二次創作小説(紙ほか)

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遊戯王 七つの輝きと光の守り手
日時: 2015/03/20 00:00
名前: 緋兎雫 ◆cW98CwF.kQ (ID: 0ZLVN9hQ)


リアルの事情でロックします。

追記
いきなりロックしてすみません。オリキャラも募集していたのに、このような形になって頭を下げるしかありません。
リアルで色々あり、現在名前を変えています。
調子がよすぎるとは思いますが、お知らせを。
何やかんや言って、遊戯王からは離れられず、カキコで新しい遊戯王作品を書いています。諸事情でタイトルは書けませんが御興味のある方は、お探し下さい。版は映像版の方です。
最後に小説をご愛読頂いていた皆様、本当にありがとうございました。


Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.212 )
日時: 2014/12/09 01:27
名前: 午前の麦茶 ◆s5/dFsxZtI (ID: 607ksQop)

更新乙。

大逆転クイズで当てるのは自分のデッキトップだから鳳凰神の羽根辺りに差し替えるといいと思うよ。

今ならは〜パワーインフレの証。
今の時期に強化されるカテは運がいいね。

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.213 )
日時: 2014/12/09 11:20
名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)

「あたしのターン、ドローっ。さあ、青眼の白龍! バニラの意地を見せなさい! 手札より、滅びの爆裂疾風弾(ほろびのバーストストリーム)を使うわ」


滅びの爆裂疾風弾(ほろびのバーストストリーム)

通常魔法

自分フィールド上に「青眼の白龍」が存在する場合に発動できる。
相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。
このカードを発動するターン、「青眼の白龍」は攻撃できない。

 青眼の白龍は、口元にエネルギーを溜めると、勢いよく敵に放った。全てを焼き尽くすような、眩い光。全てを滅ぼす光線は、デスサイスのモンスターたちを次々に葬り去った。光に触れたモンスターは悲鳴を上げ、派手な爆発音と共に消えていく。デスサイスを守るものは何もない。
 水葵にとって反撃する絶好のチャンスだが、青眼の白龍は破壊の代償として攻撃出来ない。

(……次にデスサイスにターンを回したらまずいわ。蘇生系のカードを引かれたり、バーン系のカードが来たら、次は持たない。ここで決めないと後がないわ)

 このままターンエンドするのもありだが、水葵は青眼の白龍がやられたら今度こそ打つ手がない。やられるくらいなら、可能性を求めた方がいいと考え、水葵は賭けに出る。

「馬の骨の対価を発動」

馬の骨の対価

通常魔法

効果モンスター以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を墓地へ送って発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。
 
 青眼の白龍が光の粒子となって消えるのを見届け、代わりにカードを二枚ドロー。これなら行ける。水葵は顔を輝かせた。

「ワン・フォー・ワンを発動! 手札のラビードラゴンを墓地に送り、ガード・オブ・フレムベルをデッキより特殊召喚! さらに銀龍の轟咆(ごうほう)を発動! コストにしたラビードラゴンを復活よ!」

ワン・フォー・ワン
通常魔法

効果
手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。

ガード・オブ・フレムベル

レベル:1
属性:炎
種族:ドラゴン族

攻撃力:100
守備力:2000

効果
炎を自在に操る事ができる、フレムベルの護衛戦士。
灼熱のバリアを作り出して敵の攻撃を跳ね返す。

銀龍の轟咆(ごうほう)
速攻魔法
自分の墓地のドラゴン族の通常モンスター1体を選択して特殊召喚する。
「銀龍の轟咆」は1ターンに1枚しか発動できない。

ラビードラゴン

種類:通常モンスター
レベル:8
属性:光
種族:ドラゴン族
攻撃力:2950
守備力:2900

効果
雪原に生息するドラゴンの突然変異種。
巨大な耳は数キロ離れた物音を聴き分け、驚異的な跳躍力と相俟って狙った獲物は逃さない。

 大地が振動しそうな咆哮と共に、鋭いトゲに身を包んだドラゴンが出てきた。それに続き、兎のような耳を持つドラゴンが墓地から現れる。モンスターをコストして、わざと墓地に送り、蘇らせる。理想的な流れ。

