コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 《第一幕》 -完全版-
日時: 2025/06/22 21:01
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 82jPDi/1)

 
 毎週日曜日更新。
 ※更新時以外はスレッドにロックをかけることにいたしました。連載が終了したわけではございません。

*ご挨拶

 初めまして、またはこんにちは。瑚雲こぐもと申します!

 こちらの「最強次元師!!」という作品は、いままで別スレで書き続けてきたものの"リメイク"となります。
 ストーリーや設定、キャラクターなど全体的に変更を加えていく所存ですので、もと書いていた作品とはちがうものとして改めて読んでいただけたらなと思います。
 しかし、物語の大筋にはあまり変更がありませんので、大まかなストーリーの流れとしては従来のものになるかと思われます。もし、もとの方を読んで下さっていた場合はネタバレなどを避けてくださると嬉しいです。
 よろしくお願いします!



*目次

 一気読み >>1-
 プロローグ >>1

■第1章「兄妹」

 ・第001次元~第003次元 >>2-4 
 〇「花の降る町」編 >>5-7
 〇「海の向こうの王女と執事」編 >>8-25
 ・第023次元 >>26
 〇「君を待つ木花」編 >>27-46
 ・第044次元~第051次元 >>47-56
 〇「日に融けて影差すは月」編 >>57-82
 ・第074次元~第075次元 >>83-84
 〇「眠れる至才への最高解」編 >>85-106
 ・第098次元~第100次元 >>107-111
 〇「純眼の悪女」編 >>113-131
 ・第120次元〜第124次元 >>132-136
 〇「時の止む都」編 >>137-175
 ・第158次元〜 >>176-


■第2章「  」


■最終章「  」



*お知らせ

 2017.11.13 MON 執筆開始
 2020 夏 小説大会(2020年夏)コメディ・ライト小説 銀賞
 2021 冬 小説大会(2021年冬)コメディ・ライト小説 金賞
 2022 冬 小説大会(2022年冬)コメディ・ライト小説 銅賞
 2024 夏 小説大会(2024年夏)コメディ・ライト小説? 銅賞

 
 ──これは運命に抗う義兄妹の戦記
 

 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.76 )
日時: 2019/10/11 09:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: My8p4XqK)

 
 >>075 朱雀さん

 !! 朱雀さん、初めまして!!
 ずっと何年もお名前だけはお見かけしていて、でもずっとコンタクトをとったことがなかったので、この度コメントしていただけてすごく嬉しいです……!!

 読んでいただきありがとうございます!*
 じつは導入部分にはとても悩んで、すごい長い年月をかけて書いたものなので感慨深いです……。そう言っていただけてひとつ安心した気持ちです(;▽;)
 ロクはそうですね、いつもパワフルで、わたしも羨ましいなーこんな人間になれたらなーという気持ちでいつも書いています笑
 雷使いなのは完全に私の趣味ですね!

 好きになっていただけたらとても嬉しいです(* '▽')

 そそ、そうだったのですか;;
 お忙しい中、当作を読んでくださり感謝しかありません……。ほんとうにありがとうございます(>人<;)

 ぜぜぜひー!! お時間に余裕のあるときにぜひまた読んでいただけたら幸いです!
 この度はコメントありがとうございました!*
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.77 )
日時: 2020/04/16 14:56
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)

 
 第070次元 日に融けて影差すは月ⅩⅨ
 
 「おばさんっ、キールアが! キールアがいない!」

 家の中の隅々にまで響き渡るようなロクアンズの叫び声で、エアリスは目を覚ました。寝ぼけ眼で寝台を見やるとたしかにそこにはキールアの姿がなかった。握っていたはずの手も解かれている。
 ロクはエアリスのいる部屋に急いで戻ってきた。顔からは血の気が引いていて真っ青だった。

 「ロクアンズ」
 「いないんだよ、おばさん。あたし、起きて、それでキールアがいないことに気がついて、探し回ったけどどこにも……っ!」
 「落ち着いて、ロクアンズ。キールアちゃんならきっと……」
 「あたし探してくる! まだ近くにいるかもしんない!」
 「! だめ、ロクアンズ! いかないで!」

