Re:愛してる

作者/おかゆ

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「じゃな」
「うん・・また、」

あれからも伊藤は私を励ましたりしてくれてだいぶ楽になった。

そして一人になって考えたりもした。


理紗とちゃんと逃げずに話をすること、久しぶりにお母さんに学校のことを話そうか。

――・・そして伊藤に沢山のお礼を。


なんてことを考えながら家に帰る。



「あ、瑠璃・・お帰り」
「・・・、ただいま」


お母さんが今日早く帰ってくることを忘れていた。



「どこ行ってたの?今停学中なんじゃ・・」

なんてことを言いながらも怒ろうとはしないお母さん。


「うん・・・でもちょっと外の空気を吸いたくて」
「そう・・」


ここで会話が終了する。

「(・・変ね)」

いつもならなんとも思わなかったのに、沢山話したいことが出来るとこの空白の時間がこんなにも気持ち悪く感じる。

こんなのをもう数年間続けてきたなんて自分でもある意味感心する。



「ねぇ」
「んー?」
「聞かないの・・?なんで、停学になった・・だとか、学校でのはなしだとか・・」


私がそういうと一瞬お母さんは驚いたような顔をして、そのあと『んー
』と言ってから。


「・・・・・・本当はね、すっごく聞きたい。でも瑠璃だって好きでそうなってるんじゃないでしょう?無理に言って瑠璃が傷つくなら私は聞かないの。瑠璃はときどき本当に悲しい時、泣かないで一人でずっと抱え込む癖なんてあるからね・・・お父さんのときみたいに」


『お父さん』


自分からはめったに口に出さない単語だった。



嗚呼、それだけ・・・それだけ、この人もちゃんと向き合ってくれている。


やっぱり私もちゃんと向き合わなくっちゃ。




「久しぶりにいろんなことを話すんだもの。瑠璃の話なら何時間でも、何日でも聞くよ」
「・・・・・・うん」




あれ。私、こんなに涙もろいんだっけ。


本当に、最近いろんなこと、あったから。
いろんな、ちょっとしたことで、涙を流す自分がいるわけで。



だから『うん』しかいえなくて。
でも必死にこらえて。




「―――・・私ね、」











(この先はきっと、幸せが待っている)
(だから私はもっと頑張れる)


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「・・・・・そっか」

お母さんは話を一通り聞き終わると軽く伸びをした。

「・・・・まず、私が最初に言いたいことが一つ」
「うん、」



「――・・よくがんばったね」



そしてゆっくりと私の頭をなでた。



「・・・・・・・うんっ・・・・」



一番欲しかった言葉、なのかもしれないと思った。


「・・・・話してくれてありがとう」


お母さんは綺麗に笑った。


*    *    *    *


「・・・・・ありがとう、お母さん・・もう大丈夫」


あのあと、私にココアを出してくれてようやく落ち着いた。


「うん、どういたしまして」

お母さんは自分のココアを一口飲んで私に言った。


「・・・・・手伝おうか?」

真剣な目。
何を手伝うのか、何が言いたいのかは言わなくてもわかっていた。


「ううん。大丈夫。これは私の問題だから」
「・・そう」

そして悲しそうに笑った。


「ねぇ、瑠璃。世の中には嫌なことから逃げるなって言う人もいるけど、お母さんはどうしてもつらくて嫌なことがあったら全力で逃げていいと思うの」








「助けを呼びたかったら大声で呼びなさい。瑠璃は一人じゃないからね」








お母さんは綺麗に笑った。その声が心地よくて。

私はもっと頑張れる。改めて思った。





「大丈夫よ、瑠璃にはもう友達がいるはずだから。理紗ちゃん以外にね」



『いるんでしょう?』と問いかけた。

「・・・・・、」



『俺と友達になろう!!』


突然あの言葉が頭をよぎった。


始めは訳がわからなかった。
でも今はすごく、嬉しかった言葉。




「うん、いるよ。できたんだ」




とても大切な、私を助けてくれた恩人が。









(ありがとう、私なんかに友達だといってくれて。)