複雑・ファジー小説
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- あなたを失う理由。 完結
- 日時: 2013/03/09 15:09
- 名前: 朝倉疾風 (ID: kWFjr3rQ)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
どうも 朝倉疾風です。
性描写などが出てきます。
嫌悪感を覚える方はお控えになってください。
主要登場人物>>1
episode1 character>>4
episode2 character>>58
episode3 character>>100
episode4 character>>158
小説イメソン(仮) ☆⇒p
《episode1》
・まきちゃんぐ / 煙
htt☆://www.youtube.com/watch?v=kOdsPrqt1f4
《episode2》
・RURUTIA / 玲々テノヒラ
htt☆://www.youtube.com/watch?v=wpu9oJHg2tg
《episode3》
・kokia / 大事なものは目蓋の裏
htt☆://www.youtube.com/watch?v=LQrWe5_q6-A
《episode4》
・Lyu:Lyu / アノニマス
htt☆://www.youtube.com/watch?v=lSFYtyxojsI
執筆開始◎ 6月8日〜
- Re: あなたを失う理由。 ( No.157 )
- 日時: 2012/12/04 22:24
- 名前: 朝倉疾風 (ID: jrUc.fpf)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
☆
黄昏時、少年はぼんやりと窓の外の景色を眺める。
外の気温は一桁となっており、室内にはいっさい暖房器具をつけていない。冷え切った部屋のなか、窓のふちに腰掛けてそのまま少年は先ほどから微動だにしない。
動きが取れない理由は、少年にもたれるようにして眠る少女のせいでもあった。
少年の胸に体をあずけるようにして、安心しきった様子で静かに寝息をたてている。
卓越している部分などなにもない少女とは逆に、少年のほうはひじょうに綺麗な顔立ちをしていた。男子の割には長い髪は猫っ毛で、比較的大きな目はいまはそれほど開かれていないが、全体的に気品のいい野良猫のようだった。
ただ、少年には明らかに何かが欠落していた。それは意識して作成しなければ生まれない感情なのかもしれない。窓の外を眺める目には、もしかしたら何も映っていないのかもしれない。
傍から見れば、少女が人形にもたれかかっているように見える。そほど少年は人間味が無かった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
少女の目蓋がそっと開かれる。
「起きたのか」
少年が尋ねた。
目蓋を開いただけで起きたことが相手に知られ、少女の心臓が一瞬だけ高鳴る。すぐに心音は元に戻り、落ち着いた動きを取り戻す。
少女は慌てて身を起こし、少年の顔をまじまじと見た。
「…………寒い。なんで暖房つけてないの」
「アンタがもたれてたから、べつに寒くなかった」
少年からしてみればありのままを言っただけだが、その一言で少女の頬がみるみる赤く染まる。
少女が少年に対して抱いている感情はただの恋心ではない。表面上はただの高校生が青春を謳歌しているだけのようだが、裏を返せばただ少年に依存し執着している歪な愛情だった。
その愛情に、少年は一切応えていない。
周りの人間との交わりを隔たったばかりに、人への接し方が不慣れなこと。そして自分自身を含め、人間というものに対して無自覚な嫌悪感を持っていることが、少年の心をさらに病ませていた。
「わたしが寝ているあいだ、何を考えていたの?」
「別に何も」
もともと少年は考えることを放棄している。この質問は愚問ともとられるかもしれないが、それでも少女は少年のことが知りたかった。乾くことのない好奇心は一心に少年に注がれる。
「嘘だよ。大瀬良くん、たぶん何か考えてたんだよ」
それを思い出せないだけで。
少年の記憶がすべて彼の都合のいいものだけを抽出して構成されているということは、少女はとっくに知っている。知っているからこそ、少女は少年を苦しめる存在すべて排除してきた。それが直接的な方法であれ、間接的な方法であれ、現にこうして二人の時間が守られている。
それだけで少女は満たされる。
誰にも邪魔されることのない時間はせせらぎのように静かに流れていった。
☆
その日、×××は自分自身がひどく汚れてしまったことを知った。
耳鳴りが半日以上続いて神経に障る。鼓膜を破ってやりたい衝動を必死で堪え、×××は一ヶ月弱をベッドの上で過ごした。
目を閉じれば思い出すのは忌々しい記憶だけ。
嘔吐しながら体をたわしで洗う。流れる水が血で赤く染まるほどだった。ひどく目眩もする。震えが止まらなくなる。
こんな気が狂いそうな思いをこれからしなければならないのかと思うと、体中の血管に蛆虫が泳いでいるような感覚がした。
「ああああ、死にたい」
