Re:愛してる
作者/おかゆ

45
事故から数時間がたった。
暗い部屋。久しぶりに雨が降った。
「・・・・」
きっと今通夜だろうな。
目を閉じていても分かる。風景、音。
あぁ、愁のお母さんが泣いてる。
愁のお父さんだって、目に涙をためて泣くのを必死にこらえている。
まわりの親戚も皆。そういえば愁には小3の妹がいたな。
まだ現実がよく分かってないけど、周りの雰囲気で気づいたのか泣きそうになっているんだろうな。
全部、頭の中でできていく。
――・・俺も行けばよかったのかな。
でもどんな顔していけばいいのかわかんない。
ひどいこと言った。
俺は――――・・、
「・・・・、」
俺は全体重をベッドに預けた。
* * *
「・・・・まぁ、小嶋のことは、その・・残念だが今は受験に集中して欲しい」
事故が起きてからの数週間後、先生との面談があった。
「・・でもその受験のせいで、俺らは―・・」
「それはお前のせいじゃない・・もちろん小嶋のせいでもない」
「・・・・」
「ひどいことを言うかもしれんが・・今はお前の行きたい高校を目指して勉強しなさい」
「・・・・・・・・はい」
これ以上、何も言うことができなかった。
* * *
「お前も大変だったな」
「親友が死んだのはつらいと思うけど・・何かあったら俺らにも言えよ?友達だしな」
「かわいそうに」
「親友を亡くした、」
「俺らが」
「何とかしないと、」
『助けないと』
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なぁ、知ってるか?俺、翔と同じ中学校だったんだけどさ」
「中学のとき、」
「親友を事故で亡くして、」
「かわいそうで―・・」
「仲良くして―・・」
「助けてやろうぜ」
『かわいそうだから仲良くしてやって』
いつしか噂は一人で歩き出した。
皆が俺を気遣うように、まるで割れ物に触れるように仲良くしてくれた。
偽りの友情。
いつしか本当の友達の接し方を忘れてしまった。
嗚呼、
すごく惨めな気分だ。
46
「・・・いと・・」
ふと、市川の声で我に返る。
「・・・ごめんね」
もう一度小さく声に出した。
「・・・も・・う、私は、だいじょ、ぶ、だから」
大丈夫じゃないだろうと心の中で思ってても、市川があまりにも綺麗に笑うから俺は『そっか』とまた小さく笑うしかなかった。
「ありがとう、理紗のことを聞いてくれて。ありがとう、さっきの麗華のこと理由も聞かないでただそばにいてくれて」
やっと本当に落ち着いてきた市川は俺の手を軽く握った。
「・・・・でもね、伊藤。もう一つだけ私のお願いを聞いて」
市川が真剣な顔をしていったから俺は少し驚いた。
「――今日はもう帰って?」
「・・・・・え?」
「しばらく一人でいたいの」
自嘲するような笑み。
まるでまた、自分を責めてるようで。
『もう』とっくの昔に友達との接し方を忘れた俺は、
市川がどんな気持ちなのか、このときになんて言葉をかければいいのかわかんなくて。
「・・・・わかった」
考えた結果やっと出てきた言葉はこんなんで。
「・・何泣きそうになってんのよ」
「大丈夫」
「もう、どこも切ったりしないから」
なんて。
気を使うどころか逆に俺が気を使われちゃって。
「・・・・何かあったらメールしろよ。電話でもなんでもいい。来て欲しいならすぐに来るから」
不器用な俺が出したのはそんな言葉。
一瞬驚いた顔をしたけど彼女はやわらかく笑って
「わかった」
そう言ったんだ。
「・・・・じゃぁ」
「うん、」
扉を閉める。
いつか、
いつか彼女に俺の過去を話そうと。
廊下を歩きながら思った。

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