Re:愛してる

作者/おかゆ

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     伊藤翔視点

「はぁー疲れた・・だる・・」
俺はいつものように誰にも見つからないように(ここ重要)いつもの資料室へ入っていった。

もう皆帰って部活なりなんなりしている時間帯。
周りには誰もいなかった。

「市川ー?いるー?・・・荷物はあるのか・・ジュースでも買いに行ってるのか?」

などと一人でぶつぶつといっていた。

「・・・はぁ」

それにしてもあれだ。一人だとこうもむなしいのか。

「お、トランプがある!・・って一人じゃ何も出来ないじゃん・・」


でもなんでトランプ・・?まさか市川、これでずっと一人遊びを・・

俺はそんなどうでもいい考えを一人でやっていて、やめた。



「・・・・ちょっと散歩でもしてこようかなー」
と、誰かいるわけではないのに独り言をつぶやく。


***

資料室を出て数分間散歩して、西トイレの近くまで来た。
「・・てかここらんへん久しぶりに来る・・あれ?初めて・・?」

高校生活もやっと慣れてきた所。でもこのへんはさすがに・・薄暗そうだし。

と、思っていたら―・・





「はぁっ!?またかよ!」
「いい加減にしろっ!!」

女子達の叫び声。どこか恐怖が入ってる。

『まだ足りないですか?もっと掃除してあげましょう』

・・・市川?

声は確実に市川。でもなにか違う。

『貴方達でしょう・・まったく、くだらない遊びはもう終わりにしたいんですけどね』

・・・あぁ、そうか。
敬語をつかっているのか。


そして近くの曲がり角まで行くと声はもっと大きく聞え、ゴンッと嫌な音まで聞える。


「・・・なっ・・なによぉ・・これぇ・・」
俺にも聞き覚えのある声。えっと・・名前が思い出せないけどよく俺に話しかけてくる声。

俺は思い切って顔を出すことにした。


『さっきまでの威勢はどうしたのですか・・・って・・伊藤・・?』
「・・っ!?・・いとっ、」

そこにはずぶぬれになり制服がぼろぼろになりながらもモップをもって追い詰めている市川と追い詰められている俺のクラスメイト。

「・・・たっ・・助けて!!伊藤!!市川さんがっ・・私達に襲い掛かってっ・・!!」
その女子が俺に助けを求めた。

確かにこの場面を見たらそうなるかもしれないけど・・市川の状態と市川の状況を考えるとこいつらは多分――・・


『困った時だけ助けを求めるのですね』
「・・うるさいっ!!あんただってどうせ理紗をいいように使ってたクセに――」



ガンッッッッッッ――



激しい音がした。クラスメイトの女子の後ろにあった壁からぱらぱらと壁の塗料がはがれおち、大きな傷がつく。

「・・・・・っ・・」


その女子は気を失った。



「・・・・・・・、は?」


しばらく時間がたつと市川が間抜けな声をあげてその場に座り込んだ。


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「・・・・私・・あれ・・?なんで・・」

気づいたら私はモップを持ってその場に座り込んでいた。

「・・麗華?に・・皆も・・なんでたおれてるんだ・・?」

訳がわからない。

「市川・・お前・・」

そして近くに伊藤が立っている。

「・・・っ、とにかく・・そのままだと風邪ひくから・・いったん資料室に戻って・・」
「ねっ、伊藤っ・・なんで、私・・っ、」
「それより今は服!!」

半分伊藤に怒鳴られ、しぶしぶ行くことにした。

「・・れっ、麗華・・たちは・・」
「あいつらはお前みたいにぬれてないし、気を失ってるだけだから大丈夫だろ」

・・・ちょっとかわいそうだとも思ったけどとりあえず資料室に戻った。


***


「・・・・で、敬語使ってるお前がその・・麗華?っていう子を追い詰めて壁をこう・・ガンッと・・」
「・・・・、」


全然覚えてない。

ジャージに着替えた私は伊藤から自分が見たことを細かく教えてもらっていた。


「・・・・なぁ、マジで覚えてないの?」
「・・何度も言ってるでしょ?」

ちょっと私もイラつきながら返事をする。

「・・・思ったんだけどさ、こうゆうのって考えたことない?」


――・・二重人格


「・・・・二重人格?」
「そ。いや・・多重人格かも知れないけど・・お前の話し聞いてる限り俺それがずっと頭の中でぐるぐると・・」


二重人格・・話は聞いたことあるけど。

「んで、入れ替わるスイッチみたいなのがあって、その言葉を言うと人格がかわるーみたいな・・さすがにそれはないか」

伊藤がケタケタ笑った。


「・・・・・ありえないでしょ」
「そうか?しかもその麗華ってやつが・・誰だっけ理紗って名前だした瞬間物凄い勢いでやったときなんて――・・」

そこまで言ったとき、伊藤がしゃべるのをやめた。

「・・・・市川?」

あれ。

「・・・どうした・・?」

今、私。

「・・・泣いてる・・?」


どんな顔してる――・・?