複雑・ファジー小説
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- あなたを失う理由。 完結
- 日時: 2013/03/09 15:09
- 名前: 朝倉疾風 (ID: kWFjr3rQ)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
どうも 朝倉疾風です。
性描写などが出てきます。
嫌悪感を覚える方はお控えになってください。
主要登場人物>>1
episode1 character>>4
episode2 character>>58
episode3 character>>100
episode4 character>>158
小説イメソン(仮) ☆⇒p
《episode1》
・まきちゃんぐ / 煙
htt☆://www.youtube.com/watch?v=kOdsPrqt1f4
《episode2》
・RURUTIA / 玲々テノヒラ
htt☆://www.youtube.com/watch?v=wpu9oJHg2tg
《episode3》
・kokia / 大事なものは目蓋の裏
htt☆://www.youtube.com/watch?v=LQrWe5_q6-A
《episode4》
・Lyu:Lyu / アノニマス
htt☆://www.youtube.com/watch?v=lSFYtyxojsI
執筆開始◎ 6月8日〜
- Re: あなたを失う理由。 ( No.112 )
- 日時: 2012/09/15 19:58
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
それは「未知」との遭遇なのかもしれない。頭で理解するにはあまりに難しく、けれど客観的に見れば根の部分を理解することは容易い。
要するに人探しを手伝ってほしいと言っているらしい。
けれど、わたしの体を抱き寄せて延々と見つからないことに対しての愚痴を言っている割には、その手つきは妙にいやらしい。
華奢な体のどこにそんな力があるのかわからないほど、抱き寄せる力は強い。微量に汗の匂いがして、体の密着度が濃くなるほど息苦しさも増していく。とりあえず離してほしい。暑いし、鬱陶しいし、自分の好意の対象外に密着されると嫌悪感しか沸かない。人間は単純だ。
突き飛ばそうにも腕までがっちりホールドされているから、できない。
傍から見れば女同士で何やってんだと思われるんだろうな。あいにくわたしにそんな気はないし、あちらさんにも皆無だろうから、ちゃんと話えばこの拘束を解いてもらえるんだろうけど。
なにぶん相手が「未知」なだけに、わたしの話がちゃんと通じるのか、それとも脳内に伝達する前にポッキリと情報が折れてしまうのか、試してみないとわからない。
「あのー……大瀬良悠真くんを探してるんですか」
「んー。オオゼラって誰かわかんねー。オレはユウマを探してるんだよねぇ。お嬢ちゃん、ユウマがどこにいるか知ってるなら会わせてよー。オレ会いたいよー会いたい会いたいーユウマぁー」
耳元で駄々をこねないでほしい。うるさいから。
にしても、大瀬良くんの苗字を知らないとなると同名なだけか……。いや、でもこの人は大瀬良くんのアパートにいたし。さっきだってわたしが大瀬良くんの家に行っていたこと知ってたし。
この人が言う「ユウマ」はわたしの知っている「大瀬良悠真」と同一人物なんだろうけど、わたしに縋るより自分で大瀬良くんの家に行った方が早い気もする。
「大瀬良くん……悠真くんの家は知ってるんですよね。どうしてそこに行かないんですか」
悠真くん、だって。わたし、いま大瀬良くんのことを名前で呼んでるんだ……なんか胸が熱い。感無量というか、わたしのなかでますます大きくなってくる大瀬良くんという存在が、より身近に感じられる。
軽く感動していると、そこに横槍を入れられた。
「だってさ、ユウマはオレに会ったらガクガクぶるぶるになっちゃうし。オレはユウマに触りたいのに、ユウマはオレにタッチしただけで、泣いちゃうしぃ。泣き虫はダメだって言われてるのに」
「じゃあ、悠真くんを探しに……ああ、わたしいま風邪ひいてるんで、離れたほうがいいですよ」
最初からこう言えばよかったんだ。
