ラバソウ 警視庁刑事部捜査一課第二強行犯捜査第四係
作者/ゆぅ

Mystery1【パーティをはじめる前でも落ち着いて】-29
「あの」
千尋がそう言い、彼女の視線の先には今度は腹筋マシーンではなく何やら訳のわからないマシーンに乗った真山がいる。
「・・・何の用だ」
真山はまだ息が切れていないようだ。
早くくたばってしまえ、と思いながら千尋は言う。
「何してんすか」
「何って、お前・・・。見ればわかるだろ・・・・」
真山はそこで一度言葉を切って言った。
「・・・あのー・・・・。スクワットだよ」
真山はローラーがついたゴム製のものに立ち、そこでバランスを取りながら足踏みらしき事をしている。
「嘘つかないで下さい。健康マシーンの名称知らないなら使わないで下さい。つーかこんな事してていーんすか」
千尋はしゃがみながら言う。
真山はちょっと疲れてきたのか、息を切らしながら答えた。
「こんな事とは・・・・、何だ・・・・。これはだな、大事な・・・・。体づくりだ・・・・」
「筋肉ないクセに何言っちゃってんすか」
千尋がそう言うと、真山はフンと鼻を鳴らすと不機嫌そうに言った。
「そんなに文句ばかり言うなら出ていくがいい。僕は一人でもやる」
「息切れ治ったんすね」
千尋がそう言うと、真山はハァハァと息を吐いた。
千尋は舌打ちをすると立ちあがり、扉の方にむかいながら言った。
「アホらしー。あたしその辺にいるんで真山さん、くたばってきたらあたしに連絡下さい」
千尋はそう言うと部屋を出て行った。
一人になった真山は自称スクワットをしながら一人呟いた。
「・・・連絡先知らないぞ」
真山がアホくさい事をしている間に、千尋は一人廊下をどんどん歩いて行き、なぜか厨房をのぞいた。
が、中には入れないよう厳重な警備が施されていた。
ドアの前に防犯カメラ、さらには警備員までいるでは
ないか。
仕方がないので千尋は切られたと言う吊り橋に来ていた。
千尋は吊り橋がつながっていた所にしゃがみこみ、カバンからミルクケーキを出し、一つ口にくわえると吊り橋をマジマジと見始めた。
見ると、橋はロープを五センチほどだけ残されてあり、その先はすべて下の谷底と言うのだろうか、奈落の底に落ちている。
千尋はこちら側に残ったロープに視線を向けた。ロープには、何やら黒いものがついている。
「なるほどー」
千尋はそう呟くと立ちあがり、玄関に向かおうと振り返った。
その時――。
千尋が振り返ると、そこには先程陣内たちに疑われていた山口がいた。
「・・・・ヤマさん」
「山口だ」
山口はそう呟くと、千尋を見て言った。
「あんたに話がある」
「?」
千尋は不思議そうな表情を浮かべた。
屋敷の中に移動した千尋と山口は玄関ホールにいた。
「さっきはどうもありがとう・・・・」
山口の改まった口調に、千尋は少し困惑しながらも言った。
「・・・さっき?」
「ほら、俺のカバンに血がついたナイフがあった時だよ。・・・あんたがいたなかったら俺、どうなってたか・・・」
そう言われ、千尋は思い出して「あぁ」と呟いた。
「いえいえ。一万で手を打ちましょう」
千尋はそう言って左手を差し出した。
一万とは、もちろん金の事だ。
彼女は金に荒く貧乏で執着心が異常にあり、盲腸の手術をした事があり、財布には三百円しか入ってなく、好きな漫画は『ドランゴンボールGT』と『地獄先生ぬ~べ~』であり、警察署に泊っている事がほとんである。

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