢が激しく踊り狂う。だが、それはすぐに収まった。おじゃまトリオで相手のフィールド上にカードを強引に増やし、自業自得と仕込みマシンガンの威力を上げたのだ。デュエルを挑んでくるだけの、実力はあるらしい。銃弾の嵐が止むと、平然とそこに立つ少女がいた。LPを大幅に削られたとは言え、焦る様子も見受けられない。
「あら、大変。LPが700になったわ。まるで悪夢ね」
少女
LP2500→700
「だ、大丈夫ですか? LP大幅に削られて」
落ち着いた態度なので心配いらないとは思いつつも、一応水葵が声をかけると、少女は笑顔で手を振ってきた。
「焼き肉食べたいから、さっさと終わらせるわ。まずは、トークン収穫祭発動。フィールド上のトークンを全て破壊し、その数×800のライフを回復。三体だから、2400回復させてもらうわね」
「もう退場ー!?」
トークン収穫祭
通常魔法
フィールド上のトークンを全て破壊する。
破壊したトークンの数×800ライフポイントを回復する。
少女
LP700→3100
叫ぶおじゃまたちが纏めて破壊され、その後に現れた光の粒が少女に優しく降り注ぐ。
「だ、だがおじゃまトリオの効果で900のダメージを受ける!」
「そうね」
少女
LP3100→2200
LPを削られたとはいえ、ほんの少しだけ。かなり持ち直した少女を見て、水葵は安堵したように笑う。少女が焦っていなかったのも、初めから対策があったからだろう。
「手札抹殺(まっさつ)を発動。互いの手札を全て捨て、お互いに捨てた分だけドローするわ」
「へ、よほど手が悪いらしいな」
(そうとも限らないけどね)
アフロが笑うが、少女は反応を見せなかった。
手札抹殺で手札を入れ換えるのは、何も手札が悪いからに限ったことではない。実際のところ主な使用用途は、手札を墓地に送ること。遊戯王には、墓地に存在する時に効果を発揮するカードが幾つもある。少女はそれを狙っているのだろう。
「まずは、墓地に送ったグラファの効果。カードの効果で墓地に送られた時、相手のカードを破壊できるわ。二枚あるから、その効果で伏せモンスターと罠カードを破壊」
(って、よりによって暗黒界!?)
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.223 )
- 日時: 2014/12/09 14:09
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
暗黒界の龍神 グラファ
効果モンスター
星8/闇属性/悪魔族/攻2700/守1800
このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の
自分フィールド上に表側表示で存在する
「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、
墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、
相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、
さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。
確認したカードがモンスターだった場合、
そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
墓地から現れた禍々しい紫の光が、アフロのフィールドに伏せられたカードを次々に破壊していく。
まず破壊されたのは、マシュマロのような身体に円らな瞳を持つモンスター。次に消された伏せカードは罠。消される直前に発動時と同じように立ち上がり、消されたそれは筒のイラストが描かれていた。
「お、俺の布陣が……」
「マシュマロンに、魔法の筒(マジック・シリンダー)。ふむふむ。ずいぶん厳重に罠をしいていたのね」
愕然と場に崩れ落ちるアフロを見て、少女はほっとした表情を浮かべる。マシュマロンは攻撃されリバースした時、相手に1000のダメージを与える能力がある。さらに戦闘では破壊されない、非常に厄介なモンスターだ。——ただ暗黒界デッキは、カードを破壊する手段が多くあるので敵ではないだろうが。
もう一つの魔法の筒は、効果こそ強いがシンクロモンスター等で魔法・罠をガンガン破壊されるこの時代、あまり目にしないカードで水葵は驚く。また発動のしにくさだけではなく、相手モンスターを破壊出来ない点で使いにくい、と言うのもあるが。
「そのまま攻撃してたら、私の負けね」
少女が呟く。
「だ、だが俺のデッキには強力カードがあるんだぜ!次こそは、俺の勝ちだ!」
アフロは息巻くが、悪夢へのカウントダウンは着々と進んでいく。