意外にもするりと離れてくれて助かる。
ふと顔をあげると、綺麗な顔でこちらを見て「風邪、だいじょうぶ?」低音で囁かれた。
真剣に心配してくれているのか、さっきまでの騒がしさが嘘のようだ。
「大丈夫……だけど、えっと、今からわたしの家に帰るんだけど……」
「ああそう、そうなの?そうだよね!なら声をかけて悪かったね。あたし……あー違う、オレは今から幸せを探しに行くよ」
そんなもの見つかるのかねえ。空き缶みたいにどこかに落ちてたら探さなくてもいいんだろうな。そんな簡単にはいかないんだけど。
特にこの人みたいなタイプは。
「まだ聞いていませんでしたけど、あなたのお名前は?」
「きっしししし。人に名前を教えるの、最近慣れてきたんだよなぁ」
フードを目深に被ったその人が微笑む。
慣れてきた、と言うけれど大瀬良くんよりも乏しい人間関係を送ってきたのかもしれない。
根暗だなと思うか、特殊なお育ちを受けてきたんだなと思うのかは個人の自由だけど。
「よしなっていうの。オレの名前ね。好きに奈良の奈で、好奈。お嬢っちゃんはいったいなんてお名前なのー?」
「笑日。笑う日って書いて、笑日」
「笑日か。不思議な名前だね、いいと思うよ。ベリーグッ!」
道端で遭遇した変人とこうして名前を明かしあった仲にまでなってしまったけど、果たしてこれが吉と出るのか凶と出るのか。まあ、事件性はないと思うけど、さすがにここ2、3件ほど周りで殺しだの虐待だのが起きていると、こういう平凡な接触でさえ疑わしく思えてくる。
……いや、ちがうな。
今の出会いは決して平凡なんかじゃない。
だって好奈の存在自体が「未知」なんだから、そこに大瀬良くんが絡むとなると、いやな事件性を否定できない。
人を不安にさせる何かが、彼ら双方に備わっている気がした。
「……早く風邪治そう」
わたしから離れてもう既に道路の真ん中を歩いて行っている好奈の背中から目を逸らす。
考えすぎに越したことはない。
起こってからじゃあ遅いんだから。
「明日までの課題を届けに来たってのに、なんだよ。その不服そうな顔はさ」
……本気で扉を閉めて追い返そうと思った。
昼が過ぎたあたりから熱はなくなって、多少の喉の痛みを残すだけとなった。
母さんは昨日は家に帰ってきたのか、わたしが買ってきた茶菓子が冷蔵庫のなかから姿を消していた。
楽しみのひとつを奪われたので仕方なく、苦いコーヒーゼリーを食べていたらインターホンが鳴って、モニターに映る人物を見たときは熱がぶり返したのかと思うほど立ちくらみがした。
「いや……まあ、ありがとう」
「微妙なお礼の言い方だな、流鏑馬。俺が嫌いなのはわかったから、もっと嬉しそうな顔をしてくれよ」
言いながら照れたように、千隼くんが笑う。
いくら人あたりのいい好青年を演じているところで、既に化けの皮が剥がれている千隼くんを歓迎できるほど、寛大な心は持ち合わせていない。
嬉しそうな顔を要求されてもにへらーと気味の悪い笑顔を作成するのは疲れるし。
なにはともあれ、嫌いだと言われて喜んでいるマゾを相手にしているほど、暇でもない。
渡された課題を受け取って、早々にお引き取りいただきたいのに、相手は居座る気まんまんらしく、玄関までぐいぐいと入ってきた。
「あのさ、用事は終わったんだからさっさと帰ってくれないかな」
「冷たいなぁ。でも嫌悪感って好意よりも顔に出やすいから、俺は好きだな」
「聞いてないし」
「聞く耳を持つべきだよ流鏑馬。俺が今からキミの興味を何倍も何十倍も引き立てるお話をしようと思ってるのに」
千隼くんはそう言って、一枚の封筒をわたしに差し出した。受け取らず、注意深くそれを見る。
ただの封筒だ。
差出人は……
「……ヒカリの教え?」
「これ、流鏑馬のポストに入ってたんだ。ちなみに俺のところにも」
「アンタ、人ん家のポストを勝手にいじんないでよ」
「キミは俺の家に無断で侵入してきたくせに」
過去の自分の行いを咎めつつ、千隼くんの指摘を流す。
封筒を取り上げて、中を開いた。白い手紙が出てきて、「宗教団体 ヒカリの教え」と書かれている文字が目に入る。
「なにこれ。ただの宗教勧誘の手紙じゃない」
「ヒカリの教えは6年前に解散しているよ」
「なんで千隼くんがそんなこと知ってるの」
「俺の父親が扱った事件でもあるからさ」
事件?
