複雑・ファジー小説
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- 守護神アクセス【Epilogue-2・中編】
- 日時: 2022/05/19 21:16
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: m3Hl5NzI)
2020年、夏の小説大会で金賞もらっていたらしいです。
投票してくださった方々、ありがとうございました。
___
本編の完結とエピローグについて >>173
目次です。
▽メインストーリー
File1:知君 泰良 >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6
File2:王子 光葉 >>9 >>10 >>11 >>12-13 >>14
File3:奏白 真凜 >>16 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>24 >>25 >>26
File4:セイラ >>27 >>28 >>29 >>30 >>31
File5:奏白 音也 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36-37 >>38
File6:クーニャン >>39 >>40 >>41 >>42-43
File7:交差する軌跡 >>44 >>45-46 >>47-48 >>49
File8:例えこの身が朽ちようと >>50-51 >>52 >>53 >>54 >>55-56 >>57 >>58
File9:それは僕が生まれた理由(前編) >>59 >>60-61 >>63-64
File0:ネロルキウス >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>72 >>73 >>74 >>75 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80 >>81
File9:それは僕が生まれた理由(後編パート) >>82
File10:共に歩むという事 >>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90-92 >>93-95 >>96-97 >>98 >>99
FILE11:人魚姫は水面に消ゆる夢を見るか >>100 >>101 >>102-103 >>104 >>105 >>106 >>107 >>108-109 >>110 >>111 >>112 >>113 >>114 >>115 >>116 >>117 >>118-119 >>121 >>122 >>123 >>124-125 >>126-127 >>128-129 >>130-131 >>132 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137 >>138 >>139 >>140-141 >>142 >>143 >>144
Last File:12時の鐘が鳴る前に >>145 >>146 >>147 >>148 >>149 >>150 >>151 >>152 >>155-156 >>157 >>158-159 >>160 >>161 >>162-163 >>164-166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>171-172
Epilogue-1 【守】王子 光葉 >>174-175
Epilogue-2 【護】知君 泰良 >>176-177
-▽寄り道
春が訪れて >>23
白銀の鳥 >>70-71
クリスマス >>120
▽用語集
>>8 File1分
>>15 File2分
>>62 File8まで諸々。それと、他作品とクロスオーバーしたイラストを頂いたのでそちらのURLも
▽ゲスト
日向様(>>7にイラストをくれました、感謝。What A Traitor!作者)
友桃様(Enjoy Clubの作者様。自分にとって小説の師匠や先生みたいな感じの方)
気軽にコメントとかもらえたら嬉しいです。
僕も私も異能アクション書いてるの!って子は宣伝目的で来てくれても構いません(参考にする気しかない)
- Re: 守護神アクセス ( No.58 )
- 日時: 2018/05/07 16:37
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: yVTfy7yq)
白雪姫がどこぞの王族であろうと容赦はしない。暴君による、断罪の時迫る。
「おい、どういうことだよ、あれ……」
「分かりません。味方、なんですか……」
唯一口を利ける程度に立っていられた王子は、セイラに呼びかける。目の前で荒ぶる知君の姿は、もう彼だとは思えなかったからだ。これまでも守護神アクセスすれば性格が変わることは何度も見られた。しかし、これほどまで立ち振る舞いが変容したのは初めてだった。
むしろ、仲間から搾取するように身体能力を奪い取ることなどできたのかと、納得するような部分もある。確かにクーニャンと戦っていた時も、能力で向上した分の膂力を自分に吸収はしていた。それなら不可能は無いのかと納得しつつ、だからこそ冗談じゃないと目の前の暴君を睨みつけた。
知君はしなかった。つまりは当然、味方に悪影響を及ぼすだろうからだ。にも関わらず躊躇も遠慮も無くこのネロルキウスは作戦を実行した。多少人格面が荒れようとも彼本来の性質である優しさをずっと維持していた普段の彼とは違う。
さらには、守護神を奪うと言う行為も衝撃だった。ネロルキウスは確かに、何でも略奪できる能力なのであると強く理解した。これまでも様々な守護神の能力を奪ったり、一時的に借り受けるようにして戦っている姿は見てきた。それにしても、そんなものまで奪うことが可能だなんて。
「にしても、何で守護神を奪うなんて回りくどいやり方……」
「それはおそらく、それが傾城との相性不利を覆す手段になるからです」
ネロルキウスの能力は、守護神同士の相性の問題で、白雪姫には通用しない。アリスから借り受けたように、他者の能力を奪って、ネロルキウスの能力として行使した場合も、同様である。何せその理屈であると、一旦アリスの能力をネロルキウスの能力として、彼の能力として使用していることになるのだから。
しかし今回の方法はそれとは根本的に異なる。今の状態は、知君が異なる二人の守護神と同時に守護神アクセスをしている状態だ。ウンディーネの能力はあくまでウンディーネとして用いられる。ネロルキウスが守護神ではなく、契約者の立場にある。それなら世界の相性を無視して戦うこともできる。
「そんなやり方あるんなら、何で今までやってこなかったんだよ」
「それをしないという選択を取り続けてきたのは彼自身です。多分……重篤なデメリットがあるに間違いありません。それも、彼にではなく、奪われた側の人間に、深刻な代償が」
