二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- ポケットモンスター 魔王と救世の絆
- 日時: 2018/04/30 21:14
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: OiWubliv)
こんにちはこんばんはおはようございます。パーセンターです。
今回は紙ほか板から映像板に進出して、また懲りずにポケモンの二次小説を執筆したいと思っております。
今回は前作との繋がりはほぼ断ち切った完全新作です。
カウントすれば5作目になりますね。まだ向こうの「星と旋風の使徒」は完結しておりませんので、同時進行となります。
※注意事項(?)
・いつものことですがノープランです。更新のペースも早かったり遅かったりします。
・上でも述べていますが、前作までとの繋がりはほぼありません。まだ「星と〜」が完結していませんしね。
・登場するポケモンは第七世代までです。執筆中に第八世代が出てきたらまたその時に考えます
・上に関連して、パーセンターがよく使っているベガポケモンですが、今作では『出ません』。設定上は存在している設定ですが今作には出ません。
・ベガの技は普通に出ます。ついでにオリジナル技も結構たくさん出ます。オリ技の説明は随時公開するのでご安心ください。
・オリキャラとかオリ技の募集も近いうちにすると思います。皆さん協力お願いします。
それでは、新しい主人公の新しい物語が始まります。よろしくお願いします。
登場人物紹介
>>34
オリ技紹介
>>45
プロローグ
>>1
ハツヒタウン編——旅立ち
>>6 >>7 >>8
シュンインシティ編——経験
>>15 >>20 >>28 >>32 >>35 >>36 >>37
カザハナシティ編——ライバル
>>38 >>40 >>43 >>44 >>46
ヒザカリタウン編——出会
>>55 >>56 >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>65
サオヒメシティ編——Evolution
>>66 >>70 >>71 >>72 >>73 >>74 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80 >>81 >>82 >>83 >>84 >>85 >>86 >>91
ハダレタウン編——大会
>>92 >>94 >>97 >>98 >>99 >>102 >>103 >>104 >>106 >>108 >>109 >>110 >>111 >>112 >>113 >>114 >>117 >>118 >>119 >>120 >>121
カタカゲシティ編——試練
>>122 >>123 >>124 >>127 >>128 >>129 >>130 >>133 >>134 >>135 >>136 >>138 >>139 >>140 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>146 >>147 >>148 >>151
ノワキタウン編——友情
>>152 >>153 >>156 >>159 >>160 >>162 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>175 >>176 >>177
イザヨイシティ編——実力
>>178 >>180 >>181 >>182 >>183 >>184 >>185 >>186 >>187 >>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>195 >>196 >>197 >>198 >>199 >>200 >>202 >>203 >>204
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- 第93話 反射 ( No.164 )
- 日時: 2017/05/02 10:10
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
93
「さあシンボラー、行きますよ」
ヴィネーの言葉を受けて、背後に控えていた異形の鳥もどきポケモン、シンボラーが進み出る。
魔神卿ヴィネーに相対するのは、ノワキタウンのリーダー格の男、メイゲツ。
「アブソル、片付けろ」
対するメイゲツが繰り出したのは、額に黒い鎌を持つ白毛の獣ポケモン、悪タイプのアブソル。
「ふむふむ、エスパータイプには悪タイプ。なるほど、セオリー通りですね」
ヴィネーは一見すると柔和な、しかし確かに邪悪さを含んだ笑みを浮かべる。
「ですが勿論対策は完備していますよ。シンボラー、シルフウィンド!」
細い翼を羽ばたかせ、シンボラーは白く輝く風を吹かせる。
「フン、フェアリー技か……アブソル、ギガスパーク!」
アブソルの額に電気が溜まっていき、巨大な電撃の砲弾を作り上げる。
放出された電撃の砲弾は白く輝く風を突き破り、シンボラーへと直撃した。
「おや……シンボラー、大丈夫ですか?」
電撃の砲弾を受けたシンボラーは、痺れに堪え、体を震わせて体勢を整え、頷く。
「よしよし、偉いですよ。シンボラー、エナジーボール!」
シンボラーが自然の力を一点に集め、淡く輝く光の弾を放出する。
「アブソル、躱せ」
光の弾を身軽に躱し、アブソルは地を蹴って飛び出す。
「イビルスラッシュ!」
そのまま一気にシンボラーとの距離を詰め、瞬時に連続で鎌を振るい、シンボラーを切り裂く。
「シンボラー、シルフウィンド!」
だがシンボラーもただではやられない。翼を羽ばたかせて輝く風を吹き付け、アブソルを風に巻き込み、メイゲツの元まで押し戻した。
「次はこうです。シンボラー、冷凍ビーム!」