宗教に関する事件と聞くと嫌でも違法な悪魔云々の儀式や、魔女狩りみたいなものが思い浮かぶ。
怪訝なわたしの表情を見て、とても愉快そうに千隼くんは続けた。
「ヒカリの教えは、宗教の儀式を言い訳にして子どもに虐待を行っていたんだよ。死者も出て、6年前に警察が導入されて潰された。そのヒカリの教えが復興しようとしてるってわけ」
「……で、終わり?それくらいじゃあ、わたしはなんとも思わないけれど」
「ああ、ここからが本題だ」
ヒカリの教えの封筒をわたしの手から奪い、千隼くんは意地悪に微笑む。
楽しそうだなー。
というか性悪すぎる。
「大瀬良悠真くんの母親が、ヒカリの教えの一員だったらしいよ」
- Re: あなたを失う理由。 ( No.113 )
- 日時: 2012/09/15 22:23
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: B2tgeA34)
どうも、更新されている事に気付く度に歓喜しながら読んでいる変態、いいえ変人とろわです。
アルビノって綺麗ですよね。実際は見たことないし、本人は苦労がたえないとは思いますが、アルビノの画像を見るたびそう思います。
てな訳で好奈ちゃん可愛いです。オレっ娘とかほんとポイント高いです。← あのにへらーって感じが素敵です。語彙が少ないのであまりうまく表現できませんが……。
おおぜらきゅんにおんぶされたいです。いいなぁー羨ましいなー結婚しちゃえばいいよと思いました。あの二人は本当にお似合いだと思います。
相変わらず千隼くんは黒幕タイプ丸出しですね。何故か台詞が細谷さんヴォイスで再生される病気にかかりました(
そしてとうとうおおぜらきゅんのお母様の正体判明ですね。おおぜらきゅんに手を出すなんて、と思いつつ、あのおおぜらきゅんが素敵なので止める気はあまりないという……
本当は一話更新される度にコメントしたいぐらいですが、流石に気持ち悪いので自重してます。うへへ←
これからも更新頑張ってください。いつまでも更新待ってますっ
- Re: あなたを失う理由。 ( No.114 )
- 日時: 2012/09/16 09:18
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
とろわ様>>
お久しぶりです、朝倉です。
更新は1日に1回か、数日に1回ですが、それでも待っていて
くださる方がいると思うと嬉しいものです。
アルビノって綺麗ですが、なかなか大変なようですね。
目も悪いし、肌は日焼けするとすぐ赤くなるし……。
好奈はそのため、フード付きパーカーを着ていますが、暑いだろうなぁ。
大瀬良きゅんのようなインドア派な子でも、
流鏑馬ちゃんくらいならおんぶできるはず。
彼女は一応、背が低いイメージです。
細谷さん…は、声優さんですかね。
千隼くんは黒幕タイプですが、彼は彼なりに流鏑馬に好意を抱いているので、
たぶん話しかけたいだけなんじゃないかな☆←
そう言っていただけると嬉しいので、周りがドン引きするほど
「変なおじさんっ」なダンスを踊りそうな勢いです。
頑張ります。
コメント、ありがとうございました。
- Re: あなたを失う理由。 ( No.115 )
- 日時: 2012/09/19 18:25
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
好奇心をそそるネタをぶら下げて、文化祭の準備にも出てこいよと言われ、千隼くんは言いたいことだけ言って帰ってしまった。
中途半端に餌を吊るされたわたしとしては、やっぱり心に溜まる好奇心の塊が暴れだしてしまうわけで。
自室に戻り、普段はあまり開かないノートパソコンを開いた。検索サイトをたちあげて、ヒカリの教えを入力して検索する。
ひっかかったなかで適当にホームページを開き、「…………………あっくしゅみー」読んでいて思わず口に出してしまうほど、それは悪趣味だった。
普通の人なら眉をしかめて目を背けるか、どこか別の国のお話で自分たちには関係の無いことだと片付けてしまうだろう。