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死、
「死にたい」
×××は二度と生きようとは思わなかった。
死ぬことばかりを考えて、死ぬことばかりを求めていた。
episode 4 「あなたを失う理由」
- Re: あなたを失う理由。 ( No.158 )
- 日時: 2012/12/05 20:01
- 名前: 朝倉疾風 (ID: jrUc.fpf)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
《 episode4 character 》
大瀬良弥生 オオゼラ ヤヨイ
悠真と二歳年の離れた姉。二十歳。
容姿、仕草、雰囲気のせいか中学生と間違われる。ゲーマー。
気だるく語尾を伸ばす喋り方をする。訳あって県外住みだった。
流鏑馬夜子 ヤブサメ ヨルコ
瑠依、笑日の母親。母親としての育児を放棄している。
派手な容姿をしており、現在はあまり家に帰っていない。
安西虎春 アンザイ コハル
高校の近くにある古本屋の店長。独身。
非常に短気で、接客態度も良いとは言い難い。
月笙栞菜 ゲッショウ カンナ
ホームレスの女性。 常にジャージ。
二十代。ヒカリの教えの関係者だったが、数年前に脱退している。
古風な喋り方をしているが、あくまでそのキャラを演じているだけ。
《 more character 》
流鏑馬凛太郎 ヤブサメ リンタロウ
大瀬良明日羽 オオゼラ アスハ
- Re: あなたを失う理由。 ( No.159 )
- 日時: 2012/12/07 22:18
- 名前: 朝倉疾風 (ID: jrUc.fpf)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
01
冬休み、心配されていた我がおにいたまの帰省は無しになった。
いろいろと理由はある。講義をサボりすぎて単位をあやうく落としかけたとか、酔って深夜の路上で踊って警察にお世話になったとか、相変わらずメールをすればどんなときでも数秒で返事が返ってくるとか。まあ最後のは理由になっていないだろうけど、とりあえず冬休みに兄さんが帰ってこなかったのは都合がいい。
もし大瀬良くんが家に住みついていると知れたら、彼をミンチにしかねないから。昔の猫のように。
ともかく冬休みは大瀬良くんとこたつを共有しながらみかんの皮を剥いたり、珍しく母さんが何度か帰って来てわたしの作った年越しそばを食べたり、歌番組をだらだら見続けたりと、有意義な時間を過ごしたと思う。
大瀬良くんも、あのアパートに住んでいた頃よりかは肉付きもよくなったし。ていうか、太った?いや、前が痩せすぎていたからなんの問題もない。
冬休みが明けて、新年になってすぐにある修学旅行はわたしと大瀬良くんの二人でずる休みした。本当は学校に行かないといけないんだけど、皆が旅行先でそれぞれ楽しくやっているのに、わたしたちだけ自習というのはそれちょっとおかしい。そう担任に反論したら当然だけどお叱りを受けて反省文を三枚書いてこいと言われた。
そんな冬を越し、雪も溶けて、わたしと大瀬良くんは無事、百々峰高校の三年生になった。
いや、無事っていうか大瀬良くんはけっこうギリギリだったんだけど。
「おーおーおー大瀬良くん、なんちゅーか、わたしたちって本当に運命的だよね」
クラス替えの結果がわたしにとってとても喜ばしいものになったのも、きっと運命の赤い糸がわたしと彼を結んでくれているものだからと信じよう。
そんなこんなで、また春がやってきた。
卒業式とか入学式とか面倒くさい行事は終わり、わたしたちに残されているのは進路という壁だけになった。
進学か就職かもうとっくに決まっている同級生はいろいろと行動を移していて、実際わたしも就職組だから試験やら検定やら面倒くさいものを受けているんだけど。
大瀬良くんは、どうなんだろう。
学校の帰り道、徒歩だと数十分はかかる道のりを歩いて下校するのも日課になってきた。大瀬良くんは最初は寒いだの面倒くさいだの疲れるだの文句ばかり言っていたけれど、今では一緒に付き合ってくれている。これは進歩か。一年前と比べるとえらく成長したな。
昔を思い出しながら軽く感動しているわたしを無視して、大瀬良くんはじっと手に持っているメロンパンを凝視した。さっきから袋を開けたのはいいけれど、一口めを食べてからなかなか進んでいない。
「それ食べないならちょうだい」
「食べるけど、なんかいまいちカリカリしてない」
「そう?わたしのは案外美味しかったんだけど」
「アンタが購買で買ったのはクロワッサンだろ」
確かにメロンパンとクロワッサンでは形状も食感も違う。比べるのは些か無理があるか。
「せっかく買ったんだからちゃんと食べなよ」
思いきり嫌そうな顔をされた。どれだけこだわりがあるのかわからないけど、それを買ったお金はわたしの財布から出したものだし、自分から欲しいとねだったのだからいらないと言われるのは少し障る。
目線でわたしの考えていることが通じたのか、のそりと大瀬良くんがパンをかじる。
…………なんか、本当に男前だな。
「メロンパン食べているところも様になるっていうか…………」
「なんか言ったか」
「べつになにも」
それにしても。