自分に代償が降りかかると言うなら彼は、喜んで力を使うでしょうからねとセイラは言い添える。それもそうだなと、死にたがりに片足を突っ込んだような彼の生き方を思い返し、王子は納得する。
薄々、セイラはその代償の正体に気が付いていた。能力の行使権を無理やりに奪い取る行為。それは、守護神と契約した者との間に交わされている契約そのものが破棄されたと言っても過言ではない。本来、死以外で契約が破棄されることはあり得ない。それゆえ、一度破棄された契約を結びなおすための方法が、世界の理で定められていないとしたら。
この推測を、契約者の彼に対し伝える訳にはいかなかった。おそらく今後、王子の父は守護神アクセスができないなどと、彼には突き付けられなかった。ずっと、自分という人間の中での一番のヒーローを担ってきた父親が、もう戦えないだなんて知れば、状況も考えずして彼はネロルキウスに激昂するだろうから。
近くで見てきたから、理解している。知君が無理やり性能を抑えていた状態でさえ、ネロルキウスの能力は圧倒的に格上の存在だった。今の、枷が外れた状態のネロルキウスなど、手が付けられないに決まっている。
それに彼女は、悲しい事に傾城の特質など持ってはいない。それもそうだ、王族を虜にするだなんて、夢のまた夢。スタートラインに立つことも無く終わった物語のヒロインなのだから。
二人がそうこう話している間にも戦況は刻一刻と進んでいた。覚醒した暴威まき散らす君主、彼により七人の小人が次々と戦闘不能に陥り始めた。何度も何度も立ち上がる様子から、不死身なのかと思っていたが、そういう訳でもなかったらしい。単に体が驚くほど頑丈だっただけのようで、今の知君の攻撃には耐えきれないらしい。
それも当然、今の彼は数名分の守護神全員分の身体能力の向上補正が入っている。その内の一人は、圧倒的なまでの肉体活性を誇るアマデウス。そこに、第4班の人間の三、四人分の力まで加わっていれば、力の強さはこれまでの比じゃない。
飛び掛かる七人の小人が、一人また一人と数を減らしていく。飛び掛かるその胴を、足を、腕を掴むと同時に地面に叩きつけ、サッカーボールのように、宙に投げ捨てた後に全力で蹴り飛ばした。
それならと、距離を置いた小人が弓に矢をつがえる。一気に解き放とうとしたその時、不意に目の前で弓の弦が音を立てて呻った。矢はまだ放っていないのに、そう思ったつもりだが拳の中に握っていたはずの矢の束はいつしか消えてしまっていた。
本人が当惑する最中、バラバラと矢が地面の上に落ちる音が耳に届く。音がする方向を目にすると、掴んだ矢の羽から手を離した知君の姿。これから撃とうとしていた矢を奪い取ったのかと理解するのに時間はかからなかった。
強化された脚力、知君が小人との距離を一瞬で詰めたのは何も今更驚くことではない。その拳が小柄な男の頬へとめりこむ。守護神や、その能力によって生まれた連中には死や怪我の後遺症と言う概念は無い。拳を頬に食い込ませた勢いそのまま、強く地面に押し付けて、小人そのものを地面にめり込ませた。
ずしんと地響きが一つ、鳴り響く。知君と小人、二人を中心としてアスファルトの地盤に放射状のひびが入る。そこからは、一瞬だった。地面の内を無様に逃げ回る虫を雑に踏みつぶすように、自らの膂力に任せて蹂躙する。
「あれが、知君の戦い方だってのかよ……」
「本当に、そう思いますか?」
「思う訳ねえだろ……。あいつが、あんなやり方するかよ」
その通りですとセイラは頷く。あれはあくまで、彼の身体を乗っ取った男の姿なのだ、と。あれこそが、己の望み通りに世界を動かす悪鬼羅刹の器。最悪にして最強の暴君、知君がこれまで抑えてきた代物。よくも一人で、こんなものを。改めて彼の強靭な精神が窺える。
そんな人を救う事も出来ずに、自分たちは一体何をしていたのだろうか。後悔せども、遅い。もう彼はとっくに、飲まれてしまったんだから。
「いい気にならないでくださるかしら?」
毒の波が知君目掛けて襲い掛かる。真正面から襲い掛かるその濁流など歯牙にもかけず、先ほど洋介から奪い取った水の精霊の能力を用いて自分のコントロール下に置く。空気中の水蒸気を液化させ、巻き込んで一気に白雪姫へと押し流し返す。自ら生み出した分の紫色の液体こそ彼女は自在に消滅させられても、最初から宙に漂う水蒸気まで存在を消すことは不可能だ。ウンディーネの能力により新たに生成した水、それを勢いよく射出することで彼女の身体を貫く。血が流れている訳ではない白雪姫の腕に、直径一ミリ程度の風穴があく。漏れ出すものと言えば、彼女を蝕む赤い瘴気くらいのものだ。
「あら、フェミニストじゃないのね」
「寝首をかく女に惚れる男がいるとでも?」
「それもそうね」
そこからはもう、ただただ一方的な蹂躙だった。ウンディーネの能力さえあれば毒の能力など襲るるに足らず。そもそもネロルキウスには、白雪姫の能力が効いている様子は無いのだからそもそも彼女自身、彼に対して無力という他なかった。他の戦力と言えば七人の小人であろうが、それももう全て蹴散らされてしまっている。傷つき伏した彼らは、もうしばらくピクリとも動けないようだ。
加えて彼女自身体術も恵まれた部類ではない。肉弾戦までこなせるフェアリーテイルといえば桃太郎であるが、彼はまれな部類である。それもそうだ、お伽噺なんて、多くの場合不思議な力が主人公の都合がよくなるように助けてくれるのだから。
けれど今、世界の反逆者となった彼女にそんな加護は働かない。じわりじわり、などというものではなかった。あっさりと、川の激流を押し流されるように、敗北へと一直線に向かっていく。知君に捕らえられた彼女が組伏されて地面に押し付けられるまで、一瞬だった。
「王子くん、今です。……早く、解放してあげましょう」
「ああ、そうだな」
ネロルキウスもそのつもりだったらしく、早いところこの女の瘴気を取り払えと王子達に指示した。普段であれば自分の能力で赤い瘴気を奪い取っている所だが、やはり傾城に対してそれはできない。彼がセイラ達を野放しにしていたのは、最後の処理を任せるためだった。
これ以上苦しんでいる親友の姿など見たくない、その一心で人魚姫は、今まで以上の力を振り絞る。一秒でも、刹那の時間でも構わない。彼女が男に組み敷かれて苦しむ時間は、出来得る限り短くしたかった。
悲しい旋律が戦場を駆け抜ける。こちらの陣営は疲労困憊、少なくない被害も出てしまった。白雪姫が美しい顔を歪ませ、瘴気が抜け去る際の苦悶に耐える悲鳴が響き渡る。
自分たちが勝利を収めた実感など、毛ほども湧いてこなかった。
そしてその勝利など、余韻に浸らせる暇も与えないと言わんがばかりに現れた影一つ。
「おい知君ぃ、これは一体どういうことか話してみろや」
うさん臭さの浮かぶ声音、軽やかに風に揺らした白髪、目を開けているかも疑わしいような細目は、狐みたいに、まるで笑っているのかと勘違いするように弧を描いている。しかし、その中心に座し、ほんの少し顔を見せた瞳の奥には、笑みなど何一つ浮かんでいなかった。
暴走したという報告を受け、すぐさまこの男は駆け付けたのだ。己が作り出した化け物の行く末を見届け、場合によっては始末するために。
