白雪姫はりんご嫌い はるた ◆On3a/2Di9o /作

【56】時よ止まれ!
時がとまれば良いのに、とか思った。
この自転車を二人乗りしている今はあなたとだけの世界。邪魔者なんて、いない。別に前でペダルをこいでいる彼と付き合っているわけでもなんでも無い。ただのあたしの片思い。だからこそ、時が止まればずっと一緒にいられるのに。このまま、彼の腰に腕をまわしたままで二人でいられるのに。
「ねぇ知ってる? 二人乗りって道路交通法違反なんだって!」
尚もペダルをこぐ彼に話しかけると「知ってる! でもお前、足痛めてるんだろ?」と笑った。
あたしは部活ですっ転び、しかもその場所が体育館倉庫内だったため、何かよく分からない器具に足をぶつけて腫れてしまったのだった。下校の少し前、それを彼に何となく言ってみると『じゃあ、帰り俺の自転車の後ろ乗っていって良いよ』との返事。嬉しくて嬉しくて、顔がにやけるのを抑えるのに苦労した。
大きな道路の歩道側を走る。あまり人通りは多くなく、すいすいと進める。時々塀の上から植木がはみ出していて、それが顔を掠めると少しだけ痛かった。でもその痛みも気にならないほど、あたしは緊張してた。胸の鼓動はうるさく、多分密着する彼の背中にも伝わっていたと思う。顔も火照り、熱い。きっと鏡があったら真っ赤なあたしの顔が現れるんだと思う。
時が止まれば良いのに。そうすればあたしはこのまま彼と二人でいられるのに。自転車のチェーンのカラカラという音がする。――あ、もうすぐ家だ。そう思うとやっぱり凄く寂しかった。
(時よ止まれ!)
お題提供:まちさん「二人乗り」

PR
小説大会受賞作品
スポンサード リンク