白雪姫はりんご嫌い はるた ◆On3a/2Di9o /作

【22】愛した君
「……鍵、置いていくね」
彼女がそう言って、キーホルダーも何もついていない鍵を簡素なテーブルの上に置く。カチャリ、と乾いた音がたった。
「じゃあ……今までありがとう」
「……ああ、こちらこそ」
そう返すと、彼女はやんわりと悲しそうな笑顔を見せ、部屋を出て行った。
あっけない、あっけなさすぎる彼女との終わり。
つい昨日まで彼女と一緒に生活していたマンションの一室は、彼女の面影をまだ残していた。ああ、このソファーでたまに寝ていたっけ。この戸棚の一番上には届かなくて、わざわざ台を買ってきたんだったよな。
思い出が馬鹿みたいに溢れてくる。いつからこんなに女々しくなったんだ俺は。はぁ、と溜息がこぼれ出た。
――もう、終わりにしない?
そう切り出したのは彼女からだった。何で、とか聞かずに「そうだな」と答えてしまったのが間違いだったのかな。
付き合いたての頃は幸せで、彼女のためになら何でも出来ると思っていたが、現実はそう甘くなかった。
――ねぇ、あたし達って付き合ってるのかな。
ここ最近の彼女の口癖だった。責め立てるような口調でも無く、かといって泣きそうな様子も全く無い彼女は平然と俺に尋ねる。
当たり前だろ、そう答えることが出来なかったのは事実だ。
終わってしまったことを嘆いても、もう彼女が二度と帰ってこないことなんて分かっていた。
どこで選択肢を間違ってしまったんだろう、どこでこの道にたどり着いてしまったのだろう。
――ごめん。
意味もなく呟いた。それはきっと、君への言葉だったのかもしれない。
(愛した君)

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