「さらにアレキサンドライトドラゴンを召喚」

 フィールドに出てきたのは宝石のように美しい輝きを持つドラゴン。効果こそないが、攻撃力2000は下級アタッカーとして申し分ない。

アレキサンドライドラゴン

種類:通常モンスター
レベル:4
属性:光
種族:ドラゴン族
攻撃力:2000
守備力:100

効果
アレキサンドライトのウロコを持った、非常に珍しいドラゴン。
その美しいウロコは古の王の名を冠し、神秘の象徴とされる。
——それを手にした者は大いなる幸運を既につかんでいる事に気づいていない。

 これで一斉攻撃を仕掛ければ、デスサイスのLPを一気に削れる。

「これであたしの勝ち! 三体のモンスターで直接攻撃!」

 三匹のドラゴンが立て続けにデスサイスに襲い掛かり、水葵の目論見通りLPは一気に削られた。

デスサイス
LP4000→0

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.214 )
日時: 2014/12/09 11:33
名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)

 デュエルが終わり、すべてが消える。フィールドにいたモンスターが、オレイカルコスの魔法陣が。これらは元々実体化しているものではなく、決闘の間だけデュエルディスクによって作られたもの。決闘が終われば機械は自動的に停止し、映像は消えていく。
 モンスターたちが消える光景を見ながら、水葵はほっと溜息をついた。勝てるとは思っていなかっただけに、勝利の喜びよりも助かったという安どの気持ちが強い。だが、いつまでもその気持ちに浸っている場合ではなかった。映像が消えるのに呼応し、水葵のD・パッドとD・ゲイザーが光り始めた。何、と思う間に二つは光の粒子へと姿を変え、空中に飛び去る。存在するべき場所を失ったカードは、地面にばらまかれてしまった。

「あ、あたしのカード!」

 水葵は慌てて、地面に落ちたカードを回収する。その時、デスサイスの元から一枚の光るカードが飛んで来た。それは迷うことなく水葵の元に向かい、地面に散らばるカードの上に静かに乗る。輝きは消えた。
 ちょうど背後のカードを拾っていた水葵は光っていたカードのことなど気付かずに、そのカードを他のカードと一緒に回収した。

「うん、これで大丈夫ね」
 
 辺りを見渡せば、カードはもう落ちていない。それを確認すると、水葵はカードを元々入っていた箱に入れ、再び鞄に閉まった。

「……情けないぞ、デスサイス」

 呆れたような、失望したようなそんな声が水葵の耳に届く。
 明らかにデスサイスの声ではなかった。野太い、男の声だった。驚いて水葵は振り向くが、そこには棒立ちになったままこちらを見つめるデスサイスの姿。額にはオオカミの頭部を模したような光が浮かぶ。

「宝玉獣使いを見つける前に、ルビーを捕えろといったはずだ」

 声はデスサイスからする。自分で自分を叱る、奇妙な独り言を呟いていると水葵は感じた。

「で、デスサイスが男口調で自分を叱ってる? オレイカルコスの力でおかしくなったの?」

 水葵の独り言を聞いたデスサイスは、くすと笑い声を漏らす。

「おっと失礼。話しているのは、デスサイスではない。『印(いん)』の力で私が、デスサイスを通して話している」
「あなた、誰なの?」

 どくん、と緊張のあまり心臓の鼓動が早まる。表面上は冷静に対処しているが、水葵は怖くてたまらない。 
 デスサイスは命令、と言う単語を何度か口にしていたから、声の主が操り主だと言うことは察しがついた。何らかの理由でルビーを追いかけていた。何をしてくるのか、分かったものではない。