そしてこの状況は、考え得る限り最悪の場合であると言えた。
「次暴走したら、殺す以外あり得へん言うたよなあ、儂は」
「琴割 月光か。お前も久しいな。して、余に貴様が干渉できると?」
「当然じゃ、儂のジャンヌダルクはELEVENやしなあ」
「やめておけ。今ここでお前がおおっぴらに能力を使えば、流石に誤魔化しきれんぞ」
ELEVENは、その能力を勝手に使用してはならないと言う取り決めがある。いくらでも戦争を引き起こし、いくつもの世界を滅ぼすだけの力を持っているからだ。発案者である琴割本人が己の老いと死を拒絶している以外には、絶対に能力を行使してはならない、と。
しかし、これまで琴割は、自分一人phoneを用いなくても守護神アクセスできるのをいい事に、些細な事に時折能力を使ってきた。奏白がドロシーのもとへ駆け付ける直前、踏み出そうとする意志を拒んでいた時などがその例だ。
流石にはったりは通用しないかと眉をひそめる。なら仕方ないと、無理やり実力行使に出ることにする。
「ばれへん範囲でやるしかないやろ。おい奏白」
お前たちが、『この場においてこの後、能力の干渉を受ける』ことを拒絶する。そう彼は指示した。彼が能力を行使して数秒後、さっきまで腕さえ上がらなかったというに、段々と体に力を取り戻し始める。
なるほどと、ネロルキウスは納得した。如何にジャンヌダルクとはいえ、既に自分の能力を受けてしまった彼らの状態を拒絶できないはずだが、未来の彼らを対象とすればまだその体力を奪われる前の段階である。それを今のうちに拒絶しておけば、ELEVENの超耐性によりネロルキウスにとって奏白達は不可侵の存在となる。
解釈次第で、能力の扱い方次第で戦況が覆る。世界の理はやはり奥が深いと、暴君はそっとほくそ笑んだ。
そんなもん何も面白くないと吐き捨てるように、立ち上がった捜査官たちに一斉に指令を下した。あまりに冷徹な命令、その言葉に、王子は、セイラは、そして真凜は、己の耳を疑った。
「目の前のネロルキウスを始末せぇ。器の知君ごと殺してしまえば、あいつは異世界に引っ込むからな」
その言葉に、真凜の心臓は強く飛び跳ねた。
File8 例えこの身が朽ちようと・hanged up
- Re: 守護神アクセス【File8・完】 ( No.59 )
- 日時: 2018/09/11 11:52
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: EnyMsQhk)
耳を疑った。仮にも市民を守る警視庁、その統監たるこの男は今、何と命令した。知君を殺せ、そう口にしたのか。ネロルキウスを鎮めるためだけに、何の落ち度もない高校生の息の根を止めろと、そう言ったのか。一人、少し離れた位置にいる真凜は、ようやっと体が動くようになったことに気が付いた。
近くに無造作に転がっているスノーボードを手に取り、すぐさま飛び乗る。早く行かなきゃ、疲れた体に鞭打って、一秒でも早く。幸いなことに、彼らは誰一人動いていない。充分素早く移動していると言うに、その数秒間がもどかしかった。次の瞬間、奏白が知君を背後から殴りかかるかもしれない。王子がセイラと共に攻め入るかもしれない。それなのに、その場に居合わせていられない自分が、どうしても嫌だった。
あの子を死なせてなどなるものか。あの子が、あの子にとって大切な人の手にかかって殺されるだなんて、そんな不幸な未来などあってなるものか。それじゃ、あまりに報われない。彼が今まで、わが身を賭して自分たちを守ってくれていたのは、決して彼らに殺されたいからなんかじゃない。
きっといつか、そうしていれば受け入れてもらえると、信じて疑っていなかったからだ。いたいけな少年の、そんなあどけない願いにこたえられなくてどうするんだ、信頼にこたえられなくてどうするんだ。
これまでずっと、真凜は彼のことを仲間だなんて見ようとしてこなかった。守るべき一市民として見てきた。ならここで守らずして、どこで守るんだ。その誓いを、都合よく今だけ切り捨てる訳にはいかない。
そうこうしている間に、局面は動こうとしていた。けれどもそれを何とか抑えてくれていたのは、王子 光葉だった。
「待ってくれよ、何で知君が死ななきゃいけないんだよ」
「ずっと前から、あいつが言ってたんだよ。もし僕がいつか暴走したら、被害者が沢山出る前に、殺してくださいね、って」
約束したんだ。重い口調で奏白はそう諭すように呟いた。諭す相手は、王子というよりも自分自身といった色合いが強かっただろう。何せ彼は、警察の人間で唯一、知君のことを最初から仲間だと認めて歩んでいた者だから。だからこそ、ここで最も知君を始末することに抵抗を感じているのは自分だと信じて疑っていなかった。
「でも、それでも……! 何であいつがっ」
「いいから! あいつが、そうしてくれって頼んだんだよ。仕方ないだろ、自分のせいで苦しむ人なんて見たくないって言ったのは、他ならぬ知君自身なんだからよ」
他者を傷つけるぐらいなら、命ぐらい捨てる。そんな覚悟、ずっとあいつはしてきたからと奏白は主張する。
「あいつが、誰かの犠牲の上に帰って来て、喜べる訳無いんだ、だから」
「ここで、仕留めるしか、ないってのかよ」
それが本人たっての望みと言うなら仕方がないのか。やりきれない思いを抱えたまま、彼もまた決意と共に友人の姿を見た。誰かを思いやる心に溢れた、慈愛という言葉を誰より体現しているような男。級友でもあるというのに、どこか尊敬までしているその男を、今からこの手で討たねばならない。その現実が、二か月前まではただの高校生に過ぎなかった彼にとってはあまりに重たかった。
確かに、これだけ派手にやらかしてしまえば、戻ってきた知君が笑顔になるとは到底思えなかった。覚悟を、決めるしかないのか。だが、そんな彼の前に虚像でしかない人魚姫が立ち塞がる。そんな事をしちゃいけないと、かぶりを大きく振って否定した。
「駄目です、そんな事しちゃ。王子くんの心が耐えられません」
「大丈夫だよ。今まであいつが耐えてきたのと比べたら、これくらい」
「いいんですか、そんな簡単に諦めて」
「でも、こうするしか!」
臨戦態勢に入っているのは何も二人に限った話では無かった。当然、誰を差し置いても孤立したネロルキウス……に乗っ取られるままの知君もそうであるし、後ろで控える太陽たちも同様であった。最高位の上司による至上命令、それも今まで忌々しく思ってきた者を屠る仕事。
それなのに、どうしてここまで心が痛む。そんな理由、これまで知君のことを疎ましく思っていた彼らにも、すぐに分かる。本当は気づいていた、彼と言う人間がどれだけ大きな存在であるのか。それなのに、どうして今まで傷つけることしかしてこなかったのか。何より太陽にとっては、弟の言葉が突き刺さっていた。
普段は嫌いってことだろ。そうだよな、俺みたいな歳になっても、嫌われるのは願い下げだ。それなのに。「俺たちまだガキなんだからよ」って、言われないと気づけなかった。どれだけ細いその肩に、どれだけ重たいものを乗せてきたのかを。
