二次創作小説(紙ほか)
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- 遊戯王 七つの輝きと光の守り手
- 日時: 2015/03/20 00:00
- 名前: 緋兎雫 ◆cW98CwF.kQ (ID: 0ZLVN9hQ)
!
リアルの事情でロックします。
追記
いきなりロックしてすみません。オリキャラも募集していたのに、このような形になって頭を下げるしかありません。
リアルで色々あり、現在名前を変えています。
調子がよすぎるとは思いますが、お知らせを。
何やかんや言って、遊戯王からは離れられず、カキコで新しい遊戯王作品を書いています。諸事情でタイトルは書けませんが御興味のある方は、お探し下さい。版は映像版の方です。
最後に小説をご愛読頂いていた皆様、本当にありがとうございました。
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.217 )
- 日時: 2014/12/09 11:54
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
「こんな時間に女の子が一人。これは、リアルリビングデッドの呼び声!?」
「は?」
少女が驚いた声を上げるのと水葵が呆けた声を発するのは、ほとんど同じタイミングだった。ぽかんとする水葵に向かい、
「それとも誰かを待ち続けながら、無念の死を遂げたリアル骨犬(スカルドック)マロンみたいな何か?」
少女が何を言いたいのかいまいち、よく分からない水葵。呆れて泣く気すら失せた。
少女の発言の意図はいまいち分からないが、カードの効果やモンスターから考えるにゾンビのような扱いをされていることだけは分かる。
「……あの。あたし、ゾンビじゃありませんよ?」
むくれた水葵が抗議すると、少女はうんうん頷く。
「夜に女の子が一人でいる理由。それをフィロソフィアさんは考えてみたけど分からなかったわ。マロンのような盛大なストーリーを思い付いたけど、違うのね」
(ただの思い付きですか……)
全身から力が抜ける感覚を感じながら、内心で水葵が呆れ返っていると少女は傘を畳み、中に入ってくる。
「隣、いいかしら?」
「……どうぞ」
水葵はパンの袋を鞄に入れ、少し横に移動した。空いたスペースに少女が立つ。
「あなた、どうして泣いているのかしら?」
「…………」
少女の問いに水葵は、口を結んだ。
異世界トリップしたから、などと非日常的なことを言えるわけもないからだ。言い訳が思い付かず、答えられなかった。黙っている水葵を見て、少女はすぐに質問を変える。
「ご両親は?」
「連絡がつかないんです。いくら電話しても、この番号は繋がっていませんって」
「家にはかけたの?」
「それも現在は使われていないって……昨日までは繋がっていたのに」
「たった一日で家族全員と連絡が取れなくなる……?」
ありのままを伝えたが、少女は困った顔つきをしていた。当然だ。これだけで水葵の事情を察することが出来たのなら、それこそ超能力者だろう。最もこの遊戯王世界は、超能力者、未来人、サイボーグ等が普通にいる世界なのでこの少女が普通の人間である可能性はなくもないが。
「ここ、知らない街だしどうすればいいか分からなくて……」
「え? ここがどこかわからないの?」
頷くと、少女はますます困惑した表情になる。しばし悩んだ末に、鞄からピンクのD・ゲイザーを取り出すと、何故か着用した。眼鏡のつるにあたる部分をいじり始め、
「あ、もしもしおじいちゃん?」
誰かと連絡を取り始める。水葵は知らないがD・ゲイザーには通話機能もあるのだ。
「ちょっと家に女の子連れて帰ってもいいかしら? 訳ありで困ってるのよ」
その後少女はじゃあよろしくね、と言っている辺り連れて帰ることを許可されたらしい。俯いている水葵に笑顔を向けた。
「良かったら家に来ない?」
