コメディ・ライト小説(新)
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- 最強次元師!! 《第一幕》 -完全版-
- 日時: 2025/11/29 21:34
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 82jPDi/1)
毎週日曜日更新。
※更新時以外はスレッドにロックをかけることにいたしました。連載が終了したわけではございません。
*ご挨拶
初めまして、またはこんにちは。瑚雲と申します!
こちらの「最強次元師!!」という作品は、いままで別スレで書き続けてきたものの"リメイク"となります。
ストーリーや設定、キャラクターなど全体的に変更を加えていく所存ですので、もと書いていた作品とはちがうものとして改めて読んでいただけたらなと思います。
しかし、物語の大筋にはあまり変更がありませんので、大まかなストーリーの流れとしては従来のものになるかと思われます。もし、もとの方を読んで下さっていた場合はネタバレなどを避けてくださると嬉しいです。
よろしくお願いします!
*目次
一気読み >>1-
プロローグ >>1
■第1章「兄妹」
・第001次元~第003次元 >>2-4
〇「花の降る町」編 >>5-7
〇「海の向こうの王女と執事」編 >>8-25
・第023次元 >>26
〇「君を待つ木花」編 >>27-46
・第044次元~第051次元 >>47-56
〇「日に融けて影差すは月」編 >>57-82
・第074次元~第075次元 >>83-84
〇「眠れる至才への最高解」編 >>85-106
・第098次元~第100次元 >>107-111
〇「純眼の悪女」編 >>113-131
・第120次元〜第124次元 >>132-136
〇「時の止む都」編 >>137-175
・第158次元〜第175次元 >>176-193
■第2章「片鱗」
・第176次元~第178次元 >>194-196
〇「或る記録の番人」編 >>197-
■最終章「 」
*お知らせ
2017.11.13 MON 執筆開始
2020 夏 小説大会(2020年夏)コメディ・ライト小説 銀賞
2021 冬 小説大会(2021年冬)コメディ・ライト小説 金賞
2022 冬 小説大会(2022年冬)コメディ・ライト小説 銅賞
2024 夏 小説大会(2024年夏)コメディ・ライト小説? 銅賞
──これは運命に抗う義兄妹の戦記
- Re: 最強次元師!! 《第一幕》 -完全版- ( No.185 )
- 日時: 2025/08/24 20:25
- 名前: 瑚雲 (ID: 82jPDi/1)
第167次元 徒党
赤髪の青年は、ロクアンズの指の先につられて、東の方角を眺めた。深い森を超えると、その先にはいまや無人と噂の旧王都、エントリアに続く。青年の感覚ではしかし、静かな夜風が通りすぎていくばかりで、気配もなければ生き物の鳴き声も聞こえてこない。
「いるか? 俺は、元魔退治なんかしてねえから、気配とかよくわかんねえんだけど」
「いる。いたんだ、クレッタたちが来てから、去ったあともずっと。おそらく次元師でも感知できないほど小さい個体だった元魔たちが、ここ数日で共食いを繰り返していたんだよ。このまま野放しにしてしまうと、個体は徐々に大きくなって、また飛竜に……それ以上の、もっと危険な存在に成長してしまうかもしれない」
エントリアの街に残された元魔の残党たちは、ラッドウールが対処に回っていた。クレッタが姿を消してからもしばらくはそうだったのだが、感知と視認ができた範囲には限界があった。ラッドウール自身も気づかなかった、ごく矮小な元魔たちが、荒廃した街の影に隠れて蔓延っているのだ。それらが互いに吸収し合って、気配が肥大してきたのが今夜だったらしい。外へ出たロクは、夜風に乗って流れてくるその徐々に大きくなる元魔の匂いに気がつくことができた。
たくさんの小さいもの同士が融合するのには時間がかかるが、だいたい人間とおなじくらいの大きさになったいくつかの個体がさらにまた互いを喰い合えば、そこからの成長速度は各段に跳ねあがる。
「だからその前になんとしても食い止めないと」
「じゃあ、この前みてえに、ぱっぱとやっちまえよ。一人でも問題ねえだろ」
「そのときは蛇を扱う次元師の人がいたでしょう? それに、近くに一般の人間がいる場合、一人で対処するのは難しいよ。いまエントリアには、警備班が配置されているだろうからね。私たちは互いに魔法型だし、コルド副班やフィラ副班みたいに攻撃と捕縛のどちらにも特化しているような次元師じゃない。だからここは協力して、警備班の人たちを守りながら元魔の討伐をする」
「……。は?」
「とにかく、ついてきて!」
ロクはそう言うと、エントリアの方角に足を向けて、颯爽と駆けていった。赤髪の青年はほんのしばしの間だけ放心していた。力を持った神族の女が、なぜ協力をしたがるのか、青年は不思議でならなかった。一人で戦えばいいものを。次元師には力があるのだから。それをしないのは、ほかの人間と徒党を組んで戦おうとする此花隊の意思なのかもしれない──そこまで考えたのだが、青年には致命的に欠けている感覚があって、途中でぷつりと思考が途切れてしまった。
(人を守りながら……戦う?)