「私はリサルダの一族の神官が一人、テラ」

 一族に神官。RPGやファンタジーに出てくるような名乗りに、水葵は思わず吹きかける。

「リサルダの一族に神官って……中二病でも拗らせてる?」
「私は、少々キミと話がしたくてね。わざわざコンタクトをとった訳だ」

 気付くと、決闘時には消えていた鎌がデスサイスの手に握られていた。それを構えながら、デスサイスはゆっくりと水葵に近付く。後ろにあるのは住宅。行き止まり、つまり水葵に逃げ場はない。

「要件はキミが持つ宝玉獣たちだ。ルビー・カーバンクルと、アメジスト・キャットを渡してもらおう」

 ジリジリとデスサイスに寄られる水葵。とうとう追い詰められた。家の外壁に背中がぶつかる。前はデスサイス、後ろは行き止まり。逃げようがない。
 デスサイスは、水葵の首筋に鎌の先端を付けた。金属の冷たい感覚が、じんわりと首筋に伝わる。少しでも鎌が動けば、怪我は免れない。 ——宝玉獣を渡してしまおうか、と悪魔が囁く。

「何。彼らを渡してもらえば、お前には何の危害も加えない。宝玉獣を持っていたところで、お前には何の得もないだろう? 出来れば、穏便に済ましたいからな」
「危害を加えない、って言うなら鎌を首から離して貰えない?どこが穏便なのよ」

 水葵は悪魔の囁きを否定し、精一杯強がる。
 助けてよ、と言うルビーの悲痛な声が耳に蘇り、良心が悪魔を追い出した。助けを求めてきたルビーを、見捨てたりなどできるはずがない。

「そんなに宝玉獣が欲しいなら、力強くで奪ってみなさい!」

 威勢はいいが、水葵の足は震えていて迫力にかける。その様子をデスサイスを通じて見ているのか、テラ——正確にはデスサイスだがは笑いながら、一度水葵から一歩離れた。

「答えはノーか。なら、望み通り、力づくで奪ってやろう。こい、岩の精霊タイタンたちよ!」

 男の声で、アスファルトの地面が水面のように揺れる。そして、次々にモンスターが浮かび上がって来た。立派な兜を被り、鎧に身を包んだ、戦士のような風貌を持つ男だ。それが四体、デスサイスの横に並ぶ。

岩の精霊 タイタン
効果モンスター

星4/地属性/岩石族/攻1700/守1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する地属性モンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃力は相手のバトルフェイズ中のみ300ポイントアップする。

「我が自慢の兵を前にした感想はどうだ?」
(通常召喚不可能なのばかり召喚して……!)

 テラの力はモンスターを実体化させるものらしいが、決闘時と違い、モンスターの召喚条件は無視できるようだ。全く、インチキ効果もいい加減にしろとはこのことだ、と水葵はため息をついた。
 だが、状況は変わるわけでもなく。デュエルモンスターズ五体に対し、こちらは人間一人。
 人間一人の能力など、遊戯王の攻撃力、守備力に変換すればゼロだろう。能力はなし。自分は攻守ゼロのバニラだ、水葵は思った。
 怖い。モンスターたちの放つ異様な圧迫感、やられるかもしれないと言う恐怖が身体を震わせる。決闘時にフィールドでたった一体だけ立たされるモンスターの気持ちが、分かるような気がした。この前の、友人との決闘を思い出す。相手フィールドに上級モンスターが五体いる時、ライコウを一匹だけ攻撃表示にした。ライコウは怖かっただろう。ごめん、とライコウに謝った。
 ちなみに当時の水葵の手札には光属性御用達、『オネスト』があったため、相手は見事に返り討ちにされた訳だが。

(誰か助けて……)

 辺りには誰もいないのに、水葵は心の中で助けを呼ぶ。タイタンとデスサイスに囲まれ、なすすべがない水葵にはそれしか出来なかった。
 眦から涙が溢れ、鞄を濡らした。その時、鞄が脈打つのをはっきりと水葵は感じた。まるで、何かを訴えるように鞄から伝わる鼓動は速くなる。

(助けてくれるの?)

