複雑・ファジー小説

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あなたを失う理由。 完結
日時: 2013/03/09 15:09
名前: 朝倉疾風 (ID: kWFjr3rQ)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/

どうも 朝倉疾風です。





性描写などが出てきます。

嫌悪感を覚える方はお控えになってください。



主要登場人物>>1

episode1 character>>4


episode2 character>>58


episode3 character>>100


episode4 character>>158



小説イメソン(仮) ☆⇒p


《episode1》
・まきちゃんぐ / 煙
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=kOdsPrqt1f4


《episode2》
・RURUTIA / 玲々テノヒラ
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=wpu9oJHg2tg


《episode3》
・kokia / 大事なものは目蓋の裏
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=LQrWe5_q6-A


《episode4》
・Lyu:Lyu / アノニマス
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=lSFYtyxojsI


執筆開始◎ 6月8日〜



Re: あなたを失う理由。 ( No.47 )
日時: 2012/07/08 13:35
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/




 わたしは今、非常に迷っていることがある。 その迷いがモヤモヤしているから、家に帰ってから数十分ほど自室で携帯を目の前に動かないでいる。

「── よし、頼りにしてるぞ兄さん」

 ようやく相談しようと決意したのは、それからさらに10分ほどが経過したころだった。 携帯を開いて、離れて暮らしている兄さんにメール……いや、やっぱり電話にしよう。 電話帳を開いて兄さんに電話をかける。
 ── やっぱり、2コールで出てくれた。

「もしもし、兄さん? 笑日だけど」
『         』
「うん。 あのねぇ、ちょっと相談したいことがあったんだけど。 しかもけっこう重大かつ深刻。 聞いてくれる?」
『         』
「そう。 えっとね、もし自分がこれから死ぬであろう人間を目の前にしたとき、兄さんならどうする?」
『         』
「助けるか、見殺しにするか、警察に言うか」
『         』
「でも警察に言ってると時間がかかって、その人は死んじゃうかもしれない。 わたしが行けば、ギリギリセーフ…かな、みたいな」

 しばらく黙って、

『         』
「── オッケー。 わかった、ありがとう」

 電話を切る。 通話時間は2分ぴったり。
 大きく深呼吸して、次に電話をかけるべき相手を電話帳から探す。 ……と言っても、もともと少ない電話帳で彼の名前を探すのは簡単なんだけれど。
 こちらは忙しいかなと思ったけれど、案外すぐに通話に出てきてくれた。

『── 誰だよ』
「あ、流鏑馬なんだけど!」

 声を作る女子の気持ちが、今ならわかる。
 ややあって、

『── なんで俺の電話番号知ってんの』
「大瀬良くんの家に来たとき、お風呂入ってるときに拝借したの」
『── で、なんなの』

 最悪、通話が切られると思っていたから少しホッとした。 少し気を落ち着かせて、わたしは大瀬良くんに言葉を伝える。 最後になるかもしれないから。
 彼に、遺言を残すために。

「正義のヒーローって言うとどうして人は男性を想像するんだろうね」
『── は?』
「わたしはね、正義のヒーローは女性でも全然アリだと思うんだけどなぁ。 魔法を使ってエイヤー!とかとか」

 大瀬良くんは黙ってる。
 背後で人の声がするけれど、やっぱりバイトの途中だったかな。

「わたしは別に人の役にたってその人の記憶に自分を刻み込もうとか、教科書とかに名前が載って歴史が変わっても語られる人でありたいとか、そんなたいそれたことを思ってるわけじゃなくてね」

 これを本人を目の前にして言えないのが非常に悔しい。
 宝月先生はああ言ったけれど、わたしはやっぱり大瀬良くんのことが大好きなのだ。

「大瀬良くんにだけは、わたしのことを覚えててほしいなーってね」
『── 流鏑馬?』

 電話を、切った。
 初めて名前を呼んでくれた。 どうしよう、嬉しい。 耳に残る彼の甘い声。 鼓膜に刻んでおこう。
 一生、死ぬまで忘れないでおこう。


「── よし」


 千隼くんの家はそう遠くない。 間に合うはずだ。 何を装備していこうか。
 んー……ダメだな。 どうしても死ぬことに微塵の恐怖も抱くことができない自分がいる。
 一階の台所に降りてから、何か無いかと物色してみる。 包丁……いや、でもそれではあまりにもヒーローっぽくない。 できれば魔法ステッキとかを使いたいんだけど、現実世界にないからなぁ。
 もういっそ素手で……そうだ、素手でいこう。
 悪役を倒すのにビームの一つも出せないでどうする、わたし。 何のために大瀬良くんの声を聞いたというの。 これは、大瀬良くんのためでも、わたしのためでもない。
 赤の他人のため。 ……いいや、違うかな。 だれもためでもない。
 ヒーローごっこだ、これは。 悪趣味な遊びだ。