ならここで、彼の望み通り終わらせてやるのが正解、であるはずなのに。どうしてこんなに、寝覚めが悪い。結局のところ自分たちは彼の望みを叶えてやることが癪に障ると言うのだろうか。
「おい、早くせえ。待っとったらこっちがお陀仏やぞ」
不思議と、ネロルキウスは好戦的な目でこちらをねめつけてはいるものの、返り討ちにしようと踏み出してくることは無かった。不思議な事だと訝しむが、こちらの出方を伺っているのだろうかと琴割は判断した。彼にとってこの対策課も使うべき駒の一つとして捉えているからこそ、できることなら壊したくないと思っているのだろうな、と。
だが、その予測は見当違いであった。まだネロルキウスが仕掛けてこない理由に気づいているのは、この場においては真凜一人だけであった。戦場に一陣の風が吹き抜ける。猛スピードで宙を駆け抜けた一人の女性の影走る、それゆえだ。
今にもその場に居合わせた捜査官は全員、仕掛けようとしていた。しかし自分たちより一足先に空を裂くように飛ぶ、その姿に足を止めた。残る全ての捜査官達を置き去りにして、彼ら全員と向かい合い、知君を庇うようにして彼女は立ちはだかった。
その行動は、あまりにも意外だった。一番驚いていたのは奏白だっただろう。何せ立ち塞がった彼女は、彼の中では最も知君を庇いそうにない人間だと思っていたからだ。
急ブレーキをかけた反動で、彼女の長いポニーテールがゆらゆらと揺れた。ボードから降り立ち、正面に並んだ数名の捜査官と、人魚姫の契約者を睨みつける。その気迫に、誰しもが気圧された。二人の高校生を除いた、捜査官の中では最年少の女なのにも関わらず、その表情には鬼気迫るものがあった。
怒っているようで、でも泣きたいようでもあって。そして何より、誰かの真似をするように、何とか笑顔を作ろうとしているみたいで。何に似ているのだろうか、あの表情はと考える。そうか、あの様々な感情が、ない交ぜになったような表情は、般若の面に似ているのだ。
「ねえ、皆何してるの……?」
震えた、今にも泣きだしてしまいそうな声。喉からようやっと搾り出したようなその声を耳に資、誰もがその戦意を失ってしまった。
「ねえ、皆、何でそんな事できるの。ここまで……事件が解決してきたのは誰のおかげなの?」
私にはできない。強く、何より強く、彼らが決めた覚悟よりもずっと強く、彼女は己の決意を主張する。けれども、強い口調で仕方が無いんだと奏白は反駁した。
「仕方ないだろ、あいつたっての望みなんだから!」
「仕方なくなんかないわ。今まで、何のために戦ってきたと思ってるの」
「……治安統治のためだろ」
「揚げ足取られないようにって、難しい言葉わざわざ使わないで」
人々を護るためでしょう? 真凜は確認するように問いただす。図星だと言わんがばかりに目を背けて、奏白は頷いた。あまりに真っすぐな、彼女の瞳なんて、今の自分には見ていられなかった。
「何でその枠の中に、彼の事を入れてあげられないの?」
「入れてえよ」
「入れたらいいじゃないっ……」
「仕方ねえだろ、知君は大事でも、今のあいつはただの暴君なんだからよ」
あれは、俺たちの仲間の皮を被っているだけの悪人だと奏白は断言する。
だが、そんな言い訳を真凜は許容しなかった。
「じゃあ、ここにいる彼を始末してみる? そしたらどうなる? 身体を操っていた守護神は無事に異世界に帰って、本当に死んじゃうのは被害者の知君くんよ?」
「うるせえな、分かってんだよ」
「ええ加減にせえよ、真凜。一刻を争う一大事なんやぞ、そこにいる化け物片づけるんは」
「化け物なんかじゃないわ」
ここにいるのは、ただの一人の、十代の男の子だと彼女は言う。怖くも何ともない。彼の危険性を主張するどの声よりも確固たる信念を持って主張する。彼が、人を傷つけられるはずが無いと。
「強情張っとる場合か。そんな言うなら未来予知でもしてみろや。散々な結果が出るじゃろうがな」
「そんな事する必要なんて無いわ」
そう言うが早いか、挑発に乗るように真凜は、あっさりと守護神アクセスを解除した。宙に浮いていたボードがカランと音を立てて地に落ちる。彼女の身体を纏っていたオーラはたちまち霧散して消えてしまった。
一体何をしているのかと、彼女の行動を目にした彼らはそのまま一様に目を丸くし、あんぐりと口を開けた。何をしているのかと叱責する声も上がる。殺されるぞ、そんな注意すら。
けれども彼女自身はそんな忠告に耳を傾けない。傾ける必要などない。何せ彼女は、後ろに控える少年のことを信用しているのだから。
メルリヌスの能力なら、己がどう発言するかに依り彼らがどのように反応するのか予知することによって、最適な回答を用意することができる。それゆえ、無難な答えを用意することはいくらでも可能なのだ。
しかし、それでは意味が無い。そんな、おっかなびっくり、ずるをしながら言葉を交わしても、彼の心には響かないと彼女は分かっていた。だから、そんな卑怯な真似をしないよう、していると疑われないように守護神アクセスを自ら解除した。これから口にするのは、私自身の本当の気持ちなのだと示すために。
「やめろよ真凜、意固地になんなよ。最後ぐらい、あいつの希望に沿ってやれよ」
「ふざけないで。皆何も分かってない」
「俺よりお前の方が、本当に知君のこと分かってるってのかよ!」
「ええそうよ、兄さんは、上っ面だけ見て、可愛がって……理解してあげようだなんて思ってないわ」
「お前も一切そんなことしてこなかっただろうが」
「そうね……。でも、さっき人魚姫に教えられてようやく、見てあげようって決めたのよ、その本心を」
仲間だったら、そのお願いを聞き届けて、安らかに死なせてあげなければならない?
そんな理屈、馬鹿げているわと彼女は切り捨てた。
これまでの罪滅ぼしとして、最後に大義ある終わりを迎えさせてあげる?
そんなものただの自己満足よと、奏白以外の者を叱咤した。
「結局そんなの、面倒なものを切り捨ててるだけ。反省なんて何もしてない。結局のところ、自分たちが楽になりたいから、彼を消すことで安心しようとしてるだけ」
本当に申し訳ないだなんて思っているのなら、生きている彼に詫びなければならない。これまでの言葉を、仕打ちを、視線を、態度を。それからようやく始まるのだ、彼に応えるための新しい日々が。これまで多くの人を救ってきた彼を、幸せにしてあげるだけの日々が。
「知君くんね、まだ高校生なんだよ。死にたいなんて、思える訳ないじゃない。ねえ、考えてよ。彼ね、今までずっと、本心なんて誰にも見せないように、って過ごしてきたんだよ。何で、死にたいだなんて言葉が、本心だなんて思えるの。認めて欲しいなんて我儘言わずに、辛いだなんて弱音を吐いてこなかった彼が、自分を殺してくれだなんて残酷な本心だけ、口にする訳ないじゃない」
助けてください、なんて彼が言える訳ないじゃない。彼女の発したその言葉が突き刺さる。
「ねえ、頼まれなかったら皆は助けようとしないの? そうじゃないよね。だって見たら分かるわ、彼の心はあんなにも助けて欲しいって叫んでる。口に出さないのは、自分を助けるのにはきっと、多大な犠牲を必要とすると思い込んでいるから」