 タイタンたちとデスサイスが一斉に襲いかかってくる。迷っている暇はなかった。水葵は鞄の蓋を開け、鼓動を感じる物を両手で天に捧げる。
 それはたまたま買った、カードのパックの一つ。水葵は、ストラクチャー・デッキ以外にも欲しかった中古のカードや、新しいパックを小遣いを全て使い切るまで買っていた。その目映い金色に塗られたそれは、そのうちの一つだった。

「よく分からないけど、モンスターを倒して!」

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.215 )
日時: 2014/12/09 11:39
名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)

 パックから一つの光が飛び出し、空に舞い上がりながらゆっくりと形を作っていく。辺りが急に暗くなる。空にいるモンスターの影が辺りを暗くしているのだ。
とぐろを巻く蛇のような長く赤い身体、コウモリのような尖った巨大な翼。二つの口を持つ頭。空を一面の赤で覆うそのモンスターは、タイタンたちとデスサイスを威嚇するように巨大な咆哮を降らせる。
 それに気圧されたのか、タイタンとデスサイスたちは水葵を襲うのを止め空を見上げる。そして、ゆっくりと水葵から離れていく。
 水葵はそれを見て安心感から力が抜け、地面に座り込む。空にいるオシリスを見てから手にしたパックを破いてみる。やはり一番初めに、オシリスの天空竜のカードがあった。
遊戯王の世界では、あまりにも強いため、畏敬の念を込め『神』のカードと呼ばれる一枚。——と言うのは、アニメの話である。

(オシリスの天空竜。家に帰れば、あるんだけどなぁ……)

 そんなことを水葵が思って俯いている間に、オシリスはタイタンとデスサイスに攻撃を仕掛けていた。下の口を開き、雷のエネルギーを溜め込み、敵に向かい、勢いよく放つ。オシリスの必殺技、サンダー・フォース。強大なエネルギーに飲まれたタイタンたちは次々にタイタンたちを破壊され、巻き込まれた辺りの家々が爆破していく。派手な爆発音が響き、家がバラバラになっていくのを水葵は呆然と見ることしかなかった。

「お、オシリス! 周りの家も破壊しすぎだって!」

 そして、オシリスはデスサイスにもサンダー・フォースをしかけるが、デスサイスハ空中に飛び、あっさりかわされた。
 目標を失ったサンダー・フォースは、再び破壊の限りを尽くし辺り一面を焼け野はらに変えた。この世界には人がいないらしいから良かったが、人がいたら大変だ。

「しかも、デスサイスに攻撃避けられてるよ」

 色々な意味でドジを踏むオシリス。アニメでもあまりにもドジを——具体的には能力を逆手に取られ破壊されたりするので、またの名を『ドジリス』と呼ばれていたりする。水葵のオシリスも、やはりドジリスだった。 
 オシリスはデスサイスに何度も攻撃をしかけるが、デスサイスにあっさりかわされてばかり。
 水葵は理由を考える。アニメでは、モンスターが実体化して戦う時は決闘と同じ法則に従っていた。その意味だと、オシリスの攻撃力が足りないのかもしれない。タイタンは倒せた。だが、デスサイスを倒せない。死神の大鎌—デスサイスをしているから、攻撃力は恐らく3000。
 それが倒せず、タイタンを倒せると言うことから察するに、オシリスの攻撃力は2000〜3000程度か。タイタンは、相手のバトルフェイズ中は攻撃力が上がる能力があるので、もしかしたら攻撃力が2000はあるかもしれない。最もこの戦いにターンと言う概念があるかすら怪しいが。

