茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第一話「それの味は想像し難い」その2


 椅子に座る。改めて“ブツ”を眺める。

 レーズンと納豆が混在する謎の食物。てらてらと光る納豆、そしてその粘り気により糸を引いたレーズン。姉ちゃんはこの二つがマッチすると本気で思ったのだろうか。

 いや、思っていない。さっき「苦痛を分かち合うってわけね」と言っていた。即ち、これは単なる思い付きから発展した僕虐め!

 僕はなんとか反撃の糸口を探ろうと脳の回転を速める。が、姉ちゃんの言葉により回転は別のベクトルへと回り始める。

「やっぱ食べたくないの? あのねぇ。レーズン納豆を何だと思っているの?」姉ちゃんこそ僕のことを何だと思っているんだ。

「レーズン納豆はね、テレビでも紹介されてたのよ? 調理法はうろ覚えだけど、ちゃんとテレビの通りにやったはずだわ。だから安心して頂戴」姉ちゃん自分でゲテモノって言ってたのになんだその言動は。

 ピンポーン。結局反撃の狼煙を上げられぬままインターホンが来訪者の存在を知らせる。「来たかな」僕は立ち上がり、外の友達と少し会話をして玄関の鍵を開ける。

「どーもー」「久しぶりぃ!」「あ、忠弘のお姉さん。お久しぶりです」「ぶりっす」

 外さんとケンタウロス、この二人は姉ちゃんの言葉を聞いて絶句した。

「ま、まぁ、そういうわけだから……」「しね忠弘ォ!」外さんの腹パンが僕を襲う。すぐ手が出るあたりケンタウロスより不良っぽい。

「いいか忠弘、よく聞け! お前はこれを一人で食べなければならない! その訳を知りたいか!」外さんが腕組みして倒れた僕を見下ろす。

「これの最高の味付けは何だと思う?」「はぁ?」普通に市販の納豆に付属されたタレを混ぜたものにレーズンを入れ掻き回しただけに見える。

「何だっていうんだよ」「忠弘、それはな……」

 ――お姉さんの、愛情だよ。

「外さん……」「忠弘……」

 僕は怒りの叫びを上げた。「おたんこなすのおたんちんがあああああッ!!!」起き上がりざまに外さんの腹に頭突きしてやった。「うわああああ死語おおおおおお!!!!」

「お前たち、やめるのだ。お姉様の御前であるぞ」ケンタウロス何でそんな姉ちゃんを崇めてるような事言ってんだ。

 僕はため息をつき、改めて外さんとケンタウロスを見た。その時、僕の脳裏によぎるものがあった。

 千載一遇の……チャンス!

「クックック……」「何よ、いつにも増して気持ち悪いわね」「姉ちゃん……あんたは今の自分の立場が分かっているのか……?」

 僕が黒いオーラを放つのに反応して外さんもオーラを纏い始める。「姉ちゃん……三対一だ……僕たちが協力すればあんたなんかぶほぉっ!」

 右ハイキックが僕の頭に炸裂、僕は再び床に伏した。涙目になった僕は姉ちゃんを見上げる。邪悪なオーラを纏った姉ちゃんは「調子のんなや忠弘……」と舌打ち混じりにのたまった。

「そ、外さん……」僕は外さんに助けを求める。

「いや、俺お姉さん襲おうとか思ってないし。そんな女性を虐待しようなんて微塵も思ってないし」ソットーこのヤロー!

「け、ケンタウロス……」「俺は元々お姉様側の人間だ。手料理なら喜んで食べよう」不良の癖に行儀がいいなテメー!

「嬉しい、食べてくれるのね? じゃあ三等分したから、是非どうぞ~♪」「あの……やっぱり僕……」

「拒否したらあんたのパソコンのフォルダにあるえっちな画像全部母さんに見せるわよ!」「ちょっ……見つからないよう笑える画像フォルダの中に紛れ込ませてあったのに何で知ってるんだよ!」「知らなかったわよ。へーえ、ホントに持ってるんだぁ」

 どうしたって敵わない。弱肉強食の世界の存在を見に沁みて痛感させられた。

 僕ら三人は椅子に座りテーブルに置かれた“ブツ”を見て青くなった。ケンタウロスですら萎縮している。

 今から僕たちは、運命を共にするかけがえのない仲間だ。

「ジュースの奢り……三本で頼む」「……分かった」

 僕たち三人は、同時にレーズン納豆を掻っ込んだ。

 絶叫が、マンションに響いた。

 それは、僕たちの結束の証。