宗教団体ヒカリの教えは、数十人程度の信者を募っていた小規模な団体で、表向きはボランティア活動や孤児院などの施設への支援金。教義は「全ての人間の罪は神によって洗い流される」「神は人々の痛みや苦しみを自ら背負う」という言葉のとおり、教団の関係者の女児を神として崇め、精神的、性的虐待を与えていたらしい。被害者は女児だけでなく、二人の信者も撲殺されていたようで、6年前に警察によって宗教団体は壊滅。大人たちに嬲られた子どもたちは当時は中学生ほどだったらしい。
「これに……大瀬良くんの母さんが……」
考えてみれば、こんな道徳性の欠落している宗教に関わっていればまっとうな人の道を歩くことは難しいに決まっている。その影響で大瀬良くんがああなってしまった原因を作ったのなら、彼女にも当然非はある。
なによりも引っかかるのはそのヒカリの教えが復活しようとしていること。
6年前だ。
世間からこんな残忍なニュースが綺麗さっぱり忘れられていることもないのに、どうしてわざわざ目立つように封筒まで用意してポストに投函してるんだ。
誰かが警察に言えば、警戒するのは明らかなのに。まるで計画性の無い、本当に復活する気があるのかどうかも怪しい。
それにこんな悪趣味団体と大瀬良くんとが関わっているのは、いただけない。
もしこの団体が復活してしまったら、変な奴らが大瀬良くんの周りをうろつくかもしれない。燃費の悪いわたしの頭は、ぽつぽつと浮かぶ最悪な出来事を振り払えず、どん底まで考えを張り巡らせる。
大瀬良くんを守らないと。誰かにそう頼まれたわけでも無いけれど、彼を好きになったときから決めていた。触れれば壊れてしまいそうな彼を支えて、用がなくなったらポイ捨てされてもいい。
そんな覚悟をしているからか、いざとなったら大瀬良くんのために他人どころか自分でさえ殺してしまいそうで怖い。
「あー……こんなバイオレンスな生活を送ってるのってわたしだけかもねー……」
独り言。
母さんは今日も帰ってこない。
文化祭に展示する美術部の絵を描けだのなんだので、幽霊部員として有名だったわたしを呼びにわざわざ2年の教室まで来た撫咲柳之助くんは、挙動不審気味に辺りを伺っている。
どうせ三好先輩に言われて呼びに来たんだろうな。…………ああ、あの人はもう学校を辞めてるのか。
「やーあ、撫咲くん。今日も相変わらずきゃわゆいねー」
棒読みでそう声をかけると、撫咲くんは小動物みたいに震えながらそろりと教室に入ってくる。
昔から犬や猫は好きで、それに似ている人間にはあまり嫌悪感を感じない。彼が良い例だ。わたしより20センチ以上も身長が大きいのに、目が大きいのと態度が謙虚なせいか、小型犬を連想させる。
「きゃわゆいって何ですか先輩……。あと、締切が近いんでちゃっちゃと描いてくださいよ」
「わたしのだけ出さなくていいよ」
「そんなわけいかないでしょうが。文化祭が終わったら3年生は引退するし……そろそろ2年生で部長と副部長が決まるんですよ」
「わたし以外に2年生の部員って何人いたっけ」
「4人です」
「そんだけいたら、別にわたしじゃなくてもいいじゃん」
わざと意地悪に答えたら、隠さずに困った顔を全面的に押し出してきた。表情がここまでコロコロ変わる人っていうのも珍しい。
「困ります……。先輩だけ文化祭に何も出さないっていうのはだめなんです。だから」「そこどいて」
氷のように冷たい声がして、数時間ほど遅れていまやっと登校してきた大瀬良くんが、撫咲くんを異端物のように睨みつけている。そこには威圧感というものはなくて、どこか、警戒しているようにも見えた。
「あ、す、すいません。大瀬良さん」
頭を低くしながら謝る撫咲くんを無視して、大瀬良くんが自分の席に座る。
それを見届けてから、撫咲くんに営業スマイル0円を向けて、小声で疑問をぶつける。
「なんであの人の名前、知ってたの」
「え?あ、大瀬良さんですか。俺の住んでる隣なんですか。アパート、なんですけど」
それは初耳だった。撫咲くんは301号室か303号室ってわけか。3階は大瀬良くん以外住んでいないと思っていた。人が住んでいるような気配もなかったし。
「驚いた……なぁ。撫咲くんってあそこに住んでたんだね」
「はい。……え、どこのアパートかわかったんですか」
「まあそれなりに縁がありましてね」
話を濁す。
「でも本当に驚いた。あそこってあまり人が住んでいないイメージあったから」