 駆けだそうとしたロクをエアリスは鋭く制した。ぴた、と動きを止めてロクは振り返る。いますぐにでも部屋を飛び出していきたいロクは思わず声を荒げた。

 「どうして!? 殺されちゃうかもしれないんだよ、キールア! そんなのダメだって昨日、おばさんだって……!」
 「キールアちゃんは知らないの。なぜ両親と弟が亡くなってしまったのか、その理由をキールアちゃんは知らないのよ」
 「どういうこと……?」

 怪訝そうな目つきでロクが訊き返す。エアリスはロクの傍までやってくるとその場でしゃがみ、ロクと視線の高さをおなじにした。

 「カウリアやイスリーグさんが告げていないの。そんなことを知ってしまったら、いつか家族が殺されてしまうのだとわかってしまうでしょう? あの幼さではとても受け入れられないわ。それにね、ロクアンズ。いま彼女を追いかけて、うちに連れ戻そうとしているところを政会の人たちに見られてしまったら、彼らに怪しまれる可能性があるの。彼らは、まだこの村に生き残りがいるんじゃないかと探しているはずよ」
 「……でも……じゃあ……キールアは……」
 「……キールアちゃんの瞳の色は、紫じゃない。から、一目見ただけでは、シーホリーの一族だとわからない。彼らだって、確証がないまま人殺しはできないわ。立場があるもの。……こうなってしまった以上、いま一番いいのは……キールアちゃんを無理に探そうとしないこと。政会の人たちの目から隠そうとしないことよ」
 「で、でも……でも……っ」
 「あなたの気持ちは痛いほどわかるわ。けど、いまは我慢をしてほしいの、ロクアンズ。そしてもし……もしもこの先、どこかでキールアちゃんに会えたなら、そのときは絶対に味方になってあげて。絶対によ」
 「…………うん」

 ロクは、小さく頷いた。そして下を向いたままかすかに鼻をすすり、泣いていた。エアリスはロクの腕を優しく引き寄せ、ああ、ロクにとってキールアは初めての友だちだったのだと、心の中で噛みしめた。大事な存在をロクから奪ってしまったような罪悪感がした。すると、エアリスの喉元になにかがこみあげてきて、彼女は間もなく咳き払いをした。

 「……っ、ごほっ、ごほ」
 「おばさんっ、大丈夫?」
 「ええ、大丈夫よ。……ごめんね」

 すっくと立ちあがり、エアリスはロクの頭を一度撫でてから、部屋を出ていった。廊下からしばらくエアリスの咳きこむ声が響いていたがロクは上の空で一歩も動かなかった。
 がたんっ、と大きな音がしてロクははっとした。急いで廊下に出ると、エアリスが壁に寄りかかりながらうずくまっていた。

 「おばさんっ! おばさん大丈夫!?」
 「……ちょっと、目眩がして。ごめんなさい。でももう平気みたい」
 「あたし、部屋までいっしょに行くよ」
 「ううん、1人で行けるわ。心配してくれてありがとう」
 「……」

 エアリスはロクの手を借りることなく立ち上がり、1人で自分の部屋に帰っていった。そんな彼女の後ろ姿を見て、ロクはふいに、あれほど小さな背中だっただろうかと不安を覚えた。もとより痩身な女性ではあったが、現在の彼女にはもはや元の面影もない。火を見るよりも明らかな、衰弱であった。


 「大丈夫」と、エアリスは明るく笑う。病気を発症する以前といまとでなにひとつ変わらない。太陽みたいな笑顔だとロクはいつも思っていた。
 しかし時の流れは、冬の空に舞う雪のように、ひどく冷たい刃となって義兄妹に降り注ぐ。
 
 
 
 キールアが失踪してから半年ほど経過した。レイチェル村に冬季が訪れる。
 12月。
 
 
 エアリスはすっかり寝こむようになってしまった。一日中部屋から出てこない日が何日も続いた。レトやロクが様子を見に行くと、苦しそうに胸を抑えて咳払いを繰り返す彼女の姿があった。2人に気がつくとエアリスはいつも、「大丈夫」と笑っていた。その唇から零れる血の濃さも日に日に危険なものになっているのだと、2人は勘づいていた。だからいつも笑みを返せなかった。悔しくて、唇を噛むばかりだった。
 自分の誕生日が明後日に迫っていることなどすっかり頭から抜け落ちてしまっていたロクは、エアリスが珍しく上体を起こして寝台に腰をかけているその日に、彼女からそのことを告げられて目を丸くした。

