白雪姫はりんご嫌い  はるた ◆On3a/2Di9o /作



【55】ジレンマ



「暑いね最近本当に! 馬鹿みたいだよー」
 ファミレスの一番奥の席で、親友の前原雅はそう言って冷たいオレンジジュースを勢いよく啜った。雅とは中学生のときに知り合い、そのまま高校二年生になった現在まで仲が良い。なんというか、一緒にいて楽なのだ。キャピキャピしてて恋愛だメイクだに気合を入れる女子が苦手で、だけど漫画やゲームなどを好む女子の輪にも入れないあたしには凄く雅は言い方が悪いけど、丁度良い。
「夏休みに女同士でファミレスで話してるのも寂しいね、彼氏でもいれば楽しいのかね? 私にはよく分からんけどさー」
 雅はそう言って笑う。雅は可愛いから、作ろうと思えば彼氏なんて作れるのになーっていつも思う。
 すると雅は「興味は無いんだけどさ」と前置きし、
「千秋は好きな人いないの?」
 とあたしに向かって訊ねる。
「あたし?」
 飲んでいたカルピスを思わず噴出しそうになる……なんてことは無かったけど、それなりに動揺した。
「あー千秋が彼氏でも作っちゃったら私寂しいな! 一人でファミレス? うわ、考えるだけで涙出てくる!」
 雅は質問の答えなんて期待してないみたいで、一人で話し始める。少しほっとした。

 あたしは好きというより気になっている人がいる。好きと気になっているの境界線がいまいち分からないけど、多分好きっていう程そんな気持ちは大きくない。
 そして問題なのが、それが一人じゃなく二人いるということなのだ。
幼馴染と同じ委員会の人。二人の間で揺れている! って程、あたしは相手にされてるわけじゃないけどどっちが良いのかも自分で分からない。自分の気持ちなのに、と溜息が出る。

「ねぇ、雅」
 そう呼ぶと、雅は「何?」と首を傾げる。
「あたし、好きな人が二人いるの。どうしたらいい?」
 雅は目を少しだけ大きくしてあたしを見つめる。そして、
「別に二人いちゃいけないって法律は無いからいいんじゃないの? 誰だってそういう経験あるよ。あたしにもあるから、大丈夫だよ」
 軽い声調だったけど、雅の言っていることは結構確かだったんだと思う。そして、
「二股かけちゃいなよ! 千秋、悪女になっちゃえよ!」
 という雅の言葉に、あたしは笑ったのだった。

(ジレンマ)

お題提供:桜子さん「好きな人が二人いる」「幼馴染」