自分の命よりも、ずっと価値のある別の命が散らされては堪らない。それゆえ彼は、一人で抗い続けるのだ。それなら自分が死んだほうがましだなんて。そう思っても仕方ない理由を彼女は確信していた。
彼の中ではきっと、知君 泰良という人間に、価値は無いのだと。
そんな事無いって教えてあげなきゃいけない。他の誰でもない、この私が。
「知君くんだけじゃない、ここにいる全員に教えてあげる。貴方にもよ、ネロルキウス」
そこでようやく、彼女は振り返り、ネロルキウスと目を合わせた。かつてあんなに恐ろしいだなんて思っていたのに、今は簡単に向き合うことができた。何故かなんて、問う必要も無い。答えは簡単だ。これは、剣を手にしていないだけで、大切な誰かを護るための戦いなのだから。
今の彼女の背に隠れた護るべき人影はたった一つしかない。けれど、そのたった一つが何よりも重たかった。強く塗り固めた壁の中に、誰より脆い心を抱えた、本音もろくに口に出せない弱虫な少年。檻に囚われた彼を、救い出さなくてはならない。
ノアの箱舟から飛び立った、鳩のように。貴方は自由に空を飛ぶように、生きていていいのだと。
「私がこれから見せてあげる。全知全能の力を持っていても知ることのできない、誰かを幸せにするための方法を」
それはネロルキウスに対する宣誓だった。お前から必ず、彼を取り戻して見せると言う、硬い決心。
さっきは拒まれてしまったけれど。自嘲気味に彼女は笑う。さっきは、照れくささかプライドからか、言葉を端折り過ぎたから、仕方ない。だから今度は、恥ずかしくたって赤裸々に、想いを伝えようじゃないか。
私と君とで、大切な話をしよう。その言葉を、知君の意識が戻ってくるまで、一旦彼女は胸の内にしまっておいた。
- Re: 守護神アクセス【File9前編・開幕】 ( No.60 )
- 日時: 2018/09/11 11:59
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: EnyMsQhk)
私と君とで、大切な話をしよう。その言葉を、知君の意識が戻ってくるまで、一旦彼女は胸の内にしまっておいた。
それは面白いことを言うものだとネロルキウスは彼女を嘲笑った。先ほどの光景を見てなお、貴様は俺を恐れていないのかと、興味深そうに。しかし真凜には、それが強がりだと気づいていた。
「大丈夫よ、知君くんは私を傷つけたりしない」
現にさっきから、こっちに手を出してきていないじゃないと、彼女は得意げに指摘する。知君は、ネロルキウスに意識を奪われないようにとずっと抵抗していた。それと同様に、暴君の側が常に意識を取り去ろうとしていたというなら、同様に本来の身体の持ち主も、取り返そうと躍起になっているのではないかと推測していた。
「女、変なことを抜かすな」
虚飾の言葉。その表情が忌々し気に強張った。やはりそうだ、彼が先ほどから黙ってこちらを睨んでいるだけなのは、その脳裏でまだ知君とのせめぎあいが続いているからだと真凜は確信する。それならば、まだ彼の意識を呼び戻すことは十分に可能だ。
だから諦めず、問いかけ続ける。君ならちゃんと、帰ってくることができるのだと。
「貴方は優しくて、強い子でしょう? 早くそんな意識なんて追いやっちゃいなさい」
「思いの外阿呆か貴様は。今までお前が強いと思ってきたのはこいつでなく俺の力だぞ」
「御していたのは彼よ。ほら、できるでしょ?」
ほほ笑む真凜。その顔を見たネロルキウスはというと、急に苦悶の表情を浮かべた。頭が割れてしまいそうな鈍痛に、思わず割れて砕け散ったりしないようにと頭を両側から抱え込むように左右両方の腕で抱き込んだ。
余計なことをと、苦々し気に彼は真凜へ激しい憤怒を込めた視線を向けた。琴割の妨害さえ無ければここでとっととその命を奪ったやったものをと、恨み言を一つ残したかと思うと、より一層大きな、断末魔のような絶叫を轟かせた。
天地を揺るがすような激しい雄たけび。それはまるで、フェアリーテイルが正気に戻るときに苦悩するあの悲鳴とよく似ていた。
次の瞬間、弱弱しい目に変わる。今にも倒れてしまいそうなふらふらの身体に、覇気のまるで足りていない瞳。長い長い距離を泳いで、ようやく陸に打ちあがった者のように、その意識は朦朧としていた。
守護神アクセス中特有の黒色のオーラこそそのままだが、その儚くて、今にも消えてしまいそうなか細い姿は、間違いなく知君だと言い切ることができた。だからこそ彼女は、大きな声でその名を呼びかける。けれども、その声を耳にし、意識が覚醒した彼はというと、正反対に真凜のことを突き放した。
「こっちに来ないでください」
「どうして? さっき、二度目の守護神アクセスの前に言ったでしょう。君と私とで、大切な話をしよう、って」
そんな訳に行かないと、弱弱しく、小さく首を横に振る。その動きさえ、未だに痛々しい。いつ再びネロルキウスが出てくるかなど分からない。脳裏のネロルキウスの猛攻に抗うのに精いっぱいなのか、phoneの電源を落とすと言う発想が出てきていないようだ。
もしかしたら、今更電源を落としても無駄なのかもしれないなと真凜は思い至った。けれども、もう何も心配はいらないのだからと、彼女は知君の方へと歩み寄っていく。一歩、また一歩と近づいてくる様子を見て、彼はと言うと弱弱しくその歩みを止めようとする。
「駄目です……また、傷つけてしまうから……」
「そんなことないわ。傷ついてるのは知君くんの方よ」
「違わないです。その手……血が出てる。僕がやったんだ」
真凜の手を指さす。親指の付け根のあたりの皮がめくれて血が滲んでいた。ああ、これねと、事も無さげに彼女は呟いて。
「これは関係ないわ、戦ってる時についただけ」
気にしないで、そう告げたが、ちゃんと彼は覚えていた。Callingするなと手を握られた時、無理やり振りほどこうとして、引っかかった爪が彼女の皮を削いだことを。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! それは僕がつけた傷だ。守らなければいけないのに、よりによって僕が傷つけたんだ!」
両手を見れば爪の先に、真凜の物と思われる血痕が、少々。自分のせいで流させた血液が、何よりも汚く見えた。後悔が、慙愧が、とめどなく訪れる。呼吸がまた荒くなり、楽になりたいなら余に身を委ねろと、彼がまた。
薄れそうになる自我を引き留めたのは、真凜の声だった。
「いいの、かすり傷よ。気にしないで」
私は大人だから、こんなのへっちゃらだと知君の一歩先にまでたどり着いた彼女が笑う。けれども、それで本当に気にしないと割り切れるほど、彼は図太くない。
「気にしますよ、こんなことしちゃったら……それこそ、死んで詫びるしかないじゃないですか!」
「そんな悲しいこと言わないで。君は確かに何だって知っているけれど、誰にだって間違いはあるんだから」
「でも……正解しか知らない僕は、間違えちゃいけないんだ。間違えちゃいけないのに、僕は、僕はぁっ……」
虹彩の輪郭がぼやける。けれども、その瞼の淵から涙が零れないようにと何とか押しとどめた。泣いたら怒られるから、それだけはしてはならない。すぐそこで琴割がみているというのも、涙腺の門を閉じるには十分すぎる後押しだった。
