Re:愛してる

作者/おかゆ

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「(あーあ、)」

薄暗くなった帰り道を二人で歩いた。


「(・・どこまでついてきてくれるんだろう)」

さっきからずっと無言で一緒に歩いてくれてる。

もうだいぶ乾ききった目元を軽く触りながらゆっくりと伊藤に尋ねた。


「・・・・・伊藤、どこまでついてきてくれる?」
「ん?・・・あー、どこまでがいい?」
「もういいよ。私は大丈夫だから」
「って言ってもなー、お前そういう時って半分嘘だもん」
「本当だって」
「それに俺ら途中まで道一緒じゃん」
「あ・・・・」



そういえば。
いろいろありすぎて気がつかなかった。




「ほら」



伊藤が軽く笑う。



「そんなことも忘れるくらいまだ、動揺してんだろ?」
「・・・・・・、」



正直、最近彼に助けてもらってばかりだと思う。


私だって、恩返しがしたいのに肝心の彼のことについては何も知らない。

それは彼なりの優しさなのだろうかそれとも――・・


「・・・・・そうだね」


私は伊藤にそう短く返事をするとさっきまで頭の半分を占めていた考えをやめることにした。


「・・・だって理紗が転校するって聞いたときもう一生会わないのかなぁなんて思ったりしたんだもん・・・なのに、こんな、よりによって停学中にあっちゃってさ。数日で半分が解決しちゃうような・・そんな、こと・・」


「考えてなかった?」


数秒早く伊藤が言った。


「・・・うん。だって・・・数日だよ?私が・・ううん、私と理紗が何日も何ヶ月も考えて悩んでいたことがあっというまに・・・・もう、なんであんなに考えていたんだか分からなくなる・・・」


何も進まないで考え続けるくらいだったら。


「――傷つけても、進むべきだったのかなぁ・・・」


本当に私達がしたことは正しかったのか。


今思えばそれはあいまいになって消えていく。



「・・・思ったんだけどさぁ」


ふと、伊藤が声を出す。



「お前らが考えてきた時間は無駄になんてなってなかったんじゃないか?―・・って、思うんだけど・・」

「え?」

「数日で片付いたって思ってるけどそれは間違いで、その考えてる時間がたくさんあったからこそ、数日で・・いや、一日で片付いたんじゃないのか?」


「・・・・・・、そうかも」


「だろ?」



『やっと笑顔になったな』と笑われ、改めて伊藤はすごいと思った。



「まぁこんな俺の話でも役に立ててよかったわ」






そういった伊藤はやっぱりすごく綺麗に笑うのだ。









すごく・・・・・綺麗に・・・・・・、







(その笑顔を見るたびに私は何度救われて、)

(何度、泣きそうになったことだろう)


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伊藤別れてようやく家に帰った。

「・・・・・ただいま」
「あ、お帰り瑠璃」
「うん」


なんとなくぎこちない会話をしてしまったけれど多分これでもちゃんと進めてる。


「・・・けじめ、つけてきたの?」
「・・・、うん」
「そう」


まるで何も言わなくても分かるかのようににっこり笑った。


「今日はカレーでいい?」
「うん、私おなかすいちゃった」



なにがあったのかは詳しく聞かない。

本当は知りたいんだろうな、なんて思いながら私もあえて話をしない。

まだ、心の準備ができてない。


「はい」
「あ、ありがと」



すぐに出されたおいしそうなカレーを食べる。



「・・・・おいしいね」



なぜかまた涙があふれそうになった。






*    *    *    *    


それから早いもので停学十日目。



「ついに明日から学校かぁ・・・」


まず、教室にいけるのかな。

麗華たちの嫌がらせは多分ひどくなっちゃうな。

あれから理紗に何もなければいいけど。

もし理紗に何かが起きていたらその時は麗華に『絶交した』とか言って理紗から引き離さなきゃ。

伊藤はお人好しだから―――・・




「・・・・・・・・、」



伊藤・・・・・・、




あいつは・・・伊藤は本当に馬鹿なくらいお人よしで、


私なんかに気を使ってくれて、励ましてくれて、相談にのってくれて。


「・・・・・もう」


『分かってる』  『信じてはだめ』

脳内で何百回と唱えた言葉じゃないか。


信じていいのは理紗と・・・お母さん、だけ。
あと、お父さんも。


彼は自分より下の人間を助けたりして優越感に浸りだけなんだ。きっとそうだ。


あいつは偽善者。じゃなかったらこんな――・・



「こん・・な・・」

歪んだ、 
最低な、
親友を裏切った、
絶交した、      
自己中な、


こんな私と――――っ・・・





「(仲良くしたいとなんて思わないでしょ)」





いつか裏切られる。



そんな未来のことが分かってるのなら今からでも準備すればいい。


裏切られたとき、裏切られた後、その全ての行動を。


「・・・・・・嫌だ・・」






こんなことを、考えている自分が本当に嫌いだ。

でも裏切られるのが怖かった。
ならば、

最初から信じなければ良いだけの話だった。


信じたいけれど、裏切られるのが怖いから彼の悪いとこばかりを探して『信用しなくてよかった』なんて安心をする。



「・・・・・・嫌だよ、」



涙がこぼれていた。






(でも分かっているなら、)
(それまでの間楽しんでもいいと思った)

(――・・そんな矛盾)