「え……」
いつの間にか雨は止んだ。気が付くと周りに人々の姿がなかった。
「あなた、泊まる場所はないのよね?」
「え? ええ……」
「今日はとりあえず家に来た方がいいわ。外は危険だもの」
「で、でも……」
空腹のお腹が派手に鳴り、水葵は俯いた。少女はクスリと笑い、
「お腹のLP(ライフ)はゼロみたいね。そんな様子じゃ何も食べてないでしょ。家に来なさい」
「はい」
帰る当てもない以上、少女の家に行くしかなさそうだ。水葵は少女に押し切られる形で、家に行くことに同意した。
「そういえば、あなたD・パッドとD・ゲイザーは持ってる?」
「持っていません」
はっきりと答えると少女は幽霊でも見たかのように目を丸くした。信じられない、と呟いたが水葵には何のことかさっぱり分からなかった。だが、その意味を水葵はすぐに知ることになる。
「よう、姉ちゃんたち」
背後から声をかけられた水葵と少女はゆっくりと振り向き、水葵は思わず噴き出した。
そこにいたのは、不良ですと周りに公言するような恰好をした少年たちだった。お揃いの黒い学ランに、一人は金髪のリーゼント、もう一人は黒のアフロと言うあまりにも典型的な「不良」。ジトリとした目つきが余計にガラの悪い印象を与えてくる。
「D・パッドを持たずにお出かけとは、大した度胸じゃねぇか」
「女子供は、こういう犯罪者(やつら)に狙われやすいの。自衛の手段としてデュエル・ディスクを持つのは当然のことよ」
手で水葵を制しながら、少女は不良たちの前に出る。腕のD・パッドが展開し、デュエル・ディスクの形となった。
「私たち急いでるの。通してくれないかしら?」
不良に臆することなく、向かっていく少女。相手を睨みつけ、不良との間に緊張が高まる。喧嘩が始まりそうな勢いの中、不良たちもまたD・パッドを展開させ、少女と向き合うと言う謎の流れになっていた。
(こういう時こそ、誰かに助けを……)
110番にかけても警察に繋がらない以上、誰かに助けを求めるしかない。水葵は辺りを見渡すが、人々は遠巻きに自分たちを眺めているだけで助けてくれる気配はなかった。
「ははは。ダメだな! この道は、俺たちの道だ。通りたかったら、決闘するか有り金全部よこしな!」
(で、決闘ですか!?)
リーゼントの不良が挑発してくるのを見て、水葵は口をあんぐりと開ける。この緊張した空気の中で決闘と言う単語を聞くとは思わなかった。たかだかカードゲームで、通すかどうかを決めるなど何を考えているのか。
「いいわよ。そんなに言うなら、決闘しましょ?」
不良の要求通り、少女は決闘を受けた。水葵はますます訳が分からなくなる。
(…………はい?)
たかがカードゲームと、笑わずに受ける少女がふざけた様子は見受けられない。まるでそれが当然であるかのような。
「あなたたちが勝ったら、私'たち'のカードを全部挙げるわ。逆にこっちが勝ったら、あなたたちのカードを全部渡して。これで文句ないでしょ?」
「へ! 取り消せって言っても遅いからな」
不良たちが息巻く中、水葵は青ざめていた。
「あのあたしも戦うんですか?」
水葵に指摘され、少女ははっとした顔つきになる。どうやら、勢いで水葵を巻き込んだらしい。しかし、時すでに遅し。不良たちは取り消しを認めない発言をしているので、水葵は自分が戦うしかないことを覚悟していた。
「あ、つい勢いで……ごめんなさい。あなた、デッキは?」
「ストラクチャー・デッキなら……」
控えめに答えると、不良たちが野次を飛ばしてきた。
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.218 )
- 日時: 2014/12/09 12:02
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
「ダセエ名前だな! 俺の『死の最強デッキ』よりセンスねえな」
(それこそまんまじゃないの!)