ひゅっと、肝が冷えるような想い。あの人はまた、自分に失望しているだろうかなんて、後ろ向きな思考が、また。
「あのね、知君くん。それが正解かなんて、その時まで誰にも分からないものよ」
最後の一歩を踏み出し、目と鼻の先まで近寄る。来るな、そうやってまた、少年は強い言葉を用いて叫び、突き放す。
それでも今度こそは、彼女はひるまなかった。
「本当に君は、強情だよね」
全部見透かしたように真凜は茶化す。絶対、離れてなるものですかと、彼が一歩退く度に距離を詰めた。
「来ないでください。真凜さんだって、ずっと僕の事、怖がって……」
もはや瞼の裏に焼き付いた、怯え切った彼女の瞳。その恐怖は紛れもなく、毎回、自分に向けられているものだと知君は気が付いていた。誤魔化しても無駄だとは真凜も思っていた。それに今は、本当の気持ちを伝えるべき時だから。嘘偽りなんて、必要なかった。
「そうね、すごく怖かった」
「ほら……」
その代わり、今まで伝えられなかった言葉を添える。今度こそ、言い漏らす訳にはいかない。間違った受け取り方をした彼が、悲しまないように。
「君が、君じゃなくなっちゃうのが、すっごく怖かった」
ゆっくりと、噛んで含めるように彼女は、一語一語大切にしながら言い聞かせた。その言葉にひどく驚いた彼が、ちゃんと理解できるように復唱する。もっと分かりやすいように、噛み砕いて。「優しい君が、どこかに行ってしまいそうなのが、とても怖かった」のだと。「知君くん自体は全く怖くないわ」だなんて。
ずっと言わなきゃいけないとは、思ってたんだけどね。そう言って彼女は知君に頭を下げ、真っ直ぐにその瞳を見つめて。あの日、ずっと前に言いそびれた大切な言葉を告げる。人である以上決して忘れてはならない、とても大事な、暖かい言葉。
そう、感謝の言葉だ。
「アリスから、助けてくれてありがとう」
ずっと、言えていなかった。助けてくれたのに、果たすべき義務を果たしていなかった。その後彼は倒れてしまったのに。そんなになってまでも戦ってくれたのに、妙に怯えていた真凜は、そんな簡単な言葉すらも伝えられていなかった。
「そんなの、当たり前のことじゃないですか」
「その当たり前のことへの感謝が、私には足りていなかった。あの日豹変した君が、君じゃなくなったみたいですごく怖かった」
本質なんて、何も変わってなかったのにね。
「あのとき君は、アリスを倒すより私の回復を優先させた。優しい君のままだって、分かってたはずなのに、凄む君がとても怖くて、強すぎる力に嫉妬して、お礼なんて言えなかった」
もう知君は、遠ざかることを諦めていた。額に手を当てて、意識の混濁に抗いながらも、何とかして真凜の言葉を聞いていた。
それは、彼女が望んでいるからというよりも、その先の言葉を彼自身が望んでいるからだった。どうして、こうやって聞いているのか、自分にはまるで理解できない。真凜の話の行きつく先に、どんな言葉が待っているのかなど分からないまま、けれどもその目に見えない目的地が何だかやけに眩しく感じられて、引き寄せられるままに耳を傾ける。
けれどもやはり、傷つけてしまいそうで。視界の隅に彼女の傷ついた手がちらつく度に、そんな事を考える。声だけは、ちゃんと聴くから、離れてくれと、彼は懇願する。
「駄目です、僕に触れたら、また怪我させて……。だから」
ネロルキウスの業火のような黒色のオーラは、未だ燃え盛るように彼の身体を取り巻いていた。触れてしまえば、本当に焼け焦げてしまいそうなほどに、強く、唸りを上げている。
何よりも禍々しく、触れた者を全て灰と化してしまいそうなほどだ。触らないで下さいと、眼光を不安定に揺らしながら、独りぼっちの辛さを噛み殺して、真凜を遠ざけるように両手を突き出した。
しかし、そんな拒絶などに、彼女は屈しなかった。
「ほんと君は、嘘ばっかつくんだから」
- Re: 守護神アクセス【File9前編・開幕】 ( No.61 )
- 日時: 2018/05/07 16:48
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: yVTfy7yq)
「ほんと君は、嘘ばっかつくんだから」
母親が、姉が、出来の悪い息子や弟を笑いながら叱りつけるように、クスリと破顔して、彼女の両腕がネロルキウスの黒色のオーラを引き裂くように踏み込んだ。知君が突き出した両腕が腹の辺りに当たっても、関係ない、それすら巻き込むようにして彼女は、知君との距離をさらに詰めていく。
闇を切り裂いて、ついに彼女の両腕は知君の背中を捉えた。えっと驚く暇も無いまま、そのまま一挙に彼の身体は彼女の方へと引き寄せられる。その顔が、自分の首元に密着するようにして、彼女は力強く、華奢な少年の身体を抱きしめた。もう、離れていかないようにと。
「ずっと、こうして欲しかったんでしょ?」
すぐには言葉が出なかった。抱きしめられているだなんて、想いも寄らなかった。そんな事してくれる人がいるだなんて、毛ほども思っていなかったから。抱えてくれるその身体が、離れて欲しくなんてないのに、ずっと求めていたはずなのに、裏腹に知君はそれを突き放そうとする。けれども、真凜はそれも抑え込んで、受け止めて見せる。ちょっとくらいの抵抗も可愛いものだと、受け止める。
「危ないですよ、すぐに離れてください」
急に手に入れた人肌が、どうにも怖かった。今までずっと得られなかったものが急に目の前にぶら下げられると、手を出すのが逆に躊躇われる。けれども、恐れる必要なんてないと、真凜は優しく、辛抱強く諭す。彼の凍った心が解けるまで。じっくりと時間をかけて。
「大丈夫よ、だって君は知君くんだもの」
知君くんである、その一点以外に理由など必要なかった。君なら体を預けるに値すると、信用を我が身を用いて示す。
「でも、いつネロルキウスがまた……」
「大丈夫よ、知君くんは強い子だから、負けたりなんてしないわ」
「そんな、確証なんて、どこにも」
「いいから黙って話を聞いて、もしそうなっても、君の手にかかるのなら私は本望よ」
そんな事にはならないと、誰より信用しているから。背中に回していた両腕の内、右手だけを頭の方にやる。小人と戦っていた時にぐしゃぐしゃになっていた髪の毛を、手櫛で漉いてやるようにして、頭を撫でる。頭痛も、ネロルキウスの呼びかけも、全部が春先の雪のように溶けていく。この感覚は、一体なんだと言うのだろうか。
「壊死谷の時は、アドバイスをくれてありがとね。君がいなければ、きっと私はあそこで折れちゃってたから」
「私がいない時、兄を支えてくれてありがとう。おかげで兄さんは、かっこいいままでいられたから」
「クーニャンに追い詰められた時、助けてくれてありがとう。すごく、かっこよかったわ」
「何言ってるんですか? 真凜さん……」
知君は言われるがまま口を閉ざしていたが、重ね重ね投げかけられたありがとうの五文字に、背筋がむず痒くなる。今まで、そんな事一度も口にしなかった真凜。彼女の言葉だから、こんなにもむず痒い。何でこんなにそわそわするのか、考えても彼には分からない。