「挑んでやるよ、クレイジー野郎」





 いざ対峙するとなると、緊張で手に汗が滲んできた。 まあ暑さのせいというのもあるだろうけれど。
 いま、わたしは千隼くんの家の前にいる。 ここに来ているであろう三好先輩を止めるためにやってきたわけだけど、こういう時ってインターホンは押すものだろうか。 とっくに千隼くんは帰ってきているはずなんだけど。 ……まあいいか、押さずに入ろう。 どうせ大瀬良くんの家で不法侵入は経験済みだ。
 それにしても大きな家だな。 ここらはアパートが多いから、千隼くんの家は目立つ。 これなら仮に千隼くんの家がわからなかったとしても、三好先輩なら見つけられるだろうな。

 黒い扉を開けてみる。 重い。 中を覗くと広い玄関が見えた。 フローリングの床がつやつやと光っていて、手入れがよく行き届いている。
 靴箱の上には水槽があって、金魚が3びき泳いでいる。 こんなに狭苦しい世界に閉じ込められているというのに、のびのびと泳いでいるように見えるのはどうしてだろう。 その世界しか知らないからだろうか。 可哀想に。

「……っ」

 ゴトリと何か鈍い音がした。
 忘れかけていたが、ここには最悪、殺人犯がふたりいることになる。 まあ、一人はまだ未定だけど。
 空気が夏だというのに一気に冷える。 音のした方へすり足で移動sる。 靴下を履いていて本当によかった。
 廊下を進んでいくと、扉があった。 その奥でボソボソとした声が聞こえる。 開けてみるか。

「お、流鏑馬……? やっぱり来たのか」

 ── 帰ろうかと本気で思った。
 扉を開けて視界に飛び込んできたのは、三好先輩が血だらけのちはやくんを押し倒している光景だった。
 そっち系が好きな女子から見たら、すかさず脳内で掛け算の式ができるんじゃないかな。 あいにくわたしにはそういうものを好む傾向はないあkら、なんというか……別に気持ち悪いとまでは言わないけれど、知人がこうも密着した形でいるのを見ると、少しうっとなる。
 けれど、千隼くんの腕から溢れている血を見て、わたしの馬鹿げた思考はゴミとなった。
 血って真っ赤なイメージあったけれど、こうして見ると黒っぽくもあるんだな。

Re: あなたを失う理由。 ( No.48 )
日時: 2012/07/10 22:13
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/




 白いソファには血がベッタリと付着しており、フローリングの床にも点々と血の跡がある。
 ふたりでお茶を飲んでいたのか、テーブルの上にはコップがふたつあり、どちらも倒れて中身が溢れていた。 椅子も倒れている。 多少は争ったというわけか。

「何やってんですか」
「今日は千隼のご両親が留守で助かったよ。 千隼以外の人間も傷つけてしまわないといけなかったからな」
「── 千隼くんの腕から血が流れてますね」
「ああ。 暴れるからつい、な」

 こうして話しているのに千隼くんは全然反応しない。 もしかして手遅れだったのだろうか。
 不安で曇っていくわたしの脳裏を察したのか、三好先輩が千隼くんの背中を軽く蹴った。

「死んでないよ。 さっき気を失ったみたい」
「── 三好先輩はどうして千隼くんが紗夜を殺したって思ってるの」

 明らかに不快そうに顔色が変わった。 けれど、その表情はすぐに消える。
 現れたのは過去の記憶に依存している先輩だった。 幼い表情。 演技かと思っていたが、見る限り自分でつくるにはあまりにも雰囲気などが違いすぎる。 本当に子どもなのだ。 仕草も。
 ── けれど、今見ている先輩はさっき会った『幼い子ども』の表情とは違う。 幼いんだけれど、小学低学年ほどではない。

「── 紗夜は昔から目つきが怖いって言われてて、笑うのが下手くそだったんだ。 可愛いんだけど、なんというかそこも女子からは良く思われてなくて。 だから友だちもいなくて、いつも一人だった」