「そのモンスターでは、デスサイスに攻撃力が及ばないらしいな。やれ、デスサイス」
「オシリスをパワーアップさせるには、手札! そう手札がいる!」

 鎌を振り上げ大空へと舞うデスサイス。オシリスをパワーアップさせる方法を思い付いた水葵は、鞄から先程の決闘に使用したストラクチャー・デッキを取り出す。

「さあ、ストラクチャー・デッキを手札にして、オシリスはパワーアップよ!」

 読み通り、効果があったらしい。『ストラクチャー・デッキ』と言う手札を得たオシリスは、力を得たことをアピールするように空に向かって猛々しい声を上げる。
 下の口に集まるエネルギーは、今までの何倍も強力そうだ。雷はバチバチと火花を散らし、ますます眩しくなっている。

「なら、こちらは罠を発動しよう。『和睦(わぼく)の使者(ししゃ)』」

和睦の使者
通常罠

このターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージは0になり、
自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 強化された超電磁派がデスサイスに届く直前、青いローブを纏った女性たちが現れる。突如デスサイスの前に現れた彼女らの前で、超電磁派が向かう方向がねじ曲げられた。まるで見えない壁に遮られたかのように、サンダー・フォースは女性たちの前で、左右に分かれ、辺りの住宅地を壊していく。
 和睦の使者は、モンスターを破壊から守るカードだ。これがあれば攻撃力が一万だろうが3000だろうが攻撃をされても、ダメージをゼロに出来る上にモンスターも守れる便利なカードだ。ワンターンキルを防ぐ意味でも、デッキに入れるものも多い。

「罠カードまで実体化出来るのね」
「我らの『印(いん)』は、カードの効果を実体化出来るからな」

 そういえばアニメで、カードの効果を実体化できる決闘者がいた。彼らはその仲間なのかもしれない。

「さて、遊びは終わりだ。こちらのターンだ」

 デスサイスが何もない空間を鎌で切り裂いた。

「?」

 すると、ガラスが割れるような音が辺りに響く。その音の方向に何気なく目をやり、水葵は凍り付いた。さっきまで家があった場所には、暗闇が渦を巻いている。気付けば、あちこちに似たような真っ暗な渦が発生していた。

(空間に……渦?)
「印で作り出した世界をほんの少し、破壊しただけだ」
「は、破壊?」

 渦は徐々に増え、辺りの景色を黒一色に染めていく。

「この世界は、私の印の力でお前を一時的に異界に隔離したもの。そして、ここは異世界と異世界の境界線」
「境界線?」
「無闇に世界を破壊すれば……」
「え?」
「即ち世界と世界の狭間に落ち、永遠に彷徨うことになる」

 テラが勝ち誇ったように高笑いをすると、不意に水葵の足元が黒に染まった。急に足場の感覚がなくなる。支えを失った水葵の身体は、底が見えない深い闇の底へと落ちていく。
 下からの強烈な風に煽られながら、テラの笑い声が、デスサイスの姿が遠くなっていくのを水葵は見ていることしかできなかった。自身の叫び声が遠くなっていくのを聞きながら、水葵の意識は闇の底に沈んでいった。


 目を覚ました水葵が見たのは、見知らぬ光景だった。
 今まで住宅街にいたはずなのに、辺りの光景は埠頭になっていた。左右にはテトラポットが積まれ、打ち寄せた波が飛沫となって飛んで来る。前を見れば、大きな海がどこまでも広がっていた。

(埠頭?)

 ゆっくりと立ち上がり、水葵は辺りを見渡す。見たことがない光景だ。水葵が住む街は、海から遠い。少なくとも、近所でないことは分かった。

(デスサイスがいない。あれは夢?)

 辺りに、デスサイスの姿はない。全てが夢であったとでも言うように、何もかもがなくなっていた。
 生ぬるい潮風に髪を乱されながら、目の前に広がる海をぼんやりと水葵。しばらくして、夢なら、本当に夢だったのかを確認しようと鞄を開いた。持っているカードをチェックする。
 袋を開ければ、未開封のストラクチャー・デッキが三つ、と数個のパック、バラ売りで買ったカードがいくつも入っていた。どれも開封された形跡はなく、買った当時のままとなっていた。
 そして、決闘に使ったストラクチャー・デッキを見た水葵は固まる。
地面に置いたはずのルビー・カーバンクルのカードがあったからだ。もう一枚めくれば、アメジスト・キャットのカードが出てきた。

(宝玉獣のカード……やっぱり夢じゃない!)