立ち尽くしているうちにも、ロクの背中はどんどん、夜闇の向こうへと遠のいていく。青年はかぶりを振って、見失う前にその背中を追いかけた。
「……クソ! おい待て、神族女!」
ロクが、見知らぬ赤髪の青年と合流したかと思えば、東へ向かっていくのを、盗賊の青年は瓦屋根の上から静かに見下ろしていた。
"雷装"──八元質の次元技の一つ、"魔装"は、不定形の次元の力をその身に纏う。元力が底をつくか、解除を行うまで効果は継続される。ロクは"雷装"を発動し、電気によって全身の筋肉を刺激することで、目にもとまらぬような速度でエントリアまでの道のりを──深い森の中を疾走した。しかし、ロクが森を抜けて、エントリアに到着したときには、すでに事態は悪い方向へと駒を進めていた。
秒を過ぎるごとに、元魔の匂いは色濃く鼻をつき、門の外にいてもだいたいの居場所が推測できた。街の西側から、夥しい気配が漂っていた。
エントリアはいま、東西南北すべての門が封鎖されている。街の中へ入るには、警備班に申告して開けてもらうか、見つからないように城壁を超えるか、もしくはいま城壁の再建中で忍びこみやすい東門から入るしかない。
警備班に申告するのが正攻法なのはわかっているが、ロクの素性は、すでに全隊員に知れ渡っている。地下に幽閉されているはずのロクが外を出歩いている時点で、警備班の班員たちはロクを訝しむかもしれない。すんなりと通してもらえるとはすこし考えにくく、説得するのにかえって手間取る可能性がある。高い城壁を超えるのも、現実的とはいえない。残る東門からの侵入がもっとも時間がかからないのではないか、とロクは踏んでいた。西から東へ回りこむのだって、"雷装"を使っていれば時間はかからないのだから。
ロクが思った通り、再建中の東門は綺麗に積み重なった瓦礫の山が点々と鎮座しており、作業用具や、それを載せた台車、天幕なども張られていて物々しい。身を隠す物影はいくらでもあった。何人かの見張り番が起きていて、薪に火をくべながら談笑しているのみで、人の動きはほとんどないに等しい。見張り番たちの視界に入らないように、慎重に門をくぐり抜けた。
膨れあがっていく元魔の気配をまっすぐに目指して、無人の街の中を駆け抜ける。まだ姿は見えていないのに嫌な予感がしていた。ようやく西側に辿り着いて、大きな街道を抜けると、その先の広間にそれがいた。
それは、"それら"だったものが、一つになろうとしているところだった。周辺の建物よりも身の高さがある、二体の飛竜の元魔。片方の飛竜が尾から食われたのだろう。捕食側の飛竜の口からぴんと太い首を伸ばし、いびつな顎を突きあげてあえいでいる。不快な音を立てて混ざり合うそれは、突然、腹を二倍に膨らませて、さらに背中には、二枚だった翼の裏側にもう二枚の翼がたくわえられていた。被食側の飛竜の首元がじんわりと溶け、捕食側の飛竜の皮膚と繋がろうとする。ロクは絶句していた。
(まずい、このままじゃ……これまでの飛竜よりも厄介な個体が生まれる!)
元魔の中では、飛竜の姿をした個体が、筋肉も知力も発達しており、もっとも厄介だ。なのに、まさか飛竜型同士で共食いが起こるとは、ロクも観測したのは初めてになる。ロクは警戒を強めて、すかさず、周辺に人の気配がないことを確認した。
(人はいない。けど、そうするとまだ、来てないか。私が"雷装"で先に来ちゃったから……)
そのときだった。ちょうど、かぎ慣れた人の気配がして、ロクは視線を滑らせる。近くの建物の影から、赤髪の青年が文句をたれながら、顔を出した。
「速いんだよ、てめえ」
「ごめん! 文句はあとで聞くよ。まずは、この元魔が完全に共食いを終えるのを食い止めるのが──」
言いかけた瞬間、ロクの言葉を遮るように、それは降ってきた。矢だ。無数の矢が雨のように降り注ぎ、ロクは驚いて、後ろに下がった。それらを躱したかと思えば、目の前。炎を纏った脚が迫っていた。熱い残光は鋭くロクの頬に突き刺さる。ロクは横薙ぎに蹴り飛ばされた。
広間の石畳の上を跳ねて、転がっていく。四つん這いに倒れこんだロクは、咳きこみながら立ち上がった。ロクが、赤髪の青年をじっと見つめると、物陰から、盗賊の青年が姿を現した。彼は『礒弓』を片手に構えて、赤髪の青年の傍までゆっくりと歩み寄り、隣に並んだ。
「……神様とか、よく知らないけど。あんた、人間と手と組むつもりだったの?」
「まあ、てめえに協力するとは、俺は言ってねえけどな」
三つの視線がかち合って、見えない小さな火花が、散る。じわじわと痛みだすロクの背中越しに、元魔たちの共食いが進行しているであろう、不快な接合音が聞こえていた。
- Re: 最強次元師!! 《第一幕》 -完全版- ( No.186 )
- 日時: 2025/08/31 21:09
- 名前: 瑚雲 (ID: 82jPDi/1)
第168次元 廃都での混戦
