二次創作小説(紙ほか)

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遊戯王 七つの輝きと光の守り手
日時: 2015/03/20 00:00
名前: 緋兎雫 ◆cW98CwF.kQ (ID: 0ZLVN9hQ)


リアルの事情でロックします。

追記
いきなりロックしてすみません。オリキャラも募集していたのに、このような形になって頭を下げるしかありません。
リアルで色々あり、現在名前を変えています。
調子がよすぎるとは思いますが、お知らせを。
何やかんや言って、遊戯王からは離れられず、カキコで新しい遊戯王作品を書いています。諸事情でタイトルは書けませんが御興味のある方は、お探し下さい。版は映像版の方です。
最後に小説をご愛読頂いていた皆様、本当にありがとうございました。


Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守 ( No.256 )
日時: 2014/12/24 22:29
名前: ひとしずく (ID: uT5MQLCg)

 目が覚めた水葵は、枕元にあったクリボーの形をした目覚まし時計を手繰り寄せる。
 時刻は、朝の六時前。窓の向こうでは太陽がオセロシティのビル街を煌々と照らしているのが見えた。

「…………」

 いつもなら口煩い母親が叩き起こしに来る時間だが、その母親は来ない。いつもならうるさい、と嫌に感じていたのにその声が聞けないのがひどく寂しくてたまらない。

「……あたし、帰るんだから」

 俯いた水葵の瞳から落ちた数粒の涙が、枕を濡らす。
 両親や兄は何をしているのだろう。きっと心配してる。早く、帰りたい。堰を切ったように溢れる思いのままに、水葵はただただ泣き続けた。

*
 だが、いくら嘆いても帰れる訳ではない。寂しさを心の奥にしまいこみ、日常生活を送らねばならない。

 今日、水葵は営業前の「ケローネ」に来ていた。
 リサルダの一族との戦いに備え、名目上は編入試験のためにデッキを強化するためだ。
 イデアが編入試験に向けて小遣いを少々くれたので、何とかカードを購入出来ることになった。

 遊戯王世界のカード屋は、元の世界と大して変わらない。
 壁にはデュエルモンスターズが描かれたパックがいくつもあり、カードが入ったショーケースがずらりと並ぶ。店の奥にはデュエルスペースとして椅子と机まで完備されている。
 唯一元の世界と違うところがあるとすれば。

(見事に遊戯王じゃなかった、デュエルモンスターズのカードしかない)

 ショーケースや棚にあるカードは、遊戯王——こちらではデュエルモンスターズと呼ぶのカードだけ。
 元の世界なら確実に見かけた他のカードゲームは、棚から駆逐されていた。

「イデアさん、ここにデュエルモンスターズ以外のカードゲームはないんですか?」

 カウンターに座り、開店に向けて作業をしていたイデアは作業を止め、顔を上げる。

「他のカードゲームと言えば、トランプやUNOくらいじゃがここには置いとらん。ここは、デュエルモンスターズのカード屋じゃからのう」
「……そうですか」

 今朝、フィロソフィアに似たような質問をしたが返ってきた答えは同じ。他のカードゲームは、ないと言うか存在自体が抹消されていた。
 カードゲーム業界は、デュエルモンスターズの独占市場なのだ。
 じっとショーケースを睨んでいた水葵は、イデアの方を向いた。

「イデアさん、魔法使い属のサポートカードはなんでこんなに高いんですか?」

 水葵はせっかく当てたブラマジやブラマジガールを活かそうと、魔法使い属のデッキを構築する予定だった。しかし、恐ろしく高い。
 例えば水葵が持つ小さなカゴには、元の世界では必須だったサイクロンや激流葬と言ったカードが入っている。
 これらは、こちらの世界でも皆が買えるよう配慮されているのか、手軽な値段が設定されている。だが、ショーケースの中にある魔法使い属をサポートする魔法・罠カードはどれも高い。
 最低で五千円、高いものになると数万円のものまで存在している。
 元の世界なら、ぼったくりもいいところだ。