自分のデッキ名を堂々と教える不良に、水葵は呆れて頭を抱える。現実なら厨二扱い間違いなしの恥ずかしいデッキ名だ。大人になったら、このアフロは自分の過去を激しく悔やむに違いない。水葵は未来で嘆くアフロを想像しながら、憐れむまなざしを送る。ストラクチャー・デッキを使っても、勝てそうな気がしてきた。
「自分のデッキに、随分と変わった名前を付けるのね。でも、まあ。そういう横文字を付けたくなる年頃よねー」
さらに水葵の頭を悩ませる発言をする少女。話が噛み合っていない。このままではいけないと思った水葵は、抗議をする。
「あたしが付けた訳じゃなくて……」
「まあ、デッキの名前があれなのは仕方ないとして。あなた、決闘の腕はどれくらい?」
「どうと言われても」
強引に話を進められ、水葵は不満たっぷりに答えた。
「じゃあ、決闘のルールは分かる?」
「それは大丈夫です」
笑顔で少女は、
「なら、大丈夫ね。アイツらルール分かってれば倒せるレベルだから」
さらっと不良たちを馬鹿にする。当然不良たちは怒りの声を発し、鋭い目付きで水葵と少女を睨む。水葵は少し怯え後ずさるが、少女は顔色を変えない。鞄からオレンジ色のD・パッドとD・ゲイザーを取り出すと、水葵に押し付ける。
「はい。私のD・パッドとD・ゲイザー予備の貸すから、これで戦ってね」
「あ、ありがとうございます」
借りたD・パッドとD・ゲイザーを着用し、水葵は不良たちと対峙する。
少女の挑発に乗った不良たちは、決闘をする気満々のようだ。黒いD・パッドを、速くも展開させていた。
「随分と嘗めてくれるじゃねえか。俺は、決闘者に百人勝ちした伝説の男だぞ?」
(事実だとしても小学生に百人勝った、とかだろうな)
リーゼントの不良が脅すように言うが、決闘者と曖昧なのは非常に怪しいと水葵は感じていた。幼稚園児や小学生もデュエルをやっていれば、立派な決闘者である。彼らを百人倒したのと、プロ決闘者を百人倒したのでは重みは全然違う。
自分から強い、と言われても胡散臭いので信じる気にならない。
「そして俺は、決闘者五十人を倒した男だ」
この不良はリーゼントが兄貴分、アフロが弟子と言う立場にいるらしい。
「ださい名乗りね」
はあ、と少女が呆れを含んだため息をつくとリーゼントはビシッと少女を指差す。
「おい、そっちの銀髪。お前は『百人勝ち』の俺が直々に相手をしてやるぜ」
「ええ、構わないわよ」
少女はリーゼントの前に立った。すると、アフロが水葵の前まで歩いてきた。
「なら俺は、そっちの茶髪だ。けけ、大したことなさそうだなぁ」
(さいですか……)
決闘の腕によほど自信があるのか、アフロは自信に満ちた笑顔を浮かべている。先程デスサイスと戦ったデスサイスに比べると、覇気もなくあまり強いように思えない。
意気揚々とD・ゲイザーを着用する男に対し、水葵はめんどくさそうに見につけた。
「あなた、軽く倒してあげて」
「はい」
振り向いた少女に激励され、水葵は頷く。
その間に辺りが電子的な空間に塗り替えられ、無機質な女性の声がARヴィジョンのリンク完了を告げた。そしてアフロと水葵、互いのデッキが自動的にシャッフルされる。それが終わると、アフロが手札を五枚引いたので水葵も真似をした。
「決闘!」
二人の声が重なった。
デュエル・ディスクのランプが点灯したのは、水葵。
「あたしの先攻です。ドロー」
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.219 )
- 日時: 2014/12/09 12:52
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
デュエル・ディスクのランプが点灯したのは、水葵。
「あたしの先攻です。ドロー」
今回の手札は、前回に比べると遥かにマシなものになっている。これなら行けるかもしれない。
「青き眼の乙女を召喚」
フィールドに降りたったのは、長い銀髪の女性。前で戦う少女も銀髪だが青き眼の乙女のそれは、青みが強い。光の加減によっては水色にも思える。どこかの民族衣装のような独特なデザインの服を見にまとっていた。
青き眼の乙女
チューナー(効果モンスター)
☆1/光属性/魔法使い族
