白雪姫はりんご嫌い はるた ◆On3a/2Di9o /作

【43】ぼやける
視力がガクッと急に落ちたのは、確か中学に入ってからすぐのこと。まず黒板の字が見えなくなった。それは席を交換してもらって何とかやりすごした。だけど目の前にいる、大好きな――野崎の顔が霞んできたときにはさすがに少し焦った。原因なんて知らないし、まぁお父さんもお母さんも目が悪くてコンタクトレンズをつけてるし、遺伝だろうなとは思ってた。
野崎の顔で恋をしたわけじゃないけど、やっぱり好きな人の顔が見えなくなると寂しい。別に恋人でもなんでもないから、顔をやたら近づけると変に思われるし。眼鏡をかけるのにも何故か抵抗があった。似合わなかったらどうしよう、そんな些細な不安。
「お前ってさ、どうして最近俺を見るたび目を細めるの?」
野崎にそう訊かれたときは、少し焦った。目が悪い人の癖、物や人を見るとき目を細めてしまう。
「目が、悪いから顔がよく見えなくて」
そういうと野崎は馬鹿みたいに顔を近づけて、近づけて?
「こうすれば、よく見えんだろ! 俺の顔!」
そう言って笑顔を見せる。
……はっきりと見えた彼の顔、別の意味でぼやけていきそうだった。
(ぼやける)

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