複雑・ファジー小説

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あなたを失う理由。 完結
日時: 2013/03/09 15:09
名前: 朝倉疾風 (ID: kWFjr3rQ)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/

どうも 朝倉疾風です。





性描写などが出てきます。

嫌悪感を覚える方はお控えになってください。



主要登場人物>>1

episode1 character>>4


episode2 character>>58


episode3 character>>100


episode4 character>>158



小説イメソン(仮) ☆⇒p


《episode1》
・まきちゃんぐ / 煙
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=kOdsPrqt1f4


《episode2》
・RURUTIA / 玲々テノヒラ
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=wpu9oJHg2tg


《episode3》
・kokia / 大事なものは目蓋の裏
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=LQrWe5_q6-A


《episode4》
・Lyu:Lyu / アノニマス
   htt☆://www.youtube.com/watch?v=lSFYtyxojsI


執筆開始◎ 6月8日〜



Re: あなたを失う理由。 ( No.52 )
日時: 2012/07/15 00:33
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/




 宝月先生が狂気で光らせた目でわたしを見る。 口元が、わたしを殺した後のことを想像しているのか、気味悪く歪んでいた。 美人な先生が全然美人じゃなくなっている。
 千隼くんはまったく自分の手を汚さないつもりらしい。 そんな腐った根性の千隼くんが一番汚い。 まあ、人を殺すのに根性も糞もないだろうけれど。

「ごめんね流鏑馬さん……。 これはね、ヒーローごっこじゃないの。 そんなに都合良くいかないのよ」
「そうかな」
「そうよ」

 言って、宝月先生がわたしの肩を掴み、包丁を振り上げる。 大人しく刺されるわけにもいかないから、腹を蹴り上げた。 鈍い感触。 嘔吐感でむせている先生。 だけど、包丁はしっかりと手に持ったままだった。 右手首を思い切り踏みつける。

「あああああああああああああああッ!」

 けれど包丁は離さない。 全体重をかけても、血管が浮き出たその手を動かなさい。
 少し考えればわかるはずなのに。
 たとえここでわたしを殺しても、一生千隼くんと生きることのできる未来は有り得ないということが。 恋は盲目ってことかな。 ……本当に、恐ろしい感情だ。

「離せよッ! 離せえええええええええええええええええええええええッ!」

 もう教師という立場を忘れているらしい。
 一人の女、一人の人間になった宝月は、ただただ人間の汚い欲望そのものだった。 一切の遠慮もない。

「ッ、あがががががががががっがががが」

 踏んづけているわたしの足に噛み付き、緩んだ隙に詰め寄ってきた。
 歯に血がついているのを見て、わたしの足を美味しいーと食べたのかなと一瞬思った。 嘘、けっこうひいた。
 人の足の一部を食いちぎるとか……常人のすることじゃない。 足の傷が気になるけれど、痛みも傷跡にも目をやる暇はない。
 ヨロヨロと立ち上がり、包丁を再び振りかざされ、ギリギリでそれをよける。
 ああ……これひょっとするとひょっとしたら、本当に終わりかも。

「アッハハハハッハハハハハハハハハハハハハッハアッハハハハハハハハハハハハッハ──ッ!!」

 甲高い笑い声。
 頭を上げると、醜悪な笑顔の宝月先生。

 そのまま包丁が、振り下ろされ、         て、




               〆



 彼女にはいつだって笑って欲しい。
 そう願っているはずなのに、時々、別の感情が彼を苦しめた。
 彼女の痛みも苦しみも絶望も悲しみも虚しさも、全て自分のものにしたいという渇望が。

 けれど、そんなことをしたらきっと彼女が壊れてしまうだろう。

 彼は耐えていた。 彼女の血も肉も皮膚も骨も髪の毛一本までも自分のものにしたいと思っていたのに。
 最後まで、彼女の心に触れることはできなかった。


「流鏑馬ッ!」


 遠いところで声がした。 それは自分の名前ではなかったけれど。
 うっすらと沈んでいく意識の中、彼は少しだけ目蓋を開けた。
 視界に映ったのは、彼の後輩と、その盾になって血だらけになっている少年だった。
 その少年に、彼は見覚えがあった。
 一つ年下で、いつも怪我をしていて、どこか周囲から浮いている存在の少年。
 さっきまではいなかった少年だ。