「魔法使い属は、ブラマジやガールを含め非常に人気が高いカードが覆いからの」
「ピケクラに霊使い、ブリザード・プリンセスなんかも人気ですね」
「人気のある種族のサポートカードは煽りをくらい、大抵は高くなるもんじゃ」
「タイムサービスとかやりませんか?」

 ダメ元で聞くと、イデアはニコリと笑った。

「なら、青眼の白龍を売れば良い。あれを売れば、魔法使いのサポートカードなど好きなだけ買えるぞ」
「ダメです。あれは、大切なカードですから」
「ほほ、ならパックから当てるまで頑張るんじゃな」

 悪魔の囁きを水葵は簡単に突っぱねた。ショーケースに視線が釘付けにしたまま、イデアの方を振り向きもせずに。青眼を手放すなどあり得ない。
 そう考えながら、水葵はショーケースの中にあるカードに夢中になっていた。

(すごい、すごい! 見たことない、ドラゴンがたくさんいる!)

 そのショーケースは、ドラゴン属のモンスターを集めたものらしく、砦を守る翼龍と言った懐かしい者から見たことがないモンスターまでいる。
 未知のドラゴンモンスターに出会えた喜びで、水葵の眼は子供のように輝いていた。

「おや、水葵ちゃんはドラゴン族が好きなのか?」
「あ、はい。ドラゴン族が大好きです。青眼みたいなメジャーなドラゴンもいいですけど、ホルスとかかっこいいのもエンシェント・フェアリーみたいな不思議なドラゴンも好きです。後、オシ……あれは種族違う」

 饒舌に喋る水葵を見て、イデアは不思議そうに首を傾げる。

「女の子は刺々しいドラゴンはあまり好かんが。珍しいのう」
「パワーで押しきるドラゴン、格好いいじゃないですか!デュエル・モンスターズのロマンですよ!」

 熱く語る水葵。
 それを見たイデアはしゃがんだ。カウンターの下から一枚のカードを取り出し、水葵を手招きする。

「こっちに来なさい。よいカードを見せてやろう」

 カウンターの前に来た水葵は、目の前にあるカードに目を奪われる。
 値札には、万とまではいかないが中々高額な値が付いていた。

「銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)。青眼と同じ属性で、攻撃力と守備力も同じ?」
「青眼を意識したカードじゃろうな」

 水葵はカードを持ち、じっくりと効果を読む。

「攻撃された時に除外出来るなら、場に残りやすそうですね。……えっとエクシーズ素材?」

 銀河眼の効果に見慣れない単語があり、水葵は首を捻る。エクシーズ召喚に関する単語であることは想像が容易いが、何を意味するか分からない。
 そんな水葵を、イデアは呆れたように眺める。

「なんじゃ、水葵ちゃんエクシーズ召喚の記憶まで書き換えられたのか? それでは編入試験に響く……どれ、わしが説明してやろう」

 前屈みになり、カウンターの下からイデアは二枚のカードを取り出した。銀河眼の横に並べられたそれらは、カードの枠が黒だった。

「まずエクシーズモンスターは、この黒い枠が特徴のモンスターじゃ。シンクロモンスターや融合モンスターと同じようにエクストラデッキに入れる」
(うん、ここまでは雑誌で見たから知ってる)

 遊戯王には、通常のデッキ以外に特定のモンスターを集めたエクストラデッキが存在する。
 シンクロ召喚や融合召喚など、特殊な方法で呼び出すモンスターから構成されるデッキだ。

「で、彼らを呼ぶ召喚方法がエクシーズ召喚じゃ。やり方は簡単。同じレベルのモンスターを複数並べ、召喚するだけ」
「手軽ですね」

 例えば融合召喚は融合カードがいるし、シンクロ召喚はチューナーと他のモンスターのレベルを合わせなければならない。
 それらに比べると、エクシーズ召喚は手軽だと思った。

「そうじゃな。例えばこのゴールド・ラットは、カードテキストにある通りレベル1のモンスター三体で呼び出すことができる」
「セイクリッド・プレアデスは光属性のレベル5二体……」
「モンスターによって、召喚条件は違うからの。中には属性や種族が指定されていたり、同じレベルのモンスターを三体も四体も必要とするものもおる」