けれども傍目に見ればきっと明らかだったろう。彼の心は弾んでいたから。段々と、苦悶の表情は和らいで、いつものような優しい顔を取り戻しつつあるから。
「これはね、今までずっと隠してきた、私の本音」
ずっと、黙っててごめんね。伝わってるだなんて、勘違いしてた。その言葉に、返す答えを急に見失ってしまった。ずっと、嫌われていると思っていたのに。うとましがられていると思っていたのに。僕なんて居ない方が良いって、思われてると確信していたのに。
言葉を失う知君に、真凜は呼び掛け続ける。言葉にしないと伝わらないと言うのに、ずっと伝えるのを怠っていた本当の気持ち。感謝の気持ちと、懺悔の気持ち。彼が本当に強い人だと認める、賞賛の気持ち。
いつも一人っきりで戦ってくれてありがとう、本当に、私たちは助かっているわ。
一人で抱え込ませてごめんね、伝わってるだなんて勘違いしていた。君なら大丈夫だなんて、言い訳して。口にするのが恥ずかしいな、なんて思っちゃって。
傷ついていること、気づいてあげられなくてごめんね。私、大人なのにね。
一つ一つ、知君がちゃんと理解できるように。何度も。いくつもの。彼が待ち望んでいたであろう優しい言葉。誰かの口から聞きたかった、認めてくれる、自分の存在を証明してくれる言葉。
「そんなのいいですから、早く、早く離れてください」
「大丈夫よ、貴方は、こんなにも暖かい。誰よりも優しい……強い心を持っているから」
暖かい、その言葉にようやく、彼女に包まれた自分の身体が、とても暖かいと感じていることに気が付いた。密着した体から、彼女の拍動が伝わってくる。とん、とくんと脈打つ心臓。生きているのだと囁く心臓。この、生きているということが、これ程までに暖かいのか。
さっき手を握られた時は、あんなにも冷たかったのに。今の真凜は、受け入れてくれる彼女は、春先の陽気よりも暖かくて、羽毛の枕よりも柔らかくて、何百年生きた大木よりも大きく感じた。
手を握ってもらえる暖かさなんて知らなかった。抱きしめてくれる温もりなんて知らなかった。それなのに、彼女は、こんなにも簡単に彼に、その温もりを教えて見せた。
でも、それでも彼はまだ、自分自身の事を受け入れられない。ここにいるべき理由を証明することができない。
「駄目です、僕は受け入れられるべきじゃないから。ここに居ちゃいけないから。人を傷つけちゃう僕なんて、兵器にもなり得ない。こんな僕なんていない方がましだから」
また、胸の内で抗う。けれども、決して離さないようにとより一層力強く抱き留める。ずっと自分のことを傷つけようとする彼に、彼女の声にも嗚咽が混じり始める。それでも、彼に伝えるべきことを忘れることなく、彼女はもっと優しい声で、その耳に囁き続ける。
「そんな悲しいこと言わないで。貴方はネロルキウスの器なんかじゃなくて、知君 泰良、っていう一人の人間なのよ」
兵器なんかじゃない。君はちゃんとこの世に生まれ落ちた、息を吸って吐いて、心臓を打ち鳴らして、喜んで笑って、悲しくて泣いて、辛くて怒って、楽しくてほほ笑んで、春には桜を見て、夏には熱さに項垂れて、秋には紅葉を綺麗だなんて思って、冬の寒さに耐えながらまた新しい春を待つ、そんな風な、当たり前の人間、その内の一人なのだから、と。
「でも、僕には生きる価値なんて……」
「価値なんて考えなくていいの。人はね、そこにいるだけで隣の人を幸せにできるものよ」
「でも、僕にはそんな相手なんて、何処にも」
「ちゃんといるわ」
己の全てを否定する知君、彼女はその言葉を遮るように彼のことを肯定する。
けれども、にわかにはその言葉を、彼には信用できない。誰が自分の存在に幸せを見出してくれるというのだろうか。
「何処にいるんですか? 仲間がいないなんて生易しいものじゃない、父も母もいないこの僕は、一体誰を幸せにできると言うんですか?」
父も母もいない、彼が天涯孤独の身であるとは既に聞いていた。彼が一人暮らしをしている理由の一つに身寄りが誰一人いないということが起因していると。
だが、それは彼を愛する人がいないという理由にはなり得なかった。
「他の誰もが貴方を嫌っていても、恐れていても、私だけは貴方を受け入れてあげる。貴方の笑顔だけで、心安らぐことができるわ。知君くんがいるだけで、幸せだって思えるの」
これまでずっと、帰る場所が無かったのなら、泣きつく場所が無かったのなら自分がその居場所になってあげる。これからは、君の事を支えてあげる。皆のことを救う君を、私を助けてくれた君を。よく言うでしょ、人っていう字はね、支え合ってできているものよ。君が人を助けた分だけ、私が君を支えてあげる。
「今まで認めてあげられなくてごめんね、貴方は、私にとって」
その先の言葉が、何となく彼には予想できた。ここまでずっと続いてきた真凜との一対一の対話は、全てその言葉に集約されるためのものだったのだろうと。
気が付けば、止めようと思っていた涙が彼の双眸から滝のように流れ出ていた。辛くて悲しくて寂しくて泣いた時には、たったの一滴しか出なかったのに、嬉しいだなんて感じた途端に、涙腺が故障したみたいに、とめどなく涙が溢れ出した。
泣いちゃだめだ泣いちゃだめだって、言い聞かせても、一向に止まってなんてくれなかった。
ずっと、認めて欲しいと思っていた。
ずっと、その肩書が欲しいと願っていた。
真凜達がその言葉で自分のことを区分してくれることを、待ち望んでいた。
僕はずっと、互いに心を曝け出して、腹を割って話せるような、その肩書を持つに相応しいのだと、認めて欲しかったのだ。
彼の涙を胸元に受け止めながら、力強く彼女は、今まで認めてあげようとしてもこなかった、その言葉を口にした。彼女にとってその言葉は紛れもなく本当の言葉で、そして何よりも知君を喜ばせるに値する言葉だと、分かっていたから。
「貴方は私にとって、かけがえのない大切な仲間なんだから」
ずっと、ずっと待ち望んでいた。仲間だって言ってくれた。大切だって認めてくれた。その事実に身体中の水分全部失って、干からびてしまいそうだったけれど、こんな干からび方なら幸せだ、なんて思ったりして。けれども、泣いちゃいけないと彼はその涙を止めようとする。
「泣いちゃ駄目なのに……涙は見せちゃ駄目だって、言われてるのに」
「どうして? いいじゃない、泣いても。私の服なんて濡れてもいいから、おもいっきり泣きなさい。いいこと教えてあげるわ知君くん、辛い時はね、ぐっと堪えるの。貴方がしてきたみたいにね。だから、嬉しくて嬉しくて、その喜びが目からも溢れてくる時はね、精一杯泣きなさい。今この瞬間、僕が一番幸せなんだ、って」
「いいんですか、こんな僕がここに居続けて、ほんとにいいんですか」
「ええ、いいの。ネロルキウスの器だからじゃない。君が君だから、ここにいて欲しいと願うの。誰よ
り強くて、その力を、護るために使う。そんな心優しい貴方のことが私は大好きよ」
だからずっと私の隣にいて。そう囁いて彼のことをより一層強く抱き締めた。段々と、胸元に涙が広がって、熱くて熱くて仕方ない。けれどもその幸せな滴が誇らしくて仕方なかった。声にならない嗚咽だけが響き渡る。これから顔を合わせなければならない様々な問題がある、今この場の戦闘が無事に終わったとは到底言いがたい。