力の見せつけによる圧制は、あの赤髪の青年には有効だと算段していた。だが効き目は、ロクアンズが思ったほどではなかったらしい。その証拠に、カナラからエントリアまでの道中で深縹髪の青年と遭遇し、すんなりと結託している。彼らの目的は、ロクの殺害という点で合致している。
後ろを振り返れば、飛竜型の二体の元魔が、着々と融合を進めている。前に向き直れば二人の次元師がロクの出方を伺っている。ロクはごくりと固唾を飲みくだすと、身を乗り出して言った。
「元魔を討伐するのが先でしょう! 共食いを終えたら、どんな凶悪な存在になるかわからない! 三人でかかっても敵わないかもしれない! 手を打つならいましかないんだ!」
「関係ない」
「俺たちの目的は、てめえだけだ。【HAREAR】」
ロクは、ぐっと口を閉じた。元魔をまず退けなければならない、というロクの思惑は彼らには響かず、煙のように霧散してしまった。ロクを殺すために遣わされた者たちの目には、変化を遂げようとする元魔など眼中にないのだろう。
だれもが正義感で次元の力を振りかざすわけではないことを頭ではわかっていても、ロクは歯がゆかった。次元師が元魔を討伐するのは、法律でもなければ、誓約もないのだ。
雄々しい元魔の咆哮がしているのに青年たち二人は呑気に会話を始めた。長い前髪から橙の瞳を覗かせて、青年が先に告げる。
「奴の首はもらうから……」
「はあ!? こっちだって持って帰んなきゃなんねえんだよ。協力してやんだから、そこは譲れや」
「協力してやってるのは、こっちもおなじ。……それなら、あいつの心臓を先に止めたほうが、首を持ち帰る。……これでいい?」
「乗った!」
赤髪の青年が、八重歯を見せて声高らかに返事をすると、そのとき雷鳴が轟いた。青年たちに背を向けたロクが、元魔に向かって"雷撃"を放ち、動きを鈍らせようとする。
「背中がガラ空きだぜ、神族女!」
三本の矢が撃たれ、その軌跡の隙間を炎熱が縫う。
ロクは次元技が迫ってくると、その気の流れのようなものを肌で感じとった。振り返りながら屈み、横っ飛びに転がり、躱した。そして間髪入れず、石畳に指先を添えて"雷柱"を焚く。青年たちの足元からばちりと電気が沸き立つ、と、雷でできた大きな柱が二人の姿を飲みこんだ。
"雷柱"が青年たちの身動きを封じているうちに、ロクはまた、元魔のほうへ視線を戻して、"雷撃"で追い打ちをかける。元魔は不完全体なのと、体が重いためか、動きは大振りでのんびりとしている。取り乱して手足をばたつかせるが、ロクには当たらなかった。
仕方がない。まずは青年たちの攻撃をかいくぐりながら、元魔の討伐を優先にして動く。
ロクが意気込んで、まだ電気の糸に絡まってまごついている元魔に飛びかかろうとした、そのときだった。複数の足音と、人の声が聞こえてきた。
「副班長! あれは!」
「! 激しい鳴き声が聞こえてきたので来てみれば……元魔だ! それも、かなり大きい!」
黒色の隊服を着た者が一名、灰色の隊服を着た者が二名、手持ち用の角灯を提げて近づいてきた。ここから一番近い西門の警備をしている此花隊の警備班だろう。彼ら三人は元魔の鳴き声を訝しみ、様子を見にここへ駆けつけたのだ。
「それに、さきほどまで雷の柱も見えていた。まさか……」
警備班たちがまさに、"雷柱"が見えていた地点に視線を移すと、その方向から鋭い矢と炎熱が飛んできた。彼らの叫び声と、雷鳴が轟いたのはほぼ同時だった。
遠くから"雷撃"を飛ばすには間に合わない、最悪警備班たちにも"雷撃"の余波が当たってしまうのではと懸念したロクは、"雷装"を使って加速した。そして電光石火のごとく速さで駆けつけると、警備班たちの目の前に滑りこんだ。すると右肩には一本の矢が貫通したものの、降りかかった炎熱は、"雷装"によって全身に纏っている電気の鎧で相殺した。
警備班たちは、突然現れたロクの姿を視認すると、目を丸くした。
「ひい! ろ、ロクア……【HAREAR】だ!」
「なぜここに」
「早く、三人ともここを離れて!」
ロクは振り返ってそう叫ぶ。しかし、立て続けに、何本もの矢が放たれて、そのうえ拳に炎を纏わせた青年が飛びかかってきた。一般の人間を巻きこんでもあの二人には関係がないのだ。ロクはふつふつと湧きそうになる怒りを抑えこんで、"雷円"を発動する。ロクと警備班を半円型の雷の膜の中に閉じこめるとともに、赤髪の青年はすぐ目の前にそれが張られたので、目を細めて忌々しげに睨みつけ、雷の膜に触れると弾き飛ばされた。あとからやってきた何本もの矢も膜を破れずに、あちこちの方向へ弾き返る。
赤髪の青年は、空中で見事に体勢を丸めると、もう一人の青年の傍らへと鮮やかに着地した。
「クソ! コロコロといろんな技を使いやがって!」
「そっちにも、お返しするよ」
ロクは脱兎のごとく飛び出して、雷の膜を通り抜けると、青年たちに向けて手を翳した。
「六元解錠──、"雷円"!」