 どこか陰りのある少年の口調。 外見は18歳の先輩だけど、中身は口調と雰囲気からして……中学生くらいだろうか。 一人称も『僕』から『俺』になっているし。

「そんな紗夜に声をかけてくれる奴がいるって……クラスの奴らの目も気にせずに、紗夜に話しかけてくれる奴がいるって……。 そいつが千隼だった。 俺はすぐわかったよ。 紗夜がそいつを好きなんだって。 顔を真っ赤にしながら、俺の前で喋るんだよ……ああ、幸せそうだなって……俺以外の奴のことでこんなにも嬉しそうな紗夜を、見たことがなかったんだ」

 そう語る三好先輩は、どこか悲しげでどこか幸せそうだった。
 きっと今の彼の脳内では、今の先輩の苦しみを唯一救えていて、なおかつ過去に縛られている原因の記憶たちが、ふわふわと浮かんでいるだろう。

「紗夜とそいつらが付き合うことになって、しばらくして俺に千隼を紹介してくれたんだ。 紗夜は……バカだから、気づいちゃいなかった」
「何に気づいていなかったんですか」
「千隼の目だよ。 こう言うと人は考えすぎだと笑うかもしれない。 けれど、俺にはハッキリわかった。 千隼は紗夜のことなんか見ちゃいない。 何も映してなんかいない。 冷たいともなんとも言えない、何も感じていない目だった。 その目が俺の目と合ったとき……あいつ、ヘラリと笑ったんだ。 いつもの、シミ一つない笑顔だった。 ……ゾッとしたよ。 気味が悪かった。 千隼望夢という人間が恐ろしくなかった」

 それにはわたしも時々見覚えがある。
 いつもどんなときでも笑っている千隼くんが、一瞬だけだけど、その雰囲気もガラリと変わって何かを見つめているのを見たことがある。

「けっきょく、付き合って2年後に千隼はほかに好きな人ができたと言って紗夜と別れた。 紗夜は泣いていたし、俺も千隼が憎かった。 でも、でも、安心もしてたんだ。 これで千隼と紗夜の接点はなくなる。 高校にも入学してたし……クラスの数も多かったし……会う機会も無いかなって」

 記憶の内容が中学から高校に変わった瞬間、彼の顔も変わる。
 ああ、そういうことか。 過去に依存して今の三好先輩がいるから、それに合わせて『三好史親』も変わるのか。 一種の記憶障害みたいなものだろう。
 本来の三好先輩に戻り、彼は千隼くんを冷たい目で見下ろす。

「だけど……紗夜はこいつへの気持ちを諦めきれなかった。 表面は昔の紗夜に戻ったけれど、俺に会うといつもいつもこいつの想いを吐いていた。 それを聞く俺もひどく辛かったから……千隼にとっては重荷以外の何物でもなかっただろうな」

── 解放された気がした。

 そう言う千隼くんの言葉を思い出す。
 確かに、はじまりはたかが中高生の恋愛だったはずだ。 ふられたふったなどの話は山ほどあるに違いない。
 それゆえに、そのたかが恋愛のせいで千隼くんは苦しかっただろう。
 今でも、まだ、あの熱い目で自分のことを追いかける紗夜のことを考えると。

「それが……殺した理由?」
「そうだ。 こいつは紗夜が邪魔になって消したんだ」

 本当に? 本当にそうだろうか。
 紗夜は確かに千隼くんを想い続けていたのかもしれない。 でも、それを千隼くんは知っていたのか?
 テストの日、宝月先生を探して教室に来た紗夜を思い出す。 あの時、千隼くんは紗夜について「別れた」「気にしていないで」と話していた。
 彼にとって紗夜との恋愛は「終わった」話なのだ。 紗夜がまだ自分を想い続けていることには、気づいていなかったのではないか。
 千隼くんの言った『解放』というのは自分が紗夜に別れを告げたことを後ろめたく思っていたから言っただけで、紗夜の恋心に答えてあげられないことではないのではないか。

「── 違う、違うよ先輩。 先輩の話している理由じゃ不十分だよ」

 そして何より納得がいかないのは、先輩の理不尽なこの考えだ。
 三好先輩はもっと論理的に話を進めていく、頭の良い人だ。 きっとこの人は紗夜を殺した犯人が捕まらなくて、感情を誰にぶつけたらいいのかわからないだけ。
 自分がずっと憎んでいた千隼くんを殺人犯に仕立てあげたいだけだ。