「ああ、確かに。建物自体古いですからね。だからかもしれないえれど、家賃はそんなにかかりませんよ。俺のところ父子家庭なんで、いろんな意味で助かってます」
ありゃ、これも初耳だ。
果たしてこれは深いところまで聞いてもいいところなのだろうか。
本来なら曇った顔をつくって、ごめんなさいと謝るんだろうけど、あいにくとわたしは人を可哀想だと思うことができないので、ここらは無神経に食い下がってしまう。
「母さん、いないんだね」
「あ、えっと、気にしないでください。すんません」
なぜか向こうから謝られた。少し気まずい。
「いやいや、わたしのほうこそごめんと言うべきなのか……」
「いいんですよ。もう6年も経ってるんで」
そこで3時間目の授業が始まる予鈴が鳴る。
次が体育なのを思い出し、それを伝えると慌てたように一礼して、
「ご、ごめんなさいっ。じゃあ、えと、考えとってください!あの、文化祭の」
「あー了解。3日くらいでざっざと描いてくるから」
「ありがとうございます!ではっ」
走り去っていく後ろ姿はなかなかに爽やか。今時あんな男子も珍しい。
おれ肉食系なんすけど野菜ばっか食ってるから草食系でーす、と自己紹介のときに挨拶していたくだらない男子生徒Aがいたけど、あれよりかは断然マシだ。一応ウケてはいたな。あのどこが面白いのかさっぱりだ。人と笑いのツボが違うのかも。
「流鏑馬」
今日はよく男子から声をかけてくる日だな。あ、女子の友だちがあまりいないからか。弁当を一緒に食べたり、教室移動を一緒に行ったりする子はいるけど、彼女たちを友だちと呼べるかは、おいといて。
「なに、千隼くん」
昨日の話の続きはいただけない。大瀬良くんがすぐ近くにいるのに。
眼鏡の奥の目を柔和に細め、千隼くんが形のいい唇を開く。
「文化祭でね、大瀬良がエプロン姿になるよ」
「………………まじで」
「ガチで」
どうしよう、嬉しくて死んじゃいそうだ。
- Re: あなたを失う理由。 ( No.116 )
- 日時: 2012/09/21 19:25
- 名前: 朝倉疾風 (ID: Sc1bIduz)
- 参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/
文化祭のエプロン姿については彼は反論も賛成もしていなかった。そんなに嫌じゃないのかと思ったけど、昼休みが終わった後はそれなりに荒れていた……気もする。
5時間目の始まる前にノロノロと千隼くんの席まで自ら進んでいって、小声で何かを話し始めた。自分から意義を唱えるなんて、たいした進歩だ。全然嬉しくないけど。
大瀬良くんの表情はわたしの席から見えなかったけど、千隼くんの嬉しそうな顔はよく見える。マゾのくせに男に対してはサドっけがあるのかもしれない。とことん悪趣味だ。
しばらく話したあと、大瀬良くんがわたしを見た。はっきりと視線の先がわたしであるとわかるほど、その不安げな目はわたしを捉えている。目と目が合って、一瞬、息ができなくなった。
呼ばれていると悟って、椅子から立ち上がり、ふたりの所へ歩み寄る。
「テレパシーってやつかな」
ニヤリと千隼くんが笑った。
「いま、流鏑馬のことを話してたんだよ」
「なにかな」
嬉しさをこらえて返事をする。このクラスの人ならきっと、わたしが大瀬良くんに好意を抱いていることは知っているだろう。でも千隼くんに浮かれている姿は見せたくない。
「俺らのクラス、菓子の販売だろ。大瀬良が嫌だって言い出したんだよ」
「エプロンを?」
「いいや。人と喋るのを」
エプロンは否定しなんだ。可愛いな。
「バザー券はお持ちですかーと、いらっしゃいませーくらいなんだけどな」
「面倒だし、やらねえよ」
「困るなぁ。うちのクラスは男子少ないんだよ」
「女にやらせればいい」
「いや、女性客もほしいでしょ。やっぱし」
顔採用か。
確かに大瀬良くんは綺麗だから目立つし、そんな人が可愛いエプロンなんか着てお菓子を売ってたら、いわゆるギャップ萌えというやつにもなる。
見てみたいけど、正直そんな彼を人目に晒したくはない。
「わたしと一緒に看板持って宣伝するっていうのは?お菓子売ってまーすって」
大瀬良くんに心底嫌そうな顔をされた。薄っぺらい心が傷つく。
その反応とは対照的に、千隼くんは両手を叩いて机から身を乗り出した。こちらは俄然やる気みたいだ。
「はい、それで決定ね」
「やらねえよ」
