二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ポケットモンスター 魔王と救世の絆
日時: 2018/04/30 21:14
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: OiWubliv)

こんにちはこんばんはおはようございます。パーセンターです。
今回は紙ほか板から映像板に進出して、また懲りずにポケモンの二次小説を執筆したいと思っております。
今回は前作との繋がりはほぼ断ち切った完全新作です。
カウントすれば5作目になりますね。まだ向こうの「星と旋風の使徒」は完結しておりませんので、同時進行となります。

※注意事項(?)
・いつものことですがノープランです。更新のペースも早かったり遅かったりします。
・上でも述べていますが、前作までとの繋がりはほぼありません。まだ「星と〜」が完結していませんしね。
・登場するポケモンは第七世代までです。執筆中に第八世代が出てきたらまたその時に考えます
・上に関連して、パーセンターがよく使っているベガポケモンですが、今作では『出ません』。設定上は存在している設定ですが今作には出ません。
・ベガの技は普通に出ます。ついでにオリジナル技も結構たくさん出ます。オリ技の説明は随時公開するのでご安心ください。
・オリキャラとかオリ技の募集も近いうちにすると思います。皆さん協力お願いします。

それでは、新しい主人公の新しい物語が始まります。よろしくお願いします。

登場人物紹介
>>34
オリ技紹介
>>45

プロローグ
>>1
ハツヒタウン編——旅立ち
>>6 >>7 >>8
シュンインシティ編——経験
>>15 >>20 >>28 >>32 >>35 >>36 >>37
カザハナシティ編——ライバル
>>38 >>40 >>43 >>44 >>46
ヒザカリタウン編——出会
>>55 >>56 >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>65
サオヒメシティ編——Evolution
>>66 >>70 >>71 >>72 >>73 >>74 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80 >>81 >>82 >>83 >>84 >>85 >>86 >>91
ハダレタウン編——大会
>>92 >>94 >>97 >>98 >>99 >>102 >>103 >>104 >>106 >>108 >>109 >>110 >>111 >>112 >>113 >>114 >>117 >>118 >>119 >>120 >>121
カタカゲシティ編——試練
>>122 >>123 >>124 >>127 >>128 >>129 >>130 >>133 >>134 >>135 >>136 >>138 >>139 >>140 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>146 >>147 >>148 >>151
ノワキタウン編——友情
>>152 >>153 >>156 >>159 >>160 >>162 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>175 >>176 >>177
イザヨイシティ編——実力
>>178 >>180 >>181 >>182 >>183 >>184 >>185 >>186 >>187 >>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>195 >>196 >>197 >>198 >>199 >>200 >>202 >>203 >>204

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第76話 開通作業 ( No.139 )
日時: 2017/01/30 22:32
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
参照: カガチとの合同特訓。その内容とは?

「ポリゴン2、冷凍ビーム!」
「なら、ワルビル、躱して噛み砕く!」

『information
 ポリゴン2 バーチャルポケモン
 最高性能の人工知能を組み込んで
 作り出されたポケモン。プログラム
 されていない動作を行うことも。』

エストレのポケモン、赤と青の色のアヒルを模した人工ポケモン、ポリゴン2が、凍える冷気の光線を放ってワルビルを攻撃する。
対するワルビルは間一髪で光線を躱すと、大顎を開いてポリゴン2へ襲い掛かる。
今日はサーカスの日の前日、今はそろそろ日が暮れる頃。街は一通り見て回ったので、今日は三人でポケモンバトルをやっているのだ。今はエストレ対ハル。
ワルビルの頑丈な牙がポリゴン2の体に食い込むも、ポリゴン2は全く表情を変えず、
「シグナルビーム!」
目から激しく点滅する光線を放ち、ワルビルを引き剥がすと、
「これでどうかしら? トライアタック!」
さらに周囲に赤、青、黄の三色の球体を作り上げ、そこからそれぞれ三色の光線を撃ち出す。
「ワルビル!」
効果抜群の一撃を受けていたワルビルは体勢を崩して躱すことができず、トライアタックの直撃を受けて戦闘不能になってしまった。
「ワルビル、お疲れ様。よく頑張ったよ」
ハルはワルビルの頭を撫で、ボールへと戻す。
「さすがはエストレさん。そのポリゴン2、強いですね……」
「ヒザカリ大会で貴方に負けてから、また鍛え直しましたからね。何回も負けてあげるほど優しくはなくてよ?」
ハルの言葉に、エストレは得意げな笑みを浮かべてそう返す。
ちなみに少し前にサヤナも戦っていたが、やっぱりエストレが勝った。
「さて、今日はこんなところかしら。ハル、貴方は明日カガチさんとの特訓があるのでしょう? 遅れてはダメよ」
「はい、頑張ります。エストレさんはサーカス楽しんできてくださいね。あとサヤナも」
「うん! にひひー、撮影オッケーだったらいっぱい写真撮ってきてあげる! ハルも頑張ってね、どんなんだったか話も聞かせてね!」
二人がサーカスに行くとなると自分が行けないのは少しばかり残念だが、後悔はしていない。
それに、
(滅多とないジムリーダーとの特訓だ。あのカガチさんの特訓だけあってなかなかにハードなものだろうけど、せっかくの機会だ、頑張ろう)
日は暮れ、そしてまた次の日がやって来る。