 強いのかな、と水葵はラーのカードを頭に浮かべながら思った。

「で、ここからがエクシーズ素材の説明じゃ。エクシーズ召喚の素材となったモンスターは、墓地へは送らん」
「どうするんですか?」
「エクシーズモンスターの下に重ねておく。この状態の素材となったモンスターは、エクシーズ素材と呼ばれるんじゃ。実際はあり得んが、こうすれば銀河眼はエクシーズ素材と言える」

 イデアはゴールド・ラットを、銀河眼の上に重ねる。

「じゃあ、このエクシーズ素材を取り除くって言うのは……」
「エクシーズ素材を墓地に送ることを指しとる」

 今度はイデアは銀河眼を、ゴールド・ラットから離した。

「エクシーズ・モンスターは、このエクシーズ素材を墓地に送り効果を使うんじゃ。ゴールド・ラットで言えば、銀河眼を墓地に送り一枚ドローし、一枚をデッキに送ると言ったところかの」
「へー」
「ちなみに銀河眼の効果で除外されたエクシーズモンスターは、エクシーズ素材を墓地に送らねばならん」
「じゃあ、エクシーズ素材を根こそぎ奪う銀河眼ってエクシーズモンスターに『対して』は、中々強力じゃないですか」

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手 ( No.257 )
日時: 2014/12/24 19:30
名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)

 シンクロモンスターを自身に装備してしまう、機皇帝のようなものか。
 エクシーズモンスターへの対策が少ない、自身のデッキに必要なカードだと思った。ますます欲しくなる。

「うむ。エクシーズ素材がなければエクシーズ・モンスターは、効果を発動できぬ。銀河眼は、水葵ちゃんの言う通りエクシーズに対しては天敵と言えよう」
「……ください」

 水葵は迷わず購入を決める。
 そこへすかさずイデアがもう一枚カードを差し出してきた。

「なら、セットでこれを勧めよう。フォトン・サンクチュアリ」

フォトン・サンクチュアリ

通常魔法
このカードを発動するターン、
自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)
2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない

 テキストからして、銀河眼のサポートカードであることは確かだ。
 召喚が制限され、光属性しか呼べないのは一見するとデメリット。しかし光属性のモンスターを多様する水葵のデッキにはほとんど関係ない。
 そのカードを見た水葵は速攻で購入を決める。

「これ青眼の召喚にも使えますね! 銀河とこれください」
「まいどありじゃ。後はランクとかその辺りは実戦で問題ないじゃろう」

 欲を言えば、両方とも三枚ずつ欲しい。が、それが出来る程お金がないの一枚ずつで妥協する。
 カードを買った水葵は、次はエクシーズモンスターでも買おうとショーケースを覗き愕然とする。ショーケースの中にあるカードは、今まで見たカードの中で一番高い。
 今度は安くて数万円、高いもので数十万の値札が付いたものがある。

「このショーケースの中に入っているカード、高いですね」
「それは、No.(ナンバーズ)モンスターじゃからのう」
「No.?」

 その言葉で水葵は、デスサイスが使ったリバイス・ドラゴンとホープを思い出す。あのモンスターもNo.を冠するモンスターたちだ。

「No.は、初めて出されたエクシーズモンスターのシリーズなんじゃ。元々当りにくいレアカードな上に、効果が強いモンスターやイラストから人気があるモンスターが多くての、No.は総じて値段は高い」
「へえ……」
「おお、そうじゃ。水葵ちゃんにNo.をプレゼントしよう」

 何が来るかと希望を抱いた自分を責めたくなる。プレゼントされたのは、さっきのレクチャーに使われたゴールド・ラットだ。

No.56 ゴールドラット

エクシーズ・効果モンスター ランク1
光属性/獣族
攻 500/守 600
レベル1モンスター×3
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。 自分のデッキからカードを1枚ドローし、 その後手札を1枚デッキに戻す。