攻撃力 0/守備力 0
このカードが攻撃対象に選択された時に発動できる。
その攻撃を無効にし、このカードの表示形式を変更する。
その後、自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚できる。
また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが
カードの効果の対象になった時に発動できる。
自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚する。
「青き眼の乙女」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
「攻撃力0のモンスターを攻撃表示だぁ? バカじゃねーの、マジウケル!」
(……まさか、青き眼の乙女の効果を知らないとか? そんなわけないよね)
不良はおかしくてたまらないのか、腹を抱えて爆笑している。
攻撃力ゼロのモンスターを攻撃表示にするのは、プレイミスだと考えているかもしれない。
が、青き眼の乙女には攻撃対象にされた時、攻撃を無効にし青眼の白龍を呼び出せるとんでもない能力があるのだ。ちなみに罠や魔法の対象にされても同じことができる。それを利用するためわざと攻撃表示にしているが、カードの効果は有名であるためこの意図は相手も分かっているはずだ。そう。アフロの笑いは演技だと水葵は油断しない。
「さらにカードを二枚セットし、ターンエンド」
カードをD・パッドの穴にセットすると、裏返ったカードがフィールドに二枚現れる。相変わらずカードが実体化するのには慣れないので、変な感じがする。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを見たアフロは、高笑いする。
「最高の手札だぜ。もう勝ったも同然だ」
(……何のデッキだろ?)
対戦相手のデッキは、使用カードを見ないことには分からない。その緊張感が決闘の醍醐味でもあるのだが。
「まずは連弾の魔術師を召喚するぜ!」
光が弾け、鎧のような衣装に身を包み、両手に色の違う球体がはめられた杖を持つ魔術師が出てきた。色艶と言い、映像とは思えないと水葵は感心しかかったが、意識を決闘に集中させる。
連弾の魔術師
効果モンスター
☆4/闇属性/魔法使い族
攻撃力 1600
守備力 1200
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分が通常魔法を発動する度に、
相手ライフに400ポイントダメージを与える。
(え、まさか……アフロのデッキは)
連弾の魔術師を使うデッキは、どう考えてもあのデッキしかない。LP4000の世界においては、最も質が悪いであろうあれ。
「さらに手札より、悪夢の拷問部屋を二枚発動! そして魔法『ファイヤー・ボール』!」
悪夢の拷問部屋
永続魔法
相手ライフに戦闘ダメージ以外のダメージを与える度に、
相手ライフに300ポイントダメージを与える。
「悪夢の拷問部屋」の効果では、このカードの効果は適用されない
ファイヤー・ボール
通常魔法
相手ライフに500ポイントダメージを与える。
水葵の予想は当たった。このデッキは、バーン。しかも、悪夢の拷問部屋二枚を引っ提げる最悪コンボが一ターン目で完成している。状況は最悪としか言いようがない。
遊戯王は、基本的に罠や魔法を駆使し、モンスター同士で殴りあうのものだ。しかし、中には例外と呼べるものが幾つかある。例えばパーツを揃えることでデュエルに勝利するエクゾディア、発動後20ターン過ぎれば勝利が確定する終焉のカウントダウン。
——そしてLPにダメージを与え、ゼロにし、勝利するのを目的とするバーン。遊戯王はLPをゼロにしたものが勝者となるのを逆手に取り、カードの効果で地道にLPを削る。勿論水葵の世界にも存在していたが、それ程恐ろしい存在ではなかった。バーン系のカードだけで、8000ものLPを削るのは至難の技だからだ。またバーン系の魔法・罠は伏せてもすぐに破壊されるため、使えないことも多い。
(LP4000でバーンデッキ! ガチデッキよりも強いじゃないの!)