「              お、ぜら くん !! 」

 後輩のヒステリックな声。
 その次に聞こえてきたのは、ノイズともとれるものだった。 ひどく耳に響いて顔をしかめずにはいられない音。
 それが止んだ後に聞こえてきたのは、人が殴られる鈍い音。 女性の悲鳴。 誰かの笑い声。


その不気味な笑い声が後輩のものだと気づいた瞬間、彼の意識はそこで途切れた。
プツリと。



Re: あなたを失う理由。 ( No.53 )
日時: 2012/07/15 21:17
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/



           05


 6月も中旬になった。 そろそろ教室にクーラーをつけてほしい。 じわじわとした暑さは嫌いだ。 曇っていて欲しい。
 中間考査も全部返ってきたし。 ……大瀬良くんのことを考えすぎて、絶対に成績が下がった。 成績表返ってきてないけど、確実に順位落ちた。 まあ、来月の初めにある期末で点を取れればなんとか……。
 でも大瀬良くんのことで頭がいっぱいすぎて、どうでもよくなってきた。
 そのわたしの愛する大瀬良くんは、ただいま入院中だ。 簡単に説明すると、宝月先生に刺された。 しかもわたしを庇って。 あの修羅場のとき、わたしは大瀬良くんに電話をかけた後、姑息にも大瀬良くんにメールを送っていた。 ご丁寧に千隼邸の住所まで書いて。

「だからヒーローは勝つって言ったのに」

 あの後、刺された大瀬良くんを見て久々にわたしがキレた。
 キレたというか、もうどうしていいのかわからなくなるほど壊れた。 後で思い出すだけで赤面するほど黒歴史すぎる。 宝月先生を半殺しにしたらしいのだが、記憶がまったくない。
 正当防衛でおとがめはなかったけれど、大瀬良くんにあんな姿を見られたというだけで、軽く100回は死ねる。 お淑やかな女の子っていうのがわたしのイメージだったはずなのに。

「百面相だねえ、流鏑馬」

 大瀬良くんのお見舞いに行こうと、掃除の後誰よりも早く駐輪場に着いたわたしに、千隼くんが声をかける。

「…………………」
「もうあの事件から6日経ったんだよ? そろそろ機嫌直してくれてもいいじゃーん」
「── あの下手な嘘笑いはやめたんだね」
「やめるよ。 俺は流鏑馬の前だと素直になれるからね」
「胸くそ悪い」

 あれから変わったことといえば、宝月先生が逮捕されて辞職したこと、紗夜殺人事件に関わってしまったからクラスメイトの視線が痛いこと。 そして、千隼くんとの接し方くらいだ。

「どうして俺を避けてるわけー? 俺が優子とデキてたからー? なんでなんでなんでー」
「本当にわからないんだね」
「なんで流鏑馬が怒ってるのかがさっぱり」

 腹が立ってるんじゃない。 胸くそが悪いだけなのだ。
 人はいつも何かしらの行動を起こすときに、「理由」がいる。 お腹がすいたから物を食べる。 眠たいから寝る。 嫌いだから陰口を叩く。 好きだから一緒にいる
 今回だってそれぞれ歪んではいるけれど「理由」が明白だった。

 宝月優子は千隼くんとの未来を築くために、三好先輩は紗夜の復讐のために、わたしは悪趣味なヒーローごっこのために、大瀬良くんはわたしを助けるために。
 最後のは少し飛躍しすぎかもしれないけれど、でも各自に「理由」があったのだ。

「なのに千隼くんにはそれがない。 最初は宝月の味方だと思ってた。 けど違った。 わたしが宝月を半殺しにしていたときも、アンタは平然としてそれを眺めているだけだった。 どうして? 宝月を好きだったんじゃないの? どこか楽しそうに、傍観者みたいに見てたじゃない。 アンタの理由はなに」

