複雑・ファジー小説
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- あなたを失う理由。 完結
- 日時: 2013/03/09 15:09
- 名前: 朝倉疾風 (ID: kWFjr3rQ)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
どうも 朝倉疾風です。
性描写などが出てきます。
嫌悪感を覚える方はお控えになってください。
主要登場人物>>1
episode1 character>>4
episode2 character>>58
episode3 character>>100
episode4 character>>158
小説イメソン(仮) ☆⇒p
《episode1》
・まきちゃんぐ / 煙
htt☆://www.youtube.com/watch?v=kOdsPrqt1f4
《episode2》
・RURUTIA / 玲々テノヒラ
htt☆://www.youtube.com/watch?v=wpu9oJHg2tg
《episode3》
・kokia / 大事なものは目蓋の裏
htt☆://www.youtube.com/watch?v=LQrWe5_q6-A
《episode4》
・Lyu:Lyu / アノニマス
htt☆://www.youtube.com/watch?v=lSFYtyxojsI
執筆開始◎ 6月8日〜
- Re: あなたを失う理由。 ( No.147 )
- 日時: 2012/11/17 21:53
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
日曜日。男の車で例の「教団」とやらへ向かう。座席には母親が座っていて、窓の外をぼうっと見ている。今まで休日に家族と外出なんてしたことがなかったから、こうして車に乗ってどこかに行くなんて新鮮だ。
まあ、誰も喋らねえけど。
男も何も言わずに運転しているし、母親は流れていく景色に視線を泳がせているし。俺は話すことなんか無いし。
ぺちゃくちゃ五月蝿いお喋りが嫌いだけど、決して心地がいいもんじゃない。
揺れる車体がだんだんと睡魔を呼んで、俺はいつの間にか意識を手放していた。
男に肩を揺すられて目を開けると、見慣れない景色が広がっていた。腕時計を見る。家を出てから数十分ほど経っていた。
ノロノロと車から降りる。
人気が無い。田んぼばかりが広がっている。ぽつぽつと家があるのが見えるけれど、お隣さん同士の交流は無さそうなほど一軒一軒の間隔が広い。
「おい、なにぼーっとしてんだ。こっちだぞ」
声をかけられてそちらに振り向く。
でかい屋敷があった。
和風の、なんか何坪も敷地があるって感じの屋敷。庭に鯉が泳いでいる池とかがありそうな、時代劇に出てきそうな屋敷だった。門もでかい。
「教団」って聞いていたから、もっとこう十字架だとかそういう洋風なものを想像していた。
呆気にとられながら男に着いていく。母親は一度来たことがあるせいか、妙に落ち着いていた。
「ん…………木内?」
「ああ。ここ“木内”っていう奴の家なわけ。そいつらの一族が教団のお偉いさん」
「勝手に入っていいんですか」
「いいんだよ。怒られないから」
どうやらその木内さんって人は不方侵入されても眉ひとつ動かさない寛大な心の持ち主らしい。いや、まあ、この男が木内さんの知り合いだからなんだろうけど。
門を入っると、丸い形の石が地面にぽつぽつと埋め込まれていて、そこを辿ると玄関口にたどり着いた。
「すごくお金持ちなんですね」
「そうだねぇ。木内と…………あと大瀬良はけっこうお金持ちだね」
オオゼラ?