青年たちを取り囲むようにして、地面の上に電気の糸が奔る。刹那、描かれた円形の軌跡から薄膜のような雷が湧き立って、あっという間に、半円状の雷の膜の中へと二人を閉じこめてしまう。
そうこうしているうちにも元魔が動きだしそうだ。ロクは、三人の警備班を置き去りにして、また踵を翻し、元魔を振り返った。"雷撃"を見舞っていたおかげで共食いの進み具合は牛歩だ。まだ咀嚼音にも似た不快な結合音がしていた。
(まずは頭)
元魔の核は頭部にあるものだが、融合しかかった元魔の身体が大きすぎて、顎のあたりと、微妙に盛り上がった鼻先を仰ぎ見るので限界だ。小さな核はともかく、脳が二つあっては厄介だ。ロクは息を整え、いざ集中を高めると、指先の一点に猛烈な雷を蓄える。
「──七元解錠! "雷砲"!」
目に痛いほどの雷光が瞬き、放射される。雷の砲撃は宙空を裂き、二つある元魔の片方の頭を撃ち抜いた。黒い皮膚と液体が勢いよく飛散したが、その中に、元魔の赤い核は混じっていない。核はすでに、もう片方の元魔に取りこまれてしまったのかもしれない。片方の頭を破壊すると、元魔は残った頭を激しく揺らして、暴れだしたが、どの角度から見ても核が見当たらなかった。
(まさか、体内にある……?)
考えていると、だんだんとこちらに近づいてくる足音に気がついて、ロクはすぐに振り返った。走り寄ってきたのは青年たちではなく、警備班だ。しかし三人ではなく、二人だった。一人の姿が見当たらない。
「もう一人の班員は? その人を連れて、ここから逃げて! 早く!」
「カナラへ次元師様を呼びに向かわせた。退避するわけにはいかない! 【HAREAR】、あなたの監視は戦闘部班のコルド・ヘイナー副班長ならびに、我々警備班にもその命が下されている。万が一逃走した際には、必ず逃がすなと! ニダンタフ援助部班班長からの命令である!」
「……!
黒い隊服を着た副班長の男の目は真剣だった。援助部班を統括するニダンタフの影響か、班員たちはロクへの反感の念が強い。本来なら、此花隊の次元師が到着すれば警備班は周囲に一般の市民が残っていないかを確認し、安全な場所へ退避するのが仕事だ。しかしいくらロクがまだ此花隊に属している次元師であっても、戦闘部班の班員としては認められないのだ。
彼らの意思は固く、ロクを置いて退避する様子はない。彼らを説得している余裕もない。しだいに、"雷円"の効果も薄れて二人の次元師が仕掛けてくるだろうし、元魔の咆哮はたえず街中に響き渡っている。
ロクは新たに決意を固めることとした。
(ここへ来る前、あの赤髪の人に言った通りに、やるしかない。私一人でも)
戦場にいる一般の人間を守りながら、次元師の青年たちをいなし、元魔を屠る。──それ以外に、この窮地を切り抜ける選択肢はない。
- Re: 最強次元師!! 《第一幕》 -完全版- ( No.187 )
- 日時: 2025/09/07 20:20
- 名前: 瑚雲 (ID: 82jPDi/1)
第169次元 三つ巴
ロクアンズは細く浅い息を吸った。
視線の先から、細長い殺気と、揺らめく闘気が飛んでくる。"雷円"──電気の膜をとうとう突き破り、三本の弓矢と鮮やかな赤髪の青年がロクを目がけて仕掛けてきた。
足の爪先から、髪の先にまで、一気に雷が駆けあがる。
"雷装"を発動したロクはすぐさま、近くにいた警備班二人の腕を掴んで、渾身の力で遠く──青年たちからも、元魔からも距離がある広場の隅──へと、宙を架けるようにして放り投げた。
「ごめん! 受け身をとって!」
叫んで、刹那。ロクにできたのは、向かってくる三本の矢を、咄嗟に構えた左腕で受け止めるので最善だった。
赤髪の青年の、肘にまで炎を宿した真っ赤な拳が、ロクの頬に吸い寄せられる。
ロクは、矢を突き刺したままの左腕の拳を固く握りしめて、その骨ばった指の付け根で青年の脇腹を穿った。
青年が腰をくの字に曲げて、真横に弾け飛ぶ。すると今度は、背後で翼のはためく音が立った。
三本の矢を、まとめて腕から引き抜くと、敵は次元師から化け物へと替わる。四枚の立派な翼をぴんと広げた元魔がけたたましく鳴きわめき、竜足を伸ばしてロクに覆いかぶさった。しかしロクは細い二本の脚に、二本の腕に、激しい雷光を這わせていた。四本の竜足のうち、妙に長い二本だけをロクは素手で捕まえる。
──殺気。
背中にひやとしたそれが伝ったかと思うと、立て続けに、何本もの矢が突き刺さった。まだ、来る。予感がしてロクは、歯を食いしばっていたのをほどいて、詠唱した。
「六元解錠、"雷柱"!」
自身と、そして元魔を中心にして、雷光が地面の上を滑り、円を描いた。たちまち、縁取った円の内側に、雷の柱が立つ。すでに寄越されていた第二陣の矢束が柱に弾かれて宙を舞った。
元魔は天を仰いで、雷電の渦の中、金切声をあげた。ぐねぐねと身体をねじり、ロクが反動の重さに耐えかねて竜足から手を離すと、元魔はじたばたともがきながら柱の外に向かって後退した。