続けてシンボラーは不気味な単眼から白い冷気の光線を放射する。
「アブソル、躱せ」
シンボラーの放つ冷気の光線を跳躍して躱しつつ、
「スプラッシュ!」
額の黒い鎌に水を纏わせ、それをシンボラーへと叩きつける。
「シンボラー、躱してはいけません。そのまま冷凍ビームを」
冷気の光線を放ち続けるも、アブソルには当たらず、シンボラーは水を纏った刃に叩き飛ばされてしまう。
しかし、
「っ、アブソル!?」
着地したアブソルの体勢が、急に大きく崩れた。
メイゲツが驚きアブソルの足元を見ると、地面が綺麗に白く凍り付いていた。
「ふふっ、気づいていませんでしたね。シンボラー、シルフウィンド!」
素早く体勢を立て直し、シンボラーは白く輝く風を吹かせる。
凍った地面では踏ん張ることも躱すこともできず、アブソルは風に巻き込まれ、宙に吹き上げられてしまう。
「シンボラー、冷凍ビーム!」
「アブソル、溶かせ! 怒りの炎!」
宙に吹き上げられたアブソルへとシンボラーが白い冷気の光線を撃ち出す。
対して、アブソルの瞳が一瞬だけ赤く輝く。
怒りの感情を力に変え、アブソルは荒れ狂う灼熱の爆炎を噴射する。
「シンボラー、食い止めなさい。サイコキネシス!」
咄嗟にシンボラーは念力で炎を操る。
炎を完全に消すことは出来ないが、念力に防がれ、シンボラーに炎は届かない。
「裂け。アブソル、イビルスラッシュ!」
自らが放った炎の中をアブソルは駆け抜ける。
サイコキネシスが効かないのを利用し、炎と念力の壁を容易く突破、額の黒い鎌を瞬時に振るい、シンボラーを切り裂く。
「やりますね……メジャーな三タイプの大技に、主力となる悪タイプの技。さすがに一筋縄では行きませんか」
「あまり俺を甘く見てくれるなよ、悪党かぶれの三下が。悪党ってのはな、カタギの人間には手を出さねえんだよ」
笑みを浮かべもせず、メイゲツはヴィネーを睨むが、
「はい? だから何だというのでしょう?」
それに対して嘲るような笑みを浮かべ、ヴィネーはそう返す。
「そんなことくらい分かっていますよ。それとも、まさかとは思いますが、自分たちのことをカタギの人間だと言い張るつもりですか?」
「っ……てめぇ……」
「この場にいるカタギの人間は、横で戦ってる少年ハル君だけです。分かってますか? 善人かぶれの三下さん」
蔑むようにせせら笑うヴィネー。
「……容赦しねえぞ」
「ふふ、いいでしょう」
メイゲツとヴィネー、そして互いのポケモンが再び動き出す。
「アブソル、ギガスパーク!」
「シンボラー、躱してシルフウィンド!」
アブソルが大きく叫び、巨大な電撃の砲弾を放出するが、シンボラーはふわりと飛び上がって電撃の砲弾を躱すと、細い翼を羽ばたかせて白く輝く風を吹かせる。
「撃ち破れ。怒りの炎!」
アブソルが瞳を怒りに染め、荒れ狂う爆炎を吹き出す。
灼熱の爆炎が白い風を薙ぎ払い、シンボラーを荒れ狂う炎の中に飲み込んだ。
「イビルスラッシュ!」
炎に体を焼かれるシンボラーの横を、アブソルは一瞬で通り過ぎる。
すれ違いざまに額の黒鎌を振るい、シンボラーを切り裂いた。
「おや、シンボラー……」
地面に倒れたシンボラーは全く動かない。明らかに戦闘不能だ。
「おやおや、先手を取られてしまいましたか。シンボラー、お疲れ様でした。休んでいてください」
ヴィネーはシンボラーを労い、ボールへと戻す。
「まさか先手を取られてしまうとは。たかがゴミ捨て場の住人だと思って甘く見ていましたが、少しはやるようで」
「舐めんなよ。俺様はこのノワキタウンのリーダーだ。カタギの人間には手ぇ出さねえが、俺たちから何か奪おうってんなら容赦しねえ。出て行ってもらうぜ、この場所から、もしくは、この世からな」
「……ふっ」
そこでメイゲツは、確かに聞いた。
ヴィネーの笑った声を。何か笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまったような、そんな声を。
「残念ですが」
薄ら笑いを浮かべながら、ヴィネーは続ける。
「その程度では足りないんですよ。たかが無法地帯のリーダー如きでは……私たちゴエティアにはね」
不気味な笑い声と共に、ヴィネーは二つ目のボールを取り出す。
「それを今から教えて差し上げますよ。キリキザン、裁きを下しましょう」
ヴィネーの二番手となるポケモンが姿を現す。
身体の至る所に鋭い刃を持ち、赤い鎧を身に纏ったような人型のポケモンだ。
「鋼タイプなら都合がいい、焼き尽くしてやるよ。アブソル、怒りの炎!」
アブソルの額が真紅に光り、荒れ狂う灼熱の猛火がキリキザンへと撃ち込まれる。
炎は瞬く間にキリキザンを飲み込み、その鋼の体をじりじりと焦がしていく。
しかし。
「キリキザン、メタルバースト!」
炎の中から、アブソルに向けて無数の銀色の光が放出される。
躱す隙すら与えず、無数の銀の光弾がアブソルを貫いた。
「アブソル!? っ、メタルバーストだと……!」
「ふふっ、ご存知のようですね。でしたら説明は不要ということで」
メタルバーストは受けた技のダメージを大きくして相手にそのまま返す技だ。
鋼タイプを持つキリキザンには炎技は効果抜群、つまり、アブソルはその大ダメージをさらに上回るダメージを受け、そのまま戦闘不能にまで追い込まれてしまった。
「……チッ。アブソル、戻りな」
アブソルをボールに戻し、メイゲツはすぐさま二つ目のボールを手に取る。
「だったら……ドラピオン、出番だ」
メイゲツの二番手は巨大な紫色の蠍のようなポケモンだ。手や尻尾の先には、頑丈な爪が生えている。
「毒と悪タイプのドラピオンですか……こちらからは有効打はありませんが、毒技が効かない分、こちらとしては余裕がありますよ」
それに、とヴィネーは続け、
「私のキリキザンにはメタルバーストがある。これを攻略しない限り、貴方は私には勝てない」