オオゼラって、前の俺の名前だ。
小さい頃に両親が離婚してすぐに苗字は変わったけど、確かオオゼラっていう人だった。俺の、父親は。
それをこの男は知ってるのか。母親が言ったとか。いや、でも母親は俺の父親をひどく嫌っているから、自分から言ったとは考えにくい。
「そのオオゼラって人は…………」
「信仰者のひとりに大瀬良って奴がいたな、そういや」
心臓が高鳴る。もしかすると、俺の父親がいるかもしれない。大瀬良なんてそうある苗字じゃない。
足が震えだす。
あー、しっかりしろ。まだそうだと決まったわけじゃないし。
第一、ここに俺の父親がいたら絶対にあいつは叫んで喚いてぐちゃぐちゃになってる。
母親を見る。
靴がなかなか脱げないらしく、唇を尖らせている。その様は子どもそのものだ。この姿を父親が見たら、どう思うだろう。
「やすくにぃ、どうしてそんな不安そうなのー」
「さあな」
甘ったれた声。
酒に溺れて、男を家に連れ込んでは裏切られてそのたびに暴れて。
この人は本当に成長しないな。いまでは衰退しているありさまだ。
「靴は脱げたな。んじゃ、こっちな」
襖、襖、襖、廊下、そしてまた襖。畳の香りのする屋敷内を歩き回る。
こんなに歩いているのに同じ景色ばかり。同じところをぐるぐる回っているような感覚になる。
それに、一度も俺ら以外の人に会わない。こんなにずかずかと入っていっていいのか。まさか留守中ってわけじゃないだろうな。
「誰にも会わないけど、家の人はいるんですか」
「ああー。いまちょうど儀式の最中だからな」
「儀式?」
先頭を歩いていた男が立ち止まる。
目の前には下に降りる階段があった。中は薄暗くてよく見えない。
「これって地下室への階段ですか」
「ああ、そうだ。…………泰邦、お前は童貞か」
「は?」
いきなりなんてこと聞くんだ、たとえ男同士でももうちょっと気を使うとか、ていうかなんでそんな話になるわけがわからんあーやっべ混乱してきた。
「いや、お前は今年で十五歳だろ。そろそろ大人になってもいいんじゃねぇの。ていうかナリがいいからなんかヤッてそうだし」
「俺は…………女は、苦手、なんで」
遠まわしに否定する。
でも女が苦手なのは本当だ。自分の母親を見て、妙に抵抗と偏見を持っている。
「ほーう。女は苦手か。なら、ちょうどいいわな」
「ちょうどいい?」
「泰邦、人間にとって本能ってものは生きるために必要なもんだ。欲求もそう。睡眠欲、食欲、そして…………性欲」
いつから保健の授業になったんだ。
「一番溺れやすいのは性欲だ。快楽は覚えやすいし、嫌なことをすぐ忘れられる。下手なドラッグよりなんぼか都合がいい」
「えっと…………」
どう言っていいのかわからない。
目の前の男は何を言ってるんだ。
「んじゃ、そういうわけで。カミサマに助けてもらいな」
「か、み、さ」
落とされる。
ぽんっと。
最小限の力で背中を押されて、そのまま階段を転げ落ちる。けっこう痛い。背中を何度も何度も打ち付ける。
痛い。
なんか知らんけど、すっげぇ痛い。
「え、ええええ?」
「やぁっと来たんだ。泰邦くん」
聞き覚えのある声。
頭を摩りながら顔をあげると、なかなかぞっとする光景がそこには広がっていった。
窓ひとつない広い部屋。照明はオレンジ蛍光で、うっすらと明るい。祭壇のようなものが部屋の中央にあって、そこには木彫りでできた女性像があった。
「ねえ、聞こえてるのかな。泰邦くん」
「え、はい。聞こえてるけど…………」
ちょっと待てよ。
なんでここに安納ヒカリがいるんだ。
安納は俺を見ると嬉しそうに近寄ってきて、俺を見下ろす。
「泰邦くんはね、不幸そうだなって思ったの。ずっとずっと最初から。だから声をかけたの」
「意味がわからん」
「あのね、わたしは、カミサマなの。言ったでしょう?」
カミサマ?