 試しに自分の頬をつねると、痛みをはっきりと感じた。夢ではないらしい。

「ルビー、起きてる?」

 呼び掛けるが、返事はない。デスサイスが封印とか言っていたから、喋りたくても喋れないのだろうか。
 ルビーを起こすのを諦めた水葵は、家族に連絡を取ることにした。ここがどこか分からない以上、無闇に動けない。
鞄から携帯を取りだしたものの、画面にはまだ圏外の文字が表示されて いた。

「圏外? 通信障害かな」

 はあ、と水葵はため息。地図機能を見ようとインターネットを起動しようとしたが、これも繋がらない。困った。これでは自分が今、何処にいるか分からない。
 速く帰りたい一心の水葵は、必死に頭を回転させる。

(仕方ない。誰か人を探すか……)

 困った時には、誰かを頼るしかない。
 水葵は人を探すため、海に背中を向けてゆっくりと歩き始めた。

〜つづく〜

Re: 遊戯王 七つの輝きと光の守り手【更新再開】 ( No.216 )
日時: 2014/12/09 11:45
名前: ひとしずく (ID: 9kyB.qC3)

 埠頭から歩いて数十分。水葵は街に出てきた。
 辺りには首を反らさないと全体が見えない高層ビルがいくつも立ち並び、多くの人間が行き交う。この辺りは都会らしい。
 ここまでなら、新宿辺りにでも来たのかと思える。が、水葵が知る新宿には無いものが幾つかあった。その内の一つが、水葵の脇を通った白い物体。オソウジ、オソウジ、とうわ言のように繰り返しながら、機械で出来た手で辺りの清掃に励むロボット。これがあちらこちらにいる。周りの人間は特別な反応を見せず、ロボットの脇を素通りしていることからこの街ではよくある光景のようだが。
 更にビルを見上げれば、どこもかしこも遊戯王のモンスターばかり。例えばハンバーガーショップには、ハングリーバーガーと言った分かりやすいものから、コンビニの入口に描かれたキャラが青眼の白龍など繋がりがよく分からないものまで。どこも必ず遊戯王モンスターがいるくらい、街にはモンスターのイラストで溢れていた。
 初めて田舎から都会へ来た人間のように、水葵はキョロキョロした。

(何あの変なロボット。それに辺りは遊戯王のモンスターのイラストばっかり)

 秋葉原のような、決闘者の聖地かと錯覚する街だ。日本にはこんな場所があるのか、と首を傾げながら水葵は歩き続ける。
 しばらくすると、駅前のロータリーに出た。ロータリーは広場になっていて、様々な人々の憩いの場となっている。ベンチで休む人々などもいるが、一番多いのは若者。皆、D・パッドとD・ゲイザーを着用し、決闘に興じている。

「行くぜ、ダイレクトアタック!」
「させるか! 罠発動、ミラフォをくらえ!」

 白熱する決闘。辺りに集まる観客は彼らの友人だろうか。囃し立てたり、二人を応援しあっている。
 その輪に混じりながら、水葵はただ一人愕然とした。何故なら、水葵の世界でデュエルディスクを使った決闘など行われていないからだ。デュエルディスクを使うのは、アニメや漫画の架空の世界だけ。

(あれはデュエルディスク……何で?)

