茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく
作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第八話「それは常軌を逸した変態的行為の一つである・ヤギ編」
「鼻セレブ旨ぇwwww」
!?
なんだ……こいつは!
俺の眼前でティッシュをボックスから次々取り出してはむしゃむしゃとほおばるこの男の名は……なんだったっけ。ようし、脳内環境を整えるためにティッシュ食う太と命名しよう。非の打ち所のない完璧なネーミングセンスだ。嘘です調子乗りました。
俺はしばらく呆然とそのティッシュが取り出されてからティッシュ食う太の口に吸い込まれる様を見ていた。時々どや顔でこっちをチラッチラ見てくる。キモい。
そしてついに鼻セレブを一箱分食い終わってしまった。一体何なんだこいつは!?
関わりあいたくない。こんな謎の行動をする奴と一緒に弁当なんか食えるか! 俺は席を立ち、教卓のあたりの床に座って昼飯を食っている友達の忠弘たちに近づこうとした。
「ふしゅう……さて、次、行くか」
つ……次だとォ!?
俺は席を立ったまま、食う太をスルーするべきか、席に座ってこいつが起こすささやかなそれでいて異常で人間性を疑わざるを得ないスペクタクルを鑑賞するか迷っていた。
脳内会議が混迷する中、食う太は「次」に取り掛かり始める。
「ネクストティシュー、エリエール。保湿性がないヴァージョンでパサパサするが、俺の滴る涎でお前たちを濡れ濡れにしてやるぜ!」うわこいつ一人で何言い出してんだー!
また取り出し口からティッシュを大量に出すのかと思いきや今度は箱を開け始めた。中から重なったティッシュを全て取り出す。ま……まさかコイツ……。
「エリエール旨ぇwwww」
や……やりやがったァーッ!! 全てのティッシュをまるでパンを食べるように端から口でちぎって賞味する食う太! その表情は恍惚だァーッ!!
俺は立ったまま脳内で食う太の様子を実況していたが、語りかけてくる。そう、「常識」という名の俺自身が。
――こんな奴の傍にいていいのか……? 今すぐこいつから離れて友達の中に混ざろうじゃないか。そしてこいつの話をすれば場を沸かせられる……!――
だが、恍惚の表情の中でチラッチラどや顔で見てくる食う太はそのティッシュを食らう姿を目にした者を惹きつける何かを持っていた。意外性、奇想天外、人間離れしたその図。俺は静かに席に座った。
エリエールを食べ終わった食う太はしばしの満腹感に浸っているのか至福の表情。そしてチラッチラどや顔。
話しかけてみようか。まず君はどこのクラスなんだ? 何故俺だけにこんな芸を披露してくれたんだ? しかしその問いは口まで出掛ったところを食う太の言葉で遮られ胸の内でただ漂う。
「ネクストティシュー、エルフォーレ・トイレットロール……。ほんのりと芳しき香りと口の中でとろける嗅覚と味覚のハァモニィ。さぁ、俺の口の中で全てをさらけ出せ!」うわまた変なこと言ったー!
取り出したのは筒型の一般的なトイレットペーパー。芯の部分の空間に両手の人差し指を入れる。ま……まさかコイツ……。
「エルフォーレ旨ぇwwww」
こ……これは凄いぞォーッ!! どんどんトイレットペーパーを吸引してゆくその口! インターバルを繰り返しながら吸う様はまるでブラックホールの小型版ッ! そして吸引してゆくに従って回る回る、芯が回る! これぞまさに……えーっと……例えが思いつかないーッ!!!
その時間は五分だったか十分だったかは定かではない。トイレットペーパーはその全てを呑み込まれ、捕食者は優越を感じ表情を和らげた。
「デザートだ」芯をまるでロールケーキのようにはむはむと食し、その後汚くゲップした。
俺は深い感動に心を震わせていた。こんな驚くべき人間がこの世に存在するのだ。自らの矮小さと世界の巨大さを身に沁みて思い知った、そんな昼休みだった。
そしてティッシュ食う太は初めて俺に話しかけた。
「きみもティッシュ、食うかい?」
俺は感動の涙を流しながら、ボックスティッシュを受け取った。
「はい……ッ!!」

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