しかし、LP4000となると話が違ってくる。バーン系のカードには、LPに1000近くダメージを与える物が幾つか存在しており、もしそれらが一ターン目で手札に揃えば4000のダメージを与えることなど容易い。しかもバーン系を対策出来るカードは限られる。
アニメではバーンは蛇蝎のごとく嫌われていて疑問だったが、水葵はその理由を身を持って体験していた。手軽に4000近くのダメージを与えられ、対策カードも少ない。苦労して作りあげた自分のデッキが、誰でも簡単に使えるデッキに負けたらどう思うか。悔しい。嫌われるに決まっている。
「ファイヤー・ボールの効果で、お前にLPに500のダメージ。さらに、悪夢の拷問部屋によりダメージは600追加、さらにさらに連弾の魔術師の効果で、400追加されるぜ! 合計1500のダメージをくらいやがれ! アフロ・ファイヤーっ!」
「っつ……」
カードの強化により、数倍の大きさに膨らんだファイアー・ボールが水葵を焼き尽くす。映像なので害はないが、巨大な火の玉が目の前にやってきたときはさすがに水葵は目を閉じていた。
水葵
LP4000→2500
LPが大幅に削られる様を黙って見ることしかできないのが歯がゆい。 普段はダメージ500程度と嘲笑っていたこのカードにここまで苦しめられることになるとは。LPが元の世界の半分と言うことはダメージも二倍。
このデッキにはバーン対策のカードは投入されておらず、止めることはできないのが悔しくてたまらない。
「へへ、見たか! これが禁止カード『ファイアー・ボール』の力だ!」
得意気に言い放つアフロの言葉に水葵は引っ掛かりを覚える。ファイアー・ボールは禁止カード。つまり決闘で使うのは、御法度。
「何で、禁止カードを使うんですか」
「俺たちは自分のD・パッドを予め改造し、禁止・制限の規定を書き換えたのさ。お前のデュエル・ディスクは、規定通り。大したカード使えないよなぁ?」
「ずるいですよ」
アフロは自分勝手なルール、所謂俺ルールで決闘を行っている。デスサイスの時もそうだが、抗議したくなる。だが男は反省するどころか開き直っていた。
「何とでも言え! 審判がいない今、俺がルールだ!」
「……決闘者失格よ」
ぼそ、と呟かれた水葵の悪態に男は怒鳴る。
「ごちゃごちゃうるせえ! 続けて——」
(どうしよう! またファイアー・ボールが来たり、火炎地獄や昼夜の大火事が来たら対処のしようがない!)
男の手札はまだ後二枚残っている。それらがファイアー・ボールやそれ以上にダメージを与えるカード、昼夜の大火事等が来ていたら対処のしようがない。手札事故を起こしていてくれ、と思わず水葵は神頼みをした。
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.220 )
- 日時: 2014/12/09 13:03
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
「俺は『火の粉』を発動! 悪夢と連弾の効果を加え、LPに1200のダメージだ! 火の粉による直接攻撃だ!」
(は? 火の粉?)