「違わないだろうがあああああああ ああああああああ アアアアアアアアア ッッ」

 意味不明に奇声をあげながら、三好先輩がテーブルを蹴る。 花瓶が倒れ、大きな音をたてて砕けた。 床にガラスの破片が散らばる。
 それを握りしめて、掌から血を流しながら先輩がわたしを睨みつけた。

「虚しいな、先輩。 見ていて本当に痛々しいですよ」

 先輩のしていることに理由はない。 単なる八つ当たりにしかすぎない。

「うるっせえええええええeeeeeeええええええええeeeeッ、!!」
「お前がうるせえよ」

 声がした。
 先輩が奇声をあげているけれど、ハッキリとそれが聞こえた。
 え、

「よいしょっと」

 先輩の後ろで、気絶していたはずの千隼くんがのっそりと起き上がる。
 先輩がそちらを振り返り、掌からガラスの破片を落とした。

「もう出てきていいよ、優子」 「えっ?」

 そして、わたしの後ろにある扉が開いて誰かが入ってくる。
 その人物が手に包丁を持っていて、

「  あ、  えっ ?」

呆然と立ち尽くす三好先輩の腹部を、刺した。

Re: あなたを失う理由。 ( No.49 )
日時: 2012/07/12 22:51
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/



 三好先輩が口から血のあぶくを吐きながら倒れるのが、スローモーションのように見えた。 力が抜けていくように、膝がから崩れるように倒れていく。 かなりの出血量で、すぐに床にどす黒い血だまりを作った。
 でも、それだけだった。
 別に死ぬことに何の恐怖も抵抗も抱かないから、目の前に死んでいる人間がいようがいまいが、わたしにはどうってことない。
 そんなことよりも、わたしは三好先輩を刺した人物を見て、非常に……驚いてもいるんだけれど、どういう反応をしたらいいのかわからなくなった。 素直に驚くべきなのか。

「── えっと……宝月先生は用事があって帰ったんじゃなかったっけ」

 口から出たのは、この現状にふさわしくない私情だった。
 暑いのか、黒フードを外して宝月先生が首を傾げる。

「用事……? ああ、用事。 うん、確かに用事はあったわよ。 作戦会議っていう用事が」

 先輩を刺した包丁を手に持ち、先生がうっすらと笑みをつくる。 いや、もう先生と呼ぶ必要はないだろう。
 おお、落ち着けわたし。 こういう時こそ冷静になるべきだ。
 千隼くんが紗夜に別れを告げたのは高校に入ってからだとさっき先輩が言っていた。 そして、その理由は好きな人ができたからだと。 高校を入学してからすぐに好きな人……。
 考えられるのは、高校の先輩か他校からの入学者、そして……教師。

「何かわかったような顔だね。 聞かせてよ、流鏑馬。 俺はお前の考えを聞きたいんだ」
「いつものヘラヘラした薄笑いはどこかな、千隼くん」
「んーどこだろうね。 自分でもよくわからないなぁ」

 出血する腕を抑えながら、わざととぼけてみせる。 こういう時にそういうテンションってかなりウザイんだけどな。

「好きな人……っていうのは先生?」
「おおーさっすが流鏑馬だね」
「そして……紗夜を殺したのも先生だったんじゃないかな」
「すっげえ、当たり! なんで? ねえ、なんでわかったんだよ教えろよー!」

 醜悪な笑顔だ。 これが千隼くんの本性なのだろう。

「女の勘ってやつ」
「嘘だーうーそーだー! 俺さあ、流鏑馬の考えを聞くためにこんな下手な芝居までやってたんだぜー? 気絶したふりって疲れるんだよなぁ! ああけれど、こいつが流鏑馬に声をかけていたとは思わなかったよ。 まあ、俺の家に乗り込んでくるってことは想定済みだったんだけどねぇ。 そういやあ流鏑馬とこいつは同じ美術部だっけか? 仲が良かったのかなぁ」
「望夢、喋りすぎよ」

 饒舌な千隼くんを宝月が嗜める。
 宝月は学校に着ていた服の上からフードつきの暑苦しい服を着ている。 学校から直接ここに来たってわけか……。 これだけ広い部屋だ。 今までどこかの部屋に隠れていたんだろう。 ご丁寧に、玄関に靴も置かずに。

「── 先生と紗夜って……テストの日に言い争いみたいなのしてなかった?」
「あら、どうして?」
「テストの日、紗夜がノートを提出するのを忘れて、先生を探してた。 テストが終わって廊下を歩いていたら、生徒指導室の中から物音と、女生徒の悲鳴みたいなのが聞こえてね。 その次の日、先生は学校を大量不良を理由に休んでいたじゃない。 そしてその日に紗夜は殺された。 バレたのかなぁ、千隼くんとのいやらしい関係を」