歩き食いしながら二人並んで帰っていて、しかも季節は桜満開の春だというのに、なんの発展もないのはいかほどか。
べつに付き合っているわけでもないし、絶賛片想い継続中なんだけど、大瀬良くんはどう思っているんだろう。意識していないことは確かだ。え、意識してないってつまり眼中に無いってこと?え、えー。
「それはあまりにも酷いっしょ」
「アンタ、だんだん独り言がでかくなってきてるな」
「大瀬良くんって、女の子をどう思ってるの」
どうしてそんなことを聞くんだという顔をされた。どうしよう、ものすごく見下されている気がする。
視線に耐えられなくなってへらっと笑ってみた。
「────どうとも思わん。あまり見てない」
「なんか微妙な返事だね。じゃあわたしのことはどう思ってるの」
「アンタ?…………アンタはなぁ」
そこで悩むことってなかなか無いと思う。お世辞でもいいから、告白の返事を検討中だよみたいなことを言ってほしい。……いやでもお世辞ってことは本心じゃないってことだよね。じゃあ嫌かも。けっきょく、わたしはわたしにとって都合のいい返事をまだどこかで期待しているんだ。
健気と賞賛されるべきだよ、まったく。
こんなに神経が太いのなら、髪の毛も太くしてほしかった。わたしの髪の毛は細くて弱々しい。伸ばすと絶対にどこかに引っかかってぷつりと切れてしまうから、絶対に肩より伸ばさないと決めている。
短い髪の方が負担は少ない。そういえば大瀬良くんは髪を切らないのだろうか。生徒指導の先生に服装検査のとき、髪を切るように遠まわしに注意されていたはずだけど。目の前をぶら下がる前髪が邪魔にならないのか不思議でたまらない。
「そんなに悩むのなら答えなくていいけど」
「ああ。アンタの件は答えるには少し難しい」
「それどういう意味よ」
「じゃあアンタは俺をどう思ってんの」
質問を質問で返さないでほしい。あとパンのカスが頬についています。
「大瀬良くんをどう思っているか、ねえ」
好き。
それ以上でも、それ以下でもない。
単純に好き。
だけど、それを純粋な恋愛感情かと聞かれると少し困る。
自覚はある。
わたしの「好き」が、本来あるべき恋愛の定義からひどく逸脱していることを。世間一般の「好き」っていうのはきっと、相手をひどく愛おしく思ったり、ずっと一緒にいたいと感じたり、体をつなげたいという欲求もあったりと、きっとずっと忙しい。
わたしの想いは荒波がたたない。
常に一定に「大瀬良くん」を見ている。
彼の苦しんでいる姿なんか絶対に見たくないというよりは、他者によって大瀬良くんが苦しんでいるということが許せない。彼の心を震わせる感情はわたしだけが与えればいい。そういう独占めいたものが静かに、だけど確実に大きくわたしの心の水面下で育っている。
足を止める。
大瀬良くんは止まらない。
不思議そうな顔をしながら、どんどん進んでいく。
「帰らねえのか」
「帰るよ」
ねえ、大瀬良くん。
わたしのなかにいる化物を知ったら、きみは逃げる?
ただでさえ臆病なきみはわたしのなかにあるものを見たら、きっとわたしから離れていく。安心しきっていたその顔を、真っ青にして、恐怖で歪めさせて。
もしもそうなったとしたら、わたしはどうするんだろう。
「あ、大瀬良くん。本屋寄りたい」
考えたくないな。
大瀬良くんを殺してしまうのは、わたしだって胸が痛むし。
- Re: あなたを失う理由。 ( No.160 )
- 日時: 2012/12/07 21:33
- 名前: 名純有都 (ID: SfeMjSqR)
はじめまして、名純有都と申します。
コメントはこんな時期になりましたが、結構前から拝見させてもらってます。
作風が好きです。登場人物一人一人に影があるという設定に燃えました。おかげで一日で読み切っちゃいました。
題名に惹かれて呼んでみたら、私の大好きな展開でした!素敵!!
流鏑馬ちゃんの存在感が好きです。「ヒーローごっこ」というセリフに衝撃を受けました。心情描写も卓越していて、とにかくこのレベルにカキコで出逢えたのが嬉しいです!
長々と失礼しました。これからも、更新応援してます!複ファジで活動する者同士頑張りましょう!
- Re: あなたを失う理由。 ( No.161 )
- 日時: 2012/12/07 22:27
- 名前: 朝倉疾風 (ID: jrUc.fpf)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
名純有都さま>>
はじめまして、朝倉です。
コメント、本当にありがとうございます。
なんだか褒めちぎっていただけて、大変恐縮でございます。
自分で言うのも恥ずかしいのですが、あくまで「小説」
っていう概念にとらわれたくはないです。
衝動的に、うおりゃあああって書きたいとき、言葉なんて
選んでいられないので、たまに文法が変だったり、
よく意味がわからない矛盾の文が完成したりします。
流鏑馬の言う「ヒーロー」はあくまで自分自身の味方であって、
逆を言えば彼らの敵かもしれませんね。うだうだ。
コメントありがとうございました。
寒くなりましたが、お互い頑張りましょう。
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