四枚の竜翼をぎこちなく仰ぎ、元魔が夜空の下へ飛び出す。
「──七元解錠! "雷砲"!!」
詠唱。ロクの声が響くと、雷の柱が渦を巻いてさあっと霧散し、その中心を一本の細い砲撃が突き抜けた。"雷砲"が瞬きひとつする間に、元魔の翼を二枚焼き切った。
二枚とも右半身の翼だ。片側の翼を失った元魔は途端に、体勢をがくりと崩し、せっかく飛び立ったものの地面の上に落下した。
地響きにまぎれた足音を聞き分けて、ロクはすぐに振り返った。赤髪の青年が振りあげた脚と、ロクが構えた腕がかち合うと、炎と雷が燦燦と光を散らした。
「神族、大変だなあ。人を守って、元魔の相手をして、そんで俺たちとも闘り合う。どれかは諦めちまえよ」
赤髪の青年はふっと力を抜いて、脚を浮かすと、流れるような所作で脚を下ろし、もう片側の脚でロクの顎を素早く蹴りあげた。後退するロクの視界に、鏃が突き刺さる。首をひねって躱す。しかし矢継ぎ早にそれは迫った。目を凝らし、躱し、手の甲で叩き落とし、加速して。赤髪の青年のもとまでぐんと、距離を詰めた。
「……ない」
たん、と、青年の目前で足を踏みしめると、金色の雷電が燃え盛った。
青年の懐に入りこんだロクは、彼の胸ぐらを乱暴に掴んで、ぐるりと身をねじる。いまももがいている元魔を目がけて力づくで青年を放り投げた。次いで矢が、束のごとく迫り来るのがわかった。振り向かずに矢軸を掴んだロクは、またその場でぐるんと回りながら振りかぶって、矢の主のもとへと間髪入れずに投げ返した。
電気を纏った矢束が、凄まじい速さで帰ってくると、深縹髪の青年はぎょっとして身動きをとれなかった。身体の節々にそれらが突き刺さる。背や腕、腿の裏から血潮が噴く。
ロクは息を整えるよりも先に、叫んだ。
「諦めない! ──次元の力は、守りたいものを守るための力だ……! あたしはずっとそう信じてるから!」
次元技の矢に意思を通せば、深縹髪の青年の身体に突き刺さった矢が煙のように消える。彼はまだ痺れを残した腕を持ちあげて、弓に指を添える。
青年の額にぴきりと青筋を浮かんだ。ふうふうと荒い息遣いをして、青年は手元に集まった光の矢を、引く。
「俺にだって守らなくちゃならないものはあるんだよ……! ──六元解錠、"真閃"!」
怒りを孕んだ一矢が青年の手元から放たれる。中空を掻き切るその音は重かった。回避をしている時間は、ない。ロクは真向から受けることに決めて、飛んできた矢の先端を、両腕で抱えこむようにして受け止めた。踏ん張っても、矢の勢いはとどまらず、足を滑らせて後退した。
ロクは、息を止め、ぐっと腕に力をこめる。雷光が飛散し、膨張した筋肉が電気にあてられて震える。矢がまとう光を、さらに雷光が覆う。気を抜けば、一瞬にしてどてっ腹を貫かれるだろう。集中力を手元に注ぎ、ついに、ロクの手の中で光の矢が砕け散った。
けたたましい元魔の咆哮が、鼓膜をつんざく。
「──」
固く握りこんだ指の隙間から電撃が飛散する。ロクは、まだのたうち回っている元魔のもう二枚の翼に向かってぴんと指先を伸ばす。
「六元解錠──、"雷砲"!」
指先に集中した電撃が、一気に撃ち放たれる。それが元魔の翼に風穴を開けると、大きく仰け反り、どんと地響きを鳴らしながら、崩壊しかけた建物にもたれるようにして倒れこんだ。
ロクは、突然頭がくらりときて、思わず体勢を崩しかけた。元力も、身体も、酷使しすぎているのだ。もうずいぶん長いこと息を止めていたのにもいまさら気がついた。はあ、と塊のような息を吐いたとき、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
焦って振り向くと、警備班の男たちが地面に膝をついている姿が視界に入った。否、膝をつかされていたのだ。一人は、その首元に鋭い鏃を向けられ、もう一人は後ろに回された手首を、熱のこもった手で掴まれている。
完全に注意が逸れていた──赤髪の青年が、口角をあげて、ロクに語りかける。
「こうすりゃ早かったんだ。さっさとケリをつけようぜ、なあ」
- Re: 最強次元師!! 《第一幕》 -完全版- ( No.188 )
- 日時: 2025/09/15 13:45
- 名前: 瑚雲 (ID: wf9BiJaf)
第170次元 戦いのあと
鏃の先端が、警備班の一人の首筋に突き立ち、いまにも貫かれそうだった。
ぴたりと動きを止めたロクアンズを嘲笑するかのように、赤髪の青年がはっと鼻を鳴らした。
「守る? ハハ! くだらねえ。だれも、てめえに守ってもらいたくなんか、ねえんだよ!」
捕えられた男たちの表情を見やれば、彼らは、ロクのほうを見るでもなく、悔しそうに奥歯を噛んで、俯くばかりだった。
