ラバソウ 警視庁刑事部捜査一課第二強行犯捜査第四係
作者/ゆぅ

Mystery2 【血祭りバカ騒ぎ】-1
林の中は静寂だった。
そこに男が、一人。
「何の用だ、こんな所に呼び出し――」
男がそう言うと、目の前にいた影は手を大きく振り上げ、男の頭を殴った。
影は血のついた大きな石を川に流すと、その場を去って行った。
今泉記念病院―――。
「あの、有明さんはどこの病室ですか」
カウンターで、真山計は看護師に尋ねた。
看護師は「はい」と答えて資料のようなファイルを見てから真山に言った。
「有明、千尋様でしたら三階のニ○三号室ですよ」
そう言うと、真山は「ありがとうございます」と呟いてエレベーターに乗り込んだ。
一応、彼女のためにミルクケーキを買ってきていた。
傷が治っているといいのだが。
真山が病室に行くと、他の患者もおり、一番奥の窓際に、有明千尋は眠っていた。
やはりまだ傷が痛むのか、そう思いながら真山は彼女を見た。
「あの、有明さんは大丈夫なんですか」
近くにいた看護師に、真山がそう言うと看護師は「あぁ」と呟いてから言った。
「有明さんなら、もうとっくに治ってますよ。一週間くらい前に。今日も病院食おかわりとかして」
看護師はそれだけ言うと部屋を出て行った。
真山は寝ている千尋の額を右手でパチンパチンとたたいた。
すると、千尋が目を開けた。
「げっ、真山さん・・・・」と呟く。
なんだ、せっかく見舞いに来てやったと言うのに。
「完治してるんだろ、帰るぞ」
真山はそう言いながらベッドの脇の椅子に座った。
「完治はまだっすよ」
千尋はそう言って布団を深く被る。
「完治してますよ」と看護師。
千尋は舌打ちをして看護師の後ろ姿を見た。
「何で完治してるのに退院しないんだ。普通退院がるものだろ」
真山はそう言って千尋を見た。
「あたしこの間アパート追い出されたじゃないですかァ」
「いや知らんが」
「そんで住む所も食べるものもないんすよォ。となると生きるために必要な衣食住の中の二つは既にない訳ですよ。衣に至ってもほとんどないですからねぇあたし。ニャハハ」
千尋はそう言って小さく微笑む。
それでも理解できない真山が「だからと言ってなぜ退院しない?」と訊き返す。
「いいですか真山さん。治療費はすべて警視庁持ちです。入院費も。つー事はタダ飯食べ放題じゃないすかココ。天国ですよ、楽園ですよ」
「天国じゃなくても楽園じゃなくても――」
「風にはなりたくないですね、あたしは」
千尋がそう言い、真山は一つ疑問を浮かべた。
「・・・じゃあ君今まで毎日どこに寝泊まりしてたんだ?」

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