「だったら、こいつを食らいやがれ! ドラピオン、ミサイル針!」
ドラピオンの両手の鋏が白く光り、無数の白い棘がミサイルの如く一斉に飛び出す。
「キリキザン、メタルバースト!」
次々と白い棘を突き刺されたキリキザンの体が輝き、無数の銀色の光弾がドラピオンを貫く。
しかし、
「無駄だぜ」
ドラピオンはまるで表情を変えず、すぐさま起き上がる。ほとんどダメージは受けていない様子だ。
「ミサイル針は大量の棘を突き刺す技だが、一発一発の威力はたかが知れている。メタルバーストが反射できるのは、針一発分のダメージだけ。痛くも痒くもねえぜ」
「なるほど、そのようですね。ただそれさえ分かってしまえば、こちらは別の戦法をとって攻めるだけ。大した脅威ではないですね」
メイゲツと彼の二番手、ドラピオンに対し、ヴィネーは相も変わらず不敵な笑みを浮かべ、キリキザンを従え対峙する。
- 第94話 破砕 ( No.165 )
- 日時: 2017/05/04 14:48
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
紅蓮の牙を剥き、血走った目を見開かせ。
ヘルガーが体勢を崩すワルビルへと飛び掛かる。
「……一か八かだ! ワルビル、シャドークロー! ヘルガーの口を掴め!」
一瞬の判断。
ワルビルが右手に黒い影を纏わせ、影の爪でヘルガーの口を掴み、その口を塞いだ。
ヘルガーの牙を纏う炎の力は、口を塞がれたことによって力の行き場を無くし、ヘルガーの口内で爆発してしまう。
その結果。
「なにっ……!?」
口内で爆発が生じ、ヘルガーが大きく吹き飛ばされた。
「今だワルビル! 噛み砕く!」
吹き飛んだヘルガーを追い、ワルビルは大顎を開いてヘルガーへと襲い掛かる。
ヘルガーに頑丈な牙を食い込ませ、そのまま大きく首を振ってワルビルを投げ飛ばし、ヘルガーを地面へと叩きつけた。
「っ……ヘルガー!」
地面へ叩き落とされたヘルガーは、目を回して倒れていた。戦闘不能だ。
「ほー、やるじゃねえか。ヘルガー、戻って休めよ」
ヘルガーをボールへ戻したベリアルは、いくつかのボールを手に取り、それらを眺める。
「さてっと、次は誰で行くかねぇ。暴力に任せて押し潰しちまってもいいが、それは任務の時にいつでも出来るし……たまには戦闘を楽しむか」
やがて二番手が決まったらしく、ベリアルは一つを手に取り、残りのボールを仕舞うと、
「破砕を、ドリュウズ!」
頭部と両手を鋼の鎧で武装した、モグラのようなポケモンを繰り出した。
『information
ドリュウズ 地底ポケモン
頭部と腕を構えてドリルのように
高速回転しながらの突撃が得意。
分厚い鉄板を容易く貫く破壊力だ。』
鋼タイプと地面タイプを持つポケモン、ドリュウズ。
そこまで大柄なポケモンではなく、ハルよりも背丈は小さい。
しかし、
(あの鋼の角に鋭い爪。小さいけど、かなりの強敵だよ)
見ただけで分かる程の実力。そしてそれ以前に、ゴエティアの戦闘担当を名乗る男のポケモンが弱い訳がない。
「ワルビル、相手は小さいけど強敵だ。気をつけてかかるよ」
ハルの言葉を受けてワルビルは頷き、ドリュウズを睨む。
「今度は先手はやらねえぞ。こちらから向かわせてもらう! ドリュウズ、アイアンヘッド!」
鋼の角を突き出し、ドリュウズが地を蹴って飛び出す。
猛スピードでワルビルとの距離を詰めるドリュウズに対し、
「ワルビル、穴を掘る!」
ワルビルは素早く地面に穴を掘り、地中へと身を隠す。
だが、
「地下から攻撃か……だが甘い! 迎え撃てドリュウズ、ドリルライナー!」
両手と頭の角を構え、ドリュウズは高速回転しながら地面へと突っ込んでいく。
地面を揺らしながらドリルのように地中を掘り進み、姿を隠して忍び寄っていたワルビルに激突、そのまま地上へと弾き飛ばした。
「なっ……!」
「俺様のドリュウズに地中から攻撃なんざ百年早えよ。ドリュウズ、やっちまいな! シザークロス!」
吹き飛ぶワルビルを追い、ドリュウズが勢いよく跳躍する。
鋭い鋼の爪を交差させ、ワルビルを切り裂いた。
「ワルビル!?」
空中で斬撃を受けたワルビルは撃墜されて地面へと落ち、目を回して戦闘不能になってしまった。
「ワルビル、お疲れ様……。っ、なんて攻撃力だ……」
確かにヘルガーとの戦いでダメージは受けていたが、それでもワルビルはまだまだ戦える体力が残っていたはずだった。
それがたった二発で戦闘不能。やはりそこはゴエティア魔神卿のポケモンということか。
「次は……君の出番だ。頼んだよ、ファイアロー!」
ハルの次のポケモンはファイアロー。地面技と鋼技に加えて虫技のシザークロスも効きが悪く、こちらからは炎技を効果抜群で撃てる。とはいえドリュウズの攻撃力が圧倒的であるため、タイプ相性もあまり当てにならないが。
「チッ、ファイアローか……岩技を覚えさせておけばよかったぜ」
ファイアローを見てベリアルは露骨に嫌そうな顔をするが、
「うだうだ言っててもしゃあねえか。ドリュウズ、蹴散らせ。ぶち壊す!」
ファイアローをその瞳に捉え、ドリュウズが飛び出す。
渾身の力を込めて、ファイアローを貫かんと鋼の爪を突き出す。
「ファイアロー、躱してニトロチャージ!」
対してファイアローは軽やかな身のこなしでドリュウズの破壊の爪を躱すと、力強い啼き声と共に体に炎を纏い、ドリュウズへ突撃する。
「迎え撃てよドリュウズ、アイアンヘッド!」
鋼の角をさらに硬化させ、ドリュウズが頭突きを繰り出すが、
「ファイアロー、それも躱して!」
翼を羽ばたかせて僅かに浮上し、ファイアローはドリュウズの頭突きを躱すと、頭上からドリュウズに激突、攻撃と同時に追加効果で素早さを上げていく。
「逃がさん! ドリュウズ、シザークロス!」
だがドリュウズもその程度では怯みもせず、ベリアルの指示に即座に反応、地を蹴って跳躍し、ファイアローを追って両腕の爪を振るう。