「それじゃ、頑張ってね」
「しっかり鍛えられてきなさい」
「うん。じゃ、二人も楽しんできて」
翌日、サヤナとエストレと別れ、ハルはカガチに指定された街の端の洞窟の前にやって来た。
「よし、来たか。それでは少し早いが、もう始めるぞ」
「はい。よろしくお願いします」
合流の時間より早く着いたはずだが、既にカガチが待っていた。
「よし。さて、特訓の内容だが……そこまで身構える必要はない。やることは簡単だ」
そう言いながら、カガチは手帳を取り出す。
「この洞窟は天然のものではない。人工の洞窟、言わばトンネルだな。通称マデルトンネル、この地方の街のいくつかを繋いでいる街だ。もっとも、今のところはこことノワキタウン、イザヨイシティの三つしか繋がっていないがな」
だから、とカガチは続け、
「もう一箇所。このトンネルを、ヒザカリタウンまで繋げたい。ヒザカリタウンは今、町興しを行っている。カタカゲとヒザカリが直接繋がれば、少しは足を運びやすくなるからな。とはいえ、トンネルは最近掘り始めたばかり」
「なるほど、そうなんですか……」
とは言ったものの、このトンネルが特訓と何か関係あるのだろうか。
などとハルが考えていると、
「そこでだ。お前とお前のポケモンたちにも、このトンネルを掘るのを手伝ってもらう」
「……はい?」
「たかがトンネル掘りだと侮るな。この辺の地下には大きな岩が埋まっていたり、地盤が硬いところがあったりと、何かと不便なんだ。そこを掘り進んでいくだけでも、充分な特訓の一環になるぞ」
確かにカガチの言うことは間違っていない。
ポケモンのパワーを鍛えるという意味では、トンネル掘りの作業はうってつけなのだろう。
などとハルが考えていると、
「おい、何をぼーっとしている」
突然、カガチから大きなシャベルを投げ渡された。
「……はい?」
「はい? じゃねえ。トンネルを掘るんだ。話は聞いていただろ」
「ええ、聞いてましたけど……」
「だったら始めるぞ。ついて来い」
「あ、はい!」
カガチの後を追って、ハルはトンネルの中へと入っていく。
ハルが追いつくと、カガチはサンドパンとサナギラスを繰り出し、ポケモンと共にシャベルを持ってトンネルを掘り始めていた。
つまり、
「これ、僕もやるってことですよね」
「当たり前だ。まさかとは思うが、ポケモンに任せきりなんて考えていたわけじゃないだろうな?」
「……い、いえいえ。勿論、僕もやりますよ。それじゃ出てきて、ルカリオ、ワルビル」
特訓の内容が予想と全く違ったが、やむを得ない。
カガチを真似てハルも二体ポケモンを繰り出し、トンネルを掘っていく。



サヤナとエストレがテントに着いた頃には、既に多くの人が並んでいた。
「わあ、まだ受付時間前なのに……」
「私たちだって受付時間前に来てるのよ。考えることはみんな同じ、それだけ人気のサーカス団ってことですわ」
チケットを取り出し、サヤナとエストレは列に並ぶ。
受付が始まり、列がぞろぞろと動き出した頃には、列は二人が来た時と比べてはるかに伸びていた。
「サヤナ、いいかしら。受付が終わったら、そこからはこの列は関係なくなる。つまり」
「つまり?」
「テントの中に入った瞬間から、戦争が始まるわよ。席取りの戦争が。私たちも乗り遅れは出来ませんわ。一気に最前席を確保しますわよ」
「分かった。最前席まで直行すればいいんだね」
二人が話している間にも列はどんどん進んでいく。
「ご来場、ありがとうございます! 楽しんでいってくださいね!」
女性団員のチケットもぎりを終えると、いよいよテントの中。
明らかに、今までと比べて客の歩く速さが違う。
「さあ、行くわよ!」
「うん!」
エストレとサヤナも乗り遅れまいと足を速め、人混みの中を突き進む。

第77話 公演 ( No.140 )
日時: 2017/01/31 18:41
名前: パーセント ◆AeB9sjffNs (ID: tAWLqROP)
参照: いよいよ開幕する、ハーメルン・サーカス!