「まだ私のターンは終わってないわよ? 続けて、暗黒界の尖兵 ベージの効果を処理。手札からカードの効果によって捨てられた時、このカードを特殊召喚できるわ。ベージ二体を特殊召喚!」
暗黒界の尖兵 ベージ
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1300
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、
このカードを墓地から特殊召喚する。
紫色の魔方陣が出現し、中から二体の白いモンスターが蘇る。これは墓地に置かれた暗黒界の軍勢が動き出す余興に過ぎない。
「さらに光の援軍を発動。デッキから、レベル4以下のライトロードと名が付くモンスターを手札に加え、デッキのカードを上から三枚送るわ」
光の援軍
通常魔法(制限カード)
自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送って発動できる。
デッキからレベル4以下の「ライトロード」と
名のついたモンスター1体を手札に加える。
少女のデッキは意外なことに、ライトロードの要素も含んでいるらしい。一度、D・パッドからデッキを取り出すと、少女はそこから一枚を引き抜いた。そして、デッキを再びセット。デッキが自動的にシャッフルされたのを確認し、少女はデッキから三枚のカードを纏めて引き、墓地に送る。機械が自動的にシャッフルするのにもびっくりだがそれより水葵が驚いたのは、少女が墓地に送った三枚のカード。ライトロード・パラディン・ジェイン、ライトロード・マジシャン・ライラ、ライトロード・モンク・エイリン。
(うそ、もう三体も墓地に行った?)
ライトロードの基本的な戦術は、墓地にライトロードと名の付くカードが四種類以上存在する時に出せる、『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』を以下に早く呼び出すかにある。四種類、と言う条件は簡単そうで非常に厳しい。ライトロードモンスターは、大抵はエンドフェイズに、デッキからカードを墓地に送る能力を持つ。が、罠や魔法が落ちたり、同じ種類のモンスターが落ちたりと中々上手くいかないもの。——それが図ったように三種類も墓地に行くなど、デッキを操作、所謂積み込みの疑惑が出てくる。が、デッキを機械がシャッフルしているを水葵ははっきりと目撃していたので違うと分かるが。
「そして手札から、ソーラー・エクスチェンジを発動。さっき加えたライコウを捨て、デッキから二枚ドローして、二枚捨てるわ」
(変なの入れてるなぁ……)
ソーラー・エクスチェンジ
通常魔法
手札から「ライトロード」と名のついたモンスター1体を捨てて発動できる。
デッキからカードを2枚ドローし、その後自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
次にデッキから墓地に送られたのは、ハネクリボーとクリボーを呼ぶ笛。ハネクリボーは戦闘で破壊された時、プレイヤーへのダメージをゼロにする効果を持つ。GXでは主人公の相棒の精霊として、主人公の危機を何度も救ってきた頼もしいカードだ。もう一枚のクリボーを呼ぶ笛は、名前の通りデッキからクリボーかハネクリボーを呼び出すか、手札に加えるカード。ライトロード・暗黒界のどちらとも相性がよいとは言えない、微妙なカードだ。
「ライトロードも入れてるんですか?」
「そう。仕上げに暗黒界の取引を発動。互いのプレイヤーはデッキからカードをドローし、その後一枚選んで捨てるわ」
暗黒界の取引
通常魔法
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
その後手札を1枚選んで捨てる。
「いつまで一人でやってやがる!」
焦れたアフロが叫ぶが、少女は優雅にほほ笑んだ。
「今度は、速攻魔法、手札断殺(てふだだんさつ)発動。互いのプレイヤーは、手札を二枚墓地に送り、その後二枚カードをドローする」
手札断殺
速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。
その後、それぞれ自分のデッキからカードを2枚ドローする。
少女のターンはまだ続く。再び墓地を肥やす行動に出た。少女は、わざと墓地に送るカードを、水葵にちらっと見せた。ライトロード・アサシン・ライデンとクリボー。軽くウインクした少女に、水葵は苦笑いを浮かべた。アフロ処刑の時間がもうすぐ。それをひしひしと感じ取っていた。
「ドローしたのは、進化する翼二枚。まあ、ハネクリちゃんはさっき墓地に行っちゃったし、意味はないけど」
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.224 )