 「ああ、そっか。そうだったっけ。すっかり忘れてた」
 「そうだろうと思ったのよ。だからおばさん、明後日のために明日、森へ出ようと思ってるの。この頃は元気だし。あなた、カフの実好きでしょう? だからその果実を煮詰めてジャムを作るわ。そしてケーキも焼くの。レトヴェールに頼んで材料揃えてもらわなくちゃね」
 「そんなっ、いいよおばさん、ムリしないで! それでまた体調悪くなっちゃったらいやだよ……っ。あたし、誕生日なんてどうでもいいから。おねがいおばさん……」
 「……どうでもいい、なんて言わないで、ロクアンズ。私にとってはあなたと出会うことのできた、特別な日よ。あなたはこんなにも他人思いのいい子に育ってくれて………。私はとっても嬉しいの。だから祝わせて? お願いよ」
 「……」

 ロクはまだ頬を膨らませて黙っていた。エアリスは困ったように眉を下げて、それから、寝台横の木の箪笥からなにかを取り出した。それは見たところ細長い黒の髪紐であった。刺繍が細かく、単純なデザインであるものの目を惹く繊細さの代物だ。
 エアリスが「手を出して」と言うので、水をすくうようにロクは手のひらを広げた。黒い髪紐が手の中に収まる。

 「おばさん……これ……」
 「そう。私の髪紐。もうすこし長かったのだけど、二つに切り分けて片方はレトヴェールに渡したの。だからこれはあなたの分」
 「ど、どうして? おばさん、この紐大事にしてたよね?」
 「あなたたちにあげたいと思ったのよ。レトヴェールにも渡してしまったから、なんだか特別な感じはしないかもしれないけれど……お誕生日だもの。私、やっぱりあなたになにかしてあげたいの。それとも、これでは嫌だった?」
 「そんな……うれしいよ、すごくうれしい。あたし、これがいい」
 「そう、よかったわ。それは、お金に困ったら売ってもいいわ。すこしだけなら助けになるでしょう。好きに使いなさい」
 「売ったりなんか、しないよ! ぜったい、ずっと、ずーっと大切に持ってるっ、約束する!」
 「ふふ。ありがとう、ロクアンズ」

 さっそくロクは髪紐を口に咥え、自分の髪をまとめあげた。片手で髪の束を掴みながら、もう片方の手で髪紐を結わえようとするがなかなか上手くいかない。ロクが苦戦しているのを見て、エアリスは片手を差し出しながら「向こうを向いていてごらん」と言った。エアリスはロクの代わりに、彼女の若草色の長い髪をまとめあげた。
 
 「ねえロクアンズ」
 「なあに? おばさん」
 「ロクアンズは神様のことをどう思う?」

 神様──それを聞いて、真っ先にロクの脳裏を掠めたのはあの黒い怪物の形貌だった。ロクはあの日の出来事を思い返し、眉をしかめた。

 「あの黒い怪物をつくってるのが、神様なんでしょ? だからあたしにはあいつらをやっつけれる力があるんだっておばさん言ってたよね。……あたしはきらいっ。へーきで弱い人たちをいじめるやつらなんか、あたしがこの力でやっつけてやるんだ!」
 「……そうね。ロクアンズの言うとおり、神様は悪い人たちなのかもしれないわね」
 「でしょっ!」
 「だけどね、ロクアンズ。善悪を決めるのは人間だけよ」
 「え?」
 「……。いつか、神様と人間が手を取り合えたら、どんなに素敵な世界になるでしょう」

 ロクがぼうっとしているうちに髪は結い終えたようだった。「できた」とエアリスの明るい声がしてロクははっと我に返る。高く結いあげられた髪がするりと腰まで伸びて、頭をゆすると同時に髪の束もゆらゆらと左右に揺れた。それが楽しくて、ロクは部屋中をくるくると駆け回った。

 「わあっ! すごいすごい! ありがとうおばさんっ!」
 「素敵よロクアンズ」
 「レトにもあげたんでしょ? レトとおそろいにしてこよっかなっ」
 「あら、いいわね」
 「さっそくいってこよー!」