恐るべき速度をもって追いつくや否や、両爪を振り下ろし、ファイアローを地面へと叩き落とした。
シザークロスは虫技、炎と飛行のファイアローにはあまり効かない。しかし、
「ぶち壊す!」
鋼の剛爪を振りかぶり、ドリュウズが急降下する。
大地を穿つ一撃と共に、ファイアローが大きく吹き飛ばされた。
「ファイアロー! っ、やっぱり火力がおかしい……」
何をどうしたらここまでの攻撃力に育て上げられるのだろうか。
何とかファイアローは耐えたが、間違いなく体力を半分以上は持っていかれた。
「ちっ、耐えるのかよ。並のポケモンなら一撃で沈めるのが俺のドリュウズなんだがな。やっぱり同じタイプの技じゃねえと無理か……」
一方のベリアルはこの一撃でもまだ満足できないようで、頭を掻きながら悪態を吐く。
「……まぁいいか。どうせ次の一撃をぶつけりゃそいつも戦闘不能。圧倒的な攻撃力の下に相手を粉砕する、それが俺様のドリュウズだ」
鋼の爪を鋭く光らせ、ベリアルの言葉と共に、ドリュウズはファイアローを見据えて両腕を構える。
ベリアルが追撃を仕掛けて来なかったのは、一撃で倒せるものだと思っていたからか、それとも、今は勝利よりも戦闘に重きを置いているからか。
「さぁ、行くぞ。ドリュウズ、アイアンヘッド!」
硬く鋭い鋼の角をさらに硬化させ、ドリュウズは地を蹴って飛び出し、ファイアローへと突撃を仕掛ける。
「パワーじゃ勝てない……ファイアロー、躱して!」
翼を羽ばたかせ、火花を散らしながらファイアローは急上昇、ドリュウズの頭突きを躱すと、
「ニトロチャージ!」
その身に炎を纏い、炎の勢いを受けてさらに加速しながらドリュウズへと迫っていく。
「ドリュウズ、弾き飛ばせ。ぶち壊す!」
背後から突っ込んで来るファイアローに対し、ドリュウズは振り返って腕を振りかぶる。
だがベリアルの予想以上にファイアローのスピードは速く、破砕の爪を突き出す前にドリュウズは炎の突撃を受けて突き飛ばされてしまう。
「ファイアロー、深追いはしないで。一旦戻るよ」
さらにスピードが上がるファイアローだが、ドリュウズの攻撃力を警戒し、ハルはそれ以上の追撃は指示しない。
「何だ、来ないのか? だったら次はこっちの番だぜ。ドリュウズ、潜れ! ドリルライナー!」
角と両腕を構えてドリルのように高速回転し、ドリュウズは地面へと突っ込み、地中へ身を潜める。
「だったらファイアロー、上昇だ」
ファイアローは翼を広げ、大きく飛翔する。
ドリュウズの攻撃が届かない空中から、様子を探る。
だが。
「ドリュウズ、ぶち壊す!」
ベリアルが指示を出した直後だった。
轟音と共に大地が割れ、無数の岩片が弾け飛び、ファイアローの翼へと刺さる。
僅かにだがファイアローの動きが鈍った、その刹那。
腕を突き出したドリュウズが地中から飛び出し、鋼の剛爪がファイアローを穿った。
- 第95話 流れ ( No.166 )
- 日時: 2017/05/05 18:25
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
「キリキザン、こちらからも動きましょう。ヘビーブレード!」
メタルバーストを主軸として待ち一辺倒だったヴィネーのキリキザンが、自分から動き出す。
両腕を構えて突撃し、腕に備えた刃を勢いよく振り下ろす。
「ドラピオン、受け止めろ! ポイズンクロー!」
鋭い爪を備えた両腕で、ドラピオンはキリキザンの両腕をガッチリと受け止めると、
「投げ飛ばしてミサイル針!」
力尽くでキリキザンを投げ飛ばし、すぐさま無数の針の弾幕を発射する。
「キリキザン、纏めて薙ぎ払ってしまいなさい。ヘビーブレード!」
刃を備えた右腕を思い切り振り抜き、キリキザンは無数のミサイル針を纏めて弾き飛ばす。
ただしそれでも全てを薙ぎ払うことはできず、残った針がキリキザンの体に刺さる。
「この程度ならば痛くもありません。キリキザン、辻斬り!」
「ドラピオン! こっちも辻斬りだ!」
キリキザンが飛び出し、ドラピオンはどっしりと構えてそれを迎え撃ち、互いの刃がぶつかり合って火花を散らす。
「ヘビーブレード!」
だがその次の動きはキリキザンの方が早かった。
ドラピオンと拮抗する右腕の力を一切緩めないまま、キリキザンは左腕の刃を思い切り振るい、ドラピオンを横から叩き飛ばした。
「キリキザン、ストーンエッジ!」
さらにキリキザンは地面を叩きつけ、ドラピオンに向けて地面から多数の岩の柱を出現させる。
「っ、ドラピオン、叩き割れ! ポイズンクロー!」
毒を帯びた強靭な鋏を振り下ろし、ドラピオンは足元からそり立つ岩の柱を粉砕するが、
「キリキザン、辻斬り!」
その間にも攻撃の手を緩めないキリキザンが刃を構えてすぐさま追撃を掛けてくる。
「ドラピオン、躱して炎の牙だ!」
今度は正面から対抗せず、ドラピオンはキリキザンの振り抜く刃を躱すと、口を開いて牙に炎を灯し、キリキザンへと噛み付く。
鋼の体を焦がし、大きく首を振ってヴィネーの元へとキリキザンを投げ飛ばした。
「なるほど、炎技をお持ちですか。これは気をつけて戦わなければいけませんね」
鋼タイプのキリキザンに炎技は効果抜群。炎の牙はそこまで威力の高い技ではないが、ダメージは中々のようだ。
「ドラピオン、ミサイル針!」
「これで防いでみせましょう。キリキザン、ストーンエッジ!」
ドラピオンが無数の針の弾幕を放つが、対するキリキザンは腕を地面に叩きつけ、今度はキリキザンの目の前に尖った岩の柱を出現させる。
そびえ立つ岩の柱によって無数の針は全て止められてしまい、その後ろにいるキリキザンには届かない。
「キリキザン、辻斬り!」
跳躍してキリキザンは岩の柱の上に立ち、さらにそこから大きく飛び、落下の勢いをつけてドラピオンへと斬りかかる。
「ドラピオン、受け止めろ!」
対するドラピオンは両腕と尻尾の鋏を構え、その場から動かずにキリキザンを迎え撃つ。