「大瀬良は黙って流鏑馬に着いていくだけでいいんだよ。俺としてはエプロン姿でお客さんにお菓子渡してもらってもいいんだけど」
不満さと不機嫌さを全面的に押し出す大瀬良くんというのも珍しい。
他人との関わりを拒否して自分の殻にこもっている大瀬良くんを無理にこじ開けようとするのは千隼くんぐらいかもしれない。だから嫌われるんだろうけど。
これ以上は何を言っても無駄だと彼は思ったのか、無言で自分の席に帰って机に突っ伏してしまった。
「ちょっと強引すぎじゃないの」
「エプロン姿の大瀬良を流鏑馬も見たいくせに。あいつは綺麗だから女性ウケがいいんだろうなぁ」
「わたしは大瀬良くんが綺麗だからって理由だけで、好きだと思ってないけど」
「ふうん。ま、きっと流鏑馬の気持ちは偽物だろうけどね」
愛情をまったく信じていない彼から、わたしの脳内を9割占めている感情を真っ向から否定される。あまり気分のいいものじゃない。
早々に会話を断ち切る。
ひと睨みしてから自分の席に着いた。本鈴が聞こえる。
文化祭まであと4日。
☆
いたいってことはすごくいいことなんだと、教えられた。
それが正しいとか、そうじゃないとか、そんなことは僕には関係がなかった。
だって僕にはそれしか残っていなかったから。
「痛そうだねー」
今日もにちゃあっと笑う子はやってきた。
いつもここに来るように思うけど、学校には行っていないのかな。
「背中、すっごく火傷してるよ。 膿がでてくるかも」
泣き疲れて声が出ないから、首を上下にふった。
その子はなにか甘いものを食べているようで、口のにおいがすごく甘かった。ふしぎに思ってると、思い出したようにポケットから飴玉を出して、
「あーん、して」
それを僕に差し出してきた。
口を開けてそれを舌で受け取る。いちごのような味がした。久しぶりに飴玉を食べたけど、ほっぺが痛い。虫歯かな。
「カミサマ、ちょっとアタシの話きいてくんなーい」
返事もしないのに、その子は勝手に自分のことを話しだした。
聞かないつもりだったんだけど、ねちゃねちゃするその声はひどく鼓膜にもからみついてくる。
「学校ってさ、潰されちゃえばいいんだよ。あんなところ、悪いやつらを育てるだけだもん。アタシの給食に虫とかいれるんだよ。それも、でっかいやつ!信じられないでしょ」
ありったけの不幸を吐き出しながら、その子はよく爪を噛んだ。
いじめ、られてるのか。
僕は虫とかべつに平気なんだけど、やっぱり女の子だから怖がるんだろうな。
「アタシさぁ、その子、突き落としちゃったんだぁ」
ぽつりと。
その子は僕にひみつを教えてくれた。
「部活の合宿でさ、みんなとバーベキューしてたんだけど。アタシ、川の浅瀬で殴られて。怖くて。だから、このままじゃ、殺されるって思って。それで、プツッて糸が切れた感じがして」
ぽつぽつぽつ。
ぽつぽつぽつ。
ぽつぽつぽつ。
ぽつぽつぽつ。
「深いところは足がつかなくて。そのまま、どんって。その子、溺れちゃって。アタシはものすごく怒られて。部活も辞めて……あー学校も行ってなくて、ふとーこー、なのだぁ」
笑ってる。悲しいことを言っているのに、なんでか笑ってるその子は、肩がふるえていた。
僕はゲージから出ることはできないから、その子の手を、ゲージのすきまから伸ばした手でさすって。その手の先を、その子の足のあいだに入れた。
「……カミサマ?」
大人たちは言っていた。
悲しみとか苦しみとか、痛みとか。
そんなものを忘れさせるのは、快楽だって。
近づくように手招きして、すきまから覗かせたその子の顔をじっと見る。いちごのにおいのする唇に、僕が唇を合わせると、驚いた顔でその子はかたまってしまった。
舌でこじあけて、大人たちに習ったように、その子の口内をかき回す。優しく前歯をなぞると、深いためいきと、「……う、あぁ」その子のうわずった声が聞こえた。
「……人の罪を流せるのは、僕だけだから」
自分でもおどろくほど気味の悪い声が出た。あれだけ泣いて喉をつぶしたから、カエルみたい。
そこからは僕の声はだれにも聞こえなかった。
かわりに、あたまに響くのは。
にちゃあっとした子の可愛い声と、雨の音と、しめった空気の音だった。
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