ガキィン! と。
ハルのシャベルが、何か硬いものに弾かれた。
「これは……」
「硬い岩だな。結構大きい岩だが、ここは迂回できん。何とかして壊せ」
「分かりました。ルカリオ、お願い。波導の力で、脆い場所を探してくれ」
ルカリオは目を閉じ、岩に手を触れる。
しばらくルカリオは動きを止めたままだが、不意に目を開け、跳躍すると、見切った一点に思い切り拳を叩き込んだ。
轟音と共に、行く手を阻む硬い岩が粉々に崩れ去った。
「よし、いいぞルカリオ!」
岩がなくなり、また掘り進めていこうと思った矢先、今度はカガチの持つシャベルが弾かれた。
「これは……巨大な岩盤か。このサイズとなればお前のルカリオでも壊せるかどうか。ここは俺がなんとかしよう」
カガチがそう言って一歩引く。代わりに進み出たのはサンドパンだ。
「サンドパン、ドリルライナー!」
サンドパンは両手を突き出して高速回転し、岩盤にドリルの如く突っ込んでいく。
少しずつではあるが、サンドパンが岩を貫き、進んでいく。
「とりあえず向こう側まで貫通すればこの岩はかなり脆くなる。サンドパンが岩盤を貫通次第、この岩を壊すぞ」



「ここなら、充分公演が見られるね!」
「本当は一番前がよかったんですけれどね……とはいえ、この位置なら上々ですわ」
最前席こそ勝ち取れなかったものの、サヤナとエストレが座った位置はステージの正面。公演を存分に楽しめる位置だ。
他の席もみるみるうちに埋まっていく。客も老若男女様々だ。
「へー、ポケモンも一緒に芸をやるんだね」
「そうよ。ポケモンを補佐に使うサーカスはあるけど、ポケモンと一緒に曲芸を見せるサーカスはこのハーメルン・サーカスくらいのものなのよ」
サヤナがパンフレットを読んでいると、唐突に会場内の照明が消えた。
そしてそれと同時に、全てのスポットライトが一斉にステージに向けられる。
公演が始まるまで歓談の声でざわついていた会場が、一斉に静まり返る。
その刹那。
激しい風の音とともに、ステージの中央に、七色の煙が竜巻のように捲き起こる。
そして。

「Ladies and gentlemen, boys and girls! ようこそ、ハーメルン・サーカスへ!」

ゴバッ! と七色の竜巻が薙ぎ払われると、そこには燕尾服の長身の男が立っていた。
明るい金色の挑発をたなびかせ、会場へ向けて一礼する。
「本日は私たちハーメルン・サーカスの公演にご来場いただき、誠にありがとうございます! 私は団長のグリム! 我らが笛の導き、とくとご覧あれ! それでは、Are you ready?」
「「「Yeaaaaaaaaaaah!!」」」
グリム団長の掛け声に合わせて観客が叫ぶと、鮮やかな衣装を身にまとった団員たちが自由自在に宙を飛び回る。
何もないはずの空中を、まるで見えない足場があるかのように駆け回る。
「さあさあ驚くのはここからですよ! ポリゴンZ、Stage on! トライアタック!」
グリムが赤と青の首の外れた鳥を模したような奇妙なポケモンを繰り出し、空中に炎と電気と氷のリングを浮かべる。
宙を飛び回る曲芸師たちは、それを苦にする様子もなく、寧ろより滑らかで美しい動きでそのリングの中をくぐっていく。
そしてフィナーレ。曲芸師たちは一斉に着地し、それと同時に宙に浮かぶリングが炸裂、三色の光の粒が降り注ぐ。
観客席は、拍手喝采に包まれた。
「さあさあ、ここからは彼がやってまいりますよ! さて出番ですよ、ルンペル君!」
グリムが名前を呼ぶと、ステージの奥から奇抜な姿の人間が現れる。
緑色の髪の毛先をカールさせ、ぶかぶかの緑の衣装に身を包んだピエロだ。衣装には白くトランプの四つの模様がいくつも描かれ、目の下には紫色で星や雫の模様がペイントされている。
ルンペルと呼ばれたピエロは大きくカラフルな玉に乗りつつ、銀色のナイフを華麗にジャグリングしながらやってきた。
そして中央でナイフを天高く投げ、自身も玉の上でジャンプして一回転し、綺麗に着地、一礼する。
再び拍手が巻き起こるが、その直後、投げたナイフが落ちてきて次々とピエロの乗る玉に突き刺さり、パァン! と甲高い音を立てて玉が破裂、ピエロは地面に落ちてしまう。
今度は会場全体が笑い声に包まれた。
「痛ててて……やってしもうたわ。そしたら仕切り直しで、こんなのはどうやろか?」
お尻をさすりながら起き上がった緑のピエロは、どこからか細長い黄色の風船を取り出し、息を吹き込み、手慣れた様子で形を変え、ピカチュウの形をしたバルーンアートを作り上げる。
盛り上がる会場へ、ピエロは適当にピカチュウのバルーンを投げ、観客の少女がそれを受け止めたのを確認すると、続けて緑、赤、青の三つの細い風船を取り出す。
またも手馴れた様子でピエロは瞬く間に風船の形を変え、キモリ、アチャモ、ミズゴロウのバルーンアートを作ると、
「よっ、ほい、そりゃ!」
再びその三つのバルーンを、観客席へバラバラに投げる。
すると、青年の客が受け取ったミズゴロウのバルーンが、パン! と音を立てて破裂し、中から水が飛び出し、青年はずぶ濡れになってしまう。
「あらら、言うてませんでした? ミズゴロウのバルーンだけ、水風船なんですわ。あれ? 言い忘れとったか。ははは、こりゃすんまへんな」
陽気にピエロは笑うと、ステージの方へ再び向き直る。
「さあ、私の余興は一先ずここまで。ほな、お次はごっつ綺麗なお姉はん、シュティルの出番や!」
ピエロが叫んでステージから飛び降りる。
そして入れ替わりに現れたのは、青い綺麗な蝶の羽を模したようなゴシックな衣装を身に纏った赤い髪の女性団員、シュティル。そして、その向こう側には無数のカエンジシが現れる。
「おいでなさい、オーロット!」
女性がモンスターボールを取り出し、樹木に幽霊が乗り移ったような姿のポケモン、オーロットを繰り出す。
それを引き金に、複数のカエンジシたちは一斉に女性へと突っ込んでくる。
「鬼火よ!」
観客から悲鳴が響くが、それを気にせず、オーロットは青い炎を生み出し、頭上に無数の炎の輪を作り上げる。
すると無数のカエンジシたちは炎の輪に吸い込まれるように跳躍し、輪を潜り抜けていく。
悲鳴が歓声に変わったところで、さらにカエンジシの数が増えていく。
「オーロット、もう一度鬼火!」
再び突っ込んでくるカエンジシに対して、オーロットはさらに炎の輪の数を増やす。
女性へ一直線に突っ込んでいたはずのカエンジシたちは、やはり途中で炎の輪に吸い込まれるように軌道を変えていく。
観客の歓声に応えて女性は一礼し、
「さあ、まだまだ行くわよ! 続いては——」



