ラバソウ 警視庁刑事部捜査一課第二強行犯捜査第四係

作者/ゆぅ



Mystery1【パーティをはじめる前でも落ち着いて】-9



千尋が廊下へ行くと、壁には数々の絵画や小説がドラマ化、映画化したもののポスターが貼ってあった。


「おー」


千尋は一人そう呟きながらそのポスターなどを歩きながら眺めた。

そして千尋は一つの絵画に目を止めた。


それは、髪の毛で左目を隠した黒髪のロングヘアーの女が描かれており、背景は吸いこまれるような黒い闇。

千尋がそれを見ていると、後ろから話しかけられた。


「その絵に興味を持たれましたか」


驚いて千尋が振り返ると、そこには爽やかめの若い男の姿があった。

出立ちはグレーのスーツに短髪。

千尋が驚いた表情を浮かべていると、男は「ははっ、これは失礼」と言ってからポケットから名刺を出し、千尋に差し出した。

「僕、●●出版のシライと申します」


男がそう言い、千尋は名刺を受け取った。


【白井陽慈】とある。

千尋はちょっと焦りながらポケットから警察手帳を出し、それを開いて見せると「警視庁の有明と言います」と言って警察手帳をしまった。


白井は少し驚くと、ははっと微笑んで言った。


「これは、驚いたな。警察の方だったなんて・・・。僕、失礼な事しちゃいましたね」


白井がそう言うと、千尋は「いえ」と言ってから言葉を続けた。


「あの、さっきのお話ですが・・・」


千尋が先程の白井の事を思い返すと、白井は「ああ」と呟き、絵画を見てから言った。


「この絵、僕も好きなんですよ。この、掴みどころのない闇に包まれた女性の絵。彼女が、何を思っているのか、なんて思っちゃうんですよね」


白井はそう言って微笑んだ。

千尋も絵を見て微笑みながら言う。


「・・・確かに、何か不思議な感じがします。でもこの背景、黒じゃありませんよね」


絵の背景をよく見てみると、背景は黒に見えるがどこか赤っぽい色が混じっているようにも思える。


「何色、って言うんでしょうね、この色。絵の具なんかじゃ作れない色ですよね」


白井も背景をじっと見つめて言った。


「白井さんはこの絵好きって言ってましたけど、はじめてじゃないんですか」


千尋がそう言うと、白井は千尋の方を見て言った。


「ええ。僕は出版社の者なので何度か。まあ実際、打ち合わせなんかはほとんど秘書の宝生さんで、河山先生と会話した事は一度もありませんがね」


「どうしてですか?」


「・・・さあ。河山先生と会話できるなんて、夢みたいな話ですよ。日本一に輝いたスターですからね、先生は。それに、先生は宝生さんを信用しきってるみたいで、出版の事なんかはほとんど全部宝生さんが決めてる状態ですよ」


「へえぇ~、そうなんですか。よっぽど信頼されてるんですね、宝生さん」


「まあ、二十年も連れ添ってたら、そうなってもおかしくはありませんから、納得がいくんですがね」