三つの鋏でキリキザンの腕を受け止めると、
「投げ飛ばしてミサイル針!」
追撃がくる前に腕を振ってキリキザンを投げ飛ばし、すぐさま無数の針の弾幕を発射する。
宙を舞う状態でさすがに躱すことはできず、キリキザンは針の弾幕を浴びてしまう。
「ドラピオン、もう一度続けろ!」
地面に落ちたキリキザンへ、ドラピオンはさらに針を放ち続けるが、
「キリキザン、ストーンエッジで防ぎなさい」
キリキザンは素早く起き上がると、地面を叩きつけ、再びキリキザンの正面に岩の柱を出現させる。
無数の針は岩の柱に突き刺さるも、やはりその後ろにいるキリキザンを捉えられず、
「ヘビーブレード!」
直後、その岩を砕き、キリキザンが両腕の刃を構えて一気にドラピオンとの距離を詰め、渾身の力で両腕を振り下ろす。
切り裂くというよりも叩き割るような重い刃の一撃が、ドラピオンの脳天に直撃した。
「っ、ドラピオン! まだいけるか!」
ドラピオンは呻き、数歩よろめくも、大きく首を振って体勢を整え、メイゲツの言葉に頷く。
「おや、流石は防御力に優れたドラピオン。並のポケモンなら今の一撃で戦闘不能、もしくは致命傷にまで追い込むはずなんですが」
「俺様のドラピオンを甘く見てくれるなよ。火力こそアブソルに劣るが、耐久力は俺の手持ちの中で一番高い。特に物理方面にはな」
「なるほど。ではそのドラピオンを倒してしまえば、それ以上硬いポケモンは出てこない、ということでよろしいですね」
瞳に邪悪な光を浮かべ、ヴィネーは不敵に笑うと、
「でしたらそろそろ決めてしまいましょう。キリキザン、ストーンエッジ!」
両腕を地面に叩きつけ、地面からドラピオンへ向けて無数の岩の柱を出現させる。
「ドラピオン、撃ち砕け! ポイズンクロー!」
毒を帯びた両腕の鋏を地面へと勢いよく突き刺し、ドラピオンは足元からそり立つ岩の柱を粉砕する。
だが、
「今ですキリキザン! ヘビーブレード!」
ドラピオンの両腕が地面に深々と刺さったその瞬間、キリキザンが刃を備えた両腕を構えて飛び出す。
ドラピオンが地面から両腕を引き抜くが、既にキリキザンはドラピオンの眼前に迫り、両腕を振り上げる。
「仕方ねぇ! ドラピオン、尻尾で守れ!」
一刀両断の両腕が振り下ろされるその直前、ドラピオンの尻尾が伸び、キリキザンの両腕はドラピオンの尻尾に命中する形となる。
ダメージはかなり大きいが、それでも弱点となる頭部への被弾は避け、
「炎の牙!」
大口を開いて牙に炎を灯し、攻撃直後のキリキザンへ牙を食い込ませる。
その刹那だった。
「それを待っていたんです。キリキザン、メタルバースト!」
キリキザンの鋼の体が白く輝き、直後、そこから無数の銀色の光弾が放たれる。
「っ……! ドラピオン!」
光弾はドラピオンを貫き、吹き飛ばし、戦闘不能にまで追い込んでしまった。
ただ、
「さて、一丁あがりです……?」
炎の牙をギリギリ耐え抜いたはずのキリキザンもまた、数歩よろめいて地面に倒れてしまう。
キリキザンの体をよく見ると、火傷の跡があった。ドラピオンの最後の炎の牙の追加効果によって、火傷を負ってしまっていたのだ。
「相討ち上等。ドラピオン、よく頑張った。戻りな」
「不運でしたか……それでも十分仕事をしてくれましたね。キリキザン、ゆっくりお休みなさい」
互いにポケモンを戻したところで、
「さて、流れはどうやら、こっちにあるみたいだぜ」
唐突にメイゲツがそんなことを言い出す。
対するヴィネーは否定しない。表情を変えずに、真顔のままじっとメイゲツを見据える。
否定しないのは、ヴィネーも分かっているからだ。
つまり、
「俺はお前に勝てるかどうかまだ分からねえが、俺の仲間たちはお前の部下に苦戦の一つもしなかったみてえだな。俺たち全員でかかりゃ、さすがのお前でも勝てっこねえだろ」
ヴィネーが連れてきたゴエティアの下っ端たちは、ヴァレン率いるノワキタウンの住人たちに蹴散らされてしまったのだ。
ヴィネーとメイゲツの今のところの戦況は五分五分。だが、そこにメイゲツの仲間が加われば、その流れは一気にメイゲツに傾く。
「善人ならここでお前らを見逃すんだろうが、生憎俺はそんな善人じゃねえ。ここでくたばってもらうぜ。分かってんだろうな、俺らの縄張りを荒らしたんだ、その代償は大きいぞ」
怒気を含んだ言葉と共に、ヴィネーに少しずつ詰め寄るメイゲツ。
対して。
ヴィネーの表情は、終始変化しなかった。
「貴方達、何か勘違いしていませんか?」
怯えるどころか、焦る様子すら一つも見せず。
ヴィネーは、ただ淡々と言葉を続ける。
「追い込まれているのは私ではなく、貴方達なのですけれど」
「あ?」
怪訝な表情を浮かべるメイゲツを尻目に、クスリと笑い、ヴィネーは告げた。
新たなる、襲撃者の名を。
「出番です。ミョル、グング」
刹那。
最初に現れた下っ端たちの数をさらに上回る夥しい数の黒装束の群れが、ノワキタウンの住人を取り囲んだ。
- 第96話 宝 ( No.167 )
- 日時: 2017/05/10 18:05
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
夥しい数の黒装束の者たちが、疲弊したノワキタウンの住人を取り囲む。
その中心となるのは、黒い修道服のような装束に身を纏った、一組の男女。女は赤、男は青の髪色だが、顔つきはどちらも中性的。
「な、なんだ……?」
ドリュウズの爪の一撃を受けて戦闘不能になったファイアローを戻し、ハルが次のポケモンを出そうとしたところで、ちょうどそれは起こった。
そしてハルにはその二人に見覚えがあった。ディントスの配下……と思わせたヴィネーの直属の部下。女がミョル、男がグングだ。
「ヴィネー隊のお出ましか。ちっ、こりゃヴィネーの勝ちかな」
ハルとベリアルのバトルも一旦止まり、ベリアルはそう呟く。