バーン系のカードでも最弱のカードとネタにされる名が出てきて、水葵は耳を疑った。
火の粉
通常魔法
相手ライフに200ポイントダメージを与える。
「けけ、お前のLPを焼ききってやる! 二枚目の火の粉! さらに悪夢と連弾の効果を加え、もう一度1200のダメージ!」
水葵
LP2500→100
ぱちぱち、と焚き木が燃えるような音が辺りに響き水葵のLPを100まで激減させる。強い、といえば強いが水葵の残り少ないLPを削り切れなかったのは不幸中の幸い。
「あれ、今ので俺がじゃねえ。運がいいやつめ。LPを残しやがったか」
「あの、一言いいですか?」
助かったことに安堵した水葵は気になっていたことを男にぶつける。
「サレンダーか?」
「いえ。こういうデッキは、普通『デス・メテオ』や『火炎地獄』使いますよね?」
まずこの場に降りたのは沈黙。聞かれたくないことを聞かれたのか、男の顔は苦いものになっていた。普通バーンのデッキは与えるダメージを優先するため、火の粉など弱いカードはデッキに入れないはず。答えが出ないのか俯き、ややあって何か思いついたのか勢いよく顔を上げる。
「…………あ、あんな高いカード……じゃねえ。へ、そう簡単に出しちゃつまらねえからな。デッキの底に沈めておいたのさ」
多分デッキから引けなかったであろうことを窺わせるアフロの言葉に、水葵はあえて突っ込みを入れなかった。
「デス・メテオや火炎地獄を一般市民が使えるはずがないわ。あれ、禁止カードだから数百万はするもの」
そこへピンクのD・ゲイザーを付けたままの少女が口を挟んできたので、水葵は驚く。いつの間にか少女がデッキを片手に、水葵とアフロの決闘を見物していた。
「あれ、もう終わったんですか?」
よほど決闘の腕がいいのか、対して時間をかけずに少女は勝利したらしい。少女のD・パッドにデッキは入ったままなので、手にしているデッキはアンティ・ルールで手に入れたリーゼントのものだろう。
「うーん。よく分からないけど、リーゼントの方がサレンダーしてきたのよ」
「あ、兄貴!?」
アフロは少し離れた場所で、真っ青な顔で地面に横たわるリーゼントに駆け寄った。すると、リーゼントは首だけを動かし、わなわなと震えながら、
「ぐら……か、敵わねえ」
「あ、兄貴ー!」
それだけ言い、リーゼントは気絶した。精神的なLPもゼロになったようだ。アフロはしばし兄貴を弔うように俯いていたが、しばらくすると茶髪を倒して兄貴の敵討ちをとってやるぜ、と息巻いて戻ってきた。
(よく分からないけど、ワンキルされたんだ。大変)
アフロの置かれた状況を想像した水葵は、内心哀れに思ったが、口には出さなかった。
「茶髪、てめえを倒して兄貴の敵討ちをしてやるぜ!」
「それ逆恨みじゃないですか」
「それにしても、バーンのカードを見ていたら焼き肉が食べたくなってきたわ。今晩は焼き肉にするから、必ず勝ってね」
「は、はあ……」
マイペースな少女の発言に水葵は、適当に頷くことしか出来ない。
「てめえらのんきに夕飯の話をしている場合か! 自分の置かれた状況を見ろ! LPはたった100。いるのは攻撃表示の雑魚だけ。俺が攻撃すれば、お前は終わりだぞ?」
(……青き眼の乙女の効果を本当に知らないみたい)
どうやら、アフロは青き眼の乙女の効果を知らない。なら大人しく黙っていよう。カード効果を尋ねない、向こうが悪いのだから。
尚、少女は青き眼の乙女の効果を知っているのか、ニヤニヤしながら決闘の行方を見守る。
「連弾の魔術師で、青き眼の乙女を攻撃!」
「ここで、青き眼の乙女の効果を発動します」
「こ、効果だとぉ!?」
仰天するアフロに対し、水葵は淡々と決闘を進める。
「その効果で、連弾の魔術師の攻撃を無効にし、青き眼の乙女を守備表示に変更。さらに、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)をデッキより特殊召喚!」
蒼き眼の乙女が跪くのと同時に突如大空から一筋の光が雷のように落ちる。大地に派手な音を轟かせる。それは力強い龍の鳴き声。やがて光が収まるとそこには、青眼の白龍が登場していた。恐れをなすように、連弾の魔術師は慌てて自分のフィールドに戻っていく。焦る連弾の魔術師は、何だか可愛らしい。モンスターの表情まで再現するとは、実によくできた技術だと水葵は思った。
青眼の白龍
通常モンスター
☆8/光属性/ドラゴン族
攻撃力 3000/守備力 2500