 ロクが駆け足で部屋を出ていこうとした、そのときだった。

 「ロクアンズ」

 鈴を転がすような綺麗な声音で、エアリスがロクのことを呼び止める。ロクは当然のようにすぐ振り向いた。

 「なあに? おばさん」
 「……」

 しかし、エアリスはなかなか口を開こうとしなかった。苦笑いにも似た、寂しそうな表情をした。すこしだけ彼女は下を向いて、それからすぐにまた顔をあげた。今度は笑顔だった。

 「なんでもない。呼びたかっただけ」
 「えーっ? なにそれ!」

 ロクは大きな口でけたけたと笑い声をあげた。"ロクアンズ"と、そうエアリスに呼ばれるのがロクは好きだった。名前を与えてくれた本人だからだろうか。
 
 「んじゃ、レトんとこいってくるね! あとでまたくるからー!」
 「ええ。いってらっしゃい」

 一つにまとめあげられた若草色の髪を、ゆらゆらと忙しなく揺らしながらロクは部屋を飛び出ていった。彼女の足音が完全に聞こえなくなる。エアリスはゆっくりと寝台から起き上がった。そして、部屋の戸を閉めた途端、彼女はそれまで喉の奥底に押し戻していたものを口の外へ吐き出した。

 「……っ、ごほっ、ごほ!」
 
 咳は深い音をしていて止まらなかった。エアリスは戸に寄りかかりながら床に崩れ落ちる。口を覆っている手の指の隙間から、血がしたたり落ちた。止まらなかった。丸めた背中が、突然水を浴びたように冷たくなった。どくどくと心臓は熱く鼓動を繰り返しているのに、その心臓を外側から締めつけるみたいに、色濃い悪寒が身体中を駆け巡った。

 (まだ……まだだめ)

 悪寒に身体を食い潰されそうだ。意識を失ってしまえば、そのまま凍死してしまうのではないかと怖かった。はっ、はっ、と浅くて小さな呼吸を繰り返し、エアリスは辛うじて意識を保っていた。心臓に血と熱を回し続ける。


 (明日、までは)
 
 
 まるで雪の降りしきる中、小さく灯った火が決して絶えないよう両の手のひらで囲うように、彼女は祈った。
 


 翌日。レイチェル村は早朝から大荒れの吹雪に見舞われた。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.78 )
日時: 2019/10/28 22:13
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

 こんばんは^^ 更新お疲れ様です!
 私のこと知っていただいていたなんて光栄です…泣 実は前々からお知り合いになりたいなと思ってました(*^^*)
 今日は【君を待つ木花】を読み終えて、いてもたってもいられずコメント失礼します。多分長文になります、ごめんなさい。笑

 まず【海の向こうの王女と執事】の感想から。ガネストのみならず、ルイルちゃんも次元師だったんですね…! ルイルはまだ幼いのに、自国とお姉ちゃんから巣立って一人の次元師として此花隊へ赴くところが偉いです…。最後の帽子のプレゼントも素敵でした! ライラとルイルの姉妹愛に感動いたしました泣
 レトは王家の子だったんですね。何だかんだロクが心配になって手助けしてくれる彼が素敵です。朝が弱かったり可愛い一面を持ちつつ、次元の力で双剣を扱っちゃうギャップがたまりません。笑 ロクに引け目を感じているようですが、彼は彼のままでいいんだよと伝えたいです(´・ω・`)

 【君を待つ木花】は、タイトルの回収がもう、素晴らしかったです…! 読み終わった後、しばらく余韻に浸ってました。私このお話大好きです。笑
 まず、ロクちゃん六元解錠おめでとう! 物凄い速度で成長しますねロクは。笑 でもベルク村に行く途中、水が足りない場面で、レトに水筒を渡して自分の血を飲む場面は少しぞっとしました…他者を優先して無意識的に自分を犠牲にしてしまうロクが心配です。一人で突っ走らないように、レトはロクの手綱をしっかり握っていてほしいです。笑
 それとセブン班長、13年も待っててくれたんですか……? フィラの書いた報告書をマメに読んでいるところも……尊いです。ちょっと抜けてる印象が強かったセブン班長の一途な一面を知ってしまって最高の一言です。末永く幸せになってください。
 フィラのお爺ちゃん(総隊長)も貫禄があって素敵です…もしかして彼も次元師だったりするんでしょうか。そうだとしたら滅茶苦茶に強そうです。