青年たちはどちらも、立場は違えど、暗殺者だ。人の命を奪うことに抵抗のない人種である。それも、力を持たない一般の人間に次元の力を振りかざしてでも欲しいものを奪おうとする。ロクは慎重になって、最善の手を考えていた。頬に冷や汗が伝う間に、思考を嚥下して、静かに口を開いた。
「解放して」
「……なら、わかってるよな? その首を寄こすことが条件だ!」
赤髪の青年が、警備班の男の腕を乱暴に放し、それをもう一人の青年が受け取ると、炎を纏った脚で素早く飛び出した。一直線に飛んできた火の粉がじり、とロクの皮膚に触れるや否や、頬を殴り飛ばされた。思わず地面に手をついてしまうが、立つ隙もなく、腹を蹴られ、背中に踵を落とされて、髪を掴まれては、振って払われる。ロクは手出しするわけにいかず、耐えた。ぐわぐわと揺れる視界の奥ではまだ、もう一人の深縹髪の青年が、警備班らの首に光の矢を向けているのだ。もしも反撃するような素振りを見せれば、こちらにだって矢を放たれるだろう。
そのときだった。四枚の翼を失った元魔が、ぐにゃりと激しく脈動し、途端に、隆起と陥没を繰り返す。またさらに変化しようとしている──ロクは察した。見ていると、元魔の皮膚は漆黒の色から、徐々に薄らいで、灰色がかっていく。
元魔の色が変色していくのは、ロクは、その目で初めて見た。まるで神族らの様相が途端に変化をするときのようだった。
ロクは、伏した体勢からばっと起きあがって、つい元魔のいる方向へ駆け出しかけた。
「見捨てるのか?」
赤髪の青年の声がして、後ろを振り返れば、そのとき三本に連なった矢が真向からやってきた。ロクの頬や肩、腿をさっと掠めて、それらは地面に突き立つ。
ゆっくりと歩み寄ってくる赤髪の青年の肩越しに、警備班らの顔が覗いている。
「人を諦めるのかよ、カミサマ」
ロクは頬につう、と伝う血を、雑に拭いとった。そして、すこし考えたあとに、両腕をあげた。
「……彼らのことは、諦められないよ。だから、首がほしいのなら、それで構わないし、どこへだって行く。代わりに、彼らを解放してほしい」
「へえ。じゃあ、後ろの化け物ももう、放っておくんだな。俺たちはてめえの命さえ奪えや、あとは知らないぜ?」
「警備班の人が、カナラに向かったはずだよ。夜が明けるまでには、此花隊の次元師たちがここへ来る」
青年たちは、お互いに視線を投げ合った。赤髪の青年は、ロクに向き直って言い渡した。
「まだ信用しちゃいないぜ。次元の扉を閉じて、こっちに来い」
ロクは言われた通りにした。ふっと、ロクの身体の周りから電気の糸が立ち消えた。
ゆっくりと踏み出して、赤髪の青年のもとへ向かって歩く。
若草色の左目で、じっと、青年の顔を見つめながら。
そして赤髪の青年が前振りもなしに、思い切り拳を握りこんだとき、彼の横腹を掠めた光の矢が、ロクの胸に突き刺さった。
「俺が速かったな」
「──ああ!? てんめえ……!」
赤髪の青年は矢が飛んできたほうを振り返って、歯を剥き出しにしてがなった。どちらが早く、ロクの心臓を止めるか──水面下で競い合っていた彼らだったが、手柄を急いた詰めの甘さが、一瞬の隙を生む。そこへ痺れにも似た闘気がねじこまれるとも知らずに。
一瞬でもロクから目を逸らした赤髪の青年の首が、がくんと折れた。
蹴りだった。鋭い蹴りが首筋に叩きこまれ、視界が回転する。ロクが彼の脇をすり抜けると、すでに一迅の雷電が、彼女の足元を走っていた。
「──」
「遅いよ!」
地面の上を滑走した雷電が、深縹髪の青年の手元にまで一気に駆け上がり、矢軸を持った指がびんと折れ曲がった。ロクが、青年の懐に入る。拳の裏手を扇いで、彼の顎を突きあげた。
「七元解錠」
元力を沸かせ、身体中が熱くなる。"したいこと"はもう定まっている──、一か八か、試すつもりでは意志は揺らいでしまうだろう。だからロクは、頭の中でより濃く想像を巡らせて、次元技を放った。
「──"雷円"!」
二つ──だった。倒れ伏した青年たち二人、"それぞれ"を取り囲むように、半円状の雷の膜が二か所で盛り上がった。それだけではない。半円状の雷膜を、ロクは徐々に圧縮していく。わざと青年たちの身体にべったりと雷膜が貼りつくように変形させてみせた。雷の被膜に覆われると青年たちは、二人とも呻き声をあげた。
コルドやフィラがいないのなら、雷の力だけで拘束を仕掛けるしかない。
選択肢がないのなら、新しい選択肢を作るしかない。レトがこれまでに教えてくれたように──。ロクの中には、ロクの元力しか流れていないのに、なぜだかこれまでともに戦ってきた次元師たちの姿が、思考が、この身に深く刻まれているようだった。
「てめ、この、蹴」
「諦めるとは、言ってないでしょう」
文句を言いたげな赤髪の青年の横を通りすぎて、ロクは、一直線に元魔へと向かっていった。すでに全身は、墨を水で薄めたような灰色となっており、変色が続いている。そして禍々しい気配が増していることに気がついた。
(あの変色を止めないと。──いや、完全に破壊する!)
