Re:愛してる

作者/おかゆ

25


山田理紗。


彼女はいつでも優しかった。
だから私はいつもその優しさに甘えていたのかもしれない。

だから麗華たちに裏切られて、嫌がらせをされた時、本当は心のどこかで思っていた。


――・・あぁ、やっと自分に回ってきた、と。

自分だけ幸せになんてなれないよ。
理紗うけた痛みは私も受けるよ。


なんてことを考えてた。


『市川さんってクールだよね』
『なんか近寄りがたい感じ』
『一匹狼みないな?』

クラスの女子達が口々にこういった。


違う。

本当は。怖かった。


また、あの時と同じようになるんじゃないかと。
だから無意識に自分で境界線を作った。
境界線を作ったら自分は前のように傷つくことも傷つけることもないんじゃないかと。

そして、

軽く話し合える仲になっても、
これ以上はこえてはダメと。


自分で決まりを作った。



そうしたらなんだか楽になった。

自分が裏切ることも、裏切られることもない。
麗華達の場合は私が何かしてぐちゃぐちゃになったけど
結果これでいい。と


私は満足した。

これは私が求めていた現実。
理紗と同じ痛みを味わうために自ら作り出した世界。

結局、


私はそういう人間なんです。

格好つけて、でもいざというときに何も出来ない。

そんな人間なのです――・・



*****


「・・・・・」
「・・、ごめん・・伊藤がどうとらえてもいいけどさ・・これが私の過去・・というか・・なんていうか・・」

なんとなく言葉に詰まる私を伊藤は静かに待ってくれた。

「・・・・なんで・・もっと理紗の近くにいられなかったんだろう・・」

結局出した言葉はこんなのだった。


「――・・お前が、」

突然伊藤が口を開いた。


「・・・お前が過去の失敗をくよくよ引きずるタイプだっていうのは十分分かった」
「・・・」
「"いじめ"ってのは絶対なくならないと俺は思ってる」
「・・?」
「・・・お前も思ってる通りいけないことだって分かっててもそれをとめられるのはほんの一握りの人間だけだ」
「・・・うん、」
「・・・・皆やっぱり・・自分が大事で・・自分が可愛いんだよ・・」
「何を今更。結局、そんなもんでしょ?」
「――・・俺も同じだ」
「それ、前も言ってたよね」
「おう」


そして夕日に照らされて伊藤の髪の毛が綺麗に反射する。


「・・・俺もお前のこと、あまりよく言えないや」
「・・・・、何それ」


私は軽く笑った。伊藤もつられて笑う。


「・・・・・・・ありがとう」


気が楽になった。


26


「・・・じゃなー」
「あー・・うん。じゃぁ」

そしてさらに数分後、私達は帰ることにした。

「・・・・・なぁ、」


廊下を歩いている時、伊藤に呼び止められた。

「――・・俺たち、友達になることって出来ないのかな」

珍しく真剣な顔で言うので私は戸惑った。


「・・・・わかんないよ」


私は小さくつぶやく。


「・・・・でも・・まだ、無理」


私は思ったことを口にした。

「・・・・だよなー・・俺も今は無理だ」



彼の言いたいことがよく分からない。


「俺も・・・まだだなー・・」


彼は自分に言い聞かせるように言った。

「――・・俺もまだ早い」
「・・・・、」



***


――・・ありがとう


「・・・・・、」


伊藤にお礼を言った。すると一瞬驚いた顔をしてそれから、


綺麗に笑った。



「理紗・・・、」

いつものように一人で帰る。
誰もいない静寂な空気の中で小さく親友の名前をつぶやく。


「・・・・・っ、」


右目だけが涙を流した。


「・・・・、理紗」

もう一度。今度はもう少し大きな声で。


「・・・あ、」

やっぱり右目だけが涙を流した。



****



「聞いた?」
「あー、あれでしょ?」
「そうそう、市川さんのやつ」
「怖いよねー、本当かなー?」


次の日の朝、教室では異常な空気に包まれていた。

――・・私の噂。


本能的に私はその噂に耳を傾ける。



「―・・なんでも、西トイレで麗華達を殴ったらしいよ?」
「えーっ!嘘でしょ!?」
「しかも麗華達は何もやってないって。無抵抗な人間にホースで水かけたりしたんだって!!」
「うわー!市川さんやるねぇ」


・・・・・確かにモップで色々やったかもしれないけど、今の話は麗華達がやったことなんだけど・・



・・・と、そんなことは言わず一人で机にふせていた。





――・・今日は何もない。