あれは、この女の変な妄想でしかなくて。
「だから、泰邦くんの辛いこともぜんぶ、わたしが洗い流してあげる」
- Re: あなたを失う理由。 ( No.148 )
- 日時: 2012/11/18 22:38
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
ざらりとした感触が気持ち悪くて、思わず足を引っ込める。けれどそいつは拒絶を許してくれなかった。ものすごい勢いで足を掴まれて、開かされる。
考える余裕が無かった。
なんでこいつがいるんだとか、なんでこんなことしてくるんだとか、母親とあの男はどこにいったんだとか、なんか、もういろいろと、考えなきゃいけないんだろうけど。
ていうか、なに、これ。
「声、出さないんだね」
「は…………ッ、おま、おまえ……何して」
「忘れて、泰邦くん。きみの嫌なことはぜーんぶ、とても悪い夢だったんだから」
「なに言って、んぐ……っ」
口が口で塞がれる。というよりは食われる感じ。
口内を舌で舐め回されて、わけのわからないまま下半身を剥かれる。
ヒカリも服を脱いで裸になった。細い。無駄な脂肪がまったくついていない。なにより衝撃的だったのは、体中につけられている傷跡や痣だった。細かい引っかき傷なんてものじゃない。抉られたり、切り裂かれたり、殴られたり、火傷だったり、剥がされたり、なんかもう、
「お、ぇえ……っ」
胃が痙攣して、中身をすべてぶちまける。ひどい匂いがしたけれど、それよりも初めて見た女の体があまりに醜すぎて、脳が別の意味で刺激を受ける。胴体もそうだけど、下腹部から性器にかけてが酷かった。
「ぜーんぶゲロっていいよ。わたしが何もかも飲み込むし、受け入れるから。カミサマだもの、わたしは」
「あ、あ、あ、ヒカ、ヒカリ、」
「悲しかったんでしょう。ずっとひとりぼっちで、寂しくて寂しくてたまらなくて。自分を守るために必死にならなきゃいけなかったの。わかる、わかるよ、泰邦くん。きみが欲しかったのは、」
俺が欲しいものは、
「きみ自身を肯定してくれる理解者だったんだよね」
溺れたというより、堕ちたといった方が正しいのかもしれない。
「カミサマ、今日の俺はなんだかおかしいんだ」
中学を卒業してから明桜高校に通うようになったけれど、俺がヒカリの教えに入ったこと意外は何も変わらなかった。
相変わらず周りは五月蝿いし、どうしようもない連中がゴミ溜めのなかで息しているような環境は、正直胸糞が悪い。
いや、もっと胸糞悪いことがあるな。
「ねえ、泰邦くん。わたしは安納家の一人娘なんだけど、どうして木内家にいると思う?」
「そんなん知るかよ」
安納ヒカリが自分の腕に包帯を巻きながら俺の隣で笑う。
俺の部屋でふたりきりでいるわけだけど、別に何もしちゃいない。俺たちの関係は初々しい恋人同士なんていう清いものじゃないから。
「このヒカリの教えはね、木内家と安納家の一族が創立に関わっているの。わたしはずっと小さい頃から自分はカミサマなんだって教え込まれていて、それに疑問すら持つこともなかった。
両親は自分の娘がカミサマだってことに誇りを持っていたし。わたしも誰かに必要とされることは嬉しかったし」
たとえそれが陵辱であっても。そうヒカリは付け足した。
陵辱、ねぇ。
俺は絶対にそうとは思わねえけど。
「木内家のご夫妻に長年子どもができなかったっていうのもあるんだけど……。もう、わたしのカミサマとしての役目は終わりなんだよ」
「意味がわからん」
なんか勝ち誇ったような顔をされた。すっげぇムカつく。やっぱり何年経ってもこの女だけは好きになれねえ。喉元掻き毟ってやりたくなる。
「過去形、だったでしょ。子どもは長年できなかった。今までは。でもね、違ったの。わたしはずっと知らなかった。木内家にね、赤ちゃんが生まれてて、その子は本物のカミサマなんだって」
「は…………?」
「わたし、カミサマじゃなくなるの」
本気で意味がわからなかった。
ヒカリがカミサマじゃなくなる?生まれてきたのが本物のカミサマ?