「それなら掃いて捨てる程あるかのう。No.はいいぞ、同じNo.と付くモンスターとの戦闘以外では破壊されない。それを無料で手に入るなど運がいいのう」
(……効果微妙)

 自分のデッキでは、ゴールド・ラットを活かすのは難しい、いや無理だ。青き眼の乙女などレベル1モンスターがいない訳ではないが、三体並べると青眼の召喚をする阻害になる。それにドローして一枚デッキに戻す、と墓地に送れないのも微妙。しかも破壊されないと言っても攻撃力は低い。
 No.でありながら、ただでプレゼントされる理由が分かった。

「あたしのデッキ、レベル1モンスター少ないので上手く使えないです」
「なんじゃ、残念じゃ」

 適当な理由を付け、水葵はカードをイデアに返す。
 よほど処分したかったのか、イデアの顔は鬱陶しそうだったが水葵は気がつかない振りをする。

「こんにちは、イデアおじさん」
「おお、蓮くん」

 来客を告げるベルの音と共に、一人の少年がケローネに入ってくる。
 歳は十代の前半。やや長めの黒い髪と黒曜石のような漆黒の瞳を持つ、中々の美少年だ。ただ顔立ちは中性的で、イデアが名を呼ばなければ水葵は性別が分からなかった。

 その後から、足早にもう一人客が来た。
 気が付くと、もう開店時間だ。水葵は買ったカードをカゴごと持つと、邪魔にならないよう店内を再び見て回る。

「おお、蓮くん。今日、学校は休みか」

 先に来た少年——蓮は、この店の常連なのかイデアの口調は親しげだ。

「はい。振替休日です。えっと頼んでおいたパック、もう届いてますか?」
「おお、勿論じゃ」

 二人がやり取りをしているその頃、水葵はもう一人の客とすれ違っていた。
 きちんと結ばれた黒の髪。白いシャツ、黒のジャケットとズボンできっちり止めた姿。場違いで目立つその服装は、漫画の執事がそのまま出てきたかのよう。
 水葵は、横目でちらりともう一人の客を観察する。

(執事さん、かな? こんなカード屋に何の用があるんだろう?)

 服装が服装だけに、嫌でも目を引いてしまう。
 だが、彼の行動自体は至って普通だ。棚やショーケースをじっくりと眺め、カードを選ぶ姿はデュエリストならごくごく自然なことだろう。

(……後、カード何がいるかな)

 奇妙な客への興味が薄れた水葵は、再びカードの物色を始める。
 ——だがこの青年、よく見れば高いカードがある辺りを中心に動いていた。そして唇の端を歪めているのに、誰も気が付いていなかった。


オリキャラ募集してから何か月も待たせて本当にすみませんでしたorz

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手 ( No.258 )
日時: 2014/12/24 19:58
名前: 緋兎雫 ◆UaO7kZlnMA (ID: 66F22OvM)  

>午前の麦茶
ああ、そのカード名って何だっけ?

イリアステルも参加したようです。

遊戯王はどこに向かおうとしているのだろうか…征竜魔導環境もインフレだったのに、ますます加速→規制の繰り返しだからね。
アマゾネスは、サポートカードが足りないかな?大抵の強テーマって専用サーチや専用カウンター罠あるけど、なかった気がす。

あのドラゴンには、そんな関係が…!アニメで、とうとうユーゴも出だしどうなるか楽しみだね。

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手 ( No.259 )
日時: 2014/12/24 23:39
名前: 午前の麦茶 ◆s5/dFsxZtI (ID: pK07DWyY)

更新乙。
最後に出てきた執事って…

>人気のある種族のサポートカードは煽りをくらい、大抵は高くなるもんじゃ
わかる新規テーマと好相性→高騰に何度痛い目を見せられたことか

>それなら掃いて捨てる程あるかのう。
カイト編で銀河遠征やアクセルライトと同じ銀文字枠で出る。ふざけるな金鼠!

金鼠フルボッコ回。9期なら魔改造されてた。
ZEXAL初期の効果不明モンスターではプラズマ・ボールもかなり酷いけどNo.だし余計に目立つ

禁止令(率直)
黒庭並に裁定が紛らわしいがサイキックブロッカーで満足するしかねぇ!