「はぁ、はぁ……思ってたより、ずっと大変ですね……」
「お前は初日だからな。慣れてしまうと、そうでもないものだぞ」
肩でで息を吐くハルの隣で、カガチは腕につけた時計を確認する。
「だが、そろそろいい時間だな。休憩にするか。ハル、昼飯を持ってきていないだろう」
「あ、はい……」
「ならばちょうどいい。弁当を一つ、お前にやろう」
「えっ、いいんですか?」
「嫁が二人分弁当を作ってきてくれたからな。ついでにお前のポケモンの分も用意してある。遠慮はいらん」
「はい、ありがとうございます!」
カガチから弁当を受け取り、ハルはカガチの横に座って、二人は昼食を取る。
口に入れると、手作りの温かさが口の中に染み渡る。
「……おいしい! カガチさんの奥さん、料理お上手ですね!」
「まあな、自慢の嫁だ」
二人の手持ちのポケモンたちも、美味しそうにご飯を食べている。
「ゆっくり食べればいい。食べ終わって少し休んだら、また始めるぞ」

第78話 誘拐 ( No.141 )
日時: 2017/02/01 08:23
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
参照: さらなる盛り上がりを見せるサーカス。しかし……

「——さあ皆さん。お次に披露しますのは、お手元のパンフレットにも載せていない、秘密のショーでございます」
再びステージに現れたグリム団長がそう告げると、ステージを照らすライトが妖しく薄暗い色へと変化する。
「昔から我々ハーメルン・サーカスを応援していただいている皆様はご存知かと思われますが、この私、グリムは二代目の団長。初代の団長、ツヒェンさんは、それはそれは偉大なお方でした」
会場がざわめく。この後何が起こるか、誰も何も分からない。
そんな観客席を見据え、怪しげな笑みを浮かべ、グリムは次の言葉を放つ。

「これより、初代団長——ツヒェンの、復活の儀式を行いましょう!」

観客席がどよめいた。
「ルンペル君! 例の物を!」
それもそのはず、初代団長であるツヒェンは、病気でこの世を去った故人であるはずなのだ。
「どういうこと……ツヒェンさんって、もういない人なんでしょ?」
「何かしらのトリックでそれっぽく見せるだけだとは思うのだけれど……この空気感、何だか嫌な予感がするのよね……」
サヤナとエストレも勿論例外ではない。誰もが何か言いようのない不安に包まれる中、緑のピエロがステージの中央に光り輝く宝石のようなものを持ってくる。
「これはツヒェンさんの魂が込められた、特別な石。この封印を解くには、眠りから呼び覚ます猛々しい獣の力と、命の力となる炎が必要となります。さあそれでは、シュティル君!」
グリムの呼び声を受けて、今度は無数のカエンジシを引き連れた女性団員が現れる。
女性の支持を受けて、カエンジシたちはその宝石へと一斉に炎を吹き出す。
強烈な炎を何重にも浴びて、次第に宝石の形が歪む。
その末に、遂に炎に耐え切れず、宝石が砕け散った。
固唾を飲んで見守る観客たち。
そして。

