Re:愛してる

作者/おかゆ

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       10分間


それが私が音楽室で待った時間だ。

吹奏楽部の練習の音を隣で聞きながら私は10分も待った。

――・・10分間も、理紗を独りにしてしまった。


でもやっぱりやめよう。
そう思って理紗達がいるであろう教室へ走った。


『ふざけないでよ!!あんたたちの遊びに付き合ってる暇はないの!!』

「――――っ・・!!!」

理紗の強気で、おびえている声。

『こんなっ・・ことしか、ストレスを発散できないなんてっ・・かわいそうでしょうがないって・・言って、んのよ・・』


息遣い。かなり疲れてる。


『やめてよ』

助けにいかなくちゃ、


『瑠璃は私を裏切ってるはずがないじゃない』


―――――――――・・っっっ!!!!!!!


『だから――っ!?』


理紗の悲鳴。周りの女子達の汚い笑い声。
私は全部。





聞えないフリをした――・・。









"イジメはよくない"
そんなことぐらい誰だって・・私だってわかってる。

でもしょせんそのイジメをとめる勇気をもってる人間なんてほんの一握りだろう。

皆、馬鹿じゃないもん。

このイジメをとめたら次に自分に来ることぐらい知ってる。

本当は。本当はね、理紗。







私もすごく、怖かったんだ―――・・。









「・・・・・瑠璃・・」
「・・・・、」
「・・ヘヘッ・・ごめんね?・・結構がんばった、つもりなんだけど」


結局泣いちゃって。


そう言ってまた綺麗に笑う理紗がどうしようもなく格好良くて。


「―・・ごめん・・瑠璃・・私、もう無理かもしれない・・」
そしてまた泣く理紗。

制服のリボン、どうしたの?
また体操服、粉まみれじゃない。
スカートだって、えりだって、はさみで切られてる。
あんなに綺麗だった髪の毛だって、少しはさみで切られちゃって。

ごめん、理紗。





それは全部、







「私のせいだ・・」




リボンは今ゴミ箱の中にある。
体操服はわざわざ隣のクラスからチョークの粉をとって汚された。
制服だって仕立ててあげるだのいってぼろぼろにされた。
髪の毛だってその延長で。


全部、知ってた。全部聞いてた。


知っていたのに、いけなかった。





「・・・・・・ごめん・・・・ごめん、なさい・・」





私は泣きながら理紗を抱きしめた。


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「・・・・ごめんなさい・・っ・・ごめん・・な・・さ・・」

泣きじゃくっている私にどう接すればいいのか迷ってる理紗。

私は理紗のように強くない。
私は本当はどうしようもなく弱い人間だ。
私は自分が可愛くて勝手な理由で理紗を裏切った。

「一人、にしてっ・・ごめんっ・・勝手な理由で・・裏切って・・ごめん・・、」

一人でこんなになるまで戦って、泣きたいのに、急に私が泣き出しちゃったから、また泣くのをこらえて。

「・・瑠璃・・」

泣かないで。


そういってハンカチを差し出した理紗。


「・・・・・誰だって・・・いじめは怖いよ・・」

そういってロッカーに背を預けた理紗は私に笑いかけた。




「――・・来てくれて、ありがとう」




彼女は最後まで優しかった。








「ねぇ聞いたー?」
「あー、うん。あれでしょ?」

その数週間後。
理紗は転校するらしい。

「いじめにあってつらいから逃げたーみたいなもんでしょ、多分」
「えっ!?じゃぁやっぱりいじめって本当だったの!?」
「そうなんじゃない?」


皆は何も知らない。

何も理紗のことを知らない。


「瑠璃、」


長くて綺麗な黒髪を今はばっさりと切って肩につくぐらいまでとなった理紗。

「ごめんね」

「私、転校することにしたの」

「逃げてばかりだけど・・許して」


そして理紗はまた泣きそうになった。



違う。



逃げてばかりだったのは私なのに。



「・・・して・・」
「えっ?」
「どうして?」
「何が?」
「どうしてあのときのことを責めないの!?あの時本当は私知ってたんだよ!?なのに理紗のこと、助けなかった!本当は怖くて終わるのを待ってた!なのにそのことを・・どうして責めないの!?」


本当は私のこと責めたくてしょうがなかったんでしょう?と言うと理紗は小さく首を振った。


「そんなことないよ」
「っ、」
「言ったでしょ?・・あれは仕方がなかった」
「でも、」
「『瑠璃はあのとき知らずに音楽室でずっと私を待っていた』」
「!?」
「・・・・それでいいの」

ふわりと理紗は笑った。


「・・・ずっと瑠璃といて楽しかった。瑠璃のことが大好きなのに急に大嫌いになれるはずがないでしょう?」

理紗の目にはうっすら涙が浮かんでいた。


「・・・・・・・・っ」

私も楽しかった。
私も理紗のことが大好き。

そう言いたいけど言葉がうまく出てこない。




「――・・ありがとう」



転校する時、先生は言った。

『逃げてばかりか?』

周りの奴らは言った。

『あぁ、やっぱり逃げるんだ』


皆、皆。私も含めて。

皆・・・・クズだ。



理紗は逃げてなどいない。




「・・・・・ごめんね、瑠璃」



ちょっと人より優しいだけなのだ。
ちょっと人より感情を出さないけど、立派に心は存在するのだ。


じゃぁ、


「・・・・ごめん、」


この理紗の感情は。








「―――――――っっっ・・・」




どうすればいいんだ・・?