加速する環境に乗って(終わりを)迎えるんだにならないか心配。
昔のデッキ使ってノーエクストラで戦ってもついでに魔法罠割る環境だとフィールド永続系は厳しいし…

専用フィールドはスクラップファクトリーとほぼ同じ効果だけどね
風の千鳥みたいに地指定の強力Xが居ないのも痛い

ARC-Vは伏線回収&バラ撒き回だったね。
自分の知ってるアカデミアと違わないけど違う
古代の機械へのフリャ並の風評被害
トマトとナスとバナナは似ているらしい
の三本で(ry

TF6を進めてたらモブ含めほぼ全員のハートが2つ以上で無限ループ
どうしてこうなった…ハーレムルートだよやったね!(白目)
ところでプレゼントされるパックの半分がノービス系なんだがベクター貴様の仕業か?

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手 ( No.260 )
日時: 2014/12/25 14:58
名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)

(ダルク以外の霊使いやブリザード・プリンセスが、破格の値段で売ってる!)

 モンスターのカードが置かれているコーナーに来て、水葵は凍り付く。そこには未知の世界が広がっていた。
 元の世界なら強力なカードとして名が上がるはずのD・Dクロウや増殖するGが段ボールに入れられ、10円や20円で売られる。一方霊使いやブリザード・プリンセスはショーケースの中に入れられ、何千円の値段で売られているそんな光景。
 さっきイデアがブラマジやブラマジガールは人気があり高いようなことを言っていたので、これらのカードも人気が値段を高める要因なのだろう。元の世界でも、霊使いやブリザード・プリンセスはイラストの可愛さから人気があるカードの一角だった。

(……本当にカードの値段の差が激しい)

 元の世界とあまりに違うカードの値段に、水葵は軽いカルチャーショックを受けた気分になる。元の世界で高めだった強力なカードは、大抵は子供の手が届かないくらいに高い。一方強力な効果を持ちながら、段ボール行きになる程安いカードの数々。こちらの感性は不明である。


「……実は最近いいカードを仕入れての、近々ここでショップ大会を開くつもりなんじゃ」
「え、商品は何ですか?」

 イデアがこっそりと蓮に耳打ちをすると、蓮は目を輝かせた。

「No.! すごい太っ腹」

 No.は基本的に、希少なカードだ。
 一枚でも持っていればクラスメイトの憧れになれる、そんなカードが景品になるショップ大会は滅多にない。

「でも、景品はゴールド・ラットとか言わないですよね?」
「何を言うとる。ゴールド・ラットは、参加賞じゃ。ホープやリバイス・ドラゴンまではいかんが、そこそこレアNo.じゃ」
「楽しみだなぁ……」
「ちなみに二位は、好きなパックを10パックプレゼントじゃ」
「パックの方もいいですね。すごく悩むなぁ……」

 期待に胸を膨らませる蓮と、頑張りなさいと微笑むイデアのやり取りは楽しげなものだった。
 ——しかし、そのやり取りを一変させる声がカード屋の一角で上がる。

「……魔法カード『心変わり』」
(あの人、何を?)

 ちょうどその時、水葵は執事の近くにいた。
 デュエル・ディスクの形態に展開された、銀色のD・パッドに一枚の魔法カードを置いている。その瞬間、イデアの様子が変化した。

「やめじゃ、やめじゃ」
「おじさん?」
「No.のようなレアカードは我らが魔女様のためにあるもの。お前たちには、ゴールド・ラットで十分じゃ!」

 イデアは背後にあった段ボールを持ち上げ、勢いよく傾けた。中に入っていた大量のカードが雪崩のように押し寄せ、蓮を飲み込む。

「ああ、イデアさん、お客さんに何をやってるんですか!」

 イデアは、カウンターの下にある段ボールをまた持ち上げようとしている。大急ぎでイデアを止めようとカゴをその場に置きカウンターに向かった水葵。イデアに気をとられ、背後で進む行動に気が付いていなかった。