「——誰か、儂の名を呼んだか?」

炎が消えると、そこには先ほどまではいなかった老人が立っていた。
そこまで背は高くないが、お洒落に着飾っており、その顔には柔和な笑みが浮かんでいる。
次の瞬間、会場から歓声が沸いた。
歓声を上げているのは、いずれも大人たち。
つまり。
「……信じられないわ。あの人こそ、ツヒェンさんよ」
サヤナの横で、エストレが恐る恐る口を開く。
「えっ……?」
「どういう原理でこのショーが成り立っているのか、全く分からないけれど……だけど、あそこまで滑らかな動きが出来る作り物なんて見たことない。声もそっくりだし、誰かの変装とも思えませんわ」
しかし、実際に死んだはずの初代団長、ツヒェンが再び現れたのだ。
言いようのない疑惑はあれど、古くからのファンともなれば感激しないわけはない。
「……おや、グリム。それにルンペル、シュティルも。ということは、今はサーカスショーの真っ最中かの?」
そんな観客席の様子はよそに、ツヒェンはきょとんとした様子で尋ねる。
「はい、ツヒェンさん! これだけ多くの人たちが、見に来てくださいました!」
「ほう、それはよいことじゃ。では、元団長として、私も一つ、サーカスに参加させてもらおうかのう」
ツヒェンの言葉に、会場は湧き上がる。
そして、そんな会場の様子を見てツヒェンは微笑みながら、二つのボールを取り出す。

「この僕が見せるのは、永遠なる幻影と奈落のショー! 出でよ——」



「あ、すいません。ちょっと失礼します」
休憩を終え、トンネル掘りに再び戻っていたハルとカガチだが、突然ハルのターミナルから着信音が鳴り響く。
こんなトンネルの中でもちゃんと通話が届くことに感心しつつ、ハルはターミナルを取り出す。
「誰からだろう……サヤナ? サーカスが終わったってことかな」
とりあえず画面を操作し、通話に出る。
「もしもし、サヤナ? どうしたの?」
『ハル! 大変なの! カガチさんと一緒に、今すぐ戻ってきて!』
明らかにサヤナの様子がおかしい。少なくとも、サーカスが終わったという報告でないことは確かだ。
「えっ……どうしたの、何があったの? 緊急事態?」
『緊急事態なんてもんじゃない! とにかく、今すぐに戻ってきて! あのサーカスは……』
そこまで聞こえたところで、向こうから爆発したような音が聞こえた。
「サヤナ!?」
『っ、ごめんハル、時間がない! とにかくお願い!』
それだけ告げられ、通話は切られてしまう。
「……どうやら、街で何かがあったようだな」
その様子を見ていたカガチが、後ろで呟く。
「サーカスが何かって、伝えようとしてたように聞こえましたけど……」
「らしいな。ジムトレーナーに連絡しようとしたが、全く繋がる様子がない。あのサーカス団、何かやったな」
二人の意見は一致した、となれば。
「ハル、特訓は中止だ。今すぐにカタカゲシティに戻るぞ」
「了解です! 急ぎましょう、あまり時間がなさそうです」
それぞれのポケモンをボールへ戻し、ハルとカガチは薄暗いトンネルを走る。



何が起こったか分からなかった。
エストレに手を掴まれてとにかく走り、テントの外に連れ出された次の瞬間、テントが膨張して風船のように膨らみ、観客を閉じ込める。
さらにどこからか荷車が現れ、テントを乗せてゆっくりと街を出ようとしている。
「えっ……な、何!? 何なのこれ!?」
「……こいつらはサーカス団なんかじゃない、人攫いの集団……! ハーメルンなんて名乗ってた意味が分かりましたわ。サヤナ、ハルに連絡を! 急いで! 私はこいつらを食い止める!」
「人攫い!? う、うん、分かった!」
慌ててターミナルを取り出し、サヤナはハルへと通話を掛ける。
『もしもし、サヤナ? どうしたの?』
すぐにハルは通話に出た。
「ハル! 大変なの! カガチさんと一緒に、すぐ戻ってきて!」
『えっ……どうしたの、何があったの? 緊急事態?』
サヤナの異変に気付いたようで、ハルの口調が変わる。
「緊急事態なんてもんじゃない! とにかく、今すぐに戻ってきて! あのサーカスは』
人攫いの集団なの、と続けようとしたサヤナ。
しかし。