「わたしはきっと殺されるよ。カミサマじゃないのに、人間の罪を流して、受け止めて、こんなの愚者のやることよ。偽物なんていらないの。不要なの」
「お前は死が怖いのか」
生きているのか死んでいるのかわからないこいつが、恐れている。
震えている肩を撫でるようなことはしない。こいつが死のうが俺はどうだってよかった。
俺にとっての“カミサマ”は、こいつじゃなくて、ただの快楽だけだから。
「怖くないよ、そんなくだらないこと」
俺を見据えるヒカリの目は不気味なほど澄み切っていた。濁りの一切無い眼光。他人の全てを見透かすような視線。
「不要だと拒絶されることが、とても怖いだけなの」
- Re: あなたを失う理由。 ( No.149 )
- 日時: 2012/11/20 17:39
- 名前: メフィ_〆 ◆6tU5DuE3vU (ID: l.IjPRNe)
何かの小説にコメントするのは久しぶりです。
初めまして。
私のことは存じていらっしゃらないでしょうが、私は以前から拝見させて頂いておりました。
いやはや、素晴らしい表現力の持ち主です。
日常回の描写は、カキコでも一、ニを争うと言っても過言ではないでしょう。
そのお力、是非とも貸して頂きたいところです。
宣伝になりますが、自分の小説では無いので、どうか最後までお目通り願います。
今、私はちょっとした団体の先導などを務めさせて頂いておりまして。
小説メインで、交流の場を設けているのですが……朝倉様もいかがでしょう?
小説協会という組織で、諸事情につき雑談掲示板で本部を開いております。
強制ではございませんので、興味がございましたら、まずは覗いて頂くだけでも結構ですので。
いきなりの宣伝、大変失礼致しました。
これからも拝見させて頂きます。更新、楽しみにしております。
- Re: あなたを失う理由。 ( No.150 )
- 日時: 2012/11/22 20:18
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
メフィ_〆さま
温かいコメント、ありがとうございます。
朝倉のお話しを読んでくださって、感激なのです。
小説協会へのお誘いは大変嬉しいです!!
でもやっぱり、いまの朝倉はこのカキコでゆったりといるほうが自分に合っているし、
なにより私事で忙しいというのもありますので…申し訳ありません…。
また、機会があったらぜひ。
- Re: あなたを失う理由。 ( No.151 )
- 日時: 2012/11/22 21:20
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
高校生になってバイトを始めた俺の帰宅時間は夜の十二時を過ぎる。
バイト先と家からの距離もあるけれど、家に帰りたくないっていうのが一番の大きい理由だ。
母さんがいるからじゃない。
あの男がいるから。
玄関を開けると、俺が中学生のときからいるその男は、当たり前のように俺を出迎える。偽善者ぶったような顔をして。
最初はあの人がいないとダメだと思っていた。あのとき俺はガキだったし、まあ今でもガキには変わりないけどあの時よりかは大人になっていると思っている。母さんが暴れまわるのを膝を抱えてただ見ているだけなあの頃とは違う。守られる側じゃない。かといって守る側でもないことはわかっている。
「泰邦、お茶をいれようか」
バイトから帰って冷蔵庫をあさっていると、いつのまにリビングにいたのか、男が優しげな口調で聞いてきた。
相変わらず足音のしない奴。
「いい。牛乳飲むし」
「泰邦は本当に身長が高いな。俺を越すんじゃねぇのか」
「かもな」
牛乳パックからそのまま飲むのは行儀が悪いと、母さんがまだ母さんだったときに怒られた記憶がある。それを思い出して、食器棚からコップを取り出した。白い牛乳を注ぐ間も、男は俺を見る。
「あのさ、なんか用か」
無言でいられるとさすがに気まずい。
男は笑みを崩すことなく、その場につっ立ったまま、
「よく安納ヒカリがここに来ているな」
「えっと、椅子に座れよ」
傍にあった椅子をすすめたけど、首を横に振られた。
牛乳を一口飲んで俺は椅子に腰掛ける。なんでこいつ、そんなこと知ってんだよ。こいつがどっかに出かけてるときにヒカリが来ているのに。
「安納ヒカリはお前が好きらしい。バカな奴だ。だからカミサマとしての素質が劣っているとあれほど言ったのに」