 恋愛が錯覚だと言っている割には、やることはやってるってわけか。 これだから女って怖い。 千隼くんと気が合うと言ったとき、異様な動揺ぶりも理解できる。

「まさか水原さんがいきなり生徒指導室に来るとは思わなかったわ。 あの子、ノックしないんだもの。 本当に偶然……望夢との電話を聞かれちゃっててね。 最初は誤魔化していたんだけれど、あの子、狂ったようにわたしを淫売扱いしてきて……つい、ね」
「だから殺したんですか」
「── そうよ」

 ……まあ、いいか。
 とりあえず、話の流れはわかった。
 きっと紗夜を殺す計画は千隼くんがたてたんだろう。 宝月だけじゃ、あれだけやっておいて現場に証拠の一つも残さないなんて無理だろうから。

「紗夜を殺した凶器はどこ」
「この包丁よ。 ビニールにくるんで持って帰ったの。 女の割にはわたし、身長あるでしょう? 仮に見られた際に女だとバレないように、男装したのよ」
「包丁だけで、指が全部逆方向に折られると思う?」
「殺した後に折ったのよ。 3年生の三好くんの家にいることはわかっていた。 三好くんと水原さんが仲良さそうにスーパーで買い物をしていたのを、テスト前に見かけてね。 その時、水原さんのご両親が出張だから三好くんの家にいることも聞いていたし」

 その時はまだ、知らなかったのだろう。 目の前で優しく話しかけてくる教師が、まさか、自分の元彼とそういう関係だということに。
 紗夜ではなくてもショックは受ける。 ましてや宝月だ。 生徒からの信頼も厚い。

「── そうですか……」

 そしてこれは……たいへんマズい状況だな。 間に合うかどうか……。 いや、そもそも来てくれるかどうか。

「わたしに全部話してるってことは、わたしが警察や他者にこのことをバラすことをしないから、あるいは、バラすことができないから、だよね」
「さっすが流鏑馬だなぁ」

 ソファに腰掛け、家にあったのか包帯を腕に巻きながら、千隼くんが悠長に言う。

「お前は今から優子に殺される。 死人に口なし、だよ」

 死ぬことなんかこれっぽっちも怖くないけれど、自分から好き好んで殺されるほど器は大きくない。 そのために用意もしてきた。 やっぱり、ビームとか魔法だとか使えないし、わたし。
 人の助けを借りることしか、できないし。

「千隼くん、きみはバカだねぇ」

 心の底から鼻で笑ってやる。

「ヒーローが必ず勝つんだっつーの」


Re: あなたを失う理由。 ( No.50 )
日時: 2012/07/14 06:16
名前: フェイト ◆rQeR1gg/Sk (ID: qpE3t3oj)

素敵だぁああぁあああぁぁああああああ!! ←
……あ、どうもこんにちは。フェイトです。
実はこの小説が始まった頃から隠れてこそこそ読んでました ^p^
流鏑馬ちゃんに「おい! 不法侵入!」と突っ込み、大瀬良くんが部屋で吐いて吐露した話に泣けてきた回が一番好きです。
ああいうシーンは私の好物です! でもこの小説はどこも大好物です!! ←


まさか宝月先生と千隼くんが出来てたなんて思いもしませんでした……
でもあのシーンも好きです。種明かし、大好物! ←
さて流鏑馬ちゃんのヒーローはやってくるのでしょうか! 必見ですね!
ということでまた来ます! 楽しみにしてます!!
ではでは ・ω・

Re: あなたを失う理由。 ( No.51 )
日時: 2012/07/14 18:56
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/



◎ フェイト 様



 初めまして 朝倉です。

 もう、こちらが嬉しさで溶けてしまうような
 お褒めの言葉、ありがとうございます。
 陰ながらに応援してくださっていて とても
 感激しております。

 大瀬良くんの感情吐露のシーンでは、
 今まであまりわからない大瀬良くんの
 『裏』が少しだけ露になったと思います。
 彼を見守ってやってください。

 宝月と千隼の関係は 最初から決めていましたが、
 どうその関係をバラそうかは最近になってようやく
 決めた次第です:(;゛゜'ω゜'):
 流鏑馬のヒーローがやってくることを、朝倉も
 望んでおります (*´∀`*)

 コメント、ありがとうございました(o・・o)/


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