「続けて、時計型麻酔銃を発動」

 その言葉で、D・パッドを着けていない腕に腕時計が現れる。
 普通の腕時計と違い、大きく頑丈な作りだ。さらに時計の部分は透明な蓋になっており、開閉が可能。青年は蓋を持ち上げ、時計をイデアを止めようとする水葵に向ける。そしてボタンを押すと、白い針のような物が飛び出し水葵の首筋に刺さる。

「……っ」

 首に何かが当たったような違和感がした直後。水葵は強烈な眠気に襲われた。耐えられない眠気に飲まれた水葵は、その場でうつ伏せに倒れ、すやすやと寝息をたてる。
 さらに、青年はカードを拾っていた蓮に近づく。

「誰だお前は!」

 蓮は慌ててD・パッドを構えるが、時すでに遅し。青年が腕時計のボタンを再び押すと、蓮は仰向けでその場に倒れこんだ。水葵と同様に夢の世界に引きずりこまれる。
 二人を眠らせたのを確認すると、青年はイデアに近づいた。するとイデアは箱を地面に下ろし、権力者に挨拶をするように深々と礼をする。

「グラーヴェ様お待ちしておりました」

 顔を上げたイデアの瞳に光はない。感情が消し去られたような、無表情な顔が、様子がおかしいのを物語っている。

「出迎えご苦労。では、レアカードをこちらに」
「はい、勿論です。グラーヴェ様のようなお方から、お代を頂戴するなどおこがましい」

 グラーヴェと呼ばれた青年の命令に、イデアは淡々と従う。カウンターから鍵を取り出すと、迷いもせずに棚やショーケースから値段が高いカードを取り出していく。
 その間に、グラーヴェは倒れている蓮に近づき、D・パッドからデッキを引き、腰のベルトに通されたカード・ケースを外す。
 そして、奪ったデッキをじっくりと見やる。

「なるほど。聖騎士ですか。これさえあれば、ヒュドール様もお喜びになられるはず。私の出世も間近……!」

 続いて水葵に近寄るが、彼女はD・パッドをしていない上にカード・ケースもないので奪うものがない。
 遊戯王世界に不慣れな水葵は、日常的にデッキを持ち歩くと言う習慣がないのだ。異界から持ち込んだカードの数々は、隣にある自宅に置きっぱなしであった。無用心と言えば、無用心だが今回は幸いな方に傾いた。
 グラーヴェは、水葵の服のポケットをあさっていたが、カードがないため諦める。代わりに放置された買い物カゴを手にとった。

「……聖騎士に比べて、こちらは外れ。大したレアカードがありませんね。激流葬など私たちは、何百枚も持っていると言うのに。まあ、ついでに頂いていくとしましょう」

 蓮から奪ったデッキとカードケースを買い物カゴに乱暴に放り込む。
 そこへ、ビニール袋を片手に持ったイデアがやって来る。

「これが店にあるレアカードです」

 差し出された袋をカゴに放り込むと、グラーヴェは満足そうに微笑んだ。ご苦労、とイデアを労う言葉をかけてから口角を持ち上げた。

「……さて。ご老人。あなたには、まだまだ働いて頂きますよ」

 冷ややかな笑みを浮かべながら、グラーヴェはイデアに新たな命令を下す。しかし。

「ふにゃ……クランちゃま、わしを愛の鞭でぺちぺちしてくれぇ」

 イデアは動かない。
 目を閉じたまま、怪しい寝言を呟いていた。グラーヴェは驚愕のあまり、目を丸くする。

「な、何!もう洗脳の効果が薄まっている!? ではこれでどうですか。強奪、ブレイン・コントロール、精神操作、堕落(フォーリン・ダウン)、洗脳光線、シンクロ・コントロール……」

 上から支給された洗脳用のカードを、片っ端から使う。ちなみに一部のカードは、デーモンやシンクロ・モンスターなどの条件を満たしていないので意味がない。 
 しばらくすると、グラーヴェの苦労のかいあってイデアが目を覚ました。

