茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第十九話「それは覚悟と勢いが肝心な、人前で演じる笑いをとるわざである」1/2


 五時限目が終わり、休み時間の教室の雰囲気がぽやーっとして眠気を誘う。

 そんな中僕がトイレに行こうと席を立った、その時。

「忠弘ー、俺にノート写させてくれよ、途中まで眠かったから書けなかったんだ」ニシオカがすぐ後ろの席から僕に声をかける。

「途中まで眠かったって、今は眠くないのか?」「うん、最終手段でバイブのスイッチ入れたから」「恥を知れ」

「俺にも写させろ忠弘」ユウユウもやってきて、恵んでもらう側にしてはぞんざいな態度で僕に言う。

「女子に写させてもらえよ……」「女子に頼むとその女子が色々気遣ってくれて結果ノートにデコられたりするから嫌なんだ」「それお前が男装してイケメン度が上がってるからだろ、うらやま死刑」

 一人称は“俺”だが、ニシオカとユウユウの二人とも、正真正銘の女子だ。

 僕は真面目にノートをとらない彼女らにため息をつき、ちょっとした攻撃のつもりでこう言った。

「お前らさぁ……。キャラ、被ってるよな」

「「何ィ!」」二人が同時に声を上げる。そんなに驚く事か?

「いやいや俺こんな男装女なんかより断然キャラ違うだろ! 女らしさが違うんだよ! ほら聞いてみ、うっふ~ん!! ほら! うっふ~ん!!!」「色っぽさがその辺の野良猫並みに欠如している」「なんだよそれ! せめて人間に例えろよ忠弘のウンコ野郎!」

「俺はこんな下ネタ女とは違う、断じて違う! まず目の大きさ」「同じだよ」「……じゃあ胸の大きさ」「同じ断崖絶壁自殺の名所だよ」「自殺の名所は余計だろ!?」

 お互いを指差して自らと相手の違いを述べようとする二人は視線を僕から移し睨みあう。

「へへ……いいだろう、なら、どちらがより個性的か勝負だ!」とニシオカ。

 対するユウユウは、「ほう、受けてたとうじゃないか」と腕を組む。

 そんなわけで……。

「はーい始まりましたーニシオカvsユウユウの一発芸大会ーわーわーわー」棒読みで司会を務めるのは僕、佐藤忠弘。トイレ行きたい。

「ふむ、どちらも俺っ娘ということで、マニアにはたまらぬ組み合わせとなりましたねぇ」審査員、ケンタウロスが短い顎鬚を撫でながら芝居がかったバリトンボイスで言う。

「セリフを文章にしたらどっちがどっちかわからなくなるのう。見た目はどちらも個性的じゃがのフォッフォッフォ」そう述べるのは、二人目の審査員、外さ……誰だよ! アフロのカツラにヒゲメガネ装着さらに一メートル程の白い顎鬚! 謎のアフロ仙人だァーッ! ……お前ホントにそういうの好きだよな……。

「えーこちらのお二方が芸の評価を」「え? ちょ忠弘、俺は!?」

「あー忘れてましたごめんなさい八割悪意です」「謝られたのに許す気になれねぇ!」「三人目の審査員、湾田勉ことワンダーさんです。わーわーわー」

 役者は出揃った。ニシオカとユウユウはストレッチで気を高めている。……ただの一発芸だぞ?

「ではまずニシオカさん、お願いしまーす」僕はやる気を出せずにだらっとニシオカに振る。

「西尾かれん、行きます!」ニシオカが手を上げる。

「『ウンコ捻り出してる時の忠弘の真似』!」「はい失格。ニシオカさん失格です」

 ニシオカは司会の僕に構わず続ける。

「ふんーぬぅ、ふんーぬぅ、ふんーぬぅぅ! 出てる! 出てりゅうううううう!! ぶりゅぶりゅしてりゅううううううう!!! そのまま天に散れぇ!!!! 《諸事情によりカットされました》!!!!!!!!」

 ……。

「えー、聞きたくもありませんがー、審査員の方々感想を」

 まずケンタウロス。「はい。とても似ていると思いますね。特に出した後の切なさと至福が入り混じった表情はそっくりです」眠いから突っ込まない。

 続いて外さん。「ふむ、なぁかなかの演技じゃった。ワシならもっと忠弘を再現できるがのぉフォッフォッフォ」何でお前ら俺の排便シーン見たことあるように論じてるんだ……。

 最後にワンダー。「キモい」うん、それ正論。「忠弘がこんなウンコの出し方してるなんて……」うん、それ邪論。

「えー、次は……ふあぁあ……ユウユウさん。よろしくー」僕はあくびをしながら適当にユウユウに振る。