高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。
どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない
「青眼の白龍……実物はやっぱりすごいわね」
「ぶ、青眼の白龍……す、すげえ……伝説のデュエルモンスター」
感極まった様子で青眼の白龍を見る二人に対し、
(やっぱり、青眼の白龍はふつくしいなぁ。でもあの二人、なんで感動するかな? 千円とちょっとで買えるのに)
青眼の白龍の美しさを再現する技術に感動こそするが、二人が感極まる様子が分からない水葵。随分と対照的な反応をしている。
「雑魚には、勿体なさすぎるカードだな。俺がお前の代わりに上手く使ってやるぜ。所詮、お前のLPは、燃えかす程度。青眼が俺の物になるのは、すぐだな」
自分が勝ったと思い込む男だが、幾つか勘違いをしている。まず青き眼の乙女の効果。そして、手札を使い切ると言う重大なミスだ。
バーン系のカードには、手札誘発のカードが投入されていることが多く、水葵も初めは少し警戒していた。しかし、勝てると言う慢心からか手札を使いきったのでその心配はなくなった。
(相手の手札はゼロ。これで少しだけ安心できたかも)
「命拾いしたようだが、次のターン、俺がお前のLPにダメージを与えるカードを引けば俺の勝ちだ! ターンエンド!」
アフロの言葉は事実だ。彼にターンを回せば、勝ちはない。勝敗を決するのは、このターンに間違いないだろう。
(このターンでワンキルするしかないわね)
こちらには、攻撃力3000を誇る青眼の白龍がいる。これを利用すれば、LPを削りきるのも容易なはずだ。
- Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.221 )
- 日時: 2014/12/09 15:44
- 名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)
「ば、バカな……」
自分の敗北が信じられないのだろう。アフロは信じられない、と言った表情でその場に固まる。だがすぐに怒りで顔を赤く染め、拳を振り上げながら水葵の元へ走ってくる。デュエルで上手く行かないので、実力行使に出たようだ。
「テメエの青眼の白龍をよこせえぇ!」
アフロに殴られる直前、水葵はとっさにD・パッドを掲げる。それにより、アフロの拳はD・パッドが受け止める。しかも、アフロの拳が当たったのはデュエル・ディスクの角。ほぼ同時に水葵は腕に鈍い衝撃を感じ、アフロは痛さのあまり絶叫しながら。水葵から遠ざかっていった。
改めて、水葵はD・パッドを見つめた。アフロの拳を受け、それなりの振動があったにも関わらずカードは一枚も落ちていない。のりか何かで張り付けたように、しっかりとD・パッドにくっついていた。
(本当。これ、どうなってるのかな)
不思議に思いながら視線をずらすと、そこでは何故か少女とアフロが対峙していた。少女は顔はにっこり、だが凄みを与える笑みを張り付け、アフロに手を差し出す。蛇に睨まれたカエルのように、アフロは固まったまま動かない。先ほどまでの威勢は消え、びくびくする情けない姿をさらしている。
「約束を忘れたの? 負けたんだから、あなたのデッキをあの子に渡しなさい」
「て、てめえは関係ないだろうが! 引っ込みやがれ、銀髪!」
威勢だけはいいアフロに対し、少女は呆れたようにため息をつき再びD・パッドを展開させた。
「あなたね、暴力に訴えて女の子を殴ろうなんて最悪。そんなに通りたいなら、私と決闘しなさい」
「へ、兄貴の敵だ!」
「あなたには、凶悪デッキでいいわね」
(デュエルですむんだ。さすが遊戯王と言うか、なんと言うか)
少女の誘いに応じたアフロも、D・パッドをデュエル・ディスクの形態にする。
普通なら殴りあいの喧嘩に発展しそうだが、デュエルで済ませられるのはさすが遊戯王の世界、と水葵は思う。 どういう理屈かは知らないがこの世界は、喧嘩だろうと犯罪だろうとデュエルに勝った方が正しいと言うことになる。
それが目の前で堂々と繰り広げられているのを、水葵は幽霊を見るような瞳で見ていた。一方、二人はそれが自然であるようにデュエルを始めていた。
D・パッドが先攻を示したのは、アフロだった。
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