 早鐘を打つように高鳴る鼓動。何故だろう、嫌な予感がする。自分がとんでもないことに巻き込まれているような、そんな予感が。

(おかしい。あたしの世界に、デュエルディスクはない)

 決闘をする少年たちから足早に離れ、水葵はロータリーにある大きな時計の下に来た。一度落ち着こうと何度も深呼吸をし、家族に連絡を取るため携帯を取り出す。まだ圏外。
 ふと道端に公衆電話を見つけ僅かに希望を抱いた水葵だが、それはすぐに壊された。硬貨を入れようとしたのに、入らない。大きさが合わなかった。

「何で……」

 ショックで手から握った受話器が零れ落ちる。さすがにここまで来れば、自分がおかしな事態に巻き込まれていることに気が付いた。これではまるで、

「異世界トリップみたい」

 ポツリ、と呟いた言葉を水葵は否定した。異世界トリップなんて、小説や漫画の話だ。有るわけがない。馬鹿らしい。だいたい異世界なら使用言語が違い、言葉が通じるのはおかしい。言葉が通じるから、ここは日本だと水葵は自分を信じこませる。異世界に来たと言う唐突に沸いた感情を、頭の隅に追いやる。
 同じ日本ならどうにかして帰れるはず。こういう時は警察を頼るべきだ、と水葵は警察を探しにロータリーから出た。

 それから水葵は、見知らぬ街をふらふらとさ迷った。交番を探したが見付からず、110番にもかけたが繋がらない。
 その間に空はオレンジ色になり、やがて藍色に変わり。ふと水葵が空を見上げれば、空は暗くなっていた。仕方なしに水葵はロータリーに戻った。

(……もう八時かぁ)

 駅前にある時計を見上げると、既に八時を回っていた。
 この駅はそこそこ利用客が多いらしく、駅からたくさんの人が出てきた。夜遅いせいか、会社帰りらしい人々がほとんど。駅からが出てくる人々の一人を水葵は、ぼんやりと目で追った。スーツを着たOL風の女性は、ロータリーに来ていた車に乗り込んだ。その姿を見ていると、水葵は母親が迎えに来てくれたことを思い出していた。塾で遅くなった時、あんな風に最寄り駅のロータリーまで迎えに来てくれていた。

(……心配してるかな、みんな)

 自分がいなくなり、家族は、友人たちはどのように過ごしているのだろうか。デスサイスに襲われて、何日が過ぎたのか。様々な考えが頭を占拠し、離れない。
 何気なく空を見上げると、暗い空から小さな雫が一滴降ってきた。その雫は徐々に数を増し、本降りの雨となる。
 雨に気が付いた水葵は大急ぎで時計の下に避難したので、濡れずに済んだ。時計の下は、椅子の脚のような形をしていて入ることが出来るようになっている。

(雨、か)

 初めはポツリ、と小さく降っていた雫はすぐにザーザー降りに変わった。雨が降る音を聞きながら、水葵は困っていた。

(どうしよう……動けない)

 これでは歩けない。帰り道を探せない。じっとしていると、水葵は空腹を感じた。

 仕方なしに鞄から、最後の食糧であるメロンパンを取り出す。そして、かじった途端、耳に決闘仲間の友人の声が蘇った。近くのコンビニでパンを買い、公園で遊戯王をやって——喉元まで熱い感情が込み上げてくる。一人でパンをかじるのが、酷く惨めだった。

(みんな……どこなの)

 ポタポタとパンの空き袋を持つ手に涙が零れる。元の街に帰ろうと一人で頑張った水葵だが、そろそろ限界だった。もうどうすればいいのか分からない。頼れる人はいない。連絡はできない。食べ物もない。お金もない。

「え、あなた。まさか……」

 不意に声がしたので振り向くと、そこには青い傘を差した少女の姿があった。歳は十代の後半程。耳にかかる程度のショートヘアーの銀髪に、円らな青い瞳が印象的な可愛らしい娘だった。服も洒落ている。白いブラウスの上に藍色の上着、同じ色のスカート。学校帰りなのか、背中には可愛らしいデザインのリュックがあった。外国の人形がそのまま人間になったような感じ、と言うのが水葵の印象。ただ、腕にD・パッドをしている姿は異様だった。
 少女と水葵は、数秒無言で見つめあった。涙を流す水葵を見ていた少女は口を開いた。



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