 次元師が続々と集合してきて今後の展開がとても楽しみですー!
 早く最新話追いつきたいです(*´▽`*)
 また来ます! 長文失礼しました。笑

Re: 最強次元師!! -完全版- ( No.79 )
日時: 2019/11/02 13:08
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: LpTTulAV)

 
 >>78 朱雀さん

 コメライ板でよく活動されていたので……! いまになって(?)お話できる機会ができて、不思議な気持ちです(´`*)
 わたしもずっとお話してみたいなと思っていたのですがいかんせん消極的なもので汗
 朱雀さんのほうから話しかけていただけたのが嬉しかったです!

 そして長文のコメントをありがとうございます……!!
 すべて目を通させていただきました。この作品を読んでたくさんのことを思っていただけるのがこの上なく嬉しいです。
 群像劇なのでキャラクターも多い分、一人ひとりに目を向けるのが大変かと思うのですが、朱雀さんがたくさんのキャラクターについてお話してくださったことに感激しました。ありがとうございます……!ヽ(;▽;)ノ
 ロクはそうですね、その自分の腕をナイフで傷つけるところは今後に繋がる大事なシーンでもありました。自分の犠牲を厭わない子であるということを頭の片隅にでも覚えておいていただけると幸いです(*´ω`*)

 長編を予定しているのでまだまだ先の長い作品になりますが、朱雀さんに最後までお読みいただけるように今後もがんばります!
 コメント、本当にありがとうございました!!
 
 

 
 

Re: 最強次元師!! -完全版- ( No.80 )
日時: 2020/04/16 14:56
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)

 
 第071次元 日に融けて影差すは月20

 玄関の扉が、がたがたと音を鳴らしていまにも壊れそうだと訴えてくる。時折、ばんっと一際強く叩かれる。まるでだれかが外から扉を殴っているようだった。その正体はほかでもない、吹雪だ。

 一歩でも外へ出てみればたちまちひどい吹雪に攫われてしまうことだろう。今年は特に異様なほどの勢力だ。
 エポール一家も朝から自宅でなりを潜めていた。レトヴェールは例のごとく本を読み耽っているようだが、ロクアンズはこれといった趣味もないので時間を持て余していた。身の回りのこともあらかた済ませてしまったので、いまはただぼうっと暖炉の火に薪をくべている。
 しばらくしてから、ロクは立ち上がった。居間で壁を背に座りこみ読書をしているレトの足元に、ことん、とティーカップが置かれる。彼は紙面から視線を外した。

 「紅茶、いれたから飲んで。今日寒いし」
 「……ん。母さんには」
 「おばさんにはこれから持ってくよ」
 「なら煎じ茶にしろよ。母さんの部屋にあるだろ、薬」
 「ああ、たしかに! でもあたし、ちょうごう? とかよくわかんない……」
 「俺がやる」

 レトは言いながら立ちあがった。

 「えっ、レトできるの!? すごい!」
 「かんたんな方法のやつだけな。前にカウリアさんからむりやり」
 「そうだったんだ。いいな、レト」
 「おまえも覚えれば」
 「教えてくれるの、レト!」
 「……見せるだけなら。きかれても説明はできねえぞ」
 「わーい! せっんじちゃ、せっんじちゃあ~」
 「静かにしてろ」
 
 ただでさえ外は吹雪で騒々しいのに。レトはそう心の中で悪態をつきながらエアリスの部屋へと足を運んだ。
 こんこん、とレトは木の扉の表面を打ち鳴らしてから部屋に入った。
 
 「母さん、ちょっと薬さ」

 しかしドアを開け広げてすぐにレトは目を剥いた。

 「…………母さん」
 
 室内にはエアリスがいなかった。一瞬、動揺の色を見せるレトだったが、彼は落ち着いて部屋の中を見渡した。それでもなお彼女の姿はない。
 
 「母さん……? ──母さんっ!」

 レトは血相を変えて居間に戻ってきた。そこへ、

 「どうしたの、そんなに騒いで」

 炊事場で洗い物を拭きあげていたらしいロクが歩み寄ってきた。レトは興奮した状態のまま早口でまくし立てた。

 「いないんだ、母さんが、部屋に」
 「え? じゃあどっかにいったのかな」
 「この吹雪でか?」
 「ちがうよ、家の……」
 「……今日、見たか、家で。母さんを」
 「……」
 「母さんがいない」