「す、すみません。グラーヴェ様」

 洗脳は完璧。
 再び命を下せば、イデアは主の言う通り外に飛び出していった。

*

「ううっ……」
「っつ……」

 それから少し経った店内では、蓮と水葵が目を覚ましていた。
 初めは何があったのか分からない様子だったが、すぐに自分の身に起きた出来事を悟る。

「あたしが買ったカードがない……」
「ああ、僕のデッキが無くなってる!」

 水葵は置いておいたはずのカゴが、蓮は自分のデッキがなくなっていることにそれぞれ気が付く。店内をくまなく探すが、どこにもない。
 そこへ、ヘルメットを被ったグラーヴェが来た。

「お探し物はこれですか?」

 蓮のデッキ、水葵が買った銀河眼の光子竜のカードをそれぞれ二人に見せ付ける。ヘルメットから覗くグラーヴェの口元は、愉快そうに歪んでいた。それらを見せるだけ見せびらかすと、急に踵を返し、表に飛び出す。

「待て、逃がさないぞ!」

 二人は慌てて表に出ると一台のバイクが、うなり声を上げながら遠ざかっていく。挑発するように銀河眼の光子竜をこちらに見せ付けながら、あっと言う間に姿は小さくなった。

「バイクじゃ追い付けない……」

 人の足では、バイクに追い付けない。
 諦める水葵と対照的に、蓮は何か使えるものはないかとキョロキョロし、ある一点で視線が止まる。

「さあ、ハニー。今日はケローネで、どんなカードを買おうか」
「私、ダーリンとお揃いのカードがいいわ」

 イチャイチャするカップル。そんな者など眼中になく、蓮が目を付けたのはカップルの後ろにあるバイク。降りたばかりで鍵はかかっていない。
 蓮は迷うことなく駆け出し、カップルの間を強引にすり抜けた。

「すみません、ちょっと借ります!」
「ちょっと借りるって、キミ!」

 カップルの抗議など無視し、バイクを動かす準備を始める蓮。
 ヘルメットを被り、バイクのサドルに乗ったところで水葵が止めに入る。

「ちょっと待って! 人のバイクで何をやってるの!」
「大丈夫! バイクの運転なら、アメリカで父さんにきっちり仕込まれたから!」

 何を勘違いしたのか、意味の分からない返答と共に蓮は足で地面を蹴る。轟音と共に煙を吐きながら、バイクは水葵とカップルの前から遠ざかる。

「ああぁぁ! 俺のバイク! 彼女のためにブラック・マジシャン・ガールを売ってまで買ったのに!」
(……ご愁傷様)

 不幸に見舞われたカップルに同情しながら、水葵はケローネに戻った。
 店には誰もいない。カウンターにいたはずのイデアの姿も消えていた。

「イデアさん、どこに行ったの……」

 頼りになる大人がおらず、水葵は不安になる。イデアは留守、蓮はカード泥棒を追いかけているので、この場にいるのは自分一人だ。
 フィロソフィアは学校に行っている。自分で判断し、行動するしかない。

(まずはセキリュティに連絡しないと……)

 困ったときはまず警察。
 イデアからセキュリティの番号は聞いてあるので、問題ない。店のプッシュ式の電話を手にし、水葵は助けを求めるためセキュリティに連絡をする。


 と言うわけでグラーヴェさんの本格的な顔見せ回でした。キャラのイメージが違うなどありましたら、ご報告ください。次回は蓮とのライディング・デュエルになると思います。ここだけの話、初めは蓮が自転車でグラーヴェを追いかけるつもりだったことは密に、密に。

 そしてグラーヴェさんが使った魔法カード時計型麻酔銃ですが、某頭脳は大人な探偵のパロ・・・なことは間違いないアニメのオリカです。s出典はDMの社長vsBIG5戦(サイコショッカー)の回です。中身おじさんなサイコショッカーが、お注射天使リリーで「検診のお時間DAAAA!」とかノリノリで叫んでる回。
 効果としては強者の苦痛と全く同じです。相手フィールド上のモンスターの攻撃力は、そのモンスターのレベル×100ポイントダウンする。
 


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