突如爆発音が響き、サヤナとエストレを遮るように、一組の男女が現れる。

緑のピエロと、ゴシックな蝶の衣装。名前は確か、ルンペルとシュティルだったか。
敵意がだだ漏れ、明らかにやる気だ。テントから脱出したこの二人の足止め、もしくは口封じに現れたのだろう。
「っ、サヤナ! こっちに!」
「うん! ……っ、ごめんハル、時間がない! とにかくお願い!」
最低限のことは伝えられた。サヤナは通話を切り、エストレの隣に立つ。
「お姉はん、よう気付きよったなぁ。私らがサーカス団やあらへんって」
「おまけにメインターゲットは何故かこのサーカスに来ていない。ルンペル、貴方ちゃんとターゲットに接触したのよね?」
「当たり前やんか。私はそんな初歩的なミスするようなアホやあらへんよ」
「……そうよね。はぁ、何事も予想通りにはいかないものね」
「まぁ、こーなったモンは仕方あらへん。すんまへんけど、流石に私らとしても目撃者のお姉はんらを逃すわけにはいかへんねんや。せやから」
「しばらく、もしくは永遠に。大人しくしててもらっていいかしら?」
怪しい笑みを浮かべ、ルンペルとシュティルは同時にボールを取り出す。
「お断りですわ。さっさと貴方たちを潰して、他の皆を助ける」
「そうだよ! そこを通してもらうんだから!」
テントを乗せた荷車がゆっくりと去っていく中、ハーメルン・サーカスの二人組と、エストレとサヤナのコンビが対峙する。

第79話 ピエロ ( No.142 )
日時: 2017/02/02 12:47
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

「私の相手は、お姉はんでええんやね?」
エストレを相手取るのは、緑のピエロ、ルンペル。
「ええ。速攻で吹き飛ばして差し上げますわ」
「おーおー、お姉はん元気やねえ。ほな、始めますか」
不敵に笑い、ルンペルが手にしたボールを投げる。
「こいつでどないや、パンプジン!」
ルンペルが繰り出すのは、カボチャのような胴体から細い体が生えたようなポケモン。髪のような部分から長い腕が生えている。

『information
 パンプジン カボチャポケモン
 何種類かのサイズが確認されて
 いる。細かい差異はあるが
 現在では四種類に分類される。』

「草とゴーストタイプのパンプジン……行きなさい、ハッサム!」
エストレが繰り出すのはエースのハッサム。
「行くわよ! ハッサム、燕返し!」
ハッサムが動き出す。
腕を刀身のように白く輝かせ、一気にパンプジンとの距離を詰めて必中の攻撃を繰り出す。
「パンプジン、ギガドレイン!」
だがハッサムの両腕がパンプジンの腕に掴まれ、食い止められてしまう。
さらにパンプジンの腕が淡い光を放ち、その光をハッサムへ侵食させ、体力を少しずつ吸い取る。
「ハッサム、吹き飛ばしなさい! メタルブラスト!」
体力を吸われるとはいえ、草技はハッサムにはあまり効かない。
両手の鋏を開き、そこからハッサムは鋼のエネルギーを放出し、パンプジンを引き剥がす。
しかし、
「残念。それじゃあかんのよ」
吹き飛ばされたパンプジンは、何食わぬ顔で戻ってくる。
「私のパンプジンは特大サイズ。物理攻撃は効かへんなぁ」
図鑑説明にもある通り、パンプジンというポケモンは四種類のサイズがあり、それぞれ優れた能力が違ってくる。
その中でもルンペルの持つ個体は特大サイズ。四種類の中で動きは一番遅いものの、最も耐久に、特に物理耐久に優れたサイズだ。
「だったらこうよ。ハッサム、剣の舞!」
ハッサムはその場で、剣のように鋭く激しく舞い踊る。
猛々しい舞によって、攻撃力を一気に引き上げる。
だが、
「それもあかんで。鬼火!」
それを見たパンプジンは不気味に揺らめく青白い火の玉をハッサムに向けて放つ。
咄嗟に炎を躱そうとするも、火の玉はしつこくハッサムを追尾し、ついにはハッサムに命中、その赤い鋼の体に火傷を負わせる。
「ッ……火傷状態……!」
「せや。お姉はんほどのトレーナーやったら、この状況がどんだけ面倒なことか、分かるやろなぁ?」
状態異常、火傷。