「さて、貴方と同じく、私も善人ではありません。邪魔するものはどんな手段を使っても排除します。例え、どんな姑息な手段を使ってもね」
ヴィネーが小さく、しかし明確に勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「まだ決着はついていませんし、貴方には今のところ危害は加えない。ですが貴方のお仲間はかなり疲弊している様子ですね。対して私の部下は万全の状態……分かるでしょう?」
ヴィネーはさらに言葉を続け、
「お仲間が痛めつけられるのも見たくはないでしょう。今のうちにキーストーンを渡していただければ、私と部下たちはこれで撤収いたします。あぁ一応言っておきますが、私の部下は手加減が苦手なので」
「っ……」
忌々しそうにメイゲツは舌打ちする。
この部下たちがどれほどの腕前なのか、メイゲツには分からない。相手の残存戦力がはっきりしてないうちから、無謀な賭けを仕掛けるのは賢い判断ではない。
「……仲間は、売れねえ。分かった。俺の負けだ」
悔しさと苛立ちを込めた声で、メイゲツはそう呟いた。
「メイゲツさん!」
「ジゼ、黙ってろ。この町のリーダーは俺だ。町の存続に関わる危機となれば、俺が全責任を取る」
背後から声を掛けてくるジゼを黙らせ、メイゲツは懐からキーストーンを取り出す。
「仲間の解放が条件だ。部下を下げろ。お前たちが有利なのは変わらないだろう」
「賢い判断をしていただき、助かります。ミョル、グング。一旦下がりなさい」
ヴィネーの部下たちが数歩下がり、メイゲツはキーストーンをヴィネーへと投げ渡す。
「キーストーン、確かにいただきました。ミョル、グング。撤収です。それではベリアルちゃん、私は先に帰ります。賭けは私の勝ちということで。ピジョット、出て来なさい」
そう言いながらヴィネーはボールを取り出し、鮮やかな色の羽を持つ大きな鳥ポケモンを出し、その上に飛び乗る。
『information
ピジョット 鳥ポケモン
美しい光沢を持つ翼はその力も
強い。思い切り羽ばたけば大木を
しならせるほどの強風を巻き起こす。』
「わーったよ。じゃあ俺は自由にさせてもらうぜ」
「ええ。ではお先に」
ヴィネーが空高く去っていき、部下たちがいつの間にかいなくなっていくのを見届け、一人残されたベリアルは、
「ドリュウズ、とりあえずあいつを落とせ」
ヴィネーが去り、気を緩めたメイゲツの隙を逃さず、ドリュウズをけしかけて首元に手刀を叩き込ませる。
隙を突かれたメイゲツは声を上げる暇もなく、その場に崩れ落ちた。
「よしっと。ドリュウズ、休んでな。さて、これで厄介者はいなくなった。バトルの続きだ。お前のキーストーン、いたたくぜ」
メイゲツを排除し、ベリアルはドリュウズを戻すと、凶悪な笑みを浮かべ、ハルの方に向き直る。
「なっ……」
「おい、お前! 話が違うじゃねえか!」
ハルよりも先に反応したのは、ネルやジゼたち、ノワキタウンの住人だった。
「は? 話ってなんだよ」
「キーストーンを渡したら、お前たちは帰るって……」
「ああ。ヴィネーと“その部下”はな」
ジゼに対し、ベリアルはそう言い返す。
「俺は別にヴィネーの部下じゃねえ。あいつと俺の勝負は終わった、ここからは完全にただの俺の私用だ。たまたまキーストーンを持ってる奴を見つけたから、それを奪う。言っておくが、俺はヴィネーほど甘くねえぞ。邪魔する奴はぶっ殺すからな、気をつけろ」
ひと睨みでジゼを黙らせると、ベリアルはハルの方へと向き直る。
「終焉を、サザンドラ!」
ベリアルのボールから現れたのは、黒い三つ首のドラゴンポケモン。ドラゴンと悪タイプを持つポケモン、サザンドラだ。
「やるしか、ないのか……! 頼んだよ、ルカリオ!」
覚悟を決め、ハルはエースのルカリオを繰り出す。
が、その時。
「ふっざけんな! リザード、ドラゴンクロー!」
突如、横から飛び出して来たリザードが、サザンドラへと竜の力を帯びた爪の一撃を浴びせる。
声の主はジゼ。周囲の制止も聞かず、ジゼはさらに攻撃を指示する。
「ここは、俺たちの町だ! リザード、火炎放射!」
「……忠告はさっきしたぞ。サザンドラ、ドラゴンブレス!」
灼熱の炎を吹き出すリザードに対し、サザンドラは口内に蒼炎を溜め込み、炎の弾を吐き出した。
紅の炎を容易く貫き、青い炎弾がリザードを捉え、吹き飛ばす。
「大した力もない雑魚の癖によ、威勢だけで粋がってくんじゃねえよ。サザンドラ、仕留めろ! 悪の波動!」
サザンドラの三つの顔が一斉に口を開き、悪意に満ちた漆黒の波動が撃ち出される。
リザードだけでなく、そのすぐ後ろにいるジゼをも消し飛ばす勢いで。
しかし。
「俺たちの町を、俺たちの宝を! これ以上、荒らされてたまるか!」
それを前にしても、ジゼは一歩も引かなかった。
漆黒の波動が、全てを吹き飛ばす。
その、直前。
リザードを中心に灼熱の炎が巻き起こり、悪の波動を吹き飛ばした。
「……あぁ!?」
「え……?」
ベリアルは怒声を、ジゼやハルたちは驚きの声を上げ、炎の中心を見守る。
炎に包まれ、リザードがそのシルエットを大きく変えていく。
体格はさらに大きくなっていき、その体つきもより頑強なものへと変わる。
そして。
背中から生えてくるのは、一対の巨大な翼。
咆哮と共に炎が薙ぎ払われ、現れるのはリザード——いや、その進化を遂げた姿だ。
『information
リザードン 火炎ポケモン
最大の武器となる炎を自分より弱い
者に向けることはない優しい性格だが
縄張りを荒らす外敵には容赦しない。』
「リザードン……? 進化、したのか……?」
驚くジゼの方を振り返り、リザードンは頷く。
「ハッ、進化したとはいえ、地力が違うんだよ。俺様のサザンドラ相手に、どこまでやれるか——」
「忘れるなよ。僕もいるんだぞ」
ジゼとリザードンの方を向いたベリアルに対して、ハルもキーストーンを構えて対峙する。
ベリアルは小さく舌打ちし、
