Re:愛してる

作者/おかゆ

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事故から数時間がたった。
暗い部屋。久しぶりに雨が降った。


「・・・・」

きっと今通夜だろうな。


目を閉じていても分かる。風景、音。

あぁ、愁のお母さんが泣いてる。
愁のお父さんだって、目に涙をためて泣くのを必死にこらえている。

まわりの親戚も皆。そういえば愁には小3の妹がいたな。

まだ現実がよく分かってないけど、周りの雰囲気で気づいたのか泣きそうになっているんだろうな。



全部、頭の中でできていく。



――・・俺も行けばよかったのかな。

でもどんな顔していけばいいのかわかんない。
ひどいこと言った。




俺は――――・・、



「・・・・、」

俺は全体重をベッドに預けた。




 *   *   * 



「・・・・まぁ、小嶋のことは、その・・残念だが今は受験に集中して欲しい」


事故が起きてからの数週間後、先生との面談があった。


「・・でもその受験のせいで、俺らは―・・」
「それはお前のせいじゃない・・もちろん小嶋のせいでもない」
「・・・・」



「ひどいことを言うかもしれんが・・今はお前の行きたい高校を目指して勉強しなさい」





「・・・・・・・・はい」






これ以上、何も言うことができなかった。




 *   *   * 



「お前も大変だったな」
「親友が死んだのはつらいと思うけど・・何かあったら俺らにも言えよ?友達だしな」
「かわいそうに」
「親友を亡くした、」
「俺らが」
「何とかしないと、」








『助けないと』






・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



    「なぁ、知ってるか?俺、翔と同じ中学校だったんだけどさ」

                   「中学のとき、」

      「親友を事故で亡くして、」

  「かわいそうで―・・」
               「仲良くして―・・」

「助けてやろうぜ」
    
             




   『かわいそうだから仲良くしてやって』




いつしか噂は一人で歩き出した。



皆が俺を気遣うように、まるで割れ物に触れるように仲良くしてくれた。


偽りの友情。



いつしか本当の友達の接し方を忘れてしまった。





嗚呼、








すごく惨めな気分だ。


46


「・・・いと・・」


ふと、市川の声で我に返る。


「・・・ごめんね」


もう一度小さく声に出した。

「・・・も・・う、私は、だいじょ、ぶ、だから」

大丈夫じゃないだろうと心の中で思ってても、市川があまりにも綺麗に笑うから俺は『そっか』とまた小さく笑うしかなかった。


「ありがとう、理紗のことを聞いてくれて。ありがとう、さっきの麗華のこと理由も聞かないでただそばにいてくれて」


やっと本当に落ち着いてきた市川は俺の手を軽く握った。


「・・・・でもね、伊藤。もう一つだけ私のお願いを聞いて」

市川が真剣な顔をしていったから俺は少し驚いた。



「――今日はもう帰って?」
「・・・・・え?」



「しばらく一人でいたいの」



自嘲するような笑み。



まるでまた、自分を責めてるようで。

『もう』とっくの昔に友達との接し方を忘れた俺は、


市川がどんな気持ちなのか、このときになんて言葉をかければいいのかわかんなくて。



「・・・・わかった」


考えた結果やっと出てきた言葉はこんなんで。



「・・何泣きそうになってんのよ」
「大丈夫」
「もう、どこも切ったりしないから」


なんて。




気を使うどころか逆に俺が気を使われちゃって。




「・・・・何かあったらメールしろよ。電話でもなんでもいい。来て欲しいならすぐに来るから」



不器用な俺が出したのはそんな言葉。


一瞬驚いた顔をしたけど彼女はやわらかく笑って


「わかった」


そう言ったんだ。




「・・・・じゃぁ」
「うん、」





扉を閉める。





いつか、







いつか彼女に俺の過去を話そうと。







廊下を歩きながら思った。