- 日時: 2014/12/09 14:32
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
はあ、とわざとらしく少女が残念がるが、墓地に落ちたカードから、アフロの敗北は、ほぼ確定したと言ってよい。
それに気付かないらしいアフロはさっさとデュエルを進めろと怒鳴って来た。顔には青筋が立ち、イライラしているのが遠目でも分かる。その表情を見た少女は仕方なし、と言った感じに
「じゃあ、お望み通りにするわね。まずは、ベージ二体を手札に戻し、墓地よりグラファを蘇らせるわ」
墓地より蘇るのは、暗黒界最強のモンスター、グラファ。龍神とは言うものの、刺々しい見た目や頭に生えるネジ曲がった角は悪魔としか言い様がない。しかもそれが二体もフィールドに並ぶ光景は、圧巻とした言いようがない。
「いきなり上級モンスターが二体だとぉ!? インチキ効果もいい加減にしろ!」
「あ、まだよ。墓地のハネクリちゃんとクリちゃんを除外してカオス・ソルジャー開闢(かいびゃく)の使者を、墓地に四体以上ライトロードがいるから裁きの竜(ジャッジメント・ドラグーン)を二体それぞれ特殊召喚」
カオス・ソルジャー−開闢の使者ー
効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻3000/守2500
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ
ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。
1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃できる。
裁きの龍
効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2600
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の「ライトロード」と名のついたモンスターが
4種類以上の場合のみ特殊召喚できる。
自分のメインフェイズ時に、
1000ライフポイントを払って発動できる。
このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。
また、自分のエンドフェイズ毎に発動する。
自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。
さらに追い討ちをかけるように現れたのは、カオスモンスターの一体、開闢の使者とライトロードの切り札、裁きの龍。開闢の使者は、鎧に身を包んだ騎士と言った風体。裁きの龍は、巨大な白いドラゴンだ。ドラゴンと言っても、その表面を覆うのは鱗ではなく白い羽毛のようなもの。口には長いひげらしいものもあり、東洋の龍に近い。 五体の強力なモンスターが放つ威圧感は凄まじく、これと対峙してまともな神経でいられるデュエリストはそう多くない。
「うわぁ……」
「さ、最上級モンスターが五体とかふざけんな!」
絶句する水葵と、叫ぶことしか出来ないアフロ。この場で笑っているのは、モンスターの主である少女だけだ。水葵にはとんでもないモンスターたちを従える彼女が、化け物か何かのように見えた。
「めんどくさいから、一斉攻撃!」
主の命を受け、五体のモンスターたちは一斉にアフロへと襲いかかる。迫り来るモンスターを見たアフロは顔を真っ青にし、取引を持ちかける。
「よ、よせ! 俺のファイアー・ボールあげるから、連弾の魔術師やるから」
「倒してから、貰うわね」
可憐な笑顔で、少女は言い切った。五体のモンスターによる連続攻撃、累計一万越えのダメージを喰らったアフロの身体は何故か吹っ飛んだ。リーゼントの横まで飛ばされ、そのまま動かないので気絶したらしい。
アフロ
LP4000→0
(ソリットヴィジョンの体感システム……かな?)
ソリットヴィジョンにはモンスターを実体化させるだけでなく、デュエル中のダメージを身体で感じさせると言う謎のシステムが搭載されている。多くのダメージを受ければ今のアフロのように、身体が実際に吹き飛ぶ仕組みになっているらしい。水葵は、今のところダメージを受けるような感覚はないので怪しいところだが。
「あの。これ、ありがとうございました」
少女がアフロのD・パッドからデッキを抜き終わるのを見計らい、水葵は少女に近付いた。借りていたD・パッドとゲイザーを差し出すと、少女は両手で受け取り微笑んだ。
「お疲れ様。言った通り、弱かったでしょ?」
アフロのデッキを持った少女が、水葵の元に歩み寄る。労いの言葉を言われた水葵は、苦笑した。内心では、少女に突っ込みを入れていた。
(いや、あなたが強すぎるのよ!)
