茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第二十二話「それは強者と強者とのぶつかり合いである」1/2


 日曜日。

 僕はいつものようにTSUTAYAから借りたDVDの織り成す映像を観ていた。

 そう、僕の趣味の一つは映画・アニメ鑑賞。今マイブームなのは“デュラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!”だ。ラが六十三個あるのがポイント。主人公のセルティ・ストゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルソンが失った自分の鼻毛を求めて黙々とビルの清掃をするアニメだ。

 ピンポーン、インターホンの音が鳴る。

 家には仕事の疲れで昼寝している父、自分の部屋でテレビゲームにいそしんでいる姉しかいない。母さんは今頃ゲーセンで遊んでいるところだろう。母さんのクレーンゲームの技術は、近隣のゲーセン及びそこにたむろする若者たちに恐れられているほど高く、“茶飯市の蜘蛛の糸”という異名が付いているという話があるが僕にゃ関係ないね。

 母さん不在、父さん就寝中。エゴの塊の姉ちゃんは僕がいるから自分が出る必要なしと、十中八九、いや確実に、そう思っている。僕だって今アニメ観てるんだぞ……。

 アニメを一時停止してインターホンに出る。「はい」

「忠弘くん、やっほー。エルしぃでーす。トゥットゥ」「ちょっと待ったそれ以上言ったらなんたらゲートの作者に怒られるからやめて」

 椎名エルザことエルしぃは、僕の同級生。クラスは違うが、同じ吹奏楽部の同じパートという接点がある。

 何か連絡か? でもそれはメールで済むだろうし、何かを渡されるのだろうか。

 扉を開ける。エルしぃが可愛げなトートバッグを持って立っていた。

 そして満面の笑顔で言う。

「トリックオアトリート!」

 ……。

「えーっと……」「えへへ、びっくりしたー? 今日はハロウィンだから、近所の皆にお菓子もらおうと思ってるんだぁー」

「いやその……」エルしぃの無邪気な笑顔を前にするととても言いづらいが。「もう、ハロウィン……過ぎてるよ」

 エルしぃは驚いて口に手をやる。可愛らしい。「えぇっ!? そっかー、過ぎちゃってたかぁ。でもちょっとしか過ぎてないし、折角だから飴ちょうだい!」

「いやいやいやいやちょっとどころじゃないよ!? 二十一日過ぎてるよ!? 時間的にカップラーメン一万八十個できちゃうよ!?」

「うーん、カップラーメンは辛いの苦手だなぁー」えっいやっ……えっ?

 僕がエルしぃの天然っぷりを再確認した、その時。

 背筋が――しん、と凍りついた。

 うちは五階建てマンションの一階だ。出るとそこにはすぐ整備された草があって、マンションの団地の道と団地の外の道とを分けている。

 その草の陰から、凄まじく、小虫程度ならそれだけで殺せそうな殺気が放たれていた。

「エル……しぃ」「なぁに? あ、カップラーメンってねぇ、オレンジジュースを混ぜると美味しくてねぇ、どうたらこうたらぺちゃくちゃぺちゃくちゃ」

 エルしぃは気づいていない。あの草の陰から姿を表した栗色の長髪を持つ女はまるで悪魔、恐怖の塊。やばい。あれは……一体何者だ!?

「エルしぃたんを……返せ……」

 やばいやばいやばいやばい草踏み越えてエルしぃたんがどうとか呟きながらこっち来た! え? 何なの!? なんか俺今なら肉食獣に襲われそうな草食獣の気持ち分かる! これがホントの草食系男子ってね! ハハハ!

 錯乱状態に陥ったせいで物凄くつまらないギャグを脳内で展開した僕は引きつった笑いを浮かべながらエルしぃに別れを告げようとする。

「じゃじゃじゃじゃあ、エルしぃ、今日はそろそろ……」「エルしぃたんを返せゴルァァァァァァァア!!」

 扉を閉めようとした僕は謎の女により家から引きずり出され、胸倉を掴まれて、ダン、とマンションの壁に叩きつけられた。扉が、無情にも僕を置いて閉まってゆく――。

 死を直感した僕は、閉まる前に、叫んだ。

「父さん母さん育ててくれてありがとうあと机の裏に隠してるエロ本なんか無いから探さないでねええええええええええええええええええ!!!!!」

 ガタン。扉が閉まり、僕は少し冷静になった。そして分かった。僕は確実に――

「股間の棒削ぎとったろか?! アァ?!」

 ――男じゃなくなっちゃう☆