 その腐った脳で何を考えているのか知らないけれど、下衆な人間の中身には興味がある。

「簡単だよ、流鏑馬」

 ずれた眼鏡をなおしながら、千隼くんが得意げに微笑んだ。

「愛を確かめるためさ」
「── は?」


Re: あなたを失う理由。 ( No.54 )
日時: 2012/07/16 20:26
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/



 千隼くんの返事は、字面にすると確かに簡単だ。
 だけれど、それを理解しようと思えばとうてい難しいことだった。

「── は?」

 思わずぼけた声を出してしまった。 口をポカンと開けてしまう。 理解できずにじっと千隼くんを見た。

「俺は愛情ってやつを疑ってるんだ。 自分は人間に愛ってやつを抱いた覚えもないし、そういう感情がなんなのかもわからない。 だから、向こうから愛してるだの好きだの言われても、本当にそう思っているのかどうかが分からなくなるんだよねぇ。 そういう考えにいったん入っちゃうと、夜も眠れない時がある」

 淡々と語る千隼くんの「理由」はこうだった。
 彼は人を好きになったこともないし、そもそも愛情というものがわからない。 女の人と経験は持ったことはあるが、夜が明けるごとに虚しさが込み上げてくるらしい。 そんな時に出会ったのが、水原紗夜。
 彼女は一人だった。 いつも誰かを睨んでいるようなのに、そのくせ気は小さい。

「この子となら良い友だちになれるかなーって思ってたんだよ」

 そう。 最初は友だちだった。
 自分を偽る者同士が、互いを互いで埋め合わせるための。 けれどその関係は紗夜が千隼くんに想いを告げたことで崩落してしまう。

「ショックだったよ。 俺が一番疑っていて、一番恐れているものを水原は俺にぶつけてきたんだ。 顔を真っ赤にさせて、それを言うのに何日も何日もかかりましたって感じでさ……。 最初は困ったよ、友だちじゃダメなのかと思ったけれど……。 俺はね良いことを思いついたんだよ」
「良いこと?」
「ああ。 水原が本当に俺を好きなのかどうか」
「── 紗夜はアンタを好きだったから告白したんだよ。 そんなこともわからないの」

 口調が自然に尖ってくる。
 紗夜みたいな子が自分の気持ちを伝えるのに、どれほどの勇気がいると思っているんだ。

「そんなこと、わからないじゃないか」

 一瞬、千隼くんの顔が痛みを堪えるような表情になった。

「人間は平気で嘘をつくからね。 俺は信じないことにしてるんだよ。 気持ちは冷めていても、女は簡単に俺の前で足を広げる……。 水原も同じなんじゃないか、俺のことを好きだと言って本当は違うんじゃないか、そんなことばっかり考えていたよ」

 それでも2年間も紗夜との関係が続いたのは、千隼くんが無意識に紗夜を好きだったからか、それともズルズルと関係を続けていただけだったのか。

「高校に入学して……明らかに俺をお気に入りですって態度の先生がいてさ。 閃いちゃったんだよ。 水原が俺のことを本当に愛してくれているのか、それを確かめる方法が」
「その先生が宝月ってわけね」
「そうだよ、流鏑馬」

 宝月に迫って関係をつくったのは千隼くんの方かららしい。 そのあと、千隼くんは紗夜に別れを告げる。
 好きな人ができた、と嘘をついて。

「宝月がアンタに持つ愛ってやつは、疑わなかったの?」
「体から入った関係だよ? 無いに決まってんじゃん。 少なくとも、その時の俺はそう思ってた。 だけど……優子も俺を愛してると言う。 俺のためならなんでもできると言っている。 じゃあ俺が死ねと言えば死ねるのか、本当になんでも言う事を聞いてくれるのか、もう死ぬほど気になって気になって確かめたくてさあ! そこまで言うならやってみろよって……ね」

 紗夜に偶然宝月との関係がバレたあと、千隼くんは宝月にある選択をさせたのだと言う。
 それは愛を確かめるというよりは一種の拷問にも近い選択だった。

「俺のために水原を殺してみてよって言ったんだ。 俺のためならなんでもできるんだろって。 最初は優子も怖気づいていたよ。 けれど、俺を好きじゃないのかと聞いたら即答で好きと言ってきた。 なら、俺のために水原を殺すくらいなんともないだろ」