それでも、誰もが二人のことを黙って見守ることしかできなかった。最後まで自分勝手に、彼のことを殺そうだなんて考えた自分達が、他の捜査官達は心底情けなかった。自分達に、知君をなじる権利など何一つ無い。
この場に勝者がいるとしたら、真凜一人だけであろう。彼女は、宣言通りに大切な仲間を救えたのだから。もう、ネロルキウスの残滓すら感じない。いつの間にか、知君の守護神アクセスは途絶えていた。
「もしもまた、自分の価値に悩んだのなら、思い出して。貴方はね、今日という日のこの瞬間に、報われるために生まれてきたのよ」
真凜の言葉が胸に深く染み込む。幼い頃刻み込まれた価値観が次々と覆っていく。
僕はここに居てもいいんだ。そんな簡単なことをようやく彼は知って、生まれてきて以来、一番大きな声をあげて、泣き続けたという話だ。
- Re: 守護神アクセス【File9前編・開幕】 ( No.62 )
- 日時: 2018/05/06 14:55
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: EnyMsQhk)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=925.jpg
ファジーにてアスカレッドを投稿なさっているトーシさんが書いてくださったイラストがURLの代物になります。
アスカレッドは本スレと同じで、異能力を取り扱った題材です。
場面の説明など、状況を説明するのがとても上手な方が書いている作品で、何気ない日常的な描写も凄く楽しく読むことができるんですよね。
お勧めです。守護神アクセスを許容できる人間はこの作品以上にあちらを楽しむことができます。
そちらの作品に登場する瀬川白鳥さんと、うちの作品の奏白真凜さんのツーショットですね。
左側が真凜さんで右側が白鳥さんです。
アスカレッドはとりあえず青太くんがかっこいいので読んでみてください。
さて、ついでにお久しぶりの用語集……なのですが新規の用語全然ないんですよね。
それゆえ今回はキャラクター紹介みたいなものですね。
壊死谷さん
数少ない人間の悪役。さらには数少ない、本質的な悪役。
フェアリーテイル達が基本的に、本質が悪人でないというのにこの男は……。
この男がわざわざ真凜の敵になったのは、この世界ではちゃんと人間の犯罪もあるのだと示すため。
後、書く隙間はありませんでしたが、こいつの持っているのは改造された違法なphoneです。
とても厄介な敵にございますが、読み進めれば分かる通り、16歳の中国人女性の方がよほど強いです。
星羅ソフィア
名前をせいらと呼ばせるために羅刹の羅が名前に入ってくることに。物々しい。
星でバランスをとったつもりか貴様は。そう作者に問いただせ。
シンデレラの契約者である。しかし出番は無い。
本編でも彼女と契約して後、初夜以外でずっとシンデレラは暴れていない。
しかも元から強すぎたせいで、そしてソフィアとシンデレラが似ているせいで、守護神アクセスしていることにも気づかれなかった。何やこいつら。
ソフィアとシンデレラが似ていることはあの世界でも取り上げられたが、ずっと外国にいたソフィアと日本でしか暴れていないシンデレラがたまたま似ているだけと判断される。そりゃそうだね。
ちなみに最近シンデレラが静かなのはなぜかというとソフィアとのアクセス許容時間を伸ばすため日々特訓中。
今作の世界観で、人間の中では一番の美形枠。
シンデレラ
作中のフェアリーテイルと区分されるキャラの中では最強。間違いない。
誰もが知るようなハッピーエンドの主人公。それゆえあの世界での地位はかなり高い。
人魚姫から見たらお姉さん的なポジション。本名はアシュリー。
「やーい、お前の母ちゃんでべそー」と言っても傷つかない。むしろ喜ぶ。
意地悪な継母だしね……。
琴割さん
一言で言おう。胡散臭い。
能力はチート。自分で作った国際条例さえなければフェアリーテイルなんざ一人で全滅させられる。
この世界観において、引き分けはできても彼に打ち勝つ能力者なんて存在しない。
それ言い始めるとELEVENは大体皆そう。
ただしELEVENの中でphoneを用いずにアクセスできるのはこの人だけ。
浦島太郎
あっさりやられた。
一言で言うと弱い。
相手が奏白兄貴なのもどんまい、ってね。
というかこれでむしろ察せられる、アリスって化け物だったのだなあと。
ドロシー
オズの魔法使いが好きだと言った知り合いの言葉に感化されて奏白さんの敵になる。
何て単純な理由。だが作者はオズを呼んだことなかった。それゆえネット上のストーリーまとめを参考に作った。
かかしとライオンと木こりとがキャラ立ってたせいで、奏白さんの決め台詞が増えること増えること。
それは張りぼての力だろ?そう言って巨大絡繰りを達磨落としのように簡単に壊された可哀想な幼女。
アリスより弱い桃太郎より弱い。
クーニャン
日本語弱い。かわいい。
ざ、ふりーだむぱーそん。かわいらしい。
知君をちきみんと呼び、ネロみんなんて略称をつけ、王子をぷりんすと呼ぶ。相棒の桃太郎に至ってはちびっこだし、琴割さんは白髪オヤジ。自由過ぎる。
真凜のことはお姉さまと呼ぶ。なんでや。奏白さんのことは若作り扱い。
ネロみんに惨敗しているが、王子と真凜には完勝している。戦ってはいないけれど奏白にも勝っちゃう。
だがしかし悲しいかなシンデレラには負ける。
美人でハニトラ技術は持っているが、こやつに舞い込むのは暗殺任務ばかり。それも色仕掛けを使わない。
一応細身の女だから初見で油断してもらえる。
ドラマやアニメで日本語学んだりするので日々達者な発音になるが時折「おっす、おら悟クーニャン!」とか言い出す。
Toxic
ロックバンド。奏白さんと王子が大ファン。
眠り姫
急造で用意された王子の敵。
とりあえず傾城の特質を持っているキャラクターを王子に処理させておきたくて彼女になった。
こいつの戦闘シーンは難しすぎて吐き気がした。今見返しても微妙。
茨の砦のあたり、語彙が本当に足りなかった。
それゆえその後のごりごり肉弾戦するクーニャン戦は楽しくなりました。
水色の髪の、パジャマ姿の女性。眠り姫だからと安直すぎる。
のびたくん並にすぐ寝付く。成長期かな?
白雪姫
氷雪系の能力は使えない。
そして悲しい事にまた子分を従えていた。この作品、子分のいない敵が少なすぎる。
暴君ネロルキウスに組み敷かれる。傾城とは思えないくらい男に手玉に取られているが仕方ない。
まあでもこいつのせいでちきみんのメンタルにとどめを刺す羽目に。
でもその後ちきみんが美人のお姉さんにハグしてもらえたかと思えば彼女のおかげに……なりませんね、はい。
ネロルキウス
ついに降臨しやがった。正直一番厄介な敵である。味方サイドの癖に。
でもこう見えて傾城に弱いんですよ。
綺麗なねーちゃんに弱いだなんて、彼も結局はただの男なのねと鼻で笑ってやりましょう。
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