グラファと裁きの龍が二体に、カオス・ソルジャー。強力なモンスターで場を制圧し、容赦なくボコボコにしておいて言う台詞かと水葵は苦笑した。
アフロが弱い、と言うより少女が強すぎるだけだろう。元いた世界なら、そうそう拝めない奇跡のコンボを、僅か一ターンで作ったそのドロー力は侮れない。——いや、遊戯王世界の決闘者ならこれくらい朝飯前か。アニメのキャラは、水葵がいた世界ならまず使えないデッキを平然と回す。自分は、遊戯王の世界にいるのだと痛感させられる。
(あたし、やっぱり異世界トリップを……)
否定し続けた現実を、ようやく水葵は認めた。ショックだった。
目の前が暗くなり、急な孤独感に苛まれる。自分は一人ぼっちだ。ここには家族も、友人もいない。
「アンティルールだったし、きちんと通報しないと。……あ、もしもしセキュリティさんですか?」
俯き、舌を噛みしめる水葵の横でフィロソフィアはD・パッドの蔓を弄り、電話をかけていた。
「アンティルールを挑まれたので相手の決闘者を返り討ちにしました」
(通報の仕方が何かおかしいんですけど!?)
あれこれ悩もうとした水葵だったが、少女の通報で暗い気持ちはどこかに吹き飛んだ。
アニメの知識で、水葵はセキュリティは、警察であることは知っていた。——ただし、逃走する犯罪者相手に「奴をデュエルで拘束せよ!」なんてびっくり発言をする謎組織であるが。
そのセキュリティに、フィロソフィアが何故通報しているのか純粋に疑問だった。
「何でデュエルしただけなのに、通報を?」
「アンティルールは、れっきとした犯罪だもの。ほんとは関わっちゃいけないのよ。……関わった以上、きちんと通報するのは一市民の義務ね」
「あれ、でも今回アンティ・ルールを持ちかけてたのは……」
あら、と少女は優雅に微笑んだ。
「あれは正当防衛よ。デッキだって、きちんとセキュリティに渡すし問題ないわ」
(あれは正当防衛の域を越えてるし……)
これが遊戯王世界の常識か、と水葵は本日何回もついたため息を吐いた。
*
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.225 )
- 日時: 2014/12/09 14:38
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
セキュリティがやって来た後、二人は彼らにデュエルの詳細を聞かれた。
その受け答えは年上のフィロソフィアが全てやってくれたため、アンティ・ルールを受けたが「正当防衛」が認められお咎めなしとなった。ただ、危険な相手にデュエルを挑まれても無理に挑むなときつく説教を受けたが。
アフロとリーゼント、そして彼らのデッキを引き渡した後、フィロソフィアと水葵は帰路についていた。デュエルだけでかなりの時間がたったらしく、現在の時刻は九時半。街頭だけがぼんやりと道を照らす、住宅街を二人は歩いている。軽い足取りで歩く前をフィロソフィアに対し、水葵の足取りは重い。デスサイスとの決闘(どんぱち)から始まり、異世界トリップ、ストラクチャーデッキによるデュエルと苦難の連続だったので、それらが終わった解放感と疲労感ですっかりまいっているのだった。
「ちょっと疲れた顔してるわね」
「今日はいろいろと疲れました」
「そうねー。禁止カード相手だったし、疲れるわよね」
しばらく歩くと、フィロソフィアはあ、と声を上げた。
「あそこは、うちがやってるカードショップよ。ケローネって言うの」
フィロソフィアが指差す先には、コンビニに似た外観の建物がある。建物の入口には青眼の白龍や、他のモンスターと共に「カード屋、ケローネ」と描かれた看板があった。もう閉店時刻なのだろう。店の中は真っ暗だった。
「家はこっちよ」
フィロソフィアに連れられ、店の裏手に回ると一軒の住宅があった。赤い三角屋根に、白い外壁。元いた世界と変わらない一軒家だ。
門扉を潜り、フィロソフィアが鍵を開け、ドアを開けると一人の老人が待っていた。六十代前半程か。柔らかい笑みが似合う穏やかな顔つきをしている。目元はフィロソフィアに何となく似ていた。
その老人を見て、水葵は瞬きした。青い長袖のシャツに、青のズボン。格好は普通だ。だが、髪型がおかしい。三角形に切られた頭頂部から、モップの毛先に似た縮れ毛が垂れている。