警備班らは解放されている。そして、二人の青年は動きを封じた。残るは、元魔の対処のみだ。巨大な元魔を葬るには、核を狙って破壊するのが最善なのだが、明確な位置がわからない以上は、肉体に損傷を与えて消滅させるよりほかに方法はないだろう。
より強力な次元技を放たなければならない──と予想できていたロクは、ようやく集中を高めて、そこへ意識を沈めた。
猛烈な電気が、ロクの身体中に纏いつく。
神族らがエントリアに襲来した日のことを鮮明に思い返す。クレッタを消し炭にしてしまおうと、焼き殺してしまおうと高めた意思を、そうして撃ち放った電撃の質量を、きっともう一度呼び出せる。
ロクは、しゃがみこみ、地面に手をつくと、薄布で覆われた右目を輝かせた。
「八元解錠──"雷柱"……!」
唱えれば、途端。元魔の足元から煌々とした雷光が一気に噴きあがり、天を突いた。巨大な元魔を覆い隠すように聳え立った雷の柱が、秒を追うごとに電熱をあげ、元魔の皮膚を焼き尽くす。ロクは強く奥歯を噛んで、決して集中を切らさないように、電熱が落ちることのないように、瞬きひとつしなかった。そのうちに、元魔の皮膚は黒く焦げあがり、肉体の端からはらはらと散っていく。
雷の柱の中の巨大な影が小さくすぼんでいって、やがて消し炭になると、ロクはようやく止めていた息をついた。
「……。どうにか、なった」
ロクが振り返ると、"雷円"で拘束されていた青年たち二人が気絶していた。どうやら"雷柱"の電熱をあげるとともに、青年たちにしかけた次元技のほうにも影響が出てしまったらしい。慌てて近寄ったが、軽いやけどを負ってしまっただけで、かろうじて心臓は止まっていなかった。深縹髪の青年の傍らでは、警備班らもまた、電撃の余波を受けたか緊張がほどけたか、おなじように倒れこんでしまっていた。
「さて。……これは、二人とも、連れて行かないとかな」
そう独り言ちたロクの頬に、一筋の光が差す。見上げれば、城壁の向こうからうっすらと、太陽が顔を出していた。
ロクは目を細めて、もっとも明るく白んでいる空を、ぼんやりと眺めた。
降り注ぐ朝焼けを浴びて、ロクは一人、無人の街の中で立ち尽くした。
それから、此花隊戦闘部班の全班員に話をしたいことがある、と言い出したのは数日後のことだった。
- Re: 最強次元師!! 《第一幕》 -完全版- ( No.189 )
- 日時: 2025/09/21 18:43
- 名前: 瑚雲 (ID: 82jPDi/1)
第171次元 半心
「此度の襲撃の件、誠に申し訳ございません。任務中に気を絶し、……ハルエールと青年に、一時的に脱出を許してしまいました」
「利口にも帰ってきてくれたようで、なによりだよ。……して、またしてもハルエールが連れ帰ってきた新しい襲撃者というのは、いったい何者だったんだい?」
昨晩の出来事は、ロクアンズから説明を受けたコルドが報告書にしたため、セブンのもとに提出された。屋敷の一角に据えられた手狭な書斎──現在は、セブンの執務室として機能している──にて、報告書の文面を眺めながら、セブンが息を吐く。
コルドは顔をあげると、考えがあるのか、口を開いた。
「そちらの彼は、まったく口を開こうともしなかったのですが……青年らを隣接した牢に入れたところ、口喧嘩のような、小突き合いのような……ともかく、会話をしている様子を偶然耳にしました。その話口調から、アルタナ王国の国民ではないかと推測します」
「アルタナ王国?」
コルドは頷く。ロクとともにアルタナ王国へ入国した経験から、コルドは、現地の人間同士の会話を何度も耳にしている。よくよく思い出してみると、発音の仕方やその癖が、似ているのだ。
それを聞くと、さらに眉間の皺を深めたセブンが、今度は別の書類を手に取った。先日、ガネストから受け取った帰国の届け出だ。
「……これはまた、不思議なこともあるものだね? ちょうど、王女とその側近が急遽の呼び出しで帰国したかと思えば……まるで入れ替わるように、ハルエールの暗殺を目論んだ次元師がその国からやってきた、と?」
「はい。おそらく、ですが……」
「素性は? 調べはついたのかい」
「本人たちは、口を割ろうとしません。が……アルタナ王国からやってきた次元師については、メッセル・トーニオ副班長から言及が」
「ほう」
「アルタナ王国で壺の制作人をしていた折、職人の間では、ある噂が流れていたとのことです。『宮廷に納めるような一級品を手がけるのなら、「銀の爪痕」に気をつけろ』と。「銀の爪痕」とは、森林地域を根城にした盗賊団の呼称です。そして一味の中には弓を扱う次元師がおり、ヒグヤと呼ばれていた、と」