「なあ、それってどういうことだよ。あいつも言ってた。自分が偽物のカミサマだって。木内家に子どもがいるからとかなんとか」
「それ、それっ!安納ヒカリが言っていたんだな!」
男の顔に不安と困惑が浮かび、俺を指差す。指先は微かに震えていた。
訳がわからないまま頷くと、息を荒くしながら男が近寄ってくる。え、なにこれ、襲われんのか俺は。
そんな余計な心配は杞憂に終わって、がっしりと両肩を押さえつけられる。かなり力が強い。
「あいつは……ヒカリはなんなんだ……っ!」
「ただの供物だ」
「はぁ?」
思わず間の抜けた声が出た。
男の顔を凝視する。
信仰心に満ち溢れている男の目は濁りが無いかわりに、気味の悪いほど冴えていた。
「ああ……お前はヒカリの教えに入ってまだ半年だったな……。俺の名前もまだ知らないんじゃなかったか」
「まあ……あだ名くらいしか知らねえな」
興味もなかったし。どうせ母さんの連れてくる男なんて数ヶ月かそこらで変わると思っていたし。
「俺の名前は木内佑。木内家の長男で、現ヒカリの教えの司教。ヒカリの教えは俺の親父と安納のじじいが創った、人間の罪が現れ、不条理で不合理な現実を忘れるための理想郷だ」
木内……ってあれか、俺が初めてヒカリの教えの本部に訪れたでっかい屋敷。
────ここ“木内”っていう奴の家なわけ。そいつらの一族が教団のお偉いさん。
記憶を掘り返す。あの時、この木内佑は木内家に無断で入っても怒られないと言っていた。そりゃそうだ。自分の家なんだから、誰も怒るわけがない。
「穢れを嫌う我々は本来の人間の在り方を目指した。傷つき、生きる希望を失くした者が本能のままに自我を求める。この世界の現実は人間に対して特に厳しい。そして人間自身が人間を苦しめているなんてバカバカしいじゃないか。だからヒカリの教えは、そんな人間がカミサマに癒しを求める理想郷。人間の原点に還る唯一の方法なんだよ」
木内佑の言っている意味が少しだけわかるような気がした。
世界に絶望した者が何かに縋ろうとする気持ちは嫌でもよく身にしみている。同情だけでどうにかなるものじゃない。抉られる。気力も、努力も、なにもかも。
「木内家の安納家は代々自分たちが人間とは別の、カミサマの一族だと信じている。もちろん俺も自身の血に一滴は人間でない血が混じっていると信じている。あんな穢らわしいものが!同類であるはずがないのだから!」
こいつらは人間に失望しているんだ。
愚かで汚くて暗い人間の心に激しく怒り、自分たちはそうではない、自分たちは人間ではないと思い込んでいる。
それが、理由なのか。ヒカリの教えを生んだ、理由。
「安納ヒカリは、とても美しいカミサマだった。髪も生まれつき白色で、まさしくカミサマに近い子どもだった。俺たちはあいつをカミサマとして崇めようとした。本当は学校にも通わせたくなかったのに、安納の嫁が義務教育だけはと言い出しやがった!」
あいつのあの白っぽい髪は生まれつきだったのか……。極端に色素の薄い髪の色。あんな赤ん坊が生まれたとしたら、親族もろとも大騒ぎだっただろう。
「安納ヒカリは人間に染まってきている。それではヒカリの教えのカミサマは人間に汚染されているも同然だ。だから俺は!俺は、新しくカミサマを作ることにしたんだよ!人間の罪と恐れと愚かさを流し、本能以外の余計な知識を身につけていない、純真無垢なカミサマを!」
────木内家にね、赤ちゃんが生まれてて、その子は本物のカミサマなんだって。
確か、ヒカリはそう言っていた。
木内の家に赤ん坊が生まれた。だから自分は不要な存在になったのだと。
木内佑は、笑っていた。
目を大きく見開き、顔中に恍惚とした表情を浮かべ、俺の目の前で笑っていた。
「俺の子どもは!完璧なカミサマになってるんだよ!」
糞野郎だと思った。
でも、俺もこの糞野郎のおかげで今を生きれているひとりなんだ。
こいつが安納ヒカリをカミサマとして俺に会わせてくれていなかったら。俺はきっとズタボロだったと思うから。
「名前とか……つけてるのか」
「名前なんていらないと言ったんだけど、呼ぶときにカミサマだと言えば存在が知られるだろう。だからつけることにした」
「なんていう名前なんだ」
この男はきっと、父親になるつもりはない。
生まれている子どもがどんな境遇で育っているのかは、知りたくもなかった。
「好奈っていうんだ。今年で六歳になる」
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