毒のようにじわじわとダメージを受け続けるだけでなく、攻撃力が大きく下げられる。
つまり、一度の剣の舞が意味を成さなくなったということだ。
「だったらもう一度舞うわ! ハッサム、剣の——」
「そうはいかへん。パンプジン、火炎放射!」
ハッサムは再び剣の舞を舞おうとするが、パンプジンが下半身のカボチャの口を模した切れ目から灼熱の炎を吹き出す。
「まずいっ……ハッサム、躱して!」
剣の舞を中止し、ハッサムは跳躍、間一髪のところで炎を躱す。
「炎技を持っているのね……また厄介な……」
鋼と虫タイプを併せ持つハッサムの弱点は非常に少ないが、唯一残る弱点の炎には非常に弱い。
「休む暇あらへんで。パンプジン、シャドークロー!」
パンプジンは髪のような両手に黒い影の爪を纏わせる。
ゴーストポケモンらしく浮遊できるようで、パンプジンは宙に浮き上がると、影の爪を構えてハッサムへと向かっていく。
「ハッサム、燕返し!」
対して、ハッサムは両腕を白く輝かせ、パンプジンを迎え撃つ。
立て続けに振るわれる鋏の腕がパンプジンの影の爪と激突する。
連続で二者の腕がぶつかり合ううちに、パンプジンの腕を覆う影は削がれ、やがて隙を突いてハッサムの白く輝く右足がパンプジンを蹴り飛ばす。
「うーん、火傷があっても痛えもんは痛えなぁ……まぁ剣の舞で火傷の攻撃力低下が意味を成しとらんから、仕方あらへんのやけどね……もう一回積ませる隙は与えへんで」
そしてパンプジンが吹き飛ばされたのを見ても、ルンペルは不敵な笑みを浮かべるのみ。
蹴り飛ばされたパンプジンはすぐにルンペルの元へ戻り、ケラケラと笑う。
「ハッサム、アイアンヘッド!」
鋼の頭部をさらに硬化させ、ハッサムは飛び出し、頭突きを繰り出す。
「パンプジン受け止めい! シャドークロー!」
突っ込んでくるハッサムに対し、パンプジンは影の爪を纏わせた両腕を突き出す。
勢いを止めきれずにハッサムに押されるが、それでもパンプジンは吹き飛ばされず、地に足をつけて耐え切った。
「ギガドレイン!」
ハッサムを掴んだまま、パンプジンは淡い光をハッサムに侵食させ、再び体力を吸い取る。
「ハッサム、メタルブラスト!」
再びハッサムは鋏から鋼エネルギーを放出し、パンプジンを引き剥がすと、
「畳み掛けなさい! ハッサム、燕返し!」
地を蹴って飛び出し、宙を舞うパンプジンに腕を叩きつけ、地面へ叩き落とし、さらに、
「もう一度よ!」
パンプジンの首を狙い、鋏を開いて急降下を仕掛ける。
しかし、
「パンプジン、火炎放射!」
地面に倒れたままのパンプジンが、カボチャの口から灼熱の業火を噴射する。
一直線に急降下するハッサムが炎を躱す術はなく、ハッサムは鋏を突き出したまま炎の中に飛び込んでいく形となる。
落下の勢いもあってか、ハッサムは炎を突っ切り、パンプジンの首へと鋏を食い込ませる。
だがそのハッサムの体は黒く焦げ、かなり大きなダメージを受けている様子。炎を貫き、突っ切ったとは言え、ハッサム側もただでは済まなかったようだ。
「ハッサム、そのまま吹き飛ばしてしまいなさい! メタルブラスト!」
それでも、ここでハッサムはパンプジンを捕らえた。
鋏が銀色に光り、そこから鋼エネルギーが放出される。
「ギガドレイン!」
だがその前にパンプジンの両手が、ハッサムの腕を掴む。
赤い腕を引き離し、両腕で縛り上げ、鋏を塞いでしまう。
発射口がなくなり、鋼エネルギーは暴発し、逆にハッサムが吹き飛ばされてしまった。
「っ……! ハッサム、まだやれるかしら」
さすがエースポケモンと言ったところか、体の黒い煤を払いながら、まだハッサムは立ち上がる。
「あら、まだ立てるんか……今ので決まった思てんけど」
ルンペルがくすくすと笑うと、倒れていたパンプジンが起き上がり、再び宙に浮かび上がる。
(ただの一団員かと思ってたけど、意外に強いというか、しぶといですわね。サヤナ、そっちは大丈夫かしら……そっちにまで手を貸せる余裕は無さそうね)
目の前のピエロが思ったより強敵であることを再確認し、エストレとハッサムは感情を見せない緑の道化師を見据える。