ふむ、とセブンが相槌を打つ。コルドはそれから、申し訳なさそうに続けた。
「ですが、赤髪の青年については……変わりなく、まだ、調べがついておりません。申し訳ございません」
「構わない。また舌を嚙み切られたら大変だから、情報を引き出すのなら慎重にね。君は、引き続き彼らの監視を頼むよ」
「は」
返事をしたコルドが、部屋から去るかと思えば、なかなか動こうとしないのでセブンは片眉をあげた。不思議に思って口を開きかけると、コルドのほうが先に切りこんだ。
「班長。ハルエールから言伝を」
セブンは眉ひとつ動かさなかったが、一息分だけ間を置くと、続きを促した。
「聞こうか」
「はい。此花隊の今後の動きに関わる、重要な話があると。戦闘部班の全班員を集めて話をさせてほしいと言っています」
執務室内に沈黙が訪れる。セブンは、目を伏せているコルドの顔をじっくりと見つめた。やがてセブンは、まるで世間話でもするかのような重みのない口調で言った。
「そうか。そこでレトヴェールと再結託し、隣人の次元師二人も抱きこんで、この拠点を内側から壊滅させる算段かな」
「は、班長」
そう思わず口がついて出たが、コルドは続く言葉を持ち合わせていなかった。ただ、いまだロクを警戒しているセブンに、反射的に異を唱えそうになった。
それに気がつくと、セブンは、コルドの黒い瞳の奥を探るような視線で、彼を突いた。
「……なるほど。君はあくまで中立の立場でいたいか」
「……」
「どう考えようかは自由だ。最近は、フィラが私を見る目にも不安や反感が宿っている。メッセルに至っても、彼女に対する印象を変える気はさほどないらしい。しかし私は考えを改めるつもりはないよ。むしろ、此花隊の次元師たちが皆一様にして彼女を擁護しようとする姿勢に関心を寄せる一方だ」
セブンは手元に広げていた報告書や、帰国の届け出などの書類をまとめて、とんとんと机の上で正すと、続けた。
「いいだろう、では召集をかけようか。どのような判断を下すにしても、まず聞いてみないことには情報にもなりえない。といっても、すぐに集められる次元師は、随分と頭数を減らしてしまったね。隊長と副隊長には、内容を検めたあとで報告をする。明日の朝、執務室に連れてきたまえ。ほかの班員にも伝えるように。ほかに用件がなければ、下がっていい」
「はい。承知しました」
頭を下げたのち、コルドは退室した。執務室の扉がぱたんと閉まると、喉の奥でわだかまっていた息が、ようやく吐き出された。
メッセルやキールアがいる医務室に向かって歩きながら、セブンの言葉を、頭の中で何度も反芻した。中立の立場でいたいか。そう言われればそうかもしれないし、かといってすぐに頷けない自分もいる。いったい、たしかな気持ちは、どこにあるのだろうと、コルドは考えていた。
一夜明けて、朝を迎えると、コルドをはじめとした戦闘部班の次元師たちが執務室に集合した。
相変わらずロクは手足を拘束され、その隣にはコルドが立ち並んでいたが、彼は片手に、大量の紙を紐で束ねたものを掴んでいた。
ロクは、自身とコルドのほかに、セブン、フィラ、メッセル、キールアの姿しか見えないことに、驚いていた。ロクの視線が行ったり来たりしているのを見て、セブンが早々に口を開いた。
「ガネストとルイルだが、暇を出した。長らく不在にする」
「え?」
「それ以上のことを知る権利は、君にはない」
左の瞳を伏せて、ロクは考えこんだあと、はっと思いついたようにまた顔をあげた。
「レトは」
ロクは、言ってからすぐに、思い出した。エントリアでの戦闘からほどなくして開かれた緊急会議のあと、レトヴェールは個室にて軟禁処分と言い渡されていた。それがまだ解かれていないだけでは、ないだろう。ロクは薄々察していながらも、セブンの返事を待った。彼は、いっとう声を低くしてすぐに返答をやった。
「再三言うようだが、君と彼を会わせるわけにはいかない。彼がいなければ、成立しない話なのか?」
ロクはゆっくりと首を横に振った。
それからしばしの沈黙のあと、セブンは気を取り直して、班員たちに視線を配ると、ロクに向き直った。
「ハルエール。君の言う通り、次元師たちに集まってもらった。話があるというのなら、聞こう」
ロク以外の戦闘部班の班員たちが、緊張した面持ちで、彼女の発言を待った。
張り詰めた空気の中、ロクは口を開いた。
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