(例え二人掛かりとはいえ、このサザンドラが負けるとは思えん。だがもしこいつを失えば、俺にはもう帰る手段がねえ。撤退とは悔しいが、こういう時は最悪のパターンを想定して動くのが定石か)
「サザンドラ、地面にドラゴンブレス!」
サザンドラは青い炎の弾を吐き出し、地面に着弾させて爆煙を起こす。
煙に身を隠して素早くベリアルはサザンドラに飛び乗り、天高く飛翔する。
「お前らの力を認めて、今回は撤収する。この借りは必ず返すぞ」
上空からそれだけ告げると、サザンドラに指示を出し、ベリアルは飛び去っていった。
「くそっ、逃したか……」
「いいんだよ。俺たちにびびって逃げたってことさ。今日はこのくらいにしといてやるぜ」
と、そこで。
「っ、痛てて……あいつ、よくもやりやがったな。今度あったらただじゃおかねえ」
意識を奪われていたメイゲツが、目を覚まして立ち上がる。
「すまねえな、ハル。俺たちの争いに巻き込んじまってよ」
「いいえ、皆が無事でよかったです。でも、キーストーンが……」
「いいんだよ、あんなもん。俺はもう一個キーストーン持ってるしな」
そう言いながら、メイゲツが耳のピアスに触れると、ピアスが割れて中身が露わになる。
美しく輝くその石は、紛れもなくキーストーンだった。
「ええっ!?」
「メイゲツさん、いつの間に……!」
どうやらメイゲツの他にはヴァレンしか知らなかったようで、ハルだけでなくほとんどの者が驚いている。
「それに、正直俺にとっちゃこんなもんどうでもいいんだ。俺にとって一番大事な宝は、この町の仲間さ。こいつらが無事なら、それで何よりだ」
メイゲツはそう言って、ニヤリと笑う。
「さて、ハル。今日は一日この町で休んでけよ。こんな荒れた町だが、ポケモンセンターにはちゃんと宿舎がある。観光するとこは何もないが、ゆっくりしていきな」
「はい、ありがとうございます!」
キーストーンこそ奪われてしまったものの、他に被害は何もなく、ノワキタウンでの戦いは終わった。
「キーストーンを奪えずに敗退とは、ベリアルちゃんにしては情けないですね」
「うっせえよ。あれは戦略的撤退だっての」
ベリアルがサザンドラに乗って帰ろうとしたところで、先に戻ったはずのヴィネーと合流した。
どうやら、少し離れたところで全て見ていたらしい。
「戦闘では常に最悪のパターンを考えなきゃなんねえんだよ。ああいうアウェーでは特にな」
「なるほど。まぁとにかく、今回の勝負は私の勝ちということで、ベリアルちゃんには一つ言っておくことがあります」
「なんだよ」
「負けた方は勝った方に一本奢る、でしたよね? 私、お酒はカロスの本場のワイン以外お酒と認めていませんので」
「……ちっ、高級志向が。分かった分かった、近いうちに仕入れておく」
悪戯っぽく笑うヴィネーに、やれやれといった感じでベリアルは首を振る。
「……ところでよ。あのリザードン使いのガキだが」
「おや、どうやらベリアルちゃんも感じたようですね」
「ってことは、お前も感じたか」
ベリアルはそこで一拍起き、さらに続ける。
「あいつ、七救世主の素質あるよな」
ヴィネーも同じことを考えていたようで、ゆっくり頷く
「ええ。これは帰ったらすぐ報告しなくては。王も喜びますよ」
「こいつぁ相当な収穫だぞ。キーストーンが霞むレベルでな」
彼らにしか分からない確かな収穫を得、二人の魔神卿は空を飛び去っていく。
- 第97話 ジムバトル!ノワキジムⅠ ( No.168 )
- 日時: 2017/05/13 10:32
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
「そう言えばハル、お前は旅のトレーナーだったよな」
ポケモンセンターに戻り、ハルがポケモンたちを休ませていた時、メイゲツはそう聞いてきた。
「はい。各地の街を巡って、ジムリーダーと戦ってます」
「なるほど。なら、いいことを教えてやるよ」
ハルの返答を聞き、メイゲツはニヤリと笑うと、
「実はな。この町にもジムリーダーがいる。最早形式的なものになっちまってるが、一応まだポケモンリーグ本部公認のジムだ。勝てばバッジが貰えるし、ちゃんとポケモンリーグ出場のためにも使えるぜ」
ハルもその話自体は聞いていたのだが、あまり信じてはいなかった。だが、ここの住人であるメイゲツがそう言っているということは、本当に公認のジムリーダーが存在するのだろう。
「話には聞いたことありましたけど、本当にいるんですね」
「ああ。つーか」
メイゲツはそこで一拍起き、
「ノワキタウンのジムリーダーは、俺なんだがな」
『information
ジムリーダー メイゲツ
専門:悪タイプ
異名:無法なる頭領(アウトローヘッド)
前職:SP』
「ええっ、そうだったんですか!?」
最初は驚くハルだったが、しかし言われてみれば納得だ。
高いカリスマ性を持ち、無法の町を一人で取り仕切るメイゲツの立場は、それこそジムリーダーでもなければ不可能だろう。
「じゃあ、明日にでも挑んでもいいですか?」
「おうよ、構わんぜ。だがさっきも言った通り最早形式的な存在だから、ジムの建物はねえ。明日、ヴァレンと戦ったあの広場に来な。今日はゆっくり休め」
「はい、ありがとうございます!」
話は決まった。
今日は疲れをとって、明日はメイゲツとのジム戦だ。
そして。
「おはようございます、メイゲツさん、町の皆さん」
「おうよ。昨日は世話になったな。疲れは取れたか」
「はい。万全ですよ」
ノワキタウンの広場に向かい合う形で立つのは、ハルとメイゲツ。
この町でジム戦が行われること自体久々なのだろう、住人たちも見物に来ている。
「そうでなくっちゃな。形式的とはいえ俺も一応ジムリーダーだ、手加減はしねえぞ」
「ええ、勿論です」
ハルの力強い返事を聞いてメイゲツはフッと笑い、
「ネル。審判を頼むぞ」
青い髪の少女、ネルに審判を任せる。