(髪型がイカみたいね。さすが遊戯王……)
遊戯王アニメのキャラは、髪型が変わっているものが少なくない。例えば初代の主人公、遊戯はヒトデだとか紅葉のような髪型とよく言われる。
「ただいま、おじいちゃん」
「おや、ソフィお帰り。おおその子が電話で言っておった迷子かの?」
出迎えたイカ頭の老人は水葵を見るなり、声を上げた。
「水葵。この人は私のおじいちゃん、イデアよ」「宝塚水葵と言います」
自己紹介をし、水葵が軽く頭を下げるとイデアは軽く笑った。
「わしはイデア。……しかし、今日は大変だったようじゃの。家でゆっくり休んでいきなさい」
「ありがとうございます」
「さあ、上がって」
先に家の中へ入ったフィロソフィアに促され、水葵もおずおずと言った調子で玄関に足を踏み入れる。ローファーを脱ぎ、靴箱に入れると、
「疲れてるみたいだし、夕食できるまでここで休んでていいわよ」
と言い、水葵はリビングに案内された。フィロソフィアは荷物を置きに行く、と言って自分の部屋に、イデアもどこかへ行ってしまう。
疲れていた水葵は、にソファに近付くと倒れるように座り込んだ。
ふう、と長いため息を吐くとほんの少しだが、気分が楽になった。
異世界トリップ、と言う事実に愕然としていた水葵だが、速くも前に進もうとしていた。ぼうっとしていても、時は過ぎていくだけ。なら、前向きに帰る方法を探す方が早く帰れるはず。
デュエルに例えるなら、自分のフィールドにモンスターはなし。相手は、グラファ二体、裁きの龍二体、カオス・ソルジャーと言ったところか。普通の決闘者なら諦めたくなる気持ちは分かるが、遊戯王はたった一枚のカードから逆転するのは常。そのように決闘者なら何事も諦めてはならないと、水葵は心得ていた。無駄だとは分かっていても、鞄からスマホを取り出し連絡をとろうとする水葵。だが、スマホの電池は切れており画面は真っ暗。この街をさ迷う間にスマホを散々使っていたので、電池が切れてもおかしくはなかった。
(……先にコンビニ行けば良かった)
遊戯王関連の買い物で、軽く万札一枚と少々の金を使い込んだが、まだ財布ポイントは少々ある。ルビーに出会わなかったら自宅付近のコンビニにより、遊戯王のパックを大人買いしてコンビニ限定パックを貰う予定だった。先に充電器を買うべきだったと水葵は後悔した。
(……この世界で生きていくに当たり、一番優先すべきはやっぱり決闘かな)
この遊戯王の世界で生きていくのに一番必要なのは、決闘だろう。
世界の命運から、身近な喧嘩まで何でも決闘で決めてしまうこの世界で生き抜くには必須な要素であるのは間違いない。
幸いなことに、カードは持ち込む形になったのでデッキ作りに困ることはない。
「決闘で世界が滅んだりするような場所だから、決闘してれば帰る方法も見つかるはずよね」
遊戯王では異世界に行ったり時を越えるのも当たり前。いつになるかは分からないが、現実世界に戻る日が来れると水葵は前向きに考えることにしたのだった。
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.226 )
- 日時: 2014/12/09 14:46
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
その後、水葵はフィロソフィアの家で焼肉を食べた。
夕食を食べ終わり、水葵はデザートに出された林檎を食べていると、不意に皿を片付けていたイデアが呟いた。
「わしは水葵ちゃんがこの街に迷い込んだのは、『リサルダの一族』に記憶を弄られたからだと思うんじゃが」
カラン、と床にフォークが落ちる音がした。林檎を食べようとフォークを手に握っていた水葵だがイデアの発言で、手から力が抜けたのだ。不意にこちらをからかうような調子だった、テラの声が耳に蘇る。
——私はリサルダの一族の神官が一人、テラ。
テラは自分をリサルダの一族の神官だと言っていた。
イデアの言葉に、洗い物をしながら、フィロソフィアも同意する。
「実は、私もそう思ってたわ。水葵、気が付いたらこの街にいたって言ってたし、きっとリアル精神操作ね。あいつら、レアカードを奪った人間の記憶を弄るのはお約束だもの」
(何か知ってるみたい。カードを奪うって言うとグールズみたいなマフィアかな?)
