茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第十四話「それは面白いことをする・おかしなことを話すボケに対し、その間違いを素早く指摘し訂正する役割である」


 窓からの風が心地よい。

 僕とケンタウロス、そして下ネタに定評のある女子ニシオカとで国語の先生の頭頂部の十円ハゲの芸術性について窓際で話していると、外さんが傘を持って乱入してきた。

 傘を銃のように構えて弾丸を連射しているつもりらしい。

「ズドドドドドド! しねぇお前らァ! そしてくたばれ! さらに天寿を全うしろォ!!」外さんが邪悪な表情で傘型マシンガン(※イメージです)を僕らに向ける。

「しねとくたばれ意味同じだろ! それに天寿を全うするってのは普通老衰で安らかに亡くなることを言うんだよ!」

「ぐはぁーッ! 傘型の銃で殺されるならせめて……銀魂の神楽に殺されたかったアル……」ケンタウロスが撃たれた箇所(※イメージです)を押さえうずくまる。

「なんで股間押さえてうずくまってんだよ! あ! 確かに外さん僕らの股間狙ってる! 何でだよ!」

「わかってないなぁ外さん。傘は尻に突っ込んで拷問に使うものだろ。ま、俺にとってはむしろ快感だけどな」腕を組んでニシオカは目を瞑り口元を歪ませる。涎垂れてますよ。

「お前仮にも女子なんだからそういう話題と一人称はやめなさい! お前の女子力絶賛ダウン中だよ!」

 外さんが傘を机に置き、ケンタウロスは立ち上がり、ニシオカは風で揺れる長髪を直す。

 僕は三人のボケに対するツッコミで少々疲弊していた。

「大丈夫か、忠弘?」外さんが僕を労わる。しかしニヤニヤしながら心配されても労わられた感じがしない。

「ふむ。ならば、今日一日はいつも俺たちのボケに突っ込んでくれる忠弘をねぎらい……」「え? 俺たちのナニにナニを突っ込むって?」

「……ボケとツッコミを入れ替えようではないか」ケンタウロスはニシオカのボケを華麗にスルーしてそう宣言した。

「ボケとツッコミを入れ替える? つまり、お前らがツッコミで僕がボケになるってこと?」僕はケンタウロスにそう確認する。

「そうだ。さぁボケろ。俺は全力で突っ込んでやるぞ」「いやだからナニを突っ込む」「ニシオカお前今はツッコミ役なんだからボケるな」「はい」

 こいつらのボケを今まで見てきた僕だが、いざ自分がボケるとなると何をすればいいか分からない。面白い冗談を言えるようなわけじゃないし、そもそも僕にボケ役が向いているとは思えない。

 外さんとケンタウロスとニシオカの視線が餌をせがむ鳥の子のような雰囲気を醸し出してくると、段々気まずくなってきた。

「あ……あの……どうボケていいかわからないのですが」

「なにゆえだ!」「お前は朝青龍か!」「尻にネギ突き刺すぞ!」

 ……。

 え? 今のツッコミ?

「ケンタウロスの『なにゆえだ!』はいいとして、外さんの『お前は朝青龍か!』とニシオカの『尻にネギ突き刺すぞ!』はおかしいだろ前者は意味不明だし後者はただの脅し」「待てッ!」

 外さんが開いた手をこちらに向けて僕の言葉を制止した。「お前は今ボケ役だ。突っ込んではいけない。さぁ、次のボケを繰り出せ」

 いやさっきボケたつもりなかったんだけどなぁ。僕は何とかしてボケようと思考をめぐらす。……なんか僕、突っ込む時より疲れてないか?

 窓から外を見上げる。曇り空が物憂げに今にも雨が降りそうな暗い雲を抱えて広がっている。

 これだ!

「いやぁ、今日は晴れ渡った良い天気だねぇ~」

「どうみても曇ってるだろ!」「お前は朝青龍のまわしか!」「ネギに尻突き刺すぞ!」

 ……。

 突っ込みてぇー!!!

「フフ……俺たちもツッコミが板についてきたな……」いやいや外さんお前意味不明のツッコミしかしてないだろ!

「うむ……もう俺のキャラ設定はツッコミ役でいいんじゃないか?」よくないよくない! ケンタウロスに僕の座は任せられん!

「俺は下ネタを交えたツッコミで個性をアピール」ニシオカは性格的にも、麿眉だし見た目的にも充分個性的だからもういいだろ!

 脳内でしか突っ込めないのが悔しい。そして普通のツッコミしかできないケンタウロスと意味不明のツッコミしかできない外さんと下品なツッコミ(というか脅し)しかできないニシオカは絶対ボケ向きの人間だ!

「どうした? さっさとボケろ」外さんが急かす。

 仕方ない、あと一回だけボケてやろう。しかし、どうボケるか……。

「ほら、休み時間残り少ないぞ。すぐボケらんなきゃペナルティとしてお前がロリコンだという事を他クラスの連中にバラすわ」いやいやいやいや!

「ちょっと待て! 何故そうまでして僕にボケさせる必要が!」「突っ込むなと言ってるだろう。さぁ! 最後の渾身のボケ、見せてもらおう!」

 先生が教室に入ってきて授業の準備を始めた。まずいぞ……何故か他クラスにも顔が利く外さんのネットワークにかかれば僕の性癖が広まるのも早い……ここはなんとしてもボケなければ……!

 なんとしても……ッ!!

 僕は外さんが机に置いた紺色の傘を持って、股の下腹部に近い場所に挟んだ。そして言う。

「ぬおおお! 僕の股間の紺色ビッグマグナムが唸りを上げるぜえええ!!!」

 空気が凍りつき、ケンタウロスと外さんとニシオカは一様に口を半開きにし目を見開いた。視線と沈黙が痛い。心に突き刺さる凍てついた刃はゆっくりとしかし確実に僕の精神の穴を広げてゆく。その穴を通り抜ける羞恥の風は僕を激しい後悔に襲わせ苦しませる。僕はただ仲間を信じてこの空気を切り替える一言を待った。そして……。

「あ、授業の時間。席につこうぜ」

「突っ込めよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」