 目の前で語るこの男は、本当に狂人だ。 人の感情を利用して振り回して、絶望の底へ突き落とす、魔人だ。

「それでアンタはどうなの。 アンタの思惑通りに宝月は紗夜を殺したよ。 アンタはもう満足なの」

 これ以上話していると胸くそ悪くて吐いてしまいそうだ。
 もしかしたら、こいつは最初から紗夜のことも宝月のことも道具としか見ていないのかもしれない。
 愛を確かめるとかキザなことを言っているけれど、本当は人の思いを振り回して楽しんでいる悪趣味なだけの男だ。
 ── 悪趣味といったら、わたしもまあそうなんだろうけれど。

「うん、満足だなー。 優子は俺のために人を殺してくれたし、愛されてたんだなーって実感できた。 優子が出所したら付き合おうかなって思ってるくらいには」
「紗夜がアンタに抱いでいた気持ちは……どうだと思うの」

 ふっと柔らかい笑みを浮かべて、千隼くんが幸せそに目を細める。

「水原に優子とのことがバレたとき、あいつ優子に殺してやるって言ったらしいんだ……。 水原も俺のことを思って、優子を殺していたとしたら……最高だね」

 自転車の鍵をあけ、ペダルに足をかける。 熱くなっている前かごにリュックを入れて、振り返る。
 千隼くんがじっとこちらを見ていた。

「アンタがどうして捕まらないのか不思議だわ」
「ああ、それはねぇ」

 千隼くんが手を伸ばす。 その大きい手はわたしの後頭部に触れ、すっとわたしの頭を引き寄せた。 耳に彼の唇が微かに当たる。

「俺のおとーさん、警察署のお偉いさんなんだよなぁ」
「── 下衆」

 千隼くんを突き飛ばしてペダルをこごうと体重をかける……その前に、彼に腕を掴まれた。

「なによ」
「今から大瀬良のお見舞い行くんでしょー? ヨロシク言っといてね」

 ふっと離れた彼の手の感触が気持ち悪い。
 わたしに背を向けて立ち去る千隼くんの後ろ姿を睨みつけ、頭の中でその背に包丁を刺す。 ぶっさりと。
 何度も何度も何度も何度も何度も。



 何度も。



Re: あなたを失う理由。 ( No.55 )
日時: 2012/07/17 00:06
名前: 柚々 ◆jfGy6sj5PE (ID: iFTmHP4V)

お久しぶりです柚です('∀'*)
久しぶりにすれをみたらお話がドバァーン!!と
進んでて嬉しすぎて空中で三回転しました。

犯人、千隼くんと宝月先生だったのですか(゜ロ゜;三;゜ロ゜)
気づきませんでしt(ry

大瀬良くんが流鏑馬ちゃんの代わりに刺されとき、
紗夜ちゃんが殺された理由がわかったとき、
千隼くんの理由がわかったとき、
鳥肌が立ちました。ぞわりって。なんでしょう。
体の底から、あーそーなるのかそーだったのかって熱いものがこみあげて
言葉が悪くなりますが、本当に興奮しましたデュフフ

なんだこの変態発言…(´・_・`)すみません
いつも以上の乱文申し訳ありませんすみませんorz

次回の更新たのしみにしております!

Re: あなたを失う理由。 ( No.56 )
日時: 2012/07/17 21:25
名前: 朝倉疾風 (ID: FZws4pft)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/


◎ 柚々 さま


 お久しぶりです(*´∀`*)
 話は暇なときに書いているので、
 更新されていたら 「ああ、暇なんだな」と
 思っていてください(笑)


 千隼と宝月先生が付き合っていることは
 考えていたのですが、どうお話をそちらに
 持っていこうかギリギリまで考えてました。

 ええ、興奮しますよね。
 朝倉も書きながらウハウハしております((´^ω^))ゥ,、ゥ,、
 大瀬良くんが頼りになる、というところが
 これでわかっていただけたら…!
 ただ病んでるだけじゃないんです、彼も!


 変態発言、大歓迎です(*´∀`*)
 朝倉もよく発言しておりますが、大抵が
 そういった奇抜なものばかりですので…○。


 コメント、ありがとうございました!


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