フィロソフィアとイデアの会話から、リサルダの一族について何か知っているのは間違いない。レアカードを奪う、と言う表現で水葵の頭には『グールズ』が浮かんでいた。レアカードを奪い、捏造するマフィア。遊戯王の世界なら、グールズのような連中がいても何らおかしくない。
「家族と連絡が着かないところを見ると、外国から来たのかもしれないのう」
「ねえ、水葵は家はどこなの?」
「藤沢市です」
「……藤沢? どこの?」
嘘も思い付けず正直に答えれば、フィロソフィアとイデアは顔をしかめた。ここは異世界。藤沢市がなくても、当然だ。
「神奈川県の藤沢市です」
「そんな街、聞いたことないわよ」
「…………」
ここが間違いなく異世界だと、水葵は再び思い知らされる。返す言葉も見付からず、水葵は口を閉ざした。
しばらくフィロソフィアは水葵の様子を窺っていたが、やがて話を切り出してくる。
「……水葵。その記憶は、リサルダの一族に植え付けられたものなのよ。貴方、リサルダの一族とデュエルした?」
突拍子もない言葉に、水葵は言葉を失った。何を言えばよいかさっぱりだったが、リサルダの一族とデュエルしたのは間違いないので質問には答えた。首を縦に振ると、フィロソフィアは頷いた。
「なら、間違いないわ。あいつらはね、敗北者からカードを奪った後、人の記憶を弄るんだけど。消されるだけならマシだけど運が悪いと、記憶の一部が書き変わるの」
「変わる?」
「住んでいた街の風景、家族。みんな別の物になるのよ。でも、本人に自覚はない」
(なんか、すごい話になってきたけど。異世界から来たって言うよりはマシかな)
自分が記憶改竄されているのは、恐らくあり得ないと水葵は自信を持っていた。記憶にある買ったストラクチャーデッキと拾ったはずの宝玉獣が、鞄の中に入っているのがその証拠。記憶を改竄したのなら、この二つに関わる記憶は誤りと言うことになってしまう。相手の記憶を改竄し、気が付かれないようストラクチャーデッキ等を入れたことも可能性としてはあるが、レアカードを奪った証拠を消すだけなら、そこまで面倒なことはしないだろう。
それでも、反論するつもりはない。
フィロソフィアとイデアは記憶改竄から、存在しない街から来たと思い込んでいる。異世界から来た、と言うとんでも話をしないですむならそれがいい。異世界から来たと明かしても、信じてもらえるか怪しい。なら、勘違いを利用するまで。
「……そんな。じゃあ、あたしどうすれば」
ショックを受けた顔は演技だが、この言葉は本音だ。デュエルしていれば帰る方法も見つかると意気込む水葵だったが、誰とデュエルするかは思い付いていなかった。考えれば、衣食住はなし。デュエルはデュエルディスクなしでは出来ない。問題は山積みだった。
「なら、家にいればよいじゃろう」
「そうそう! それがいいわ!」
イデアの提案に、フィロソフィアが賛同する。
怪しさ満点の自分を家に住ませてくれようとする彼らの優しさに、水葵は感動した。しかし、居候すれば余計な負担をかけさせてしまう。さすがに即効ではいと答える気にもならず、少々控えめに出る。
「でもあたし、お金とか持ってないですし」
不安な顔つきの水葵を安心させるように、フィロソフィアは微笑んだ。
「おじいちゃんね、若い頃に色々やって儲けているから大丈夫よ」
「そうじゃ。例えば大会の優勝者に送られるレアカードや不良からアンティ・ルールで貰ったカードを、オークションで高く売ったり、本物そっくりのパラレル加工のカードを高……あ、ちと喋りすぎたかの」