 レトとロクの間に流れる空気が凍りつく。レトはかなり動揺しているようだった。対してロクは、俯きがちに視線を巡らして、小さく口を開いた。

 「……もしかして」
 「なんだよ」
 「明日、あたしの誕生日だからって……おばさんが、カフの実を採りにいってあげるって、昨日そんな話」
 「……」
 「あたし、いいよって言ったのに……っ」

 エアリスは自身の体調の良し悪しも判別がつかないほど間抜けではない。家の外が危険かそうでないかは火を見るよりも明らかだ。病人はおろか至って健康体の人間でさえ足踏みしてしまうような天候の下へ、なぜ。
 レトは走って玄関のほうへ向かった。低い木の棚から分厚い羊の毛がついた靴を引っ張り出してきゅっと紐を結わえる。太い毛で編まれた上着を重ねて羽織った。靴のつま先でとんと床を鳴らすと、ロクの声が後ろから飛んできた。

 「まってレト! あたしも行く!」
 
 ロクも分厚い生地で袖のない簡易な羽織りものを頭から被り、毛と綿で拵えた手袋をはめると、レトのあとを追う。義兄妹はそうして吹雪の中へ身を投じた。




 厚く降り積もった雪道はとても不安定で、レトはもつれそうになりながらもざくざくと突き進んだ。時折、バランスを崩して転びもした。雪にまみれた鼻や頬が痛いくらいに冷たくなる。手袋で顔を挟むことでレトは温度を取り戻そうとした。それから立ち上がるのも早く、雪道を勇敢に進んでいく。目指すのはカフの実が成る木の群生地だ。
 曇天が頭上で笑っている。
 
 「かあさん!!」

 レトの声は虚しくも闇の中に吸いこまれていった。ひゅう、ごう、と鳴り響く雪と風の音が邪魔をする。
 そのときだった。

 「……」

 林道の真ん中。倒れ伏せている人物が、降りしきる雪を背中に被っていた。
 真白の雪の絨毯の上できらきらと光を照り返すその黄金の髪は、恐ろしいほど美しかった。

 彼女がぴくりとも動いていないのは雪の重さのせいではない。

 「………………かあ、さ」

 行き倒れているエアリスをしっかりと視界で捉えた彼は、ぞくりと身を震わせた。

 「母さん──ッ!」

 深い足跡を残しながらレトはエアリスのもとへ駆け寄った。
 
 「母さん! しっかりしろ、母さんっ!」

 彼女の身体の上に降り積もった雪を払う。毛糸で編んだ手袋に染みこんできた雪水が肌を刺す。だがそんなことはどうでもよかった。レトは一心不乱に雪を取り除いた。
 ──そのとき、レトは"なにか"に手をぶつけて、ぴたと動きを止めた。
 背中だと思っていたところからはナイフの柄が伸び、その周りの雪が赤黒く変色している。

 「──え」

 刹那。
 不自然で強い突風が、突如レトに襲いかかった。彼はエアリスの傍から剥がされると来た道を戻るようにして吹き飛んだ。
 雪道を転がり回り、泥水の味が口いっぱいに広がる。寒さ、そして口内に張りつく気持ち悪さを吐きだそうと咳払いを繰り返した。息も絶え絶えな彼の耳に、だれかの声が聞こえてくる。

 
 「コンニチハ~、かな? 次元師サマ」


 少年──のようにも少女のようにも聞こえる幼い声。語尾が伸びるような特徴的なしゃべり方をしたその人物は体躯もレトとそう変わらず、エアリスの身体に突き刺さったナイフの柄の上に片足だけを乗せて、ぶらりぶらりと揺れていた。レトは顔だけを起こして声のしたほうを向くと、硬直した。

 「ハジめまして~、ボクは【DESNY】。気軽にデスニーって呼んでよ」

 少年のようなだれかは垂れた目を細めて笑った。足場が不安定にも拘わらず悠々とレトに話しかける。


 「本で読んだことあるかな、少年クン? 神族っていうんだけど」
 
 
 


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