「あ……はい。それでは、ジムリーダー、メイゲツと、チャレンジャー、ハルのジム戦を行います。えっと、使用ポケモンは四体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点で試合終了です。ポケモンの交代は、チャレンジャーのみが認められます」
細々としたネルの声に合わせ、メイゲツがボールを取り出す。
「そんじゃ、まずは俺からポケモンを出すかな。出てきな、ヤミラミ!」
メイゲツが一番手として繰り出したのは、濃い紫色の体を持つ、瞳が宝石で出来ている小人のようなポケモン。
『information
ヤミラミ 暗闇ポケモン
宝石を探し掘り出すのが得意。
しかし掘り出した宝石を食べて
しまうので採集には向かない。』
メイゲツの初手はヤミラミ。小柄なポケモンだが悪とゴーストタイプを併せ持ち、弱点が非常に少ない。
(ヤミラミの弱点は、悪・ゴーストだから……フェアリー技か)
フェアリー技ならエーフィが覚えているが、
(流石にエーフィを出すわけにはいかないし……仕方ない。元々の火力で勝負だ)
エスパータイプのエーフィは、悪タイプもゴーストタイプも苦手。
代わりにハルが一番手に選んだのは、
「ワルビル、頼んだよ!」
接近戦を得意とする物理アタッカー、ワルビルだ。こちらも悪タイプを持っているため、ヤミラミのメインとなる技を抑えられる。
「悪タイプのエキスパートたる俺に悪タイプで来るとはな。なかなか面白えじゃねえか。それじゃ始めるぜ! ヤミラミ、シャドーパンチ!」
先手を取ったのはメイゲツ。
ヤミラミが拳を構え、ゆっくりと腕を引く。
「遅いですよ! ワルビル、噛み砕く!」
しかし、ヤミラミの挙動はお世辞にも早いとは言い難い。ワルビルはその間にヤミラミとの距離を大きく詰め、拳が突き出されるよりも早く大口を開き、ヤミラミへ噛み付く。
だが、
「それはどうかな?」
メイゲツがそう返した直後。
突如、ワルビルの頬を狙って虚空から拳の形をした黒い影が飛び出し、ワルビルを殴り飛ばした。
「えっ……!?」
「シャドーパンチは必中技。相手がどこにいようが、必ずパンチが当たる位置から拳が出現する。ヤミラミの拳からは逃げられねえぜ」
不意の打撃を受けたワルビルだが、すぐに起き上がり、体勢を立て直す。効果今ひとつなのも幸いで、ダメージはそこまで大きくはなさそうだ。
「だったらワルビル、こっちも必中技だ! 燕返し!」
剣の刀身のように両腕を白く輝かせ、ワルビルが地を蹴って飛び出す。
「だったらヤミラミ、ダークロアー!」
だがそれよりも早く、ヤミラミが口を開き、耳をつんざく金切り声のような音波を放つ。
音波自体もそこまで威力は高くなく、ワルビルは音波を打ち破って進むが、
「シャドーパンチ!」
その音波を打ち破る余計な時間が生まれたことで、ヤミラミの防御が間に合ってしまう。
ワルビルが立て続けに腕を振り抜くが、全て虚空から出現する影の拳に阻まれ、ヤミラミ本体にワルビルの腕が届かない。
「これも教えてやるよ。ダークロアーは先制技だ。動きの遅いヤミラミでも、これがあれば相手より先に動いて相手に隙を作れる。ヤミラミ、お次は鬼火だ!」
「っ、火傷はまずい……! ワルビル、躱して! 穴を掘る!」
ヤミラミが周囲に青白い炎を浮かべたのを見て、咄嗟にハルは指示を出す。
慌ててワルビルは地中に潜るが、鬼火のスピードはかなり速かった。もう少し指示が遅れていたら、鬼火を受けて火傷を負ってしまっていただろう。
(だけど、このヤミラミは何だ……? 動きに緩急がありすぎる。そもそも、ヤミラミってそんなに早いポケモンじゃ……ってことは)
咄嗟にハルはポケモン図鑑を取り出し、ヤミラミの情報を出す。
「……これか! 特性、悪戯心!」
「そういうことさ。悪戯心の特性を持つポケモンは、変化技のスピードが速くなる」
ゴーストタイプを持つヤミラミは能力こそ控え目だが、補助系の技に秀でている。そんなヤミラミにはぴったりの技だろう。
「さあ、まだ始まったばっかりだぜ。ヤミラミ、シャドーパンチ!」
「だったらワルビル、穴を掘る!」
ヤミラミが拳を振りかぶると同時、ワルビルは穴を掘って地中へと身を隠す。
例え必中技といえとも地中には届かず、影の拳はワルビルを捉えられずに消えてしまい、
「そこだ、ワルビル!」
直後、ヤミラミの足元からワルビルが飛び出し、ヤミラミを殴り飛ばす。
「いいぞワルビル! 続けてシャドークロー!」
ワルビルが腕に黒い影の爪を纏わせるが、
「させねえよ。ヤミラミ、ダークロアー!」
宙を舞うヤミラミがワルビルの方を向き、金切り声と共に音波を放つ。
速攻の音波でワルビルを押し戻し、
「鬼火だ!」
青白い火の玉を浮かべ、炎の弾丸のようにワルビルへと向かわせる。
「っ、ワルビル、シャドークローで防御!」
腕を纏っていた影の爪を振り、ワルビルは火の玉を防ぎ切る。
(うーん、やっぱりヤミラミとの相性が悪いな……動きがトリッキーだし、厄介な鬼火もある。ワルビルには火傷を負わせたくないし……)
「ワルビル、ごめんよ。一旦戻って」
その手で倒したいのか、ワルビルは不服そうに唸るが、それでもハルの指示に応え、ボールへと戻る。
「大丈夫、後でまた活躍してもらうからね。それじゃ次は君の出番だ、ファイアロー!」
代わりにハルが繰り出したのはファイアロー。炎タイプなので、鬼火が効かない。
「ファイアロー、相手はトリッキーな動きが得意みたいだ。行動も読みづらいけど、惑わされないように気をつけて」
ハルの言葉に頷き、ファイアローは力強く啼くと、ヤミラミの方を向く。
「なるほど、炎タイプで来たか。それじゃあ、お前の次の戦い方を見せてもらうぜ」
メイゲツの言葉と共にヤミラミは宝石の瞳を煌めかせ、ケタケタと笑う。
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