べらべらと得意気に話すイデアだったが、途中で言葉を濁した。きょとんとする水葵を見て、事態を悟ったらしい。
困ったように作り笑いを浮かべるイデアにフィロソフィアが手助けを入れる。
「おじいちゃんったら、大げさすぎよー。まあ、時効だから大丈夫でしょ」
(……うん。カードに嫌われそう)
細かいことを聞いても仕方ないので、水葵はそれ以上追及しなかった。
話題を変えるようにイデアは咳払いし、話を続ける。
「まあ、とにかく子供をもう一人養う余裕はあるからのう。心配せんでも大丈夫じゃ。落ち着くまで、ここで暮らしなさい」
「はい、ありがとうございます。これから、よろしくお願いします」
歓迎の意を示し、笑顔を浮かべる二人に水葵は深々と頭を下げた。衣食住の確保が出来てほっとしていると、フィロソフィアが水葵の腕を掴んだ。
「じゃあね、ちょっとやって欲しいことがあるの」
「何か?」
「お姉さんとデュエルをしましょう?」
「これ、ソフィ。抜け駆けは許さん。ワシが先に青眼の白龍を拝むのじゃ!」
フィロソフィアからデュエルの誘いを、受けた直後。イデアが声を荒くして口を挟んでくる。それを見たフィロソフィアは、仕方ないと言った感じに水葵から離れた。
「もう、おじいちゃんったら。珍しいカードのことになるとすぐこうなんだから……」
「デュエル、ですか?」
「うむ。聞けば、水葵ちゃんは青眼の白龍を使うそうじゃな?」
「はい」
期待に満ちた瞳で問われ水葵は不思議に思いながらも頷く。
「青眼の白龍は、実物は中々手に入らないからのう。是非とも見たいのじゃ」
(そういえば、青眼って世界に四枚しかないんだっけ?)
青眼の白龍。
原作では、あまりにも強すぎるためにたった四枚で生産がストップしたと言う逸話を持つ。まあ、シンクロが出てきた今からすれば青眼と同じ攻撃力で強いカードなどざらなので、この設定は生かされているのやら。
気になった水葵は、探りを入れることにした。
「青眼ってそんなに珍しいんですか?」
自然に聞けば、フィロソフィアの顔が呆れた物になる。そんなことも知らないのか、と言う呆れだ。
「そんなって……水葵、青眼が一枚いくらで取引されているのか知ってるの?」
「10円〜100円くらい?」
呆れていたフィロソフィアの顔が、苦笑に変わった。吹き出しかかるのを両手で押さえ、笑いを必死に堪えている。
何も考えずに答え、水葵は後悔した。元の世界なら、妥当な値段だがこの世界では非常識な値段なようだ。
「…………水葵、伝説の青眼をハングリー・バーガーやヤリザと同列に語るつもり?」
「え」
「うむ、これもリサルダの一族のせいじゃ。カードの価値観も変えられてしまったのじゃろう」
「思うより重症ね……精神操作じゃなくて、ブレイン・コントロールでも使われたのかしら」
カードの価値観がおかしいことも、リサルダの一族に記憶を改竄されたせいと言うことでフィロソフィアとイデアは納得する。
「青眼一枚だと、そうね。リゾートマンションや一戸建てが一つ買えるわ」
「世界に四枚しかないって……」
「ああ、それは青眼の白龍、初期モデルの話ね。しばらくは生産しなかったけど、ブラマジ流通してるなら、青眼の白龍も流通させろ!デュエルだって、青眼の白龍欲しい人たちが、海馬コーポレーションやインダストリアル・イリュージョンに集団デュエルを挑んだの」
(……意見じゃなくて?)
意見が通らないならデュエル。さすが遊戯王。
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