第80話 獣姫 ( No.143 )
日時: 2017/02/03 14:44
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: UwoqfYs/)

「あたしの相手はこんな子供なの? こんなので勝負になるのかしら」
サヤナの相手となるのは、青い蝶を模した衣装に身を包んだ、赤髪のサーカス団員、シュティル。
「子供だからって関係ないよね。テントの中の人たちを解放してもらうよ!」
「そういうことはあたしに勝ってから言ってもらおうかしら。おいでなさい、オーロット!」
シュティルのポケモンは、先ほどのサーカスでも使っていた樹木のポケモンだ。

『information
 オーロット 老木ポケモン
 森の木々を操り森のポケモンや
 植物の成長を促す。森を荒らす
 無法者に対しては容赦しない。』

「草とゴーストタイプのポケモン……なら、お願い、ビビヨン!」
サヤナが繰り出したポケモンはビビヨンだ。ワカシャモと迷ったが、ゴーストタイプのオーロットには格闘技が効かないため、ビビヨンを選んだ。
「ビビヨン、まずはシグナルビーム!」
ビビヨンの複眼から、激しい光を放つ光線が撃ち出される。
オーロットは動きはあまり速くないようで、初撃がいきなり命中する。
「ビビヨン、もう一度だよ!」
ビビヨンは立て続けに光線を放つが、
「オーロット、弾き飛ばして! シャドークロー!」
オーロットの右手が影を纏い、黒い爪を作り上げる。
右腕を振るい、オーロットはシグナルビームを弾き飛ばしてしまった。
「だったらビビヨン、エナジーボール!」
続けてビビヨンは自然の力を一点に集め、作り上げた淡い光の弾を飛ばすが
「オーロット、もう一度!」
それに対してオーロットは再び影を纏った右手を突き出す。
光の弾を掴み、握り潰して粉々に砕いてしまう。
影の爪も消えてしまうが、オーロットにダメージはない。
「その程度なの? だったらこっちから行くわよ」
ビビヨンの攻撃を軽くいなし、オーロットが反撃に出る。
「オーロット、ニードルルート!」
足と一体化した六本の木の根を、オーロットは地面に食い込ませる。
するとその直後、ビビヨンの真下の地面から尖った木の根が飛び出す。
「わっ! ビビヨン、避けて!」
ビビヨンが尖った根を躱すも、すぐさま二発目、三発目の木の根の棘が飛び出してくる。
三発目で体勢を崩され、その後さらに三本の木の根が一斉に地面から飛び出し、ビビヨンを突き飛ばした。
「オーロット、今よ! 岩雪崩!」
吹き飛ばされたビビヨンに対して、オーロットは周囲に無数の岩を浮かべ、次々にビビヨンへと放つ。
「っ……ビビヨン、サイコキネシス!」
咄嗟にビビヨンは強い念力を操作し、飛んでくる岩へと念力を仕掛ける。
念力で岩を受け止め、さらに飛来する岩にぶつけ、何とか全て防ぎ切った。
「危なかった……岩タイプの技を受けたら、ビビヨンは大ダメージだもんね……」
ワカシャモの方が良かったかも、と少しばかり考えるが、今はそうも言っていられない。
とりあえず岩雪崩は凌いだか、
「一息つく暇なんてあるのかしら? オーロット、ニードルルート!」
再びオーロットが足を地面にねじ込み、ビビヨンの真下の地面から尖った根を次々と突き出す。
「うわっ……ビビヨン、シグナルビーム!」
飛び出してくる根の棘へ、ビビヨンは複眼から激しい光を放つ光線を放ち、片っ端から防いでいく。
足の数と連動しているのか、どうやら最大六発が限界のようで、一度にそれ以上は打てないようだ。
「エアスラッシュだよ!」
続けてビビヨンは翅を羽ばたかせ、空気の刃を飛ばす。
足を地面から引き抜いたオーロットを、空気の刃が切り裂いた。
「ビビヨン、続けてシグナルビーム!」
「効かないわ! オーロット、岩雪崩!」
さらにビビヨンが複眼から激しく点滅する光線を放つも、オーロットは虚空から周囲に岩を出現させ、無数の岩を盾に使用し、光線を受け止める。
「ニードルルート!」
光線を止めると、再びオーロットは根と一体化した六本の足を地面に食い込ませ、今度はビビヨンの少し後ろの地面から尖った六本の根を一斉に突き出す。
「ビビヨン、躱して!」
「逃すもんですか! オーロット、シャドークロー!」
前方に飛んで根を躱すビビヨンだが、その結果オーロットに近づく形となり、それを逃さずオーロットは黒い影の爪を振るう。
「ああっ、ビビヨン!」
切り裂かれるというよりは叩き斬られたような爪の攻撃を受け、ビビヨンは地面に叩き落とされる。
「オーロット、鬼火!」
シャドークローを残したまま、オーロットが青白い火の玉を浮かべ、さらにその形を変えて二つの炎の輪を作り出す。
その炎の輪を影の爪で掴むと、起き上がったばかりのビビヨンへと投げつける。
体勢を崩しながらも一つ目を躱したビビヨンだが、二つ目を躱し切れず、炎の輪をぶつけられ、火傷を負ってしまう。
「うう……火傷しちゃった……」
サヤナが嘆くように声を漏らす。
ビビヨンは特殊技しか持っていないため攻撃力低下は関係ないが、それでも体力を少しずつ奪われていくのは苦しい。
「決めさせてもらおうかしら。オーロット、岩雪崩!」
オーロットが周囲に岩を浮かべ、ビビヨン目掛けて次々と放っていく。
「そう簡単に負けはしないんだよ! ビビヨン、サイコキネシス!」
ビビヨンが強い念力を操作し、無数の岩に念力を掛け、その動きを制御する。
「ここから逆転だよ! ビビヨン、岩を返してあげて!」
さらにビビヨンは操った岩を全てオーロットに向けて放ち、オーロットの周りに岩を積み上げ、オーロットを岩の中に封じ込めてしまう。
「岩ごと突き破って! エナジーボール!」
自然の力を一点に集め、ビビヨンは輝く光の弾を作り出す。
しかし、
「甘いわよ。オーロット、ニードルルート!」
エナジーボールを放とうとした矢先、ビビヨンの真下の地面から六本の尖った根が飛び出し、ビビヨンを突き飛ばした。
「この程度であたしのオーロットの動きを止めたと思わないことね。シャドークロー!」
次の瞬間、無数の岩が木っ端微塵に砕け散り、黒い影の爪を纏ったオーロットが姿を現わす。
突き飛ばされるビビヨンを狙って腕を突き出し、漆黒